この記事について
この記事は、東日本大震災直前の2011年3月に山形県庄内町立余目第一小学校で行われた授業実践について紹介するものである。なお、この授業実践の指導内容は社会科と国語科をリンクさせて行われたものであり、それに伴って指導案も長大になっているため、本記事では国語科で行われた実践を中心に紹介する。
この記事の前編はこちら。
核兵器廃絶は可能か討論し、自らの意見を長崎へ発信する<前編>(鈴木昭彦先生) | EDUPEDIA
1.単元名
6年社会「世界の平和と日本の役割」
6年国語「考えを伝え合って深めよう」
2.授業のねらい
社会認識内容を豊かに育成し、それをもとに自分なりに考えを持たせ、また他者と考えを交流させることで自分の考えを深めさせる。
3.課題と対処
- 社会科の時数不足…高学年は教えることが多い
- 討論スキルの指導不足…議論させても活発な討論にならない
そこで
国語科の話し合い単元・作文単元とリンク
⇒調べるスキル、話し合いのスキル 論述スキルの向上
⇒社会認識・思考判断力の向上
学習の成果を発信し、人と出会う経験をさせる
⇒人に伝える際の緊張感、伝える工夫、相手に気を配ることを学ぶ
⇒学ぶことの本当のよろこびを知ることができる
4.なぜ核兵器廃絶について考えさせたか
①子どもたちが原爆投下について詳しく学んできたから
- 「はだしのゲン」の演劇
- 歴史学習および、「悲劇を生んだ原因はどこにあるのか」討論などの学びの延長線上で、現代の核兵器問題をどう見るか、未来に向けての日本の役割とは何かを考えさせたかった。
②核兵器の問題は世界の平和と日本の役割を考える上で極めて重要な問題だから
- 現実には、核保有国は核を手放さず、核保有国は増加している
- 冷戦後もこのような核保有の状況が続く論理を授業で教わることがないので、日本が核廃絶の先頭に立って役割を果たすためには、壁を知り議論する経験が必要である
5.国語科とリンクさせた社会科単元の計画
<討論スキル・論述スキルを指導する国語科授業>
- 「理由」の基本的な文型を子どもに伝わる言葉で教え、説得力ある理由が書けるようにする
- 「思考のリレーのための言葉」を教え、使わせる。
<思考のリレーのための言葉の具体例>
前編はこちら。
核兵器廃絶は可能か討論し、自らの意見を長崎へ発信する<前編>(鈴木昭彦先生) | EDUPEDIA
6.成果と課題
○これまで実践してきた社会科の近現代の授業、国語の討論や意見文のスキル学習の積み重ねが、今回の実践では内容的にもスキル的にも子ども達の力となってよく現れていた。
○高校生からの返事は、大変好意的な内容で、子ども達に届けると大変喜んでいた。交流によって人と出会えた今回の学習は、心に残る授業になったと思う。
●卒業間際に構想した授業であったので、非常にあわただしい授業になってしまった。
7.編集後記
「核兵器廃絶問題」という複雑で、大人にも簡単に答えの出せないような問題を小学生に問いかけ、議論させたことは、児童にとって非常に良い経験になったのではないかと思う。
討論会が成立するように、国語科と社会科をリンクさせた授業の組み立てができるのは、小学校の担任制ならではだろう。社会認識の形成や問題意識への取り組み、意見の発信の仕方について学べたという点で、この実践は有効であると感じる。
これらの実践が行われたのは東日本大震災の直前である。福島第一原子力発電所の事故もあって、現在では「核」や「原子力」といったテーマは非常にデリケートな性質を帯びたものになりがちだが、児童生徒に現実を直視させ、どうするべきなのか考えさせ、自分の言葉で議論させることは大事なことであるように思う。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 佐原志麻)
8. 講師プロフィール
鈴木 昭彦(すずき あきひこ)
庄内町立余目第一小学校 教諭
近現代史教材・授業作り研究会 会員
社会科におけるデジタル教材開発、討論の実践のほか、社会科と国語科をリンクさせ、表現力や意見を発信する力を高める取り組みも行っている。
共著として『ワークショップ型授業で社会科が変わる』(上条春夫・江間史明編著 図書文化)に2本の実践を掲載する。
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