はじめに(小学生からできるワードカウンターのご紹介)
英語を話す能力、すなわちスピーキング力は現代社会で一番求められている能力と言えます。そのスピーキング力の指導について皆さんは何を意識して指導されているでしょうか。
本記事のテーマであります「ワードカウンター」は「流暢さ」を重点においたときに利用する道具です。これは相手が話す英語の「語数」を数えるために作られた紙1枚の記録用紙です。
スピーキングでは正確さを重視しがちですが、ワードカウンターは語数の多さ、つまり流暢さを重視している点で非常に画期的です。さらに年齢を問わずだれでも気軽に使えるというメリットがあります。実際、小学校でも使っている先生がいらっしゃいます。これを用いた指導方法は日本人が持つ英語のスピーキングに対する抵抗感を払拭してくれるでしょう。
「ワードカウンター」の開発者は、広島県広島市立舟入高等学校の西巌弘先生です。このワードカウンターを使用した指導法は実績もあり、数多くの生徒の発語数を伸ばしています。効果が出ていることもあり、現在は広島から日本各地に広がっています。
本記事では、ワードカウンターを利用した指導法の一例や、その指導法の効果について紹介します。具体的には以下の3点です。
- スピーキング力のなかでなぜ流暢さを重視するべきなのか
- ワードカウンターの狙い、効果そして実績
- ワードカウンターの基本的な使い方
1、スピーキングのなかでなぜ流暢さを重視するべきなのか
ネイティブの先生に聞いたときの例
西先生はALTにfluencyとaccuracyはどちらを優先して話すべきか聞きました。返答は「fluency!」。相手を待たせないコミュニケーションが大切だと言うのです。
外国人が日本語を話す場面を想定してみましょう。
「広島駅はどこですか。」と尋ねたいとします。
accuracy(正確さ)を重視して話すと…
「ひろしま・・・・え・・・・き・・・・はど・・・こで・・・・すか。」
正確な日本語ですが、言い終えるまで大変遅いです。
fluency(流暢さ)を重視して話すと…
「どこですか、ひろしま、いきたい、けど、わからない、みち・・・・。」
正確ではありません。けど伝わります。コミュニケーションは成立するのです。
この例を踏まえると、英会話においてどちらを優先すべきか考えた際、fluencyの方であることがわかます。
流暢さの伸び→自信とやる気を生み出す⇒生徒のモチベーションUP!
流暢さが伸びるということは、自分が話したい英語を素早く出せるようになるということです。素早さは自分で体感できます。英語を話せるようになりたいと考えている生徒にとって、自分が素早く英語を話せるようになったらどうでしょう。自信とやる気を持つようになります。この自信とやる気がやがて生徒の英語力の向上につながります。
したがって、流暢さを重視することで、生徒の英語に対する自信とやる気を醸成させ、総合的な英語力を伸ばすことができるのです。
新学習指導要領との関連
平成24年度から新たに実施される中学校の学習指導要領解説の外国語編では、「発信力」を養うことや、4技能を総合的に育成するための「言語活動」の充実が謳われています。
「話すこと」に関しては、「(オ)与えられたテーマについて簡単なスピーチをすること。(第2節英語・2内容・(1)言語活動)が新たに追加されており、英語の授業におけるスピーキング活動の一つの到達目標が明記されることになりました。この新学習指導要領の「発信力」では、「即興のスピーキング力」、が求められております。この力には流暢さが不可欠です。その点において、流暢さを重視することは、新学習指導要領の内容に沿ったものなのです。
2、ワードカウンターの狙い、効果そして実績
ワードカウンターのねらい・効果
スピーキングというものはなかなか測定がしにくいものです。テストをしようとしても、先生が一生懸命聞き取り、意味の通じる形で英語を話しているか判断し、先生の主観的評価に偏ってしまうことが多々あります。
ワードカウンターを用いると、「語数」という客観的評価が一つできるのです。これだとだれがやっても主観的評価はほとんど入らず、数字で結果を出すことができます。数字での結果は大人子ども問わず目で確認すること、納得できるものです。今まで話せているのかわからなかったものが、一つ基準ができたことでわかるようになるのです。
さらに、ワードカウンターを生徒同士で使うことで、スピーキングだけでなくリスニング力も強くなります。たとえ片言英語であっても、英語を聞いています。しかも相手の結果を示すために必死に聞こうとします。普段ただ漠然と聞き流しているものよりも圧倒的に集中するため、伸びるのです。
実績
ワードカウンターを高校生に対して使用し、成績の変化を調べてみました。すると、4月に平均60語程度しか話せていなかった生徒たちが12月には100語程度まで話せるようになっているのです。生徒の中には、話す語彙数が増えていることを自信にし、より英語学習に取り組んでいるものもいます。そして、ワードカウンターによるスピーキング練習を必死に頑張り語彙数を伸ばした生徒と、あまり努力をせず結果的に語彙数も伸びなかった生徒の間には、センター試験を基準にした比較において、偏差値でいうと6程度の大きな差ができました。
3、ワードカウンターの基本的な使い方
それでは簡単なワードカウンターを用いたスピーキング練習について書きます。
「1分間モノログ」におけるワードカウンターの使い方
ここでは「1分間モノログ(1分間スピーカーがリスナーに対し一方的にしゃべり続ける)」におけるワードカウンターの使い方をご説明します。
- リスナーが利き手と逆の手で持つ(利き手で数を数えるため)。
- ワードカウンター上の「1」のところに利き手の人差し指を置いて、スピーカーが話し始めるのを待つ。
- スピーカーが始めたら、スピーカーの話す単語数に合わせて、指を「2」「3」「4」…と移動させ、語数を数えていく。
- スピーカーの話す英語を聞きながら、制限時間(1分)の間、語数を数える。
- 活動が終わったら、スピーカーに話した単語数を教えてあげる。
ワードカウンターのルール
- “I…I…”“…and…and…”など、同じ語を繰り返しても英語ならすべて数える。
- “Well…”“You know…”などのつなぎ言葉も全て数える。
- スピーカーは大きな声ではっきりと、リスナーは集中して理解しながら聞く。
- スピーカーはアイコンタクト、リスナーはリアクションを忘れないようにする。
- モノログ終了後にリスナーはスピーカーに対して簡単なコメントや質問を英語で行うよう心がける。
編集後記
流暢さを鍛える方法は数多くあるかと思いますが、その中でもワードカウンターを使った方法は最も効果を上げている、そして生徒も行いやすい方法の一つではないでしょうか。ワードカウンターはスピーキング練習をより活発するための一助になると私は確信しております。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 荒井翔央)
参考文献
西巌弘(2010)『ワードカウンターを用いた驚異のスピーキング活動』明治図書
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