言語活動を生かして物語や小説を吟味・評価する力を育てよう「海の命」(加藤郁夫先生)

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目次

1 はじめに

平成25年8月19日に立命館大学で行われた<科学的『読み』の授業研究会 −「言語活動」を生かした国語の授業徹底入門 −(言語力、思考力、判断力を確かに豊かに身につけさせる>に参加しました。

当日は、数々の講座や「ワークショップ的分科会」が行われました。この記事では、そのなかでも、本会の事務局長でもある加藤郁夫先生の分科会「『言語活動』を生かして物語・小説を吟味・評価する力を育てる授業・徹底入門」で紹介された、「吟味よみ」という読み方にスポットを当ててみました。

資料

『海の命』 立花和平 作 (光村図書 小学6年生 国語)

  

2 吟味よみについて

吟味よみとは

「科学的『読み』の授業研究会」(以下「読み研」)では、「吟味」「評価」する過程を「吟味よみ」と呼びます。読み手が作品を主体的に評価や批評を行っていく過程で、良いところを指摘し、そこがなぜ良いのかを評価します。また、疑問に感じるところや納得出来ないところを取り上げて、なぜ納得できないかを考えてみます。

作品の表現に基づきながら、それを吟味・評価する過程そのものが「言語活動」になります。またその過程において、他人と話し合いや討論をしたり、自分の考えを文章に表して伝えたりすることも「言語活動」といえます。このような意識を持って取り組んでいくことが大切です。

物語や小説を吟味・評価することでどんな力がつくのか

①主体性を育てていく力
    自分の考えを持ち、お互いの評価を話し合う。
②作品を相対化する力
    同じ作家の作品、あるいは同じテーマの作品などと比べることで、その良さ、弱さを発見する。

これまでの物語や小説(文学作品)の授業は、作品を絶対化し、そこから道徳的・教訓的な意味を引き出そう、読み取らせようとする傾向がありましたが、そのような読み方から抜け出していくことが大切です。それが作品を吟味・評価することの重要な意味です。

吟味よみの7つのポイント

 ①構成・構造の特徴を吟味する

 ②人物を吟味する

 ③事件の展開を吟味する

 ④テーマ(主題)を吟味する

 ⑤表現技法・作品の仕掛けなどを吟味する

 ⑥設定や語り手などを比較する

 ⑦他の作品と比較する

①~⑦のどれを使うか、教材研究の中で考えてみるとよいでしょう。構造よみ・形象よみの過程と吟味よみの過程を関連させて指導していくことが重要です。そのためにも教師自身が作品を繰り返し読み、より深い構造・形象の読みをできるようにしていく必要があります。

吟味よみにおいても、互いの考えを発表することや、自分の考えを文章にまとめることも大事です。

吟味よみをすすめていくための注意点

◎作品の表現に基づいたものでなくてはならない
作品のどの言葉、どのような箇所を根拠として主張できるのか、文中の表現を引用して自分の考えを述べるように指示します。

◎主体性や相対的にものごとを見る力を鍛えることが目的
独創的・創造的発想がねらいなのではありません。批評文などを書かせる場合は、まず「型にはめた書き方」を教えていくことで、書く力をつけさせます。

最後に、「感想文」から「批評文」への転換をはかっていくことを提案します。根拠をあげて、はっきりと論理的に理由を示すことが必要です。
自分の考えなら何を書いても許される「感想文」とは違って、「批評文」では吟味し、評価する力を養います。

3 分科会で行ったこと

<発問1>『海の命』を読み、 “発端(事件の始まり)”と“クライマックス”はどこなのかを挙げてください

4~5人のグループで話し合い、まとめて班長が発表しました。

(a)発端
主人公の太一が中学校を卒業し、釣り漁師の与吉じいさに弟子入りする箇所

(b)クライマックス
事件がいちばん大きく変化するところ。簡単な文章で表わされることが多い。“変化の確定”が見えたところを幾つかの選択肢から絞っていくと、「おとう、ここにおられたのですか。また会いに来ますから」の言葉にたどり着いた。

では、おとうを殺した仇であるはずの「瀬の主(クエ)」が、なぜ「おとう」になったのか?その変化の理由は?
(※注 原文では、太一がクエを見つけたときに、クエに向かって「おとう、ここにおられたのですか」と呼びかけるシーンがある)

ここに焦点を当てました。変わるには変わるだけの伏線や仕掛けが作品のなかにあるはずです。下記のような発問があり、個々に考えたことを発表しました。

<発問2>「こういうところがあるから変わった、ということがわかる表現を示してください」

(a)クエの形象から
光る緑の目、青い宝石、瞳は黒い真珠→おだやかな目と表現が柔らかくなっている

(b)与吉じいさの海に対する考え方の影響
1000匹に1匹釣れたら海の命は守られるという考え。獲れるときには獲らなくてはという、不安定なもぐり漁師の父親とは生き方がもともと違っている。与吉じいさは無駄な殺生はしない。

(c)父の海
父も与吉じいさも海に帰った。おとうは海にいる。海に対する太一の捉え方が変わっていった。漁師として成長した太一にとって、海は自由の世界になった。

ここで、加藤先生から助言が加わります。
「それでは母親との関係はどうでしょうか?」

参加者が気づかなかった点です。おとうや太一、与吉じいさ、瀬の主のことは表現の変化に目を凝らしていましたが、母親の描写の変化を読み流していた人は多かったのではないでしょうか。
 
(d)母の悲しみを背負う
父を失った海の瀬で、また太一も同じ道をたどるのではないかという心配。母が悲しむような行動を安易にとることはできない。

作文の課題

参加者全員に課題が与えられました。
「200文字程度の作文を書いてください。出だしは次の通りです。“わたしは、太一の変化に…”の次は“納得できる”か“納得できない”かを選んで書いてください。そしてその後には、理由を並べてください。その際に、先ほどの(a)~(d)の理由を使っても構いません。ただし、作品のなかから根拠を挙げてきちんと理由を述べてください」(時間は10分)

根拠となる表現が見つかっても、自分できちんと消化し、書き表すことは難しかったです。

作文指導について

小学生は特に、”型をはめた書き方”からスタートします。上の学年にいくほど書く材料を増やし、ボリュームを持たせるようにします。とにかく“書かせる”ことが大事です。

4 編集後記

『海の命』は解釈の難しい作品だと思います。「小学校6年生でじゅうぶん吟味することなどできるのでしょうか?」との質問に、「中学で読ませてもいいし、高校で採り上げてもいいでしょう。小学6年では、仇がおとうになった…で終わるかもしれません。ただ、わたしは、“海の命は大事にしましょう”というような道徳的な結論にしたくはないのです。否定的な意見があってもいいと思います」と先生は言葉を強めておらました。また、この作品の授業に7、8時間ほど割くとのことです。

作文の時間に、太一の気持ちの変化を納得できるか否かを書く際、加藤先生の「作品の表現に基づいて理由を述べよ」という課題には相当なプレッシャーを感じました。
与えられた課題に沿って原稿用紙を埋めていくことが、子どもたちの“書く力”を育てることになるのでしょう。

「吟味よみ」は楽しいです。内容について「納得できる、できない」のどちらも可として認めていただけるので、児童は安心して深く読みたくなるのではないでしょうか。

加藤郁夫先生をはじめ、2日間、白熱する会を進めてくださった先生方に深く感謝致します。
(編集・文責 :EDUPEDIA編集部 丸山明美)

5 講師プロフィール

加藤 郁夫(かとう いくお)先生
 初芝立命館高等学校教諭、元立命館小学校教諭
 科学的『読み』の授業研究会事務局長
 <主要著書> 『教材研究の定説化「舞姫」の読み方指導』、
『科学的な「読み」の授業入門』〔共著〕東洋館出版社

『日本語の力を鍛える「古典」の授業』明治図書出版

『「言語活動」を生かして確かな「国語の力」を身につけさせる −新学習指導要領 新教科書を使った新しい国語の授業の提案− 〔国語授業の改革〕』科学的“読み”の授業研究会

他。

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