「なんで?」で主体性を養うクリエイティブな授業(立命館小学校 伊藤邦人先生)

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目次

1 はじめに

立命館小学校で、伊藤邦人先生による小学5年生の算数の授業を見学しました。内容は「比の考え方の導入」です。一見難なく進められていく授業の中に、子どもの主体性を伸ばす様々な工夫が散りばめられていたので、それを紹介していきます。

また、記事の後半では伊藤先生へのインタビューも掲載し、授業づくりの上での意識を伺いました。

2 ①興味を引き出す工夫

その日扱うテーマや問題の答えを穴抜きにして隠す

教科書には流れや展開、答えが全て載ってしまっているので、あまり使いません。黒板に、「◯◯とは」とおもむろに書くだけで、その空白には何が入るのだろうと注意を引きつけ、探究心をくすぐります。

3 ②授業への参加意識を高める工夫

机間指導で見つけた子どもの意見を授業に活かす

授業中、先生はよく机の間をゆっくりと回りながら子どもたちの近くに寄り、ノートを覗きこんで「あ、それおもしろいなぁ」などと、どんな発想もしきりに褒めます。そして前の黒板に戻った後、「◯◯君、さっきノートに書いてた式、紹介してくれる?」「◯◯さんさんの考えはどう?」などと、正解から間違いまで、様々な児童の考え・発想をすぐに授業に還元し、先生と児童とで共に作り上げられていく活発な授業となっていました。

4 ③自ら考える力を育てる工夫

「なんで?」を何度も問いかけることで、子どもたちに考えさせ話し合わせる

この授業では、子どもたちに疑問をもたせ、机間指導で子どもの意見を取り上げながら「なんで?」を重ねていき発展させていくという工夫がなされていました。

最初に、「みかん40g・りんご50gを混ぜたジュースがあるとしよう。これと違う量で、でも同じ味のジュースを作りたいんだけど、どうしたらいい?」と先生が問いを発します。

導入:先生が、明らかに違う例を提示

先生「もし、上と数字が逆の、みかん50g・りんご40gだったらどう?」

子ども「絶対違う味になる!」

先生「なんで?ちょっとみんなで話し合ってごらん」

机間指導の中で見つけた意見を聞いて、聞いた後、先生「…なるほど!このクラスは賢いなぁ~」(褒める) 

発展:先生が、子どもの意見が半分に分かれるような例を提示

先生「じゃぁ、もとの量に同じ10gずつ足した、みかん50g、りんご60gだったら?」

子どもは、迷いながらも同じ味派と違う味派で半分に分かれます。

先生「なんでそう思うのかな?はい、じゃぁもう一回話し合ってみて」

そして先生は机間指導の中で数人の子どもの意見を拾い、その後「◯◯くんはどう考えた?」などと、授業でさまざまな意見を出させます。そうして子どもたち同士で同じ味派が、だんだん違う味派の意見に納得していきました。

発見:先生がヒントを少しだけ与え、正解へ導いていく

先生「じゃぁ、みかんが80gだったら、りんご何gで、はじめと同じ味のジュースができる?」

子ども「あ、100gや!!」

先生「ほぉほぉ。なんでそう考えたの?」

このように、先生から児童へというトップダウン型の一方的な知識教授ではなく、あくまで問題に対し子どもたちが考えた意見を机間指導の中で拾って発展させてゆく、という授業形式でした。授業展開の主役として、児童たちは常にいきいきとした明るい表情で手を挙げたり、友だちと意見交換をしたりして終始楽しそうでした。様々に子どもの興味を引く工夫を施しながら、「なんで?」をしきりに聞き、考えを掘り下げていくことが子どもの「主体的に考える力」を養うことにつながるのではないでしょうか。

5 インタビュー:主体性を育てるために何を意識しているのか

Q.授業中に、児童と接する際に心がけていることは?

A 常に「笑顔」でいることですね。今回のクラスは算数を苦手と感じている子が多いですから、特に「算数を楽しんでほしい」という気持ちで、表情を明るくしてゆるく和やかな雰囲気になるように意識しています。先生というのは、常に児童の上の立場から教えるものではないと考えています。必要な場面ではメリハリを持って厳しくしつつも、友達感覚でフランクにおしゃべりしたり、時には下から顔を覗き込むようにして「どうしたの?」と聞いてあげたり…。子どもの状況を察知して、柔軟に「いろんな顔」ができる先生であるべきだと思います。

Q.今回の授業で特に重要視した場面はどこでしたか?

A.それは、一番始めの切り口のところです。今回扱ったのは特に比の導入の部分だったので、はじめの切り口の部分でいかに興味を持ってもらうかがカギでした。そのため授業においてもどうやったら子どもたちに比についての必要性を感じてもらえるかを考えました。必要性を感じてもらえるためには、良質な課題意識を与える必要があるので、教材にジュースを用いて授業展開を行いました。

Q.今のクリエイティブな授業スタイルはどのように確立していったのですか?

A.他の様々な先生方の考えや教育書はもちろんのこと、自分の実践を毎日毎日ノートに記録することで、だんだんと積み上げていきました。私は以前7年間、塾で講師をしており、そこで経験を積んで立命館小学校に来ました。しかし、来てすぐにそこの先生方に観ていただいたときに言われたこと、それは「こんなん授業と違う」という一言でした。その当時、塾での指導方法が全てだと思っていましたので、はじめは落ち込みました。しかし、その後にその先生に「学校は学力と人間力を育てないといけない」と言われ、ハッとさせられました。それから「人間力とは何か」と考え現時点で出たものが、自分たちで考える自立型人間の育成だと考え、今のクリエイティブな授業観をつくりあげていきました。

Q.教育する側の人間として、自分自身に対して普段どんな意識を持って生活していますか?

A.良い教師というのは、「自分に厳しく」「人間力のある」人だと思っています。ですから、私も日々向上心を持って自分を磨いています。朝は子どもが登校するよりかなり早く学校に着き、その日の「子どもたちへのメッセージ」を教室の黒板いっぱいに書くんです。相当キツイですが、自分を律するために、これは毎日自分に課しています。授業の準備では、イメージトレーニングを何回もします。また、お風呂でも寝る前もいつでも子どもたちのことを考えているし、夜は、その日の学級経営・授業の反省をノートに毎日書き留めています。

6 編集後記

私が特に驚いたのは、授業中の子どもたちのいきいきとした表情です。普通小学校5、6年生にもなると授業中だるそうにしたり手を挙げなかったりすることがよくあるのに、伊藤先生のもとで教わっている子どもたちは常に楽しそうでした。これはなぜなのでしょうか。理由のひとつには、先生が率先して常に笑顔でいるためだと私は考えます。「子どもは先生を映す鏡だ」とかつて恩師に言われたことがあります。子どもは敏感に先生の表情・態度を読み取り、反応するのです。伊藤先生は、日常生活でずっと児童のことを考え、児童のために毎日自分に厳しく課題を課しています。また笑顔だけでなく、授業にさまざまな仕掛けを施し、子どもの知的欲求を高める工夫を常に考えてらっしゃいます。そういった努力や気遣いが子どもたちとの信頼関係に結びつき、授業の明るく発言しやすい雰囲気に表れているのではないでしょうか。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 磯辺菜々)

7 実践者プロフィール

伊藤邦人(いとう くにと)
学習塾勤務を経て、現在立命館小学校教諭。
「クリエイティブ」を教育の柱とし、子どもを最大限伸ばす学級経営・授業づくりの研究を進めている。
共著に、『文章題プリント』 http://amzn.to/RVbJiI 『図形プリント』 http://amzn.to/RVbMLp (いずれも学研出版)『教師になるには』 http://amzn.to/U3Y7Pc (一ツ橋出版)などがある。

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