21世紀の教育・教師・学び『先生から変えるニッポンの未来』(一般社団法人ティーチャーズ・イニシアティブ)

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目次

1 はじめに

本記事は、2017年5月21日(日)に行われたシンポジウム、『先生から変えるニッポンの未来』(主催:一般社団法人ティーチャーズ・イニシアティブ)のパネルディスカッションⅡの内容を編集したものです。
 学校現場や官民など、それぞれ教育に関わる立場から、教師の専門性や学校現場を囲む社会課題、それを打開するための方策などが話されました。

*一般社団法人ティーチャーズ・イニシアティブとは、「先生こそが真に未来をつくることができる」という考えの元、一橋大学名誉教授 米倉誠一郎先生、文部大臣補佐官 鈴木寛先生らを理事に迎え、産学官が協同して立ち上げたプロジェクトです。
 「主体的かつ創発的に学び、成長する教師を支援する」をミッションに掲げ、21世紀型の学びを探求する先生向けのプログラム、21世紀ティーチャーズプログラムを全国の先生にむけて提供しています。

詳しくは、こちらをご覧ください。

2 登壇者(敬称略)

<パネリスト>

保坂 展人(世田谷区長、元教育ジャーナリスト)

常盤木 祐一(文部科学省 初等中等教育局 教育制度改革室 室長)

木村 泰子(独立行政法人教職員支援機構 評議員、元大空小学校校長)

児美川 孝一郎(ティーチャーズ・イニシアティブ理事、法政大学教授)

<ファシリテータ>

牧野 益巳(ティーチャーズ・イニシアティブ事務局長、総務省 地域協力創造アドバイザー、元日本マイクロソフト社長室室長)

3 パネルディスカッション

——昨年度、「21世紀型学び」を実現するための教員向けプログラムが実施されましたが、8カ月のプログラムでは何が起こっていたのでしょうか?(牧野)

自身を解放する(児美川)

日本の先生は何かに囚われていて、そこから解放されたいと感じています。今回のプログラムにおいては、日頃と違った場所に来て、いつもと違った仲間と出会えたことで、先生方の日常の固さが解けたのかな、と思います。そこで自分を解放し、自分自身について考え直す機会になった。先生自身が変われば、生徒も変わります。

今回のプログラムを経て、私自身の課題は次の2つです。
「学校という職場を変えるにはどうすればいいのか」
「日頃の学校現場は、何に、なぜ、縛られているのか」

——木村先生、プログラムに関わってみていかがでしたか?(牧野)

大空小学校の職員室みたい(木村)

パネルディスカッションIを聞いていて、大空小学校の職員室みたいな雰囲気でした。

大空小は今年で12年目です。開校当時からやっていたことですが、「10年後の社会で通用する学力は何か」を毎日みんなで話し合いました。「今日必要でも明日には必要じゃないかもしれない」と思い、今あるものを断捨離していきました。

他にも、「今日はうまくいった、いかなかった」と、先生だけでなく、事務室や給食室など、それぞれの立場で子どもの雑談していました。その雑談の中でいろんな会議が無くなっていって、残ったのが職員会議だけになりました。

学校現場にはいろいろ大変なことがあると思いますが、先生が主語のままでは孤立してしまいます。でも、主語を子どもに変えればきっと大丈夫です。

——世田谷区の実践について伺えますか?(牧野)

子どもが決める主体(保坂)

私は子どものころ学校が大好きでした。小学校では、何かを決める時にいつも子どもたちが中心にいた気がします。話し合いでクラスの意見がまとまらない時は、先生に時間を交渉し話し合いを続けました。大人になってから、言ったことは実現するというのが基礎となりました。何を話しても無駄にならない形で育ったのは非常に幸せでした。

しかし、中学校で受験に向かう勉強の雰囲気になり、学校に合わなくなりました。自分たちが考えるのではなく、先生からの知識を単に覚えるだけの授業に飽き足らなくなりました。

——現在の教育課題は?(牧野)

教育は、社会全体で考えるべき課題(保坂)

経済界や社会が大きく変わる中、学歴社会はこらから壊れていくでしょう。これからは、自分で考えて困難を突破していく力が必要になる。

一方、このような話をすると、保護者の方から「理屈では分かるけど、みんなが受験するからやめられないのが本音」という声を聞くことも少なくありません。

今後は、このようなシンポジウムは教員や学校関係者だけでなく、社会全体が考える場になっていくと良いと思います。

——答えのない課題を教育はどう解決できるのでしょうか?(牧野)

子どもとの関係で探していく(常盤木)

変化のスピードが速く、これからの社会がどうなるか予想ができない時代を生きる力とは何かを考えています。そこで本当に大切なのは、先生が予め決まったことを教えるのではなく、子どもの状況に合わせて動けることだと思います。何か答えが1つあるのではなく、大切なことは子どもとの関係で変わってくるのです。

——改革には「現場の腹落ち感」が重要。現場からのアドバイスはありますか?(牧野)

学びの本質とは(木村)

子どもたちから教わったのですが、学びの本質は目に見えません。人は目に見えないものは苦手ですが、それを見出すのが教員の専門性です。

教育の目的は「子どもが育つという事実をどう作るか」、それを測る指標は、「子どもが学ぶ過程で自分の言葉で語っているか」です。この軸がぶれなかったら、学びの本質が見えてくると思います。

スーパーティーチャーは必要ない

また、教師に必要なのは「人の力を活用する力」です。自力で無理なら無理と声をあげ、地域の人や他の教員にバトンタッチすべきです。

今までは「担任一人が子どもを育てる」ことが求められていました。しかし、本当の意味で「学ぶ」ことができていない子どもたちが苦しんでいる中で、教員が一人で子どもを育てるという考え方は、もう古いのではないでしょうか。

すべての大人がすべての子どもを育てるので、一人のスーパーティーチャーは必要ないのです。一人の教員は一人の価値観でしかものごとを見ることが出来ませんから。

——先生が「発想の転換」をするのは難しいのでは?(牧野)

目の前の子どもをみる(木村)

発想の転換というのは、不可能です。それよりも、目の前で苦しんでいる子どもが自分の子だったら、という視点で子どもと向き合うべきだと思います。、、、なんかアウェイになりましたね(笑)(会場拍手)

カプセルを壊す(保坂)

世界では戦争や飢餓などが存在していることは、日本人もニュースなどで知っています。しかし、大人も子どもも「とりあえず自分には関係ない」とカプセルに入っている気がします。日本の教育に問われているのは、このカプセルをどう壊していくかということです。

このことを考える際にいつも思い出すのは、2016年に相模原の障害者施設で起こった事件です。ニュースやメディアでは、加害者の手紙がたくさん取り上げられたが、あの酷さは子どもに届いたでしょうか。

あの事件について、私は「相模原事件とヘイトクライム (岩波ブックレット) 」という本を書きましたが、なぜあれがヘイトクライムなのか。いま日本や世界で起こっていることは、私たちに何を語りかけているのか。無関心というカプセルを壊し、子どもたちと一緒に考えてもらいたいです。

——教員のキャリアについてどう考えますか?(牧野)

現場の自己規制(児美川)

教員のキャリアは年数だけではないように思います。経験が少なくても、しなやかなメンタルを持っていれば大丈夫でしょう。

先ほどもお話しましたが、学校現場にはある種の自己規制、コントロールがあると感じています。地域や学校で決まったスタンダードがあっても、目の前の子どもの姿を第一に考え優先順位を決めることが大切です。

どうすれば現場が持つ失敗や間違えを避ける保守的な姿勢を変え、より伸びやかになるのでしょうか。

社会で学校を支える(保坂)

日本の教育界の価値軸は「減点法」です。難しいことをすると失敗がつきものですが、失敗すると文句を言われるので挑戦を止めてしまう。

教育委員会などを中心に、学校や先生を守る仕組みを作りたいです。オランダの学校支援センターでは、様々な分野の専門家がチームとして横断的に学校をサポートしています。日本でもそのような取組の必要性を強く感じます。

——課題は世界で共通するが、解決の道筋はそれぞれの国で考えていくということですね。(牧野)

大人がチャレンジする勇気を(常盤木)

今は大人が失敗できない社会になっています。昨年度のシンポジウム参加したのですが「学校は子どもたちが安心して失敗できる場でありたい」という言葉が印象に残っています。

チャレンジした勇気、仮に失敗してもそこから学んだこと、それが将来に大きな価値になります。そんなメッセージを大人から発信していきたいです。

トライ&ラーン(児美川)

困難な状況において、こうすれば簡単に解決できる、という解決策はありません。最後は自分の価値観の軸をどこにおくのか、が試されます。 その時の判断基準は「子どもの成長」でしょう。

とは言え、自分一人では頑張れないこともあります。仲間がいる安心な場所だからトライできる。みんなでトライと失敗から学べる環境作りがとても重要だと思います。

——学校の環境づくりに尽力されてきた木村先生、いかがでしょうか?(牧野)

子どもが安心して学べる環境とは(木村)

子どもは「ありのままを出している時」に安心して学べるのです。しかし、それではトラブルが増えるため、学校は保護者の目を気にしてトラブルを避けようとします。

でも、トラブルは生きた教材なのです。トラブルを当事者双方の生きた学びに変えるのが教師の専門性です。そのためには、教師が子どもの通訳に徹し、ジャッジしないことが重要です。子どもが納得すれば、クレームも生まれません。

子どもを育てるのは「人」(木村)

子どもが育つために重要なのはカリキュラムと人です。カリキュラムを生きた学びに変えるのは、人である教師です。子どもは、大人が失敗を繰り返しながら学び続けていれば、その姿を見て自然と学んでいきます。人と人との関わりという視点から見て、教師は子どもたち以前に職員室の環境に気を配るべきです。

遊びは燃焼する(保坂)

「教師がジャッジしない」、ポイントを付いている言葉だと思います。

私が子どもの頃、遊びの野球はアウトかセーフを決めるのは子どもたちで、喧嘩になって決めていました。侃々諤々(かんかんがくがく)です。しかし、今は監督がジャッジしますよね。大人の判断に従うのです。

遊びの内容も、自分で決めず大人に与えられているのではないでしょうか。「明日は何が起こるんだろう?」というワクワクはなく、「明日は明日のスケジュールがある」という日常を生きているように思います。

社会が変わり、子どもの時間を削り過ぎました。遊びは、時間・年齢・場所を忘れて夢中になるものです。今は、遊びで躍動する喜怒哀楽、子どもの生命をぶつける遊びが少ない。

もっと子どもたちが真ん中に出てきて、それをいろんな大人がコーディネートする。子どもが教室でのプレイヤー、先生はそれをコーディネートする演出家の役割が必要だと思います。

——そのような取り組みが継続できる仕組みとは?(牧野)

学力調査は誰のためにあるのか(木村)

全国学力テストは調査ではなく評価になっており、このテスト順位が格差を生んでいます。これが大きな問題です。本来、全国学力テストは教員が自身の指導の反省をするためのものです。そのため、テストの目的を評価ではなく、教師が学ぶための調査にするべきです。

順位や点数が学校での学びの目的になっている以上、「その子がその子らしく」を目指す教育を達成するのは難しいでしょう。

——最後にメッセージをお願いします(牧野)

豊かな遊びと学び (保坂)

首長と教育委員会で構成される「総合教育会議」で、今年度は、以下の4つのテーマを話し合う予定です。
・「学びの質的転換」と「新教育センターの役割」
・幼児期からの豊かな「遊びと学び」の環境づくり
・「配慮を要する子どもたち」と「学びの多様性」
・子どもの可能性を伸ばす学校外の教育環境

また、今後、放課後の子どもたちが学校を出てアートを学べる場など、子どもたちの豊かな時間をつくっていきたいです。

学校の空気(木村)

教師は、子どもの前にいる1人の大人として、学びのプロになれるのかが問われます。人を変えるのではなく、まずは自分が変わることが重要です。

大空小に来る子どもたちは口をそろえて、「大空小学校は空気が違う」と言います。以前の学校では、話したら黙れと言われ、悪いことをしようと思ってないのに怒られる牢屋のような空気が漂っていたそうです。

学校が、子どもが素敵な空気を生きる場になることを願っています。

手をとり合って、真摯に(常盤木)

本日、日本の将来をつくる教育という職業の重要性を再確認しました。

様々な場で頂いた意見と真正面に向き合い、そして「子どものため、より良い将来のため」という同じ目標に向かって、皆さんと手をとり合って一緒に今後も教育に携わっていきたいと思います。

したたかに、一歩ずつ(児美川)

教育には理想とする目指す方向もあるし、それを阻害するベクトルもあります。教育はいつもその両方の力のせめぎ合いなので、少しのことでがっかりしないタフさが重要。

一進一退の中、1つ進めば大勝利です。タフに、したたかに。これからも、みんなで力を合わせて行けたらと思います。

4 編集後記

学校現場、文部科学省、総務省、大学教授、区長といった様々な立場から教育と子どもの未来を考える時間は、とても刺激的でした。ここに保護者や子どもたちもいると、さらに面白くなりそうです。

先が見えない未来。一期一会の教室での学び。
確かに一歩ずつ、一人一人の思いが、学校に澄んだ空気を届けますように。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 大和信治)

5 関連資料

★第2期生募集★21世紀ティーチャーズプログラム

プログラムでは、豪華講師陣によって設計されたプログラムのなかで、能動的かつ実践的な学びを、講師や仲間とともに約半年間かけて探究していきます。

21世紀型スキルに関心がある! 志を同じくする仲間を見つけたい!
そのような先生は、参加を検討してみてはいかがでしょうか。

【応募締め切り】2017年7月24日(月)24:00

⇒プログラムの詳細はこちらをご確認ください

校内研修に使える『理想の学校』ワークショップ

人のストーリーから経済を学ぶ(現代社会・経済のしくみ)

協同的な授業研究(保護者懇談会・体育)

演劇的手法を用いて「モチモチの木」を読み解く~21世紀型教育への挑戦~

ティーチャーズ・イニシアティブが主催する「21世紀ティーチャーズプログラム(第1期)」を受講された先生へのインタビュー記事です。
参加のきっかけ、プログラムから生まれた実践や自分の変化などを伺いました。

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