Web上で学校の情報発信力を強める―地域全体で支える学校づくり―

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目次

1 はじめに

山形県天童市にある市立長岡小学校では、担当の鈴木伸治先生を中心に、数年前から学校の情報を、HP( http://bit.ly/uVmpPD)をはじめ、Twitter( http://bit.ly/UCJztA)やFacebook( http://on.fb.me/Qc56mF)を通して積極的に全国に公開している。あらゆるツールを使い、なぜこれほどまでに学校の情報を公開しているのか、そこに問題はないのか、情報公開を積極的に行うことでどんな利点が生まれてくるのか。
現代だからこそ考えられる、「学校」というある種社会から隔離されがちなコミュニティーの、新たな可能性の一例を、ここで紹介したい。


長岡小学校HPより

2 「学校の情報化」に至るまでの背景

鈴木先生によると、情報化社会となった現在、学校も情報化していかなければならない、これは避けては通れない道なのであるという。学校はこれまで、1つの大きな世界として家庭やまわりの地域社会から孤立しがちな存在だった。そのため、家庭や地域では、「私の子どもは今何をやっているのか」「あの学校では今何をやっているのか」などが分からず、分かったとしても学校通信や学年・学級通信のようなもののみが情報源であった。そのため、相互的に良い関係を築き得る媒体が、とりわけ文字・紙媒体中心の学校側からだけの発信が多かった。

3 「学校の情報公開」の意義

鈴木先生によると、「学校の情報公開」をすることで、「学校」というコミュニティーに存在する、見えない敷居を下げることができるのだという。また、家庭や地域での会話のきっかけにもなる。このような学校の情報公開が進むと、保護者の方や地域の方は学校のHPを頻繁に見るようになる。そこで、自分の子どもや近所の子どもが取り上げられていたり、学校でその日、何をやっているのかが分かったりすると、それが子どもたちとの会話のきっかけになる。このような会話がきっかけになって子どもたちの中に「自分は見られている」という意識が生まれ、学校活動により精力的になるという結果もあらわれている。また、地域の方にも学校を知ってもらうことで、地域との関係が深まっていく。このように学校の情報を公開していくことで、「みんなで子どもを育てる」という環境が生まれるのだ。


長岡小学校のTwitterアカウント。毎日つぶやきが更新されている。

4 運営していくうえで気を付けていること、苦労

長岡小学校のHPでは「子どもの今」を伝えるため、子どもたちの写真を多用している。そのため、HP改革当初は肖像権の問題もあり、まわりからの反対の意見もあった。そこで鈴木先生は学校の明確な個人情報保護方針とHP運営方針を確定し、まわりの反対に対し、説得を試みた。このガイドライン( http://bit.ly/OOAiq9)では、子どもの顔と名前を一致しないように公開し、万が一本人や保護者にとって不都合な写真がある場合は速やかに要請に応じた措置をとるということが明記されている。このような了解のもと、HP改革に取り組んだのである。もちろん、このような措置であってもノーリスクというのはありえず、危険はある。しかし一旦初めてみたところ、子どもたちの写真を多用したところで特に問題は起こらず、逆に保護者の方からもHPを好意的に受け止めてもらっている。だが当然のことながら、前述したように個人名などの掲載は控えている。そこで、ネームプレートにモザイクをかけたり、学級通信など個人名が載っていたりするものは意図的に掲載しないようにしている。

また、このように情報発信を強力にしていくにあたって、その体制が永続的なものでなくてはならない。そのために校内体制がしっかりと確立していなければならないという問題がある。教員という職種上、異動というものが存在する。引き継ぎ体制をしっかりと確立させないと、せっかくできたHPが数年後には衰退してしまうという可能性もある。さらに、教員全員が必ずしも情報に精通しているとは限らないので、そこには行政の支援や地域のボランティアなどが必要な場合も出てくる。

5 情報公開度を強めた結果、得られた成果

情報公開度を強めた結果、まず保護者や地域の方々に変化があらわれた。子どもの写真を多用することにより、「自分の子どもがHPに載っている」「近所のあの子がHPに載っている」というような、たくさんの好評を得ている。そのため、以前よりも一層保護者や地域の方々と良好な関係を築けるようになった。また、HPには児童によるコーナーも設けているため、児童が自ら投稿した記事を保護者が見ることで、学校と保護者、そして保護者と子どもたちの間でさらに良好な関係を築ける。それだけでなく、児童のメディアに対する関心も強まり、情報教育としても成立している。

前述もしたのだが、やはり「学校」という、ある種特殊で孤立したコミュニティーの情報を外部へ積極的に公開していくことで生まれる効果というのは大きい。そこには決して悪い効果などは発生しておらず、いい影響ばかりが生まれているというのが長岡小学校の実践の結果、明らかになっている。要は様々な権利や、保護者との意見の食い違いなどの問題をどう乗り越えていくか。そこを乗り越えることができれば、情報公開によって「地域全体で支える学校づくり」が可能になる。

6 長岡小学校の特徴

長岡小学校はHPを運営していくにあたって、「とにかくたくさんの情報を流していく」ということを心掛けている。毎日の給食をはじめとして、本来HPを運営していくにあたってはそれほど必要のないような情報も公開している。その理由は、長岡小学校はHPの充実化のことを「学校広報」として捉えているからだ。インターネット、HPという媒体を使えば、学校の情報を、それほどコストをかけずに全世界に知ってもらうことが可能になるのだ。


長岡小学校のFacebookページ。現在は試験運転中だという。

7 学校プロフィール

天童市立長岡小学校。山形県天童市にある公立の小学校。

情報発信力が非常に高く、毎日更新される学校HP(ブログ)をはじめ、TwitterやFacebookのアカウントももっている。J-KIDS大賞実行委員会主催、第10回全日本小学校ホームページ大賞( http://bit.ly/2DHdtB)の山形県代表に選出。これら長岡小学校の情報公開の編集者は、当学校研究主任の鈴木伸治先生(2012年度現在)。

8 取材あとがき 

私もTwitterを通して長岡小学校を知った。小学校がTwitterのアカウントを持っているというだけでも驚きだったのだが、その後調べていくにつれ、Facebookのページも発見した。そしてなにより、充実した内容のHPに驚いた。学校の情報を発信していくにあたって、いろいろな入口を持っているというだけで、私のような者でもその学校を知ることができる。
学校というコミュニティーはどうしても閉鎖的になりがちである。情報化社会となった現在、「学校の情報発信」という領域はこれからもっとスポットを当てられてもよいのではないか。長岡小学校の実践による成果にもあるように、地域との連携を強め、地域全体で支える学校づくりを促進するためには、このような「情報発信力を強める」ということが1つの有力な手段になりうると思った。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 伊原貴義)

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