授業中における教師の役割を考える その1

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授業を見つめなおす

小・中学校の多くの学級を拝見させていただく中で、私は、新学習指導要領となった今だからこそ、授業中における教師の役割を改めて考えてみる必要があると感じています。
教育基本法や学校教育法の改正において,教育目標が定められ、学力の3要素である「学習意欲」、「基礎的・基本の習得」、「思考力・判断力・表現力の活用力」(学校教育法第30条)が明記されました。当然のことながら、授業中における教師の役割はこれらを踏まえたものであると思います。

しかしながら、教室での授業の様子は、「子どもの問題意識や反応にあまり関係なく教科書の字面をなぞるような講義型の授業」「調べたことやわかったことを発表し、その意見を板書するだけに終始し、考えがどのように深まったのか曖昧な授業」「先生と一部の児童生徒だけとの一問一答で進む授業」等がまだまだかなりの割合で蔓延しているように感じます。これらの授業の要因は様々であると思われますが、最も大きな要因は、やはり、「教師が授業中における役割を具体的に意識していない(想定していない)」ために旧態依然とした授業イメージから脱却できず、改善が進まないのではないでしょうか。
以前、附属小に勤務していた時に、「教えることの見直し」というテーマで、教師の役割について実践検証しながら学ばせていただいたことがあります。

そこで、全3回の連載で、【教師の役割】について、考えてみたいと思います。「その2」「その3」もぜひご覧ください。

教師は単に教えるというだけでなく、子どもの学びを組織し、学びの方向性を指し示していくという意味で、学びのコーディネーターとしての役割が重視される。

附属小では、教師の役割として、3つの提案がありました。私は、それにもう一つ加えて、具体的に4つの役割を提案したいと思います。
①「ひきだすこと」②「つなぐこと」③「もどすこと」④「まとめること」です。
今回は①「ひきだすこと」について、提案します。

教師の役割 その1 ①「ひきだすこと」

やや荒っぽい例えかもしれませんが、社会科歴史分野の授業を拝見して感じることは、小学校で一通りの歴史学習を学んでいるにもかかわらず、子どもは何も習っていないかのような授業展開をされていることです。教師は「教科書P36開いて、聖徳太子について、憲法や冠位十二階の制度をつくり~」と教科書を片手に一方的にしゃべっている場面を見かけます。どの教科や単元であれ、その子なりの学習経験や生活経験、興味関心などからそれぞれの学習につながる知識やイメージをもっています。決して、子どもの認識は白紙ではありません。

授業の開始には、それぞれの子どもが持っているその子なりの知識や考え、思いを十分に①「ひきだすこと」が重要だと思います。それらを①「ひきだすこと」の中で、本時の学習につながる視点や疑問が出てきます。一方的に、教師が説明するのではなく、子どもの実態から学習を始めるという姿勢は、子どもたちおのおのが、頭の中で既習事項や経験と結びつけながら考えることになります。ここに積極的な思考や基礎基本の反復が生まれます。たとえ、答えが間違っていてもその子なりの見方や考え方を受容することで、学習への意欲を高め、何でも言える安心した学習環境を作り出すことになります。

上記の歴史授業の場合で考えると、教師は、聖徳太子の人物画を示し、「この人物について知っていることは?順番にどうぞ。」と問えば、生徒が自ら発言します。また、数分間でも、知っていることを一人ひとりに書き出させペアや小グループで交流させる場を設定し発表させます。方法は様々考えられますが、子どもたちの言葉を板書等で整理する中で、時間と内容の問題を踏まえ、本時のねらいに応じて、軽重をつけて取り上げます。教師が一方的にべらべらとしゃべる授業から、それぞれの子どもの学ぶ文脈を踏まえた授業へのはじめの一歩です。
また、日頃からそれぞれの子どもの興味関心や得手不得手にアンテナをはっておくことで、学習中に意図的にその子の意見や知識を取り上げたり、部分的に活躍させたりすることができます。その子の見方や考えを全体の場に①「ひきだすこと」ことで、自己有用感につながります。「○○君の意見と○○さんの意見は同じ?違う?」等、子どもが考えてみたい、調べてみたいといった活動の必然性を生み出すことの糸口にもなります。

このように、教師の役割の1つには、。その子なりにある既習事項や生活経験、興味関心を①「ひきだすこと」です。あらゆる教科、あらゆる場面で、この「ひきだす」という教師の役割は強く意識されることが必要です。子どもは意外な見方をしたり、思わぬ知識を知っていたりするものです。教師自身も子どもの声を聞くことで、より子どもの見方や考えから授業を組み立てるという構えをもつとともに、教材研究の具体的な視点が見えてくると思います。つまり、子どもの意見や見方をいかすためには、教材を構造的に捉え、子どもがどのように認識していくのかということを見据えておく必要があるからです。

大がかりなことではなく、ちょっとした教師の働きかけ、授業の中で、子どもが持っているその子なりの見方や考え方を①「ひきだすこと」という教師の役割を意識しておくことが学力の3要素につながると思うのです。
 「その2」では、②「つなぐこと」③「もどすこと」について述べたいと思います。

<参考文献>

○兵庫教育大学附属小学校著「学び合い、分かり合う授業づくり」(明治図書)2007年2月初版

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