白いぼうし~女の子の正体はもんしろちょうか?

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1 ファンタジー教材

「白いぼうし」はファンタジーであるため、「女の子の正体=もんしろちょう」か否かを授業の中で討論させる、あるいは教師がはっきりと結論を口にすることについては賛否両論があります。

教師で議論をすると、どちらであるかと結論をはっきりさせる必要はないという意見が多いし、ファンタジーで子供に討論をさせること自体があまりよくないように言われることもあります。

「白いぼうし」だけではなく国語の教科書に掲載される物語文の中にはこういった子供たちの意見が分かれる謎が採用されています。

例えば、「ごんぎつね」では「ごんは死んだのか」、「やまなし」では、「クラムボンとは何だろう」、「ちいちゃんのかげおくり」で「ちいちゃんは死んだのかな」などという謎を授業でどう取り扱うかという話題もよくあがります。

2 子供の意見をくみ取る

子供から「女の子の正体=もんしろちょう」であるという根拠として出てくるのは、

  • 松井さんがもんしろちょうを逃がした後に女の子が現れる。
  • 女の子が疲れているのは、男の子に追いかけまわされて捕まえられたから。
  • 菜の花横町に行くことを松井さんに要求しているから、それは、ちょうの住み家である。
  • 男の子が戻ってくると、女の子は「後ろから乗り出して」「せかせかと」「早く、おじちゃん。早く行ってちょうだい。」と、言ったから。
  • 女の子が「道にまよったの。行っても行っても、四角い建物ばかりだもん。」と言っているのは、野原で育ったちょうだから。
  • 女の子がいなくなった所で松井さんはたくさんのちょうを目撃しているから。
  • 女の子が急にいなくなるのは、女の子がちょうだから
  • 「よかったね。」「よかったよ。」「よかったね。」「よかったよ。」と、繰り返されているのは、女の子(ちょう)と女の子の友達の会話で、「逃げることができてよかったね」「逃げることができてよかったよ」と言っているに違いないから。
  • 女の子がちょうでなければ、この作品が何を言いたいのか話がわからなくなるから。
  • 松井さんのほかの作品「車のいろは空のいろ」でも、動物の化身が出てくるから。

等でしょう。

状況証拠から、作者が女の子をもんしろちょうの化身としていることはほぼ間違いないでしょう。
もしも大人がこの物語を読めば、十人中九人ぐらいが「女の子の正体=もんしろちょう」という意見になるのではないでしょうか。

「女の子の正体≠もんしろちょう」という意見を持つ子どもたちにの中には、こういう状況証拠を読み取ることができずにそのように考えている子供が少なからずいます。その子供たちの読み取りの浅さを補ってあげるという意味でも、授業の中で「女の子の正体=もんしろちょう」か否かを検討する段階は必要だと思います。

しかし、それは、「女の子の正体≠もんしろちょう」という意見を潰すようなやり方をするのはお勧めできません。これだけ証拠が挙がると、「女の子の正体≠もんしろちょう」という意見を持つ子どもたちは押されてしまいます。そうなると、

  • 松井さんは人間なのになんでもんしろちょうの声が聞こえるの!
  • 女の子が息を切らしていたのは、タクシーが止まっていたから、言ってしまわないようにダッシュをしたんだよ。
  • 女の子がちょうなら、それならそうと作者が書くはず。書かないのは女の子がちょうでないから。

というような反対のための反対というような意見が出始めます。ファンタジーを度外視した屁理屈に近い反論になってしまうからです。そして、「女の子の正体≠もんしろちょう」という主張をしたグループはどうしても敗色濃厚になってしまいます。

「女の子の正体=もんしろちょう」か否かを議論させたために、子供たちの中に妙な対立が生じてしまうような結果になるのもどうかと思います。教師が結果が分かっているかのような議論を導入するべきではないかもしれません。

3 討論ではなく発表で

ですから、「女の子の正体=もんしろちょう」か否かということを<<討論>>するのではなく、「女の子ともんしろちょうの関係をどう考えるか」ということで<<発表>>するという形で授業を進めることにして、ある意味「逃げ」を打っておくのもいいかもしれません。

ここは、授業中に発表をする時の勉強をするいい場面になるかもしれません。そこそこ上手に議論ができるのであれば、討論形式にしてみるのもいいかもしれませんが、ここはあまりきついやり取りにならないように、「私は~なので、~だと思います。」「私は~だと思います。理由は~だからです。」といった、自分の考えを述べる程度にしておくとよいと思います。もし、人の意見に言いたいことがあるなら、「○○さんの意見とは、ちょっと違うのですが、僕は~と思います。」といった柔らかい言い方をさせるのもいいでしょう。

うまくいけば反対意見を述べるときのマナーを身につけさせたり、多様な意見を認め合うという態度を教える機会になるかもしれません。

うまく反対意見を述べることができた子供を取り上げて、「○○さんは、人の意見を大事にして、反対するときにでも優しく言うことができたね。素晴らしいです。」といった評価をするといいです。
その上で、
「女の子はもんしろちょうだっていう人の意見が多いようですね。みんなの意見を聞いていると、そうかもしれないと思いました。」
と、やんわりとした判定を加えてもいいのではないかと思います。(教師が判定するなと言う意見も多いですが・・・)
そして、

「物語というのは、一人一人が自分の中で自分で場面をイメージしながら読んでいくといいと思うよ。自分のイメージや読み方と人のイメージや読み方を比べるのはいい勉強になります。意見を交換して、比べてみて、ああそうかと思うことも多いからね。それも、素晴らしい発見です。今日は、よくその勉強ができたと思います。」

といった収め方をするのもいいのではないでしょうか。

教師が「不思議な女の子だね」「何を『よかったね』と言っているのかな」なんてヒントをちりばめながら範読をするのもいいでしょう。

あまり急いで、早い段階で「女の子の正体=もんしろちょう」か否かを考えさせる必要はないと思います。初出の感想や疑問の段階で「女の子の正体」に関係する疑問が出てきたら、「女の子がもんしろちょうだと言っている人がいるけれど、どうなんだろうね。今は、まだ話し合わなくてもいいけれど、後でぜひ話し合おうね。だから、そのときまでによく考えておいてください。」と、ほのめかしておくといいでしょう。

実際に「女の子の正体=もんしろちょう」か否かを考えさせるのは、女の子が登場する場面を扱った後あたりでいいと思います。

このあたりである程度「女の子がもんしろちょうだとすれば」という方向付けをして授業を進めた方が、後半の授業をスムーズに運ぶことができると思います。

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