相手の気持ちが理解できるようになるための授業実践

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 1.はじめに

相手の目を見ない,相手の気持ちが推測できない。そんな子どもが最近増えていないでしょうか。先生方は,「相手の気持ちを考えて行動しなさい。」「自分も同じことをやられたらイヤでしょ。」と,子どもたちに教えているかもしれません。しかし,相手の気持ちが本当に分からない子どもにとっては,この言葉かけでは何も解決しません。

これから紹介する実践は,相手の気持ちを理解する時にヒントとなるポイントを子どもたちに知ってもらうための授業です。

 2.授業のねらい

相手の気持ちを適切に理解できることは、おもいやりの心を促したり、優しい声かけする行動につながります。授業では、相手に直接質問しなくても,相手の気持ちが理解できるように、ヒントとなる表情やしぐさなどのポイントについて、ロールプレイや簡単なゲームを通じて学習します。

 3.授業の概略

(1)「相手の気持ちを知るヒント」を学ぶ。

*相手の気持ちを知るヒント…「①顔(表情) ②しぐさ ③声の大きさ ④周りの様子」

(2)表情写真を見ながら、気持ちを推測する。

(3)状況のイラストを見ながら、気持ちを推測する。

(4)実際に「相手の気持ちを知るヒント」を使って、相手の気持ちを推測するゲームを行う。

 4.授業の主な流れ (★:教師の発言 △:児童の発言)

★ 友だちの気持ちが分からなくて困ったことはありますか?

△ ある。友達が気持ちを分かってくれないことがあった。

★ 相手の気持ちを知りたいけど、分からなかったり間違って理解していたりして失敗したことがあるようです。今日は、人の気持ちを知るために、ヒントとなることを考えながら、「相手の気持ちを知るヒント」を学びましょう。
この少年は、どんな気持ちですか?なぜわかりますか?

△ 悲しい、泣いているから、顔が悲しそう、目が下を向いているっているから。

★ 相手の気持ちを知るためにいくつかのヒントがあります。(板書)

*相手の気持ちを知るヒント

  1. 顔(表情)
  2. 声の大きさ
  3. 声の大きさ
  4. 周りの様子

★ 実は、声も大事な気持を知るヒントになります。何人かの人に前に出てきてもらって、ある気持ちを込めて「おはよう」を言ってもらいます。聞いている人はどんな気持ちで「おはよう」を言っているか考えてみてください。やってもらえる人はいますか?

△ (数人が教室の前で)悲しい「おはよう」、怒った「おはよう」、うれしい「おはよう」をやり、他の児童がどんな気持ちかを考える。

★ それぞれの「おはよう」にはどんな特徴がありますか?

△ 悲しいのは、声が小さい。怒っているのは、大きい。うれしいのは、声が高い。

★ このように、声の大きさでも気持ちを知ることができますね。

★ 周りの様子について考えてみましょう。プリントのイラストを見て、その子がどんな気持ちか考えてみましょう。また、なぜそういう気持ちだと思ったのかも書いてください。

△ まって~って感じ、悲しい気持ちだと思う。

★ このように顔が見えない場合でも、しぐさや、周りの様子からも分かりますね。

★ 最後に、これらのヒントを使って、どんな気持ちか当てるゲームをしてみましょう。

まず、グループになりましょう。出題者(一人)は、自分のカードの中から一枚カードを引き、その気持ちを演じます。出題者以外の人は、出題者がどんな気持ちなのか考えて、これだと思う気持ちのカードをあげてください。一度、先生がやってみます。

△ (児童がルールを理解できたら)ゲーム開始。全員が出題し終わったら終了。

授業後には、学んだこととして、「人の気持ちが相手の顔以外から分かることを初めて知りました。」「普段の生活でも相手の気持ちを考えて行動したいです。」などが挙げられた。

 5.最後に ~社会性と情動の学習(SEL)とは~

以上のような学習は,社会性と情動の学習(Social and Emotional learning;以下,SEL=エス・イー・エル)と呼ばれています。

SELは,欧米やアメリカなどかなり広く実践されており,アメリカのニューヨーク州やイリノイ州では、科学的根拠(エビデンス)に基づく実践がされ、州の法律で実施するように定められているほど精力的に実践がなされています。しかし,日本ではまだなじみがありません。

SELは,従来のように家庭や地域社会の生活で自然に身につけることができなくなった対人関係にかかわる能力を、学校などで意図的に教育しようとするものです。とくに,感情に焦点を当てていることが,従来のスキルトレーニングと比べて異なるところと言えます。

今回は,相手の気持ちを読み取ることについての実践を紹介しましたが、SELには他にも「気持ちの良い挨拶の仕方」・「相手の誘いを上手に断ろう」など児童が普段学校生活の中で必要とされる人との関わり方を学習する内容があります。

福岡教育大学では,SEL-8Sと呼ばれる小中学校での実践を対象とした日本版のSELプログラムを開発しました。その教材や指導案例などは,以下のサイトに無料で紹介されています。その他,授業を評価するための評価シートもありますので,ぜひご参照ください。

・学校などにおける犯罪の被害・加害防止のための対人関係能力育成プログラム実装(福岡教育大学)  http://goo.gl/sRmHu

 参考文献

・小泉令三 社会性と感情の学習 現代のエスプリ 八六 至文堂 2008.9
・山田洋平・森俊郎 社会的情動に焦点を当てたピア・サポート活動—係活動を活用した試みー ピア・サポート研究2010

 記事作成者紹介

岐阜県公立小学校教諭 森俊郎 m072132@gmail.com
福岡教育大学     山田洋平
Evidence Based Education研究会  http://ebe-riron-jissen.jimdo.com/

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