1 はじめに
本記事は、東日本大震災発生時に、岩手県内の中学校に勤務していた佐藤謙二先生により執筆されました。
また、本記事の内容は、朝日新聞社「朝日Teachers’メール資料室」
( http://nie.asahi.com/ )にも掲載されています。
( http://nie.asahi.com/bousai/satou-bousai3.pdf )
2 対応の背景と方針
本校は3月12日から市の避難所に指定され、教職員はすぐにその運営にあたった。避難所には本校生徒を含めて250人が避難していた。互いに見知らぬ人が多いうえ、津波で被災した直後で支援物資も届かない当初は混乱を極めた。このようななか、次のような方針で対処した。
①避難所立ち上げから当面は教職員が前面に立って、市・県職員と連携しながら運営する。その後、徐々に避難所の方々による自治に移行する。
②役割分担を明確化するとともに指示命令系統を一本化する。
③教職員で被災したり、体調面で勤務できない場合は、勤務時間を配慮する。
④報告連絡を確実に行い、混乱を防ぐ。
3 避難所の業務内容について
①避難者名簿の作成
②食事・調理関係(朝、昼、夕3食の準備)
③保健衛生管理(清掃、トイレ用の水くみ、給油)
④看護活動の補助(医師、保健師の補助)
⑤物資管理(支援物資の搬入、仕分け)
⑥来訪者への対応(市民、マスコミ)
⑦対策本部との連絡
⑧避難所内の監督(高齢者や病人のため寝ずの番、津波注意報等の際の避難誘導)
⑨被災した児童生徒の心のケア
これらのなかで自分の家などを失った本校生徒を含む「被災した児童生徒の心のケア」は優先事項だった。
安心を与える対応
ケアを行う場合「安心を与える対応」が重要となるが、『クライシス・カウンセリングハンドブック』(國分康孝・國分久子・坂本洋子著
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4414402913/ref=s9_simh_gw_p14_d0_i1?pf_rd_m=AN1VRQENFRJN5&pf_rd_s=center-3&pf_rd_r=17Y0JNVP28Y8AED9DY8R&pf_rd_t=101&pf_rd_p=463376776&pf_rd_i=489986 )では次のように述べられている。
①さらに配慮し関心を持つ。
②集中力がもどるという自信を与える。
③学校や家庭での行動のレベルへの期待を一時的に下げる。
④感情を言葉で表現するようにすすめる。
⑤枠組みはあるが、強制力のない役割を与える。
⑥家庭や地域の災害回復活動に参加するように促す。
⑦将来の災害に備えて、安全対策の練習をさせる。
⑧身体的な活動を促す。
⑨友達との遊びや連絡を促す。
教職員の力量、生徒のニーズや物理的な環境を考慮し以下を実行した。
Ⅰ(配慮・関心)を応用
食事のときに生徒と同じところで食べるなど行動を共にすることで、大人がそばにいて安全・安心というメッセージを送った。食事は体育館の長机の自由席でとった。その際会話もするが、あたりさわりのない内容で無理強いしなかった。保護者が市職員など勤務の関係で、たまにしか避難所に来ることのできない児童生徒には留意した。
Ⅱ(身体的活動)を応用
プレイスペースを作り、用具を準備する。本校の第一体育館は食事・遊び・物資収納の場であったため可能であった。卓球やサッカーなどのスポーツを幼児、小中学生に教師が加わり行った。初めて卓球のラケットを握った小学生に初歩的な指導を行ったところ、「好きなスポーツは卓球」と後にマスコミに答えていた。顔見知りでない子ども同士もいたが、運動を通して異年齢の仲良し集団ができた。
Ⅲ(役割遂行)を応用
避難所の業務の補助を依頼した。物資の運搬、トイレの清掃などを行った。特に支援物資の運搬は大量で毎日頻繁にあり、さらにその距離は100メートルもあり、大変労力を必要とする作業だった。市職員や避難所の方々から感謝されて、笑顔を見せていた。生徒らは「支援される側」から「支援する側」に立った。
なお、被災していない生徒にはできるだけ避難所のボランティア活動を行うように指示した。
4 成果と課題
成果
- 被災した生徒と共に避難所生活(宿泊)を行うことでリレーションが深まり、生徒理解につながった。
- 避難所では引継書(日勤と夜勤)、連絡用掲示板(ホワイトボード)を設けて情報伝達が確保された。
- 学校側と市・県職員等とのミーティングを1日2回行い、業務を円滑に行うことができた。
- 副校長と事務主査が中心となり、教職員の勤務のローテーション化を図り、バーンアウトを防止できた。
課題
- 被災しない生徒はボランティア活動に参加したが、事前に参加する心構えやきまりについて指導すれば、より効率的かつ効果的なものになった。
- 人手不足から避難所の運営業務と被災した生徒への家庭訪問が重複し、うまく役割分担できなかった。
5 編集後記
災害時における学校の役割を考えさせられる記事となりました。心のケアなどの複雑な問題には市職員だけではなく、常に子供たちに接している教師の力もまた必要だと思います。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 細木和樹)
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朝日新聞東京本社 CSR推進部
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( http://nie.asahi.com/ )には、新聞を活用した授業をサポートするためのいろいろなサービスが掲載されています。
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