1 はじめに
ここでは、物語や小説をどのように”よむ”かを教える際に役立つポイントを押さえていきます。児童の理解を深める授業をするには3つの”よみ”のポイントがあります。
では、それらを早速見ていきましょう!
2 物語・小説における三読法
物語や小説には以下の3段階の過程で読んでいきます。
①構造よみ…物語の事件の発端や山場を意識しながら読んでいくこと。
②形象よみ…言葉の意味を押さえ、しっかりと読んでいくこと。
③吟味よみ…作者のいろいろな工夫について考えながら読んでいくこと。
それでは、物語における構造よみから詳しく見ていきましょう。
物語の構造よみ
物語は以下のように、導入部・展開部・山場の部・終結部という四部構造になっています。
- 冒頭(はじまり)
> ① 導入部
- 発端(おこり)
> ② 展開部
- 山場のはじまり
- クライマックス > ③ 山場の部
- 結末(むすび)
> ④ 終結部
- 終わり
これらをわかりやすくするために、ウルトラマンのストーリーを例に挙げて説明します。
ウルトラマンのストーリーにおいては、
- 冒頭…いつもと変わらない平和な地球
> ① 導入部
- 発端…怪獣が出現
> ② 展開部
- 山場のはじまり…ウルトラマン登場
- クライマックス…スペシウム光線発射 > ③ 山場の部
- 結末…怪獣倒れる
> ④ 終結部
- 終わり…再び平和な世界に戻る
というような構成となっています。
この構造、そして冒頭から終わりの流れを一つひとつ児童自らに考えさせることが、最初のポイントです。
冒頭は必ず 1文目からなので、“発端”はどこの文からかを児童に 探させます。またこのとき、その理由も同時に 述べさせます。最初は個人で考えさせ、それから班になって考え を出し合います。
各班での学習リーダーを先生が指名し、選ばれたリーダーが発言しにくそうにしている児童をサポートします。
※リードするときの例:ぼくは○○と思うけど、~~君はこれに反対かな?賛成かな?などと意見ではなく、賛成か反対かだけを尋ねると答えのハードルが下がるので、発言が苦手な 児童も答えやすいです。
次に、答えが出た班に手を挙げさせ、その答えと根拠を述べてもらいます。
その後、クライマックスとなる部分とその理由、またそれを起点にして考える山場のはじまりも同じように考えさせます。
各班に発表させたのち、それらの意見を強める根拠をさらに出し合ったり、他の班への反論 を出し合うなどして各意見を戦わせます。
理想的なゴールは、意見 を言い合ったのちにみんなが納得するところまで持っていくことです。
では、ここからスイミーを例とした場合の発端から結末までの「構造よみ」をしていきましょう。そのため、これから先は スイミーの教材を手元に置いておくと 理解しやすいです。
3 スイミーを使って「構造よみ」
①<発端>
ある日、おそろしいまぐろが、~
理由:「名まえはスイミー。」までは、登場人物の紹介やそれまでの彼らの生活が、短くまとめて紹介されています(まとめ書き)。しかし、「ある日、~」からは、その日時に起こった様子が描かれています。また、「ある日、~」から始まる出来事は、<いつものこと>ではなく、<いつもと違うこと>です。
②<クライマックス>
みんなが、~スイミーは言った。「ぼくが、目になろう。」
理由:赤 い小さな魚たちの集団に目としてのスイミーが加わって赤い「大きな魚」として完成した。←事件が最も大きく変わった部分
一方、もう一つのクライマックス候補として 、
- それから、とつぜん、スイミーはさけんだ。「そうだ、みんないっしょにおよぐんだ。海でいちばん大きな魚のふりをして。」
の部分が挙げられます。しかし、これはクライマックスとして弱いと考えられます。その理由は、物語の中で一番盛り上がり、その後下がっていく部分がクライマックスのはずですが、この文の後で仕上げに自分が目になる、という物語の一番の山が来ています。このように意見を出し合うことで、クライマックスは絞られていくのです。
③<山場のはじまり>
そのとき、岩かげに~
理由:クライマックスに向けて、それまでと違う流れが見え始めます。また、クライマックスまでのところで、みんなで大きな魚のふりをするというアイディアを思いつきます。
④<結末>
~大きな魚をおいだした。
理由:「大きな魚をおいだした。」ところで一連の事件は終わる。また、「大きな魚」と出会ったところが「発端」 なので、それが離れていったところが「結末」。
4 スイミーを使って「形象よみ」
① <冒頭から発端>
- 「みんな赤いのに、一ぴきだけ、からす貝よりもまっくろ」
二組の対比…みんな — 一ぴきだけ / 赤い — まっくろ
- 名まえ「スイミー」
泳ぎがうまい等からわかる“スイミング”という英語からの派生
② <発端から山場>
- 「スイミーはおよいだ<中略>とてもかなしかった。」
倒置をおさえる。恐怖と孤独を読む。
③ <山場の部分>
- 自分から小さな魚たちを誘い出すスイミー
リーダー性を感じ取れる。
- 3箇所で用いられている「倒置」
いずれも事件の展開部。
- 「いろいろ考えた。」で方法を、「うんと考えた。」で一生懸命さと考えた時間の多さを読む。
5 スイミーを使って「吟味よみ」
※「スイミー」という作品をくわしく読み終えた今だからわかる、作者のいろいろな工夫について、考えてみましょう。また、吟味よみはほかのよみ方と少し違っていて、だれもが同じよみ方をする必要はなく、このよみを通して発見する作者の工夫が児童によって異なっていても良いのです。
① <はじまりから発端における技法>
- 「楽しくくらしていた」というところが、発端で出てくる「おそろしいまぐろ」をより恐ろしく感じさせる。
- 「みんな赤いのに、一匹だけは、からす貝よりもまっ黒」のところで、比喩や対比が使われています。また、一匹だけまっ黒という点において、仲間はずれのような印象を受けるが、それがクライマックスにおいて目になるという利点として取り上げられている。
- 発端から山場のはじまりまで 、「にじ色のようなくらげ」や「ドロップみたいな岩」といったように比喩がふんだんに使われている。また比喩とは違う が、「うなぎ。 かおを見るころ には、しっぽをわすれているほどながい。」という表現法がおもしろい。
② <山場の部分で使われていた技法>
- 倒置法が三回。「そのとき、岩かげに、スイミーは見つけた。」という書き方で、次が気になるようにできている。
- 「スイミーは考えた。いろいろ考えた。うんと考えた。」が「考えた」の繰り返しだが、それぞれ違う。最初の「考えた」はとにかく考えたんだという全体的なことを表している。次の「いろいろ考えた」は、方法をいろいろ考えたという使い方。最後の「うんと考えた」は、一生懸命時間をかけて考えたことを表している。
※上記以外にも工夫は存在する と思われますので、いろいろ関心を持たせてください。
☆これまで、構造・形象・吟味という 3つのよみをしてきましたが、いずれにおいても児童に考えさせることのできる読み方です。時間がある限り児童自身に考えさせる習慣をつけさせ、児童に考えを発表する喜びを与え、また自立心の向上を目指してください。
6 編集後記
鈴野先生の授業では、どこまでも深く物語を読みとるというところを重視しています。 1つの作品の山場の始まりやクライマックスについて意識し、考え、また周りの人と相談したのは初めての経験で、本当に楽しかったです。なによりも難しかったことは、答えに至った根拠・理由を言葉を使って言い表すことでした。
論理的な思考力を鍛えるという点で、素晴らしい実践法だと思いました。
(編集・文責 EDUPEDIA編集部 岸 たけし)
7 実践者プロフィール
鈴野高志先生
茨城県茗渓学園中学高校の教師として、文章を深く読み取る授業を実践。
共著として、
『国語の本質がわかる授業〈2〉ことばと作文 (『教科の本質がわかる授業』シリーズ)』
『国語の本質がわかる授業〈4〉文学作品の読み方〈1〉 (『教科の本質がわかる授業』シリーズ)』(共に日本標準出版)
がある。
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