BYODによる一人1台タブレット環境の整備

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作成者: 永野 直さん

千葉県立袖ヶ浦高等学校情報コミュニケーション科では,2011年4月より,生徒が一人1台iPadを所有し,授業はもちろん,学校行事,部活動,家庭学習等,あらゆる場面でICTを活用している。

本校の事例から,一人1台のICT環境を整備するにあたって検討してきた事柄を紹介する。

BYODとは

BYODとはBring Your Own Device の頭文字をとったもので,日本語では「私的デバイス活用」などと呼ばれる。主にビジネスの世界で用いられる用語であるが,近年教育界でもこの方式でのICT導入が見られるようになってきた。

コンピュータやタブレット,スマートフォンなどのデバイスを会社や学校,自治体が用意して貸与,または配布するのではなく,個人の所有物を持ち込んで業務や学びに活用することを言う。長所としてはコストの小ささ,ユーザーが使いなれた機器,設定,サービス等が使えることなどがあるが欠点としてウイルス対策等がなされているかなどのセキュリティの懸念,社内のデータが個人端末に保存され持ち出されるなどの危険がある。

端末の選定

BYODによって生徒各自に端末を持たせると決まった際,タブレット以外にもノートPC(ネットブックを含む),スマートフォンやiPod touch等についても検討した。

ノートPCについては,キーボードがあるため入力がしやすいメリットがある。しかし,起動が遅いこと,机の上でスペースを多くとるなどの問題があった。また,本科ではこれまでの教科書やノートなどの電子化を目的とするわけではないため,大量の文字入力をさせることよりも,写真や動画等の閲覧のように直観的にメディアを扱ったり,カメラやビデオ撮影が簡単にできたりすることを優先した。コンピュータ室は校内に2つあるため,
全てをやろうとするのではなく,適した用途に合わせてデバイスを選択したほうが良いと考えた。

スマートフォン等のデバイスは画面の大きさがネックであった。機能としてはタブレットと大差はないが,視覚メディアを見るとき,また資料を直接他者に見せながら説明する等の学習については,ある程度の画面の大きさと解像度が重要であると判断した。

タブレットにおいてもいくつかのOSのデバイスが存在するが,最も重視したのはその操作感である。操作や起動に気を取られることは学習中の意識の妨げにつながることから,機能の多さよりも,使いたい時にさっと使えるスムーズさという操作感を重視した。また,アプリの数,安全性などもさまざまであったが,質と信頼性はiPadが高かった。以上のような理由から,iPadが最も適していると判断した。

アプリの購入はプリペイドカードを利用することとし,クレジットカード登録はしないよう保護者へ説明をしている。

ネットワーク

タブレットは無線LANでのアクセスが前提となるため,校内に無線環境を構築する必要がある。千葉県の公立高校にはインターネット回線と校内LANが整備されているが,生徒の私物端末を接続するという性質上,県のネットワーク利用ポリシー上問題があった。また,さまざまなポートが規制されていること,数百台の端末の増加によって通信帯域に心配があったことなどから,新規に校内のLAN配線,インターネット回線を準備することとした。これまで校内で利用していた情報ネットワーク,成績処理用LAN(外部接続なし)に加え,iPad用の物理的に独立したネットワークを用意することで,校務処理や成績等のデータが全く流れないようにした。iPad用のネットワークも,県の情報ネットワークと同様,有害情報のフィルタリングを行っている。

電子黒板,大画面テレビ

情報コミュニケーション科の普通教室には,電子黒板を1台ずつ整備した。各電子黒板にはApple TVが接続してあり,iPadの画面と音を無線で転送できるようにしてある。

これまでの電子黒板では教員の用意した教材を提示する場面で使われることが多かったが,一人1台の端末を利用する環境になってからは,そのような用途が減った。写真,ビデオなどのメディアは各自の端末で視聴できるからである。代わりに,生徒の画面をクラス内で順次提示しながら生徒に発表させるような用途が増えた。このような,生徒や教師の端末画面を転送する用途の場合,HDMI端子を持つデジタルテレビであればよく,電子黒板である必要はない。

破損,盗難の防止

生徒のiPadは私物であるため,こちらで回収,保管したりすることはない。基本的に自己責任,自己管理で運用している。しかし,体育など移動教室で教室を空ける時間も多く,盗難や紛失に注意する必要があった。そこで,鍵付の個人ロッカーを整備し,鍵を生徒に預け,生徒各自で出し入れ,施錠の管理ができるようにした。

スタートして3年が経過するが,盗難,紛失の事故は1件も起きていない。

破損に関しては,本体の落下によるタッチ面ガラスの破損が最も多く,2年間に6件ほどの発生があった。保険も有償であるため,全員の強制加入は難しい。そこで,タッチ面のみをカバーするタイプではなく,本体全体を包み込むタイプのカバーを購入してもらうよう3期生からお願いしたところ,破損事故は全く起きていない。

BYODの利点

児童生徒にタブレット端末を自費で用意させることは,かなりハードルが高いと感じられるかもしれない。しかし,私物端末だからこそ得られる利点も多い。

タブレットデバイスの性質

タブレット端末は「パーソナル性」と「モバイル性」に特化したデバイスである。携帯電話のように個人の物として持ち運ぶことが前提に設計されている。コンピュータなどはログイン名によって各自の設定が保存されるようになっているが,タブレットではそのような概念がない。携帯電話を数人で共有することが難しいように,タブレット端末でも個人利用を前提に設計されている。端末の外見は同じでも,各自の学習してきた成果の蓄積,写真や動画などのメディア,各種アプリの設定など,各々によって中身は非常に個人性の高いものになっていくのである。自分の物として使っていくからこそ,愛着もわき,使いこなし,主体性も高まっていくと考えている。3年間使用した後には,自分たちのやってきた学習の履歴がすべて残っていて,後から見返せることは非常に有意義であるのではないだろうか。

管理と持ち帰り

学校や自治体の所有物としてタブレットを使う場合,授業ごとに配布,回収し,保管庫で管理することが必要となってくる。また,一度購入したら数年間は使い続けていくことになる。このような機器は数年ごとにどんどんモデルチェンジされていく。(現に本校の生徒端末は1,2,3期生とも,すべて違うモデルである。)ほとんどの場合,機能は上がり,価格は据え置きか下がることが多い。新しい授業を実現するためにタブレット端末を導入したのに,古いモデルを使い続けなければならないというのは,あまりスマートな方法とは言えない。

また,私物端末であることは,生徒各自の家庭に持ち帰ることも可能になる。オンラインに動画教材を蓄積しておき基礎的な知識を理解したうえで,学校では発展問題や協働学習に取り組むといういわゆる「フリップドラーニング(Flipped Learning),(反転学習)」にも活用できる。もちろん,家庭での無線によるインターネットアクセスが必要となるため,保護者への説明,有害情報などのフィルタリングなど,家庭との連携,協力が不可欠になることは留意する必要がある。

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