地域を多面的に捉えて再統合できる地図作りの学習(新宅直人先生)

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目次

1 はじめに

本記事は、中日新聞東京本社と受賞者から許可を得て、第15回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」の受賞論文を掲載させていただいております。

http://www.tokyo-np.co.jp/event/kyoiku/

また、他の受賞論文もご覧いただけると幸いです。

第15回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」のまとめページ | EDUPEDIA

2 地域を多面的に捉えて再統合できる地図作りの学習

小学校3年の社会科では、自分たちの住む地域がどのような地域であるのかを学習する。はじめは自分の家の近くや学校の周りの様子を調べていき、最終的には区や市の様子を理解することが目標である。このような地域学習において欠かせない存在なのが地図である。地図を使った学習では、既成の地図から地域の様子(交通の様子、店の集まる所、自然の豊かな所、公共施設の位置など)を読み取ることが大切である。

しかし、表面的な理解に留まらずに学習を深めるためには、地図や資料で調べた内容を再構成して表現する活動を取り入れることが必要である。本実践では、自分で決めたテーマに沿って児童がオリジナルの地図を作り発表する活動を選んだ。テーマごとの地図を作って互いに発表し合うことで、地域に対してより深く理解することが期待できる。また、レイヤーマップ(後述)を活用することで、様々な視点で地域を捉えることが可能になると考えた。

3 本論

(1)児童の意欲を引き出す単元構成

子どもたちが明確な目的意識をもち、主体的に学習活動に取り組めるようにするために、本実践では単元の学習の流れを以下のように設定した。

①杉並区の概要を把握する

はじめに杉並区についての概要や調べ学習をするにあたっての手がかりとなる内容を全員で学んだ。この段階で大事なことは、「杉並区にはにぎやかな所や自然が豊かな所など、色々な場所がある」ということを子どもたちが分かることであり、同時に「じゃあもっと詳しく調べてみたい!」という意欲が子どもたちの中に芽生えることである。

②調べたいテーマごとにグループを作り、調べたことを地図にまとめる。

次に調べ学習に入るが、調べ学習では児童が興味のあるテーマごとにグループを作り、グループごとに様々な資料や実際の調査から地図を作っていく。テーマは教師が与えても良いが、子どもたちの関心や意欲を大切にしたいと思い、自分で決めさせた。その結果として「商店街の場所を調べたい」、「川が流れている所や池がある所を調べたい」などという意見が出て、9つのグループ(鉄道・バス路線・公園・川と池・学校・図書館・商店街・パン屋・スポーツ施設)に分かれた。

調べる段階では区役所の広報課から取り寄せたガイドマップやインターネットを活用して調べていった。調べる対象(学校や商店街など)が区内のどこにあるのかを調べ、白地図の中にシールで示していった(写真1−1、1−2、1−3)。その後、自分で調査に行って直接調べた場所については「ズームインカード」に分かったことを書いて地図の周りに貼った(写真1−4)。

③グループごとに調べたことを発表し、「杉並ジャンボマップ」にまとめる。

自分たちで作ったそれぞれのマップをもとに、調べてわかったことを発表する。どの児童も自分の興味・関心の高いテーマについて調べているので、みんなに知らせたくて仕方ない、という意気込みが感じられた。また、自分たちとは異なるテーマで調べたグループの発表を聞くことで、自分たちだけでは分からなかった杉並区の様子を知ることができた。

(2)指導の工夫

本実践ではこれまで述べてきた学習活動を通して、児童が地域を様々な視点から多角的に捉えられると同時に、複数の視点を統合して地域の特徴を考えることができるように、2つの工夫をした。

①レイヤーマップの作製と活用

「レイヤーマップ(layer map)」(写真2−1)とは、要素の異なる複数の分布図を重ね合わせることによって、一種類の分布図だけではわからなかったことを捉えるための「透明な地図」である。例えば、児童が作った「公園マップ」を見ると、区内では公園の多い地域と少ない地域があることがわかる。しかし、この公園マップに透明な「川・池レイヤーマップ」を重ねると、川や池の周りには公園が多く存在することが見えてくるのである(写真2−2)。他にも、「鉄道マップ」と「バス路線マップ」を重ねることで電車とバスを活用すれば区内の隅々にまで移動ができることが分かったり、「商店街マップ」と「パン屋」マップを重ねることで商店街の中には少なくとも1件はパン屋があることが分かったりした。

<レイヤーマップを活用することの利点>

(ⅰ)他グループの作った地図と直接重ねることで、比較が容易にできる。(違いが明確に見える)

(ⅱ)複数の視点(公園+川など)で地域を捉えることができるので、これまで気づかなかった事実に気づくことができる。

<レイヤーマップの作り方>

レイヤーマップを作るための「透明なシート」探しは試行錯誤を重ねた。当初はプラスチック板を使用する予定だったが、あまり大きなサイズが無いこと、ある程度の厚みのある物は高価であることから断念した。そこで発見したのが安価で加工しやすい「ラミネートフィルム」である。このラミネートフィルムはポスターなどを丈夫にするために使われることが多いが、何もはさまずに加熱すると、ちょうど良い硬さと厚さの透明なシートが手に入る。この透明なシートを児童が作った地図に重ね、シートの上からシールを貼っていけばレイヤーマップが完成する。

②ジャンボマップによる知識の再統合

9つのグループがそれぞれのテーマで作った地図は、単元のまとめの段階で「杉並ジャンボマップ」として一つにまとめる。このジャンボマップにより、様々な視点で調べられることで広がっていた児童の知識は「杉並区の様子」として整理され再統合することができる。それぞれのマップを交通、自然などに分類して貼り、全員で「杉並区はどんな町なのか」ということを話し合い、杉並区のキャッチコピーを決めることで学習のまとめとした。(図2−1)

4 おわりに

レイヤーマップを使った比較は、例えば日本地図で農作物の生産地を比較する時などにも使えると感じた。今回の実践を通して、教師の工夫一つで子どもたちの学習に取り組む顔つきがこんなにも変わるのだということがわかったので、今後も研究を重ねていきたい。

5 講師プロフィール

杉並区立和田小学校 教諭 新宅直人

第15回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」受賞

6 引用元

第15回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」受賞論文『地域を多面的に捉えて再統合できる地図作りの学習~第3学年『杉並区の様子』の学習を通して~』,杉並区立和田小学校 教諭 新宅直人より引用

「がんばれ先生!東京新聞教育賞」

http://www.tokyo-np.co.jp/event/kyoiku/

本論文は中日新聞東京本社と受賞者から許諾を得て転載しております。

第15回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」のまとめページ | EDUPEDIA

7 東京新聞教育賞について

「がんばれ先生!東京新聞教育賞」は、東京都教育委員会の後援を受け、平成10年に東京新聞が制定したものです。

学校教育の現場で優れた活動を実践し、子どもたちの成長・発達に寄与している先生方の実像は、ともすれば教育に関わる様々な問題や事件の陰に隠れ、社会一般には充分に伝わっておりません。本賞は、子どもたちの教育に真摯に取り組む「がんばる」先生の実践を募集し、それを広く顕彰・発表することで、先生自身の更なる成長と、学校教育の発展に寄与することを目的としています。

募集は6月から10月中旬にかけて行われ、教育関係者らによる2段階の審査を経て、翌年3月に東京新聞紙面紙上にて受賞作品10点を発表します。受賞者には、賞状・副賞ならびに賞金(1件20万円)が贈られます。

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