工業生産と貿易~21世紀型スキル育成授業~(港区立青山小学校)

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目次

1 はじめに

平成25年2月28日(木)に港区立青山小学校( http://www1.r4.rosenet.jp/aoyama-ea/)にて『「生きてはたらく活用力を育む教育課程の創造」—言語活動の充実 ICTを用いた情報活用—』というテーマのもと、公開授業・中間報告会が行われました。青山小学校は平成24年度文部科学省教育ICT活用実践事例調査研究指定校・デジタル教科書協議会実証研究校です。その公開授業の1つである、5年生の社会を担当する新保有希子先生のクラスでは「工業生産と貿易 ~21世紀型スキル育成授業~」という単元の授業が行われました。また、本授業では児童用タブレットPC、電子黒板、教師用PC、デジタル教科書が使用されています。 

2 授業の概要

ICT活用のポイント

この授業では、ICTの主な活用者を「児童・先生」と位置付けており、教室にいる全員がICTを用いる、協働学習の形態をとっています。また、学習経過の振り返り、学習内容のまとめなど、授業全般を通してICTが活用されています。これにより期待される効果としては、「児童が紙のノートの代わりにMicrosoft onenote を使うことで、インターネット等の資料を活用し、課題解決に向けて多面的に考えを深めることができる。」と設定されています。

本時の学習

本時のねらいは、「学習したり調べたりした内容をもとに、これからの日本の貿易がどのように進展すべきかを思考をつなげながら表現している。」とされています。また、今回取材した授業は、全6時間の単元において最後の6時間目と位置付けられています。

3 授業の内容

これまでの学習の振り返り

以前の授業で児童が個別のタブレットにまとめたワークシートは前の電子黒板で共有されています。挙手して指名された児童は、前に出て自分のワークシートを電子黒板に映し出し、指示棒を用いながら他の児童に説明をしていました。発表内容は、日本の輸出入品目や加工貿易について、輸出入の相手国、またそれらについて気づいたことについてです。そして、一人の児童の発表が終わると、新保先生はその発表に付け足すことはないかと聞き手だった児童たちに問います。指名された児童は同じように前に出て自分のワークシートを電子黒板に映し出し、意見を発表していました。その後も指名された児童は次々と前に出て電子黒板を用いて意見を発表していきます。この様にして新保先生は、所々で説明を加えながら一人一人の児童の意見を関連付けていました。その後、一人の児童のワークシートを電子黒板に映し出してそれをお手本とし、ワークシートが未完成の児童に対して仕上げる時間を設けていました。その際、すでに完成している児童はサポート役にまわり、児童同士での協働学習が見られました。

日本の貿易をよりよくするアイデアを考えよう

振り返りが終わったところで、新保先生は「日本の貿易をよりよくするアイデアを考えよう」という本時の課題を提示しました。新保先生は、ここでも児童たちに意見を「つなげる」ことを意識させます。「日本の製品をどんどん輸出した方が良いのではないか」という意見に対して「輸出だけすればいいの?」と先生は問題提起し、「バランスが大事」という意見や「多少のズレは仕方ない」という意見が出ました。そこで先生は「どうしてつり合いが大事なの?」と再度発問します。この後、「海外に日本の工場をつくる」という意見や「外国に頼りすぎず、国内でつくれるものはできるだけ国内でつくる」という意見など様々な意見が出されました。この様に、先生が所々で発問しながら、児童たちは発表された意見に対して次々と考えを述べていきます。中には、電子黒板上に電子教科書内のグラフや資料などを映し出し、根拠づけて説明していた児童もいました。同時に、先生は黒板にチョークで発表された意見をまとめ、児童たちが頭の中で整理しやすいように工夫していました。

自由な貿易とは?

ある程度意見が出た後、新保先生はこれまでの振り返りとして「貿易は国の間で同意がなければできなかったよね」と児童たちに確認します。その上で教科書にあった「自由な貿易」についてどうとらえているかを児童たちに質問をしました。児童たちは、「欠けているものを国同士が補い合う貿易」「自国の売れないものを押し付ける悪い貿易」「関税をかけない貿易」ととらえていたようです。

その後、先生は「自由な貿易によって、より多くのものが行き交うことで、貿易の相手どうしがより豊かになることが望まれます。」と教科書に書かれていることを紹介し、自由な貿易を行う上で大事なことは何か児童たちに問題提起します。ここでは児童に対してタブレットに考えをまとめる時間を設けていました。

最後に児童たちが出した意見としては、「ルールを作る」「平等になるようにする」「相手の要望に応えるようにする」「相手のニーズに応えて自分たちのオリジナルをつくる」などといった意見が出されました。

4 講師紹介

東京都港区青山小学校 新保有希子先生

5 編集後記

ICTを上手く活用するのはもちろん、新保先生は上手に授業を展開されていました。

授業が始まる直前、数分の隙間時間を利用して児童たちにディベートをさせていたのが特に印象的でした。そのディベートのテーマも実にユニークなもので、「ドラえもんとのび太のどちらが主人公なのか」という児童たちの興味をひくものでした。このように、授業直前に児童たちの興味をひいて授業を受ける態勢を整えていました。

その他にも、問題提起する事前に考えをまとめておくよう児童に促したり、ワークシートが未完成の児童に対しては作業する時間を設けることで児童の足並みを揃えるよう工夫していました。また、未完成の児童の作業を完成した児童に手伝わせるなど、協働学習も随所に見られました。

ところで、この授業は児童による意見の発表が中心の授業でしたが、これを可能にしたのは、要所で新保先生が上手く聞き手の児童に問いかけていたからだと考えられます。これにより、児童たちが発表した意見を上手く関連付けてわかりやすい授業を展開していました。
そして、この授業の目玉である、ICTについては実に驚かされました。自分が児童・生徒だった頃には考えられなかったものばかりでした。一人一台タブレットが割り当てられているのはもちろん、そのタブレットで児童が各々行った作業がすぐに前の電子黒板に共有されるシステムは、特に自分にとって印象的でした。児童たちは先生の手を借りながらではありますが、上手くICTを使って自分の意見を筋道立てて説明していました。

また、電子黒板に頼りすぎず、これまでの学習について発表された児童の意見を先生は従来の黒板にまとめ、視覚的にわかりやすいように工夫していました。
このように今回の取材は、ICTの効果的な使用法に加え、授業展開についても学ぶことができ、収穫の多いものとなりました。

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