「小数のわり算」躓きの分析と対応【教材】

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目次

 1 横並びカリキュラムからの落ちこぼし

5年生、「小数÷小数の筆算」は、4年生までの担任がどれだけ丁寧に計算問題を指導してきたかということに大きく影響される単元です。それまでの担任が多くの落ちこぼしを出してきてしまった場合、教師は授業がお手上げ状態となり、その子たちにとってこの単元は「苦痛に満ちた難関」となってしまうことでしょう。
1年生時の「たし算」から始まる四則計算、はじめの第一歩から躓き続ける子供は少なくありません。
四則計算の第一歩「1年生のたし算・ひき算」をどう教えるか

普段の日の休み時間や放課後を使って、できるだけ「落ちこぼし」が出ないように努力をしてみても、なかなか時間を確保できないのが学校の現状です。特に5・6年生の担任にとって落ちこぼされてきた子供たちに個別指導をしていくことは、たいへんな苦労があります。九九がわかっていない子供に5年生の「小数÷小数の筆算」の補習をしてみても、効果は上がりません。比較的時間に余裕のある夏休みに個別指導を試みても、焼け石に水、力をつけてあげることは困難です。

日常の一斉授業の中ではなおのこと、学習の送れた子供を含めたクラス全員に確実に学力を身につけさせることは容易ではありません。

日本の教育カリキュラムは本当によくできていて、学習を細かいステップに分けて系統立て、ゆっくりと積み上げながらしっかりと学力が身につくように考えられています。しかしながら、どこかのステップでつまずくと、次のステップに上がるときに、弱者には混乱が起こります。

 2 複雑な計算の過程

小学校5年生の「小数÷小数のあまりが出るわり算」の学習は、落ちこぼしされてしまった子供にとって、困難を極めます。

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例題)21.04÷6.7 を100分の1の位まで求め、余りも出しなさい;

小学校算数の筆算の問題の中では最も難問のレベルです。わり算と言いながらも、この計算をする過程でかけ算3回とひき算3回をしなくてはいけません。複雑な計算の過程が必要で、21.04÷6.7を解くために理解・習得していないといけないスキルは実に多いです。

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思いつくままに挙げていくと・・・、

わり算の式を筆算になおす時にどう書けばいいのかという知識

筆算を縦列をそろえながらしっかり書く技術

商を立てるときに見積もる力(21.04≒21、6.7≒7と考えられる)

立てた商が間違えていたときに修正する技術

小数点を処理する力

九九

かけ算の筆算

引き算の筆算

わり算のあまりに関する知識

小数の位に関する知識

小数の10倍、100倍

小数点の処理をしているため、余りをどう扱うかという知
識・・・・・この計算では「2」という余りについて、2・0.02・0.002と、3通りが頭に浮かび、間違いやすい。

出てきた答えが妥当であるかを見極める技術

小数以下をわり進むという知識

等など。四則計算の知識とスキルを十分に身につけていないとできません。「かけ算の筆算」「引き算の筆算」にしても、繰り上がりや繰り下がり等、細分化していくと、さらに多くのステップに分かれており、このわり算ができるようになるまでに抑えるべきポイントは果てしなく多いことになります。

ポイントが多いということは、計算過程でミスが出る確率が非常に高くなるということで、正答率がドーンと落ちてしまうことになり、子供にとっては本当に面白くない学習と言うことになってしまいます。ひき算が苦手な子供にとって、上の問題は3回も繰り下がりのあるひき算をやらされることになり、ここだけをとっても正答する見通しはぐっと低くなってしまうのです。

 3 ちょっとやそっとの補習では追いつかない

たとえ個別指導であっても、落ちこぼされてしまった5年生にこれらのスキルを順を追って教えていくというのは非常に困難です。夏休みの補習でたった2・3人の子どもを指導しているという状況でも、その子どもがどの段階で躓いて十分に理解・習熟できていないのか、そして、継続的にどのように指導していけば「あまりが出る小数÷小数のわり算」を正解できるところまで学力が高まってくれるのか、見当もつかないというケースがあります。5年生でも九九がおぼつかない子どもがいます。九九までは夏休みの補習で何とかがんばれたとしても、その後、継続的にその子にあった課題を与え、復習をさせていくと言うのは実に難しく根気と時間がいる取り組みです。
補習については、
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「補習」落ちこぼしをどうするか
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も、ご参照ください。

 4 長い「期間」をかけてやるつもりで~単元の前に

「割合」とともに、「小数のわり算」は5年生の算数の学習での鬼門です。ところが授業には配当時間があり、とにかく「小数のわり算の筆算」の学習に割り当てられた時間内で進めざるを得ません。少々丁寧にできたとしても、5時間も10時間もオーバーできるような余裕はありません。
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そこで、ひとつの方法として、配当時間を増やすことができないのであれば、配当期間を延ばすという方法です。ですから、ゆっくり準備をはじめて、少しずつ進み、じっくりと取り組むという考え方で計画をします。
子供たちのレディネスの成立の程度を把握して、4月当初から計画的に学習を進めます。朝の学習の時間や算数の初めの時間・宿題などを使って、1~4年生までの算数の学習の復習を進めておきます。「小数のわり算」の単元に入ってから始めるのではなく、入ってしまうまでに「ひき算」「あまりのあるわり算」「筆算」という落ちこぼしの多い単元のエッセンスをクラス全体にしっかりと身につけさせておきます。復習ですから長時間を使うのではなく、短時間で効果が上がることをやればいいと思います。百ます計算やあまりのあるわり算、筆算の練習など、時間を測って5~10分程度でできるものであれば、学力不振の子供にも、成績上位の子供にも、有意義な時間になると思います。
朝の学習などで長い期間をかけて少しずつ練習させる方法については、
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筆算の力を積み上げていくために
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をご参照ください。
過去の個々の積み上げができていない部分に対する対処に関しては、
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計算検定~筆算の力を積み上げていくために(2)
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をご参照ください

計算に対する根気・集中力をつけて、簡単なミスをしないようにしておくことを目標にしましょう。上記の計算では8段の筆算になります。筆算の縦列をきっちりと書く癖もつけておきましょう。

いきなり補習・個別指導に走るのではなく、こうして4年生までの学習の進化の過程をたどりながら、子供たちの力を把握しつつ、学力が付いていない部分を“補修”していくという考えで行かないと、時間がいくらあっても足りません。

 5 長い「期間」をかけてやるつもりで~単元の後に

また、配当時間内でできると思わないで、配当時間ではあっさりと学習を終え、その後、長い期間をかけて復習を行いましょう。単元が終了後、1カ月でも2カ月でも復習に使えばいいのです。復習にも朝の学習の時間や算数の初めの時間・宿題などを使って、いきなり上記のような最終形の難問をさせるのではなく、5年生の筆算の学習内容を少しずつ順を追って、一人一人の進捗状況を把握しながら進めましょう。

たくさんさせなくてもいいし、難しいことをさせる必要もありません。5年生が終わるまでに、クラスの子供の8割程度の人数がその単元の内容をほぼ理解し、スキルを獲得できているという状況を目指しましょう。残りの2割の子供たちにも、「なんとかできたという記憶」や、「落ちこぼれずに頑張れたという記憶」を残してあげることができれば、成功と言えるのではないでしょうか。
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筆算の初期指導
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もご参照ください。

躓きの指導用に大人も子供も負荷が少なくて練習できる、筆算プリントを作成しました。
【教材】2年生~5年生を網羅した筆算プリントC.zip
下記リンクも是非ご参照ください。
【教材】2年生~5年生を網羅した筆算プリントD.zip
※ Googleドライブへのリンクです。

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この記事を書いた人

コメント

コメント一覧 (1件)

  • 学校単位でやれていない場合は、自分だけでも何とか頑張ってやっていくしかないと思います。

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