「公」と「私」の違い理解させる

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TPOをわきまえる

ひと頃に比べて、TPO(Time(時間)、Place(場所)、Occasion(場合))という言葉は使われないようになったかもしれません。「時と場所、場合に応じた方法・態度・服装等の使い分け」ることの大切さを表す時に用いる言葉です。「公私の区別をつける」「公共心を大事にする」などを考える折にも使える言葉です。

学校という“P”(場所)に於いて公私の区別をつけることはたいへん大事なことです。

家庭で甘やかされ、自己中心的な子どもが増えている今日、子ども達に「公の精神」があらかじめ備わっているなどと考えるのは無理があります。「公の精神」が育っていないことを嘆いたり、怒鳴り散らしたりしてもても、何の役にも立ちません。学校が「公の精神」を育てるしかないという意識と覚悟が必要です。学校は「公」の場であることを折に触れて話し、理解させることを試みていかないと、学校のような大人数で集団生活を営まなくてはならない場はもちません。

よくある風景

最近の子ども達は放っておくと子ども達はとことん「私」を主張し始めます。様々な場で「公」は損なわれてしまい、そのまま進めば学級崩壊です。

【ケースA】

たいていの小学校の教室では座席は決められていることが多いです。座席を決めておかないと、道具や準備で混乱が生じ、時間のロスが増えてしまうことが教師は経験則として知っているからです。ところが教師の目を盗んで、自分(たち)だけ、自由席にして勝手に好きなところに座っているなどということがあります。

【ケースB】

6年生の放送委員会が、お昼の放送で色恋のことや反逆精神をまぶした流行曲を流したがります。大きな音量で、自分たちの好きな曲を教師も含めた学校中に流すことは、けっこう快感です。私も若い時代は反逆的なロックを誰かに伝えたい、そういう気持ちを共有したいという願いはありました。思春期に入りつつある6年生が自己主張をしてみたい気持ちはよくわかります。しかし、1年生にはなんだかわからない曲であることもあるし、そもそも自分(たち)の趣味だけで選んだ曲を全校児童に聞かせることが妥当かどうかについては、考えさせる必要があります。教師によっては、「いいじゃない、それくらいの自己主張は」と、寛容な人もいますが、私は「公私混同」であるように感じます。

【ケースC】

休み時間に「全員遊び」と銘打ってクラス全員で「ドロケイ」をしていたのだけれど、なんだかみんな文句の言い合いになって自分も楽しくないので友達と逃げている時に相談して、2人で勝手にやめて違うことをして遊びだした。

いろいろ思い出しながら具体的にケースを書いていくと、枚挙にいとまがありません。この程度の子ども達の「私的な主張」にぶつかることは多くの教師が経験することです。もし、学校を卒業して何年もたつ大人の方から見てみれば、「いいじゃん、その程度のこと」と言われてしまいそうな程度の事例です。確かに上記のような例は担任としてではなく客観的にみると、「どうでもいいから自由にやってみたらどう?」と思ってしまう程度の事柄です。

ところが、平均的な力量の教師であれば、こんなことが頻繁に起こり始めると、学級経営が苦しくなっていきます。個々が発する小さな「私的な主張」に付き合ったり、許したりを繰り返すことによって、クラス全体の「公の精神」が崩れ始め、勝手気ままな振る舞いが加速して横行するようになってきます。

学級崩壊一直線です。

「公」を教える

では、「どっちでもいいかと思えるような私的な主張」を抑えさせるにはどうしていけばいいのか。「公的精神」に基づいた振る舞いをし、大人になっていく喜びを感じさせるにはどうすればいいか。

もちろん、そんな「公的精神」は学校教育全体の中で一つ一つを丁寧に積み重ねていきながら育てていくものであり、すぐに問題が解決するようなものではありません。

そこで、まずとっかかりとして、「公」や「私」の漢字を習った4年生あたりの子どもには、「公」と「私」の違いを漢字を出発点として教えます。タイミングとしては、誰かが我儘な態度をとって、クラス全員が嫌な思いをし始めたあたりがいいでしょう。そんな時に、下記のように教えます。

「私」がつく漢字の熟語にはどんなものがあるかな?

「私学」「私信」「私立」「私語」「私物」・・・・分からなければこのあたりの言葉を教師が書き出す。簡単に意味を教えてあげながら。

「公」がつく漢字の熟語にはどんなものがあるかな?

「公園」「公立」「公共」「公共物」「公道」・・・・分からなければこのあたりの言葉を教師が書き出す。簡単に意味を教えてあげながら。
黒板に大きく、「公」「私」と板書し、「おおやけ」「わたくし」と読み仮名も書き添えます。

「教室や学校っていう場所は「公」「私」なの?

そうだね、みんながいるものね。そうそう、たくさんの人がいるからね。家族でもないもんね。

いや、家庭だって、自分一人ではないんだから、好き勝手をしてもいいわけではないのだけれど、教室や学校では、家庭よりもさらに自分勝手が許されない場合があるよね。場合によっては嫌なことでもがまんして付き合った方がいいこともあるかもね。そうです。先生は「がまんが勉強」ってよく言うよね。そう、学校だからこそ、勉強できる「がまん」があるよね。(「がまん」と大きく板書)

各ケースへの対応例

【ケースA】

自由な席に座りたい気持ちは分かるけれど、それをすると机の中身や横につけている物をを移動するのに時間がかかってしまいます。また、自由と言っても、他の人たちも自由にしたくなると、どこの席に座りたいかを決めるのに時間がかかります。それに、自分と親しい人だけではなく、いろいろな人と出会って、仲良くつきあっていくのが、学校で勉強する大切な事のひとつです。時間がかかったり、親しい人だけと付き合おうとしたりするのは、クラス全体をよくする結果にはなりません。みんなのこと、「公」を考えて、行動しなさい。

【ケースB】

先生も、好きな曲があるし、人に紹介して聞いてほしいなあ、人もその曲を好きになってほしいなあという気持ちは分かります。放送はたくさんの人が聞いています。放送委員会は、みんなのため、「公」を考えて流す曲を選んで下さい。自分や自分たちの好きな曲を聞きたければ、自分の家で聞きなさい。紹介したければ、「公共放送」を使うのではなく、誰か知り合いの人に聞いてもらいなさい。
少なくとも、公共放送で公平にやるのであれば、リクエストをとってたくさんの票が集まった曲を流すべきです。

※音楽会等での選曲についてはもう少し詳しく書いていますので、下の記事を参照してください。

音楽会等、学校で流れる曲の選曲時にポップソングを入れる場合の留意点 | EDUPEDIA

【ケースC】

「みんな遊び」がうまくいっていなくて、面白くなかったことはよくわかるけれど、だからといって自分たちだけがやめて好きな遊びを始めることはどうかな。みんなの事を考えるなら、どうすればよかったと思う?そうだね、学級会で話し合うのがいいね。その時に自分の意見を言ってね。

折に触れて

子ども達だけではなく、社会全体に「公」の意識が薄れてきている今日であるからこそ、子ども達には「公」の意識について考えさせる必要があります。道徳の時間等を利用して適切な教材を選んで投げかける必要もありますし、上記「例ABC」のようなケースを利用して「折に触れて」考えさせる必要もあります。

その時に、漢字を通して「公」「私」についての定義を理解させておくと、その後、トラブルが発生した時に、「ここは、「公」の場じゃないですか。みんなの事を考えて行動するべきではないかな。」と、子ども達の思考を方向づけるのに役立ちます。私は高学年であれば、なるべく早い時点で「公」「私」について子ども達全体に投げかけ、折に触れて「公」を優先させるべきではなかったのかを考えさせるようにします。また、「公」を優先させることはしんどいし、面倒なのですが、「公」を成り立たせることが結局は自分のためにもなるし、それが学校で学習する大事なことであることを理解させるようにしています。

そのためには「我慢」や「思いやり」が大事であることもたびたび口にします。ダイレクトに「我慢が大事、我慢が勉強」「学校は我慢を勉強する場所です」と口に出します。「誰だって自由が楽で楽しいけれど、日本のようなせまくて貧しい国では我慢をしなければたいへんなことになる」「みんなが我慢を忘れて、みんなが好き勝手なことをしてみんなの事を考えずに行動すれば、みんなが楽しくなくなる学級になります。当然です。その先には学級崩壊があります。学級崩壊がどれだけつらいことであるかは、先生は身を持って体験しています。何度も学級崩壊を見てきました。毎日のようにトラブルが起こり、指導と説教に時間がとられ、いじめが起こり、勉強が遅れ、・・・。」といった脅しの類の話までします(笑)。

みんなに合わせることをいつまでも拒む個人主義の子ども(達)に、「それぐらい付き合いなさい!」「大人の事情です!」「日本の文化です!」と、切って捨てる場合もあります(※私も個人主義者ですが、合わせる所は合わせたいと思っています)。とことん議論をして考えさせることも必要な一方で、「公」が優先なのか「私」が優先なのかなんて正解のない議論ですから、いつまでも論議しているよりもバッサリと切り捨て、前を向かせた方が子ども達にとっても楽な場合もあるのです。

正に学級崩壊は、「公共心の欠如の常態化」の結果であると思います。

公共心が育ってくれば、「我慢ができるようになったね。ずいぶん、みんなが気持ちよく過ごせるようになったね。」とほめる言葉も忘れずに言ってあげるようにしています。

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