数学的コミュニケーション能力を高める-小数でわる(5年生)-(間嶋哲先生)

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作成者: 間嶋哲さん

1 はじめに

この記事は、新潟大学教育人間科学部附属新潟小学校算数部の間嶋哲先生の研究の一環として行われた実践です。

数学的コミュニケーションを高めるという研究テーマから高学年向けに以下のような実践が行われました。
(引用元:http://bit.ly/VkJqLk

2 数学的コミュニケーションとは?

数学的コミュニケーション能力について,杉山氏は次の二つに分類している。

①数学的に表現する力  ② 数学的に表現されたものをよみ取る力
出典:杉山吉茂「数学的コミュニケーション能力の力を」『新しい算数研究』
(東洋館出版社1998)No323P6 

間嶋は,この中で,数学的に表現する力(以下,「数学的表現力」とする。)に焦点を当てて,数学的表現力を次の三つの知で表した。

【内容知】 数学的表現のよりよい使い方が分かる。

【方法知】 数学的表現のよりよい使い方ができる。

【体験知】 数学的表現のよりよい使い方をすると,相手に自分の考えを正しく伝えやすくなると感じる。 

これら三つの知を獲得させるために,次の五つの働き掛けを構想した。

これらの働き掛けを盛り込んだ具体的な実践を見ていこう。

単元名「小数でわる世界へいこう」

本単元では,数学的表現として,対応数直線式のよりよい使い方を取り上げた。

対応数直線のよりよい使い方とは,2本が対になった「対応数直線」を次のように使っている状態である。

◎ 0.1の大きさが分かる,細かな縦線が入った数直線になっている。

◎ 一本の数直線の単位が,それぞれそろっている。

◎ 数直線を見たとき,数直線と式が合っている。
一方,式のよりよい使い方とは,本単元で使われる除法の性質
「a÷b=c のとき,(a×m)÷(b×m)=c (4学年での既習事項)」を用いて,「式」を次のように使っている状態である。

◎ 式を説明する言葉がある。

◎ 説明の中に,つなぎ言葉がある。

◎ 矢印(→)で,式の前後の変化を分かりやすく表している。

授業展開

まず,次の課題を提示し,「どんな式になるかな?」と発問した。 
「リボンを2.8m買ったら代金は420円でした。このリボン1mのねだんは何円ですか。」

すると,子どもから,「工夫した式ですか。」とか,「答えを出すところまでの式ですか。」という質問がきた。これは,420÷2.8以降の式(例えば,420÷28×10など)を思い浮かべているためである。そこで,「最初の式だけを答えなさい。」と言った。

机間指導をすると,案の定,すでに4200÷28などとしている子どもがいた。ここでは,420÷2.8を確定しなければならないと考え,黒板に「420÷2.8」と書き,「このような式でいいと思う人?」と問うた。すると,ほとんどの子どもが「いい。」と答えた。
その後,理由を聞いた。
すると,子どもは,黒板に対応数直線を描き,説明を始めた。小数のわり算の意味理解に直接つながる考え方が紹介された。最終的に,「□×2.8=420 □=420÷2.8」と,黒板にまとめた。
その後,働き掛けAを行った。 

目的意識をもたせながら,自分の考えを細分化カードにかかせる。(働き掛けA)

ここで、ひとりの子どもaに注目して、働きかけに対する子どもの変化を追うことにする。 
子どもaは,次のように「細分化カードⅠ」に記述した

子どもaの解決の仕方は,明らかに,わり算のきまりを使ったものである。式のよりよい使い方を獲得させる必要がある。現段階では,「矢印(→)で,式の前後の変化を分かりやすく表している。」ことはできている。しかし,「式を説明する言葉」と「説明の中の,つなぎ言葉」という観点が,子どもaには足らない状態である。
その後,次の働き掛けを行った。

同じ解決方法だが,式をよりよく使っている表現と使っていない表現とを提示し,どちらがより考えを正しく伝えているか理由と合わせて問う。(働き掛けB)

の二つを提示し,「この二つは,同じ考えを表しています。どちらの表し方が,より考えを正しく伝えていますか。」と発問した。

(ア) 420÷2.8=4200÷28=150 (円)
(イ) 整数÷小数はできない。そこで,

  • まず420と2.8を10倍する。  420×10=4200  2.8×10=28
  • つまり420÷2.8=□

    ↓×10↓×10 ↑答えは同じ
    4200÷28=150        

  • だから,□は150(円) 

すると,アの表し方には,全く手が挙がらず,イの表し方に大勢,手が挙がった。
次に,その理由を聞いた。その理由として,様々出された。それを教師側で次の観点にまとめた。

◎ 説明の言葉

◎ 矢印

◎ つなぎ言葉

あらかじめ設定した「ア」と「イ」を並べて提示した。これら二つを比較させることによって,それぞれの数学的表現の仕方の違いに着目するようになった。そして,どちらがより考えを正しく伝えているかを問うことにより,子どもは,考えを正しく伝える際に大切な,よりよい使い方の観点を考え,上の三つを挙げたのである。  

なお,対応数直線のよりよい使い方の例示としては,次の二つを提示し,よりよい使い方を,いくつかの観点でまとめた。その後,次の働き掛けを行った。  

対応数直線や,式のよりよい使い方を選ばせる。(働き掛けC)

すると、子どもaは,上の三つの観点,つまり「説明の言葉,矢印,つなぎ言葉」をすべてあげた。なお,この段階で,対応数直線のよりよい使い方として,

◎たて線がある

◎単位が同じものを一つの線にする

◎数直線と式が合っている

◎ごちゃごちゃしていない

◎見た感じ,分かりやすい

といった観点も一方ではあがっていたが、子どもaは,それらを選択しなかったのである。(内容知の獲得)
 
子どもaは,働き掛けAで表現した数直線や式を改めて見直し,自分が不足している式の使い方に気付き,挙げることができるようになったのである。
その後,次の働き掛けを行った。

自分の細分化カードを修正させる。(働き掛けD)

子どもaは,次のように細分化カードを修正した。

細分化カードⅠと比べ,説明の言葉と,つなぎ言葉が付加されている。(方法知の獲得)
子どもaは,細分化した自分の数学的表現を,働き掛けCで獲得した観点に照らして見直し,修正したのである。  

その後,次の働き掛けを行った。

数学的コミュニケーション広場で,相互評価させる。(働き掛けE)

自分の細分化カードを黒板に磁石で貼り,それらを他の友達が見て,「正しく伝わっているか」という観点で評価するのである。子どもaは,5名の友達から評価された。その中のコメントとして,次のようなものがある。

○ 言葉と図を一緒に説明してあって,いいと思う。

○ 言葉の説明のときに,うまく図を使っていていいと思う。 

「言葉と図を一緒に説明してあって,いいと思う。」

「言葉の説明のときに,うまく図を使っていていいと思う。」

子どもaは,最後に次のようにまとめている。<span style='font-weight:bold;'>

子どもaは,最後に次のようにまとめている。(体験知の獲得)

「私は,友達から評価してもらって,やっぱり数直線がいいのかなあと思いました。みんなから,分かりやすいと言われたので,これでいいなと判断しました。」

授業ふりかえり—子どもの姿から—

○個々の子どもにとって違う,必要な表現の仕方

ある子どもは,前述のアとイを比較させたとき,「イはまだ不十分だ。」というような発言をしている。その理由は,「なぜ,10倍するのかという理由が書かれていないからだ。」という。「必要な表現の仕方」として黒板に書かれたこと以上に,自分独自に不十分な点をあげ,実際,その観点で自分の表現を修正している。こちらが完璧と思って提示した表現の仕方にも,まだ「こうした方がいい。」という表現の仕方があることが分かる。

また,ある子どもの最終記述には,「対応数直線では,目盛りがない方がすっきりしている。」と書かれてある。その理由として,「答えをズバッと出していて見やすいのと,細かすぎて分からなくなってしまうからです。」と記述している。この理由は,頷ける。

つまり,これらのことから,数学的コミュニケーションの一方の力,つまり「よみ取る力」のある子どもにとっては,想定した「よりよい」という観点に多少のずれがあったと言える。

○表現を検討させることで,数学的な考え方を獲得させると言えるかどうかの吟味

今回の実践においては,最初,働き掛けBで数学的表現の観点を出させ,その後,働き掛けCで,自分にとって必要な観点を選ばせ,その後,修正させた。確かに,多くの子どもの数学的表現は修正されたが,これで良かったのか,疑問が残る。  

多くの子どもが,働き掛けAの段階で,何らかの考えを表現している。しかし,その考えが,あらかじめ想定した「数直線のよりよい使い方」に関する記述なのか,それとも,わり算のきまりを使った「式のよりよい使い方」に関する記述なのか,判別が難しかった。 

それゆえに,元々もっている個々の子どもの数学的な考え方をきちんと見取らずに授業を進めたため,果たして本時でねらう数学的な考え方が獲得されたのかどうか明らかにできなかったのである。  

働き掛けBの後,子どもに,提示された考え方の違いを全体に投げ掛けたり,自分の考えがどちらに所属するのか問うたりする必要性があった。それにより,本時でねらう数学的な考え方を獲得させることができるからである。  

今後も,考えの細分化と,使われる数学的表現の観点のもたせ方,そして相互評価という視点から,数学的表現力(ひいては数学的コミュニケーション能力)を高めるための有効性について探っていく。そのために,次の2点に留意して研究を進めることとする。

○ 単元で獲得させたい数学的表現力と,数学的な考え方との関係を明らか にする。つまり,どの段階で数学的な考え方が獲得されるのかを明らかに したり,あるいは,数学的な考え方を獲得させるための働き掛けを付加し たりすることを検討する。

○ 体験知の見取り方,つまり検証の仕方について吟味する。 

3 編集後記

 数学的表現力という言葉が何を指して、実際の授業のどのような場面でどのようなプロセスで子どもたちの力となるのかがわかりやすくまとまっている実践です。ひとりの子どもに焦点をあてて、より繊細に子どもの考えや動きがイメージできるようになっています。ぜひご参考になさってください。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 佐藤 睦)

4 実践者プロフィール

間嶋 哲(Mazima Akira)
1965年、新潟県に生まれる。新潟大学教育学部を卒業。
新潟県内の小学校で活躍後、文部科学省での1年間の研修を経て、現在、新潟市教育委員会学校支援指導主事。算数授業ICT研究会理事。全国算数授業研究会総務幹事

趣味は、海外旅行・外国語会話・スキー・ギター(フォークとクラシック)・読書・園芸・熱帯魚飼育など、多岐に渡る。

大学の卒業旅行を機に、旅行・外国語にはまり、旅行記を一冊出版したほどのエピソードを持つ。
間嶋哲のHPへようこそ… http://bit.ly/LzzKmJ

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