失敗の時こそ、成功を目指す(坂本哲彦先生)

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目次

1 はじめに

この記事は、坂本哲彦先生が、運営されているホームページ「坂本哲彦 道徳。総合の授業づくり」から引用させていただいたものです。
坂本先生のホームページはこちら → http://sakamoto.cside.com

2 授業のねらい

自分と対比して、主人公「お兄ちゃん」の気持ちを話し合うことを通して、より高い目標を立て、希望と勇気をもってくじけないで努力しようとする態度を高め、自己の生き方を考えることができるようにする。

3 対象

小学5~6年生

4 学習内容

①自分の経験をもとに、お兄ちゃんの気持ちを想像すること

  • おっちょこちょいで悲しい気持ち(自転車を盗られたり、バットをほっぽり出したりして叱られたとき)
  • わき起こった決心を確かめているときの気持ち(「三等賞のやかんよ。きっとそういう日が来るからな、待っていろよ。」とくちびるをかみしめたとき)

②失敗と成功、ピンチとチャンスの関係

  • 失敗の時こそ、成功を目指すよい機会であること
  • 成功のための原則(まじめに練習すれば、きっとうまくなる)を改めて確認すること、実行することの大切さ

③自分の生活について振り返って考えること

  • これまで、これからの生活
  • 希望をもってくじけないで努力したいめあて

5 資料

「その日が来る」
『学年別・名作ライブラリー 本は友だち 5年生』日本児童文学者協会編 偕成 社 2005年3月所収
『国語 五 銀河』光村図書 1987年 所収
『その日が来る』国土社 1987年 所収                    

あらすじ

福引きで三等賞の大型やかんを当てた主人公お兄ちゃんは、喜びの余り自転車を会場に忘れ、盗られてしまう。野球部ではヒットを打つと喜びすぎて三塁側のコーチやネクストバッターボックスの方までバットを放り投げてしまうので、レギュラーからはずされている。やかんは、野球部に寄付してみんなに重宝がられているが、自分のみっともない空振りなどを(やかんに)見られているようで落ち着かない。
「卒業の日まで補欠のままかもしれない」と落ち込む中で、「まじめに練習すれば、きっとうまくなる」と励ます父。妹の明美にからかわれながらも「三等賞のやかんよ。きっとそういう日が来るからな。待っていろよ。」とわき起こった決心を確かめるように、くちびるをかみしめるのであった。

6 学習過程

①自分の失敗について思い出す(5分)

【発問1】
「自分がしてしまった失敗について思い出してみましょう。落ち込みましたか?その時の感情も思い出しましょう。」  
※マイナス思考の暗い導入です。だから、明るく陽気に語りかけるのがいいでしょう。担任の失敗談などを紹介したりして……暗くなるのは避けたいのですが、逆にふざけてしまうのもよくありません。頃合いが難しいです。失敗を発表しあえるクラスであれば、いうことはありませんが、一般的には難しいでしょう。
※「今日は、自分がすごく落ち込む失敗をしたときのことについて考えます。自分の生き方について振り返ってみましょう。」と課題を提示します。あまり大上段にかまえないことがよいです。

②ぼく(おにいちゃん)の気持ちについて話し合う(30分)

【発問2】
「『ぼくは、おっちょこちょいで、何をしてもアウトなんだろうか。ときどき、ぼくは、そんな悲しい気分に落ち込んでしまう』とありますが、ぼくはどんなことを考えているのでしょうか。」

※「何も考えていない」あるいは「わからない」というのが多くの子どもの意見でしょう。

  • おっちょこちょいを何とか治したい
  • 治す方法はないものだろうか。
  • 野球部をやめたい
  • どうして野球のセンスがないのだろう
  • 落ち込んで何も考えられない

 などが出るでしょう。それぞれの意見を引き出すことも大切ですが、むしろ、導入の活動を引き合いに出して、
a)あなたは、ぼく(お兄ちゃん)の気持ちが分かりますか?  
b)あなたも同じようなことを考えたことがありますか?    
c)あなたが側にいたら、どんな言葉をかけてあげますか?

などを問い返して、主人公の心情に一層共感できるような働きかけをします。
共感できたら、次の発問です。
  
【発問3】
「そんな主人公ぼく(おにいちゃん)が『父さんのことばを信じて練習してやろう。(中略)三等賞のやかんよ。きっとそういう日がくるからな。待っていろよ。わき起こった決心を確かめるように、ぼくはもう一度、くちびるをかみしめた』とありますが、どうしてぼくは、このような決心をすることができたのだと思いますか?その理由を話し合ってみましょう。」

※発問2で、主人公にしっかり共感したら、発問3では、少し分析的に心情の変化をとらえてみることにします。それが、すなわち、自分の今後に生かせると考えられるからです。

  • 妹にバカにされたから
  • 自転車を盗まれたことが今までの中で最もひどいこと、ショックなことだったから
  • 自分のダメなところ、不十分なところを冷静になって捉え直してみたから 
  • お父さんの温かい励ましの言葉(何事も練習しだいさ、まじめに練習すれば、きっとうまくなるという大切な言葉、原則)に改めて触れたから
  • 「やかん」のような「自分の行動を冷静に見るもの」が側に現れたから 

などが出てくるでしょう。

※これらの意見をそれぞれ短冊に縦書きに書き、黒板に並べて貼る。そして、それらをまとめて、「失敗は成功を目指すエネルギーになる」や「失敗は成功の元」などの言葉に換えて、
a)失敗が大きければ大きいほど、成功に向けてのエネルギーや意欲は高まる
b)生き方の上で大切な事柄(今回は、「何事も練習しだい」)を改めて確認することの大切さ
c)自分を観察するもう一人の自分を設定することの大切さなどを話して聞かせる

③自分の生活を振り返って、授業の感想を書く。(10分)

【発問4】

「授業中に考えたことや感想、自分のがんばりたいことなどについてプリントに書きましょう。」

※最後に担任が上記a)~c)の中で最も大切なものを話して聞かせたり、子ども一人ひとりに、どれが最も大切かプリントに書かせたりするなどもよいでしょう。ちなみに、私は、やかん(自分を見つめるもう一人の自分がいたこと)の存在が大きかったと考えます。

実践者プロフィール

 坂本哲彦(さかもとてつひこ)
山口県山口市立徳佐小学校教頭。
1961年生まれ。
山口大学卒業、山口大学大学院修了。
山口県内公立小学校教諭、山口大学教育学部附属山口小学校教諭、山口県教育庁指導主事等を経て、現職。
自身の経験を活かして、道徳実践をHP、メルマガで数多く配信している。
坂本哲彦先生 道徳・総合のページ はこちら
→  http://sakamoto.cside.com/

編集後記

「ぼくなんて、ダメだ…」とくじけそうになったとき、この“やかん”のような第三者的な存在を、自分の中に持てるかどうかで違ってくるのかもしれません。新しい自転車はもう見つかりませんでしたが、その代わりにやってきた金色のやかんに、「いつかはその日が来るからな」と決意を語ります。
お父さんから「まじめに練習をすれば、きっとうまくなる」と言葉をかけられ、もやもやした心境が続いていた間のふとした瞬間、自分の生き方になにかきっかけが見つかったのかもしれません。
ダメだと思っているときこそ、素直に受け止める心を持っていたいと思いました。
    
(編集・文責 EDUPEDIA編集部 丸山明美)

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