地域の人材、題材を生かした単元づくり -探究的な活動を充実させ、意欲的に学ぶ児童を育てる指導の在り方-(兼元由佳利先生)

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目次

1 はじめに

本記事は、中日新聞東京本社と受賞者から許可を得て、第15回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」の受賞論文を掲載させていただいております。

http://www.tokyo-np.co.jp/event/kyoiku/

また、他の受賞論文もご覧いただけると幸いです。

第15回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」のまとめページ | EDUPEDIA

2 地域の人材、題材を生かした単元づくり −探究的な活動を充実させ、意欲的に学ぶ児童を育てる指導の在り方−

3 単元名 「めざせ!お江戸日本一の笑学生!落語家修業」

【国際理解:日本の伝統文化】(全24時間)

4 単元設定の理由

ここ数年続いている「お笑いブーム」の勢いは一向に衰えを感じさせない。テレビでは連日、お笑い番組が放送され、若手芸人が続々と登場している。ニュース番組の司会やコメンテーターにもお笑い芸人が起用され、政治の世界でもお笑い芸人が活躍するようになった。お笑い芸人の地位が向上した分、彼らの言葉に責任がのしかかる。しかし、笑いをとるための言葉や行為が低俗化している現状も否めない。ある個人を卑下することの笑いにより、その他大勢が妙な連帯感をもつという「いじめ」のモデルとなるような芸風も見かけられる。言葉がもつ力の大きさを意識していないことに問題を感じている。

さて、本校の児童も一般的な小学生同様、お笑いが大好きである。テレビの影響を多く受け、お笑い芸人のものまねやお笑いネタを使う場面をよく見かける。そこで、児童の興味関心のある「笑い」を掘り下げて探究し、「笑い」の伝統芸能である「落語」を取り上げることにした。落語の歴史、作法、噺の構成、表現方法など、落語の世界を分析することにより、「笑い」の奥深さを追究させたいと考えた。古典落語には、江戸時代の時代背景や人情が多く盛り込まれている。一見、乱暴に聞き取れる江戸言葉の中に、相手を思いやる気遣いや粋な計らいがある。長い時代を経てきた落語の言語文化を学ぶことで、言葉のもつ力を意識して活動できる力を養わせたい。また、本校の学区には落語の名所「新宿末廣亭」がある。末廣亭は、毎日落語の寄席が開かれ、週末になると大勢の人で賑わっている。新宿西口に位置する落語芸術協会からプロの落語家をゲストティーチャーとして迎え、落語のおもしろさや演じ方を享受していただくことにした。師匠から弟子へと代々受け継がれる伝統芸能の奥深さを学ぶと共に落語に携わる人々の思いや願いに触れ、自分のこれからの人生観や職業観を問い正すきっかけにつながることも期待した。

5 単元の目標

6 指導の手だて

(1)指導計画の工夫

①探究的な学習過程に基づいた指導計画

体験活動を適切に位置付け、対象や問題事象に対する追究課題をもった児童は、課題を探究して解決する過程において、必要感や切実感をもって自ら考えや思いを伝え合うようになると考えた。そこで、文部科学省が示した探究的な学習とするための学習過程を参考に、本単元の指導計画を構成した。

②複数の探究的な学習過程からなる単元構成

探究的な学習過程が児童の意識の高まりとともに、発展的に繰り返されるよう3つの小単元で構成した。

(2)授業の工夫

①整理・分析段階における工夫

  • 思考を深め、表現を促す支援

小単元Ⅰで得た情報や師匠の言葉の中から、落語修行に必要な情報を適切に整理、分析し、現段階の自分たちの課題を明らかにさせたい。そのため、本単元では以下のようにした。

話し合いを促す視覚的な支援

意思決定や協議の場面など、児童相互の話し合いの場を意図的に設定した。教師は、話し合いの内容や目的に応じて有効な思考ツールを提示したり、児童の考えや意見を整理しながら板書したりするなど、児童の思考が促進するような具体的な手だてをとった。

7 授業の実際

小単元Ⅰ「江戸のお笑い落語を知ろう!」

小単元II「師匠へ弟子入り!初めての落語」

小単元III「伝えよう落語のおもしろさ。大久保寄席を開こう!」

8 おわりに

本実践は地域の人材や題材を生かし、児童が問題解決を繰り返しながら探究的に学習を展開していく授業を目指したものである。児童は師匠との関係の中で落語に親しみ、修業を乗り越える度に課題意識、探究意欲を高めた。身近な地域の題材「末廣亭」、「落語家」という人材を生かし、師匠に弟子入りして修業を重ねていく探究学習は、児童の学習意欲を高めただけでなく、友達と協同的に学習に取り組むことで、成就感や達成感を味わうことができた。単元を振り返る児童の作文からもその成果が読み取れる。

9 講師プロフィール

新宿区立大久保中学校 教諭 兼元由香利
第15回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」受賞

10 引用元

第15回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」受賞論文『地域の人材、題材を生かした単元づくり -探究的な活動を充実させ、意欲的に学ぶ児童を育てる指導の在り方-』,新宿区立大久保中学校 教諭 兼元由香利より引用

「がんばれ先生!東京新聞教育賞」

本論文は中日新聞東京本社と受賞者から許諾を得て転載しております。

11 東京新聞教育賞について

「がんばれ先生!東京新聞教育賞」は、東京都教育委員会の後援を受け、平成10年に東京新聞が制定したものです。

学校教育の現場で優れた活動を実践し、子どもたちの成長・発達に寄与している先生方の実像は、ともすれば教育に関わる様々な問題や事件の陰に隠れ、社会一般には充分に伝わっておりません。本賞は、子どもたちの教育に真摯に取り組む「がんばる」先生の実践を募集し、それを広く顕彰・発表することで、先生自身の更なる成長と、学校教育の発展に寄与することを目的としています。

募集は6月から10月中旬にかけて行われ、教育関係者らによる2段階の審査を経て、翌年3月に東京新聞紙面紙上にて受賞作品10点を発表します。受賞者には、賞状・副賞ならびに賞金(1件20万円)が贈られます。

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