性教育の授業をやりやすくする導入

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やりにくいと思う教師も少なくない

現在、性教育と言える分野を小学校教科書上で扱っているのは4年生「保健」(カリキュラム上は体育の時間)と5年生「理科」となっています。1990年代には学級活動の時間などに性教育が組み込まれることもあり、けっこう突っ込んだ内容で行われていました。ところが2000年代前半に教え過ぎとの批判を受け、かなり後退・縮小された感があります。

それでも4年生「保健」の教科書には成人男女の裸体の絵が示されており、「性器」「性毛」「初経」「精通」等の言葉が掲載されています。子ども達にとっては興味津々の内容であり、教師は好む好まざるにかかわらず、それらの内容を教えなければなりません。

特に若い女性教諭の中には、あまりやりたくないと思う形も多いかもしれません。医学の知識もそこそこな私達教員にとって性教育は教えにくい分野です。既婚の教員だって異性の体や出産関連についての知識は乏しいのではないでしょうか。実際のところ、そういった事については、異性でなくて同姓あるいは自分自身の事でもよく分からない部分が多いものです。
性に関して全く知識のない子どももいれば、妙にいろいろと知っている子どももいます。分かっていてわざと突っ込んだ質問をする子どもがいることもあれば、分からずに答えにくいことをズバリ聞いてしまう子どももいます。2000年代前半の教え過ぎ批判のため、どこまで教えていいのかも難しい面があり、教師にとって性教育は「大事なことだと思いつつ、やりにくい分野」のひとつです。

真面目な顔して臨むべきか、ユーモアも含めてOKなのか・・・それは、それぞれの教師とクラスのキャラクターや年齢によって違うのだろうと思います。

「科学の勉強の時間ですよ」と最初に言っておきます

よくある授業風景。
保健の時間、教科書を用意した時点で、何人かの男子がにやけています。男女の裸体が掲載されているページを開けて、女子に見せつけている子どももいます。女子の中には絶対に教科書を開けようとしない子どももいます。

「少し恥ずかしいと思う人もいるかもしれませんが、これから勉強することは体についての「科学の学習です」」→「科学の学習」と大きく板書。
「大人になっていくための勉強です。」→「成長」と大きく板書。
「例えば、大人同士で話をするときには、きちんと言えば恥ずかしくない言い方があります。おトイレに行ったときに男の子が大事なところをチャックに挟んで傷つけてしまったとします。そんなときお医者さんに行って説明をする場面で『オ○ン○ン※をチャックにはさんでしまいました』と言うのは、子どもならいいですが大人なら少し恥ずかしい言い方です。『オ○ン○ン』はどう言うと科学的な言い方になりますか?」

・・・「いんけい」「ペニス」「大事なところ」「性器」などと反応があるクラスもあれば、シーンとしているクラスもあります。

「教科書を開けてみましょう。科学的な言い方が載っていますよ。」
・・・「いんけい」と書かれている場合が多いかもしれませんが、ここは、「ペニス」でもいいことをおさえておきましょう。

「このように、大人の社会では、恥ずかしいと思うようなことをきちんと科学的な言葉を使って、科学的な態度で話すと、恥ずかしくないようになります。はずかしがらずに、『ペニス』としっかり話せば、笑われたり変に思われたりしません。みんなもこれから、そういう言葉をきちんと覚えて、恥ずかしくない、科学的な大人になる勉強をしていきましょう。」
この後、「膣」「性器」などの語句を押さえます。

※「オチンチン」とは言わず、「オチ○○ン」と、はっきり大きな声で言うと、教室は盛り上がります(笑)。別に盛り上げなくてもいいですが・・・・

「個人差」から切り出す

まず、教科書に載っている個人差と言う言葉を取り扱うといいと思います。5年生の理科で教えるときには、4年生の時の復習として、この言葉を思い出させながら導入を始めるといいでしょう。どんな話の流れで構成するかと言うと・・・

①「何事においても人の発達には違いがあります。」「体の大きな人もいれば、小さな人もいる」という言い方が一番分かりやすいでしょう。

②心の発達も違い、もう大人の考え方ができて落ち着いていて、6年生みたいな人もいれば、すぐにかっとなったり甘えん坊の1年生2年生みたいな人もいますね。

③こういう人によって成長が違うことを「個人差」(大きく板書)と言います。

④個人の成長の差について、冷やかしたり馬鹿にしてはいけません。

⑤個人差があるのは、当たり前のことですから、それを悩むこともありません。

⑥「個人差について、人から言われるといやだったりします。体のことは、すぐにはどうにもできません。たくさん食べても、背が伸びない人もいますね。体のこと等、個人の情報、プライベートなことを人に言われるのを、いやがる人は多いです。(「プライベート」と大きく板書)」「人の秘密や個人の情報、つまりプライベートなことを無断で人に話したり、人前で話題にしたりするのはルール違反です。」

⑦このあたりまで押さえたところで性毛を例にとって話を切り出すといいと思います。「人間の大事なところには毛が生えています。頭の毛はどこを守っていますか(脳を守ります)。まつげや眉毛はどこを守っていますか(目を守ります)。大人になると、さらに毛が生えてくるところがあります。」「大人の男の人には、ひげが生えています。わきの下や性器の周りにも、毛が生えます。性器の周りに生える毛のことを、性毛と言います。」「それぞれの人に個人差がありますから、性毛が生えてくる時期にも差があります。」「早く生えてきた人は、みんなと違っていて、恥ずかしいことがあります。」「でも、そんなことを恥ずかしがる必要はありません。」「お風呂なんかで成長が早く来た人のことを知って、その事を冷やかすような人がいます。そういうのは、ルール違反です。(「ルール違反」と大きく板書)」

⑧性毛のくだりになると、話の途中で果敢な子どもが「で、先生はいつ生えてきたの?」「で、先生は生えてるの?」などと、切り込んでくることがあります。この時がチャンスです。黒板の「プライベート」「ルール違反」を指差して、「だから言ったでしょ!プライベートなことにはお答えできません、立ち入り禁止です。」と、切り返して
勝ち誇りましょう(笑)。

⑨授業が終わった後、「ペニス」は科学的で恥ずかしくないと教えたことを履き違えて、「ペニス」を連呼するような男子がたいていクラスに一人ぐらいいます(苦笑)。そんなときには、「いくら科学的な言葉であっても、関係のない時に口に出すのはマナー違反です。」と、たしなめましょう。

子どもの疑問にどう対応するか

冒頭で記述したように、「行き過ぎた性教育」に対する批判があったために、自治体によってはかなり性教育に対して抑制的になっている場合もあるかもしれません。理科や保健の教科書、自治体の配った資料や副読本に書いてあること以上を教えてはいけないといった「お達し」が出ている自治体もあるでしょう。

性教育をしていく過程で子ども達は様々な疑問や、自分なりの考えを持つことと思います。それら一つ一つに丁寧に応えていくことには時間的にも、教師の「行き過ぎてはならない立場的」にも限界があります。「行き過ぎ議論」に関しての是非はさておいても、性に関することは、生命の誕生やモラルにもかかわる、人間の権限的な部分であり深く学習をする必要があると思います。小学校の間には、冷静、中立、科学的に学んでいく態度を育てていくことができればいいのではないかと思います。

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