私たちの生活と環境-自然災害を防ぐ-(港区立青山小学校)

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授業の概要

2012年2月21日、東京都港区教育委員会研究パイロット校である青山小学校にて、研究発表会がありました。その研究発表会の授業の一つである、5年生の社会科を担当する藤村先生のクラスでは「私たちの生活と環境~自然災害を防ぐ~」という単元の授業が行われました。

主な授業内容は次の通りです。近年我が国のあらゆる場所で様々な自然災害が起こっていますが、このように災害の発生する頻度の高い我が国ではその被害を防止するために様々な取り組みが行われています。次の授業でそれら取り組みについて具体的に調べて発表するために、災害の発生とそれを防止する取り組みには密接な関係が関係あることを児童自身が予想することがこの授業では中心として行われました。

授業は電子黒板に投影された電子教科書や東日本大震災の動画・画像などを中心に進められていました。ワークシートに書かれた児童の意見や感想はデジタルペンによって電子黒板に表示され、クラスの児童は全員でそれを見ながら授業を受けていました。

授業内容

当日の板書

東日本大震災の映像を見て、地震の被害や恐ろしさについて知る

まず日本大震災で津波の被害を受けた被災地の画像や映像を電子黒板で見ました。被災地の悲惨な様子を見て息をのむ児童や、「怖い」と声を上げる児童が見られました。藤村先生が東日本大震災の当日の児童達自身の様子を聞くと、児童の中には「家族が自宅に帰れなくなってしまった」と答える児童もいました。

我が国で近年起こった自然災害の映像や表を見て、気付いたことを発表し合う

藤村先生の「わが国では、どのような災害が起こっているのでしょうか。」という発問に対して、児童は地震の他にも洪水・土砂災害など様々な自然災害を挙げました。そして児童がデジタルペンでワークシートに書いた「日本の国土の特徴」が電子黒板に映し出され、そのワークシートをクラス全体で確認しながら児童は他の児童の発言を聞いていました。そのため児童は「日本の国土の特徴」と「日本で起こる自然災害」を関連づけて資料などを読み取ることができていた様子でした。

自然災害の発生場所や発生時期について出し合う

次に電子黒板に写された白地図を見ながら、児童は自然災害の発生場所や発生時期について意見を出し合いました。その際に藤村先生は「ただ見るのではなく、どんな様子なのかをしっかり確認しながら見よう。」と指示を出したうえで、「自分がもしその場にいたらどうなるか。」「大雪などに見舞われる場所で暮らす人々はどのような生活を送っているか。」など、様々な問いかけを行いながら児童の発言を聞いていました。宮城県・長野県・宮崎県・東京都など様々な場所で自然災害が起こっていることを知ると、児童は驚いた様子でした。自然災害の発生時期については、地震・洪水・大雪などが過去発生した時期を示した表を見ながら、頻繁に自然災害が発生していることを確認しました。

また、雨は農家などにとっては恵みとされているが、時によっては大きな被害をもたらすということもこの部分でお話されていました。

自然災害から身を守るためにどのようなことが行われているかを予想する

「人々は、自然災害をどのように防いでいるのでしょうか。」という先生の発問に対して、児童がワークシートに予想を書きました。児童は「緊急地震速報のように、地震が起きたときすばやく正しい情報をみんなに送る。」「日常的に避難訓練を行う。」というような意見を発表していました。

発表の際に最初の発言者は藤村先生が指名しましたが、その後児童が発言する際には発言した児童が次の児童を指名するという形をとっていました。

また、児童が次の児童を指名する際に藤村先生は「◯◯さんの意見に関連して」「つなげて」という声かけを常にしていました。これはこれは発言する際にかならずその発言に「根拠」を求め、疑問や反論、賛同する際に児童が自分の立場を明確にして発言できるようにするためということです。児童の発言に「根拠」がない場合は、もう一度「根拠」を示して発言するように促すことを藤村先生は徹底されていました。

これから調べてみたいことを想像し、学習問題をつくる

自然災害から身を守るために「ダムが築かれている」という発言が児童からありましたが、その発言に対してさらに「誰がダムを造っているのか」という発問を藤村先生がしたところ、「政治の人が」「偉い人が」という答えが児童から挙がりました。「誰が」「どのような目的で」と発問をいくつか重ねることで、次回の授業で調べる内容がより明確になっていました。

Q&A

後日、授業全般における指導の工夫などについて藤村先生に電話取材させて頂きました。

以下はその際お聞きしたことをまとめたものです。

Q1:ICT機器(デジタルペン・電子黒板など)を使用する際のメリット・デメリットについてお聞かせください。

A1:
<メリット>ICT機器を使用しない授業では、児童の書いた文章などを授業においてそのまま生かそうとすると児童に直接黒板に書かせたりなどということをさせますが、そのような方法では非常に時間がかかります。デジタルペンで電子黒板に児童の文章などをリアルタイムで表示させることで時間を節約し、授業のスリム化をはかることによって45分間という短い授業時間をより効果的に使うことができます。また家庭環境などの要因から塾に通うことや、様々な体験を得ることができない児童も多くいます。そのような児童に対して映像を用いた授業を行うことによって体験などを補うことができます。 
<デメリット>教員の「使い方」が課題です。「ICT機器を利用している」という点に満足しているだけではこれらの機器を充分に授業に生かすことはできません。目的やテーマに合わせてICT機器をより効果的に使うことが大切です。

Q2:電子黒板に表示されていた児童の文章を色分けされていましたが、これにはどのような意味があるのでしょうか?

A2:次回以降の授業で「国の施策」・「地域の施策」・「個人で行う取り組み」など、児童が挙げた様々な意見や考え方を分けるために色分けをしました。「この色分けにはどんな意味があるのだろうと」児童に疑問を抱かせ、次回以降の授業に関心を持たせることもねらいの一つです。

Q3:児童が発言する際の指名は児童がお互いを指名し合うという形をとっていましたが、どういう目的でこのような形をとっているのでしょうか?

A3:全ての授業で児童がお互いを指名し合うという形をとっているわけではなく、教員が意図的に児童を指名する場合もあります。今回の授業では児童に様々な意見や考え方を挙げさせることが目的であったため、児童がお互いを指名し合うという形をとりました。このように児童がお互いを指名し合うという形をとると、児童自身が他の児童の意見や考え方に自分の意見や考え方との共通点を見いだすことができます。

Q4:児童が発言する際には必ず「根拠」を示すように指導されていましたが、どのような目的でこのような指導を行っているのでしょうか?

A4:児童が「なんとなく」や、ビクビクしながら自分の意見を言うのではなく、自身を持って堂々と自分の考えを述べることは重要なことです。そのためには根拠を示して説明させることが必要です。学習指導要領では「言語活動を充実」させることが強調されていますが、このような活動によって得られる力は日常生活や児童が小学校を卒業した後にも必要とされることだと考えています。そのため授業中に限らず、掃除の時間など授業外の時間にもこのような指導は行っています。

Q5:クラスに外国籍の児童や特別な支援を必要とする児童がいましたが、授業ではどのような点に気をつけて指導されているのでしょうか?

A5:クラスには中国語を話す児童、英語を話す児童、特別な支援が必要な児童と様々な児童がいます。児童の実態に合わせて指導することが必要です。その児童がどこまで考えているかを机間指導しながら考え、個別に伝えるようにしています。

講師紹介

東京都港区立青山小学校 藤村千菜子先生

編集後記

多くの児童が活発に手を挙げ、生き生きと発言する様子が印象的な授業でした。

児童が書いた意見や感想などをそのまま電子黒板に映し出してクラス全員で内容を確認したり、自然災害の様子を地図と合わせて動画で見ることができたりと電子黒板・電子教科書・デジタルペンなどのICT機器がこの授業では効果的に用いられていました。

児童が思考を深められるよう発問をいくつか重ね、児童が自分の立場を明確にして発言できるようにと発言方法などについても工夫されていました。ICT機器の使用方法の他にも、指導方法などで多くのことを学ぶことができました。授業を拝見して生じた疑問点についても後日質問させて頂きましたが、とてもご丁寧にご指導頂きました。藤村先生ありがとうございました。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 菊池信太朗・薗田誠也)

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