1 1.はじめに
この記事は、坂本哲彦先生が運営されているホームページ「坂本哲彦 道徳・総合の授業づくり」から引用させて頂いたものです。坂本哲彦先生のホームページはこちら→ http://p.tl/a-TK-
2 2.概要
対象
中学生(満員電車に乗ったことのある都市部の学校)
ねらい
障害のある夫と一緒に女性専用車に乗った婦人(投稿者)と「女性専用車ですよ!」「そっちから移動できます」とすぐに車両から出て行くように促す若い女性の気持ちを対比して話し合うことを通して、互いが置かれている状況や気持ちを配慮することの大切さを改めて感じ取り、思いやりをもって生活しようとする態度を高める。
学習内容
(1)婦人の気持ちと若い女性の気持ち
- 少し余裕の気持ちで見守ってほしい、他(婦人)
- きまりを正しく守ってほしい、他(若い女性)
(2)互いに思いやりの気持ちをもつこと
- 相手の状況や気持ちを想像したり理解したりしようとすること
- 理解に基づいて行動しようとすること
- それらに対する振り返り(自分の中の婦人と若い女性)
資料
「『女性専用車両』と障害の夫拒む」読者投稿
(朝日新聞 声 2007/07/17 掲載)
婦人が午後9時頃、夫と女性専用車に乗った。
- 夫は、右半身まひと脳機能障害があり、つえを付いている。
- 乗って間もなく「女性専用車ですよ!」と若い女性が怒ったように注意。
- 「 次で降りますから」と答えたものの、「そっちから移動できます」と隣の車両を指さす若い女性。
- 揺れる電車の中、緊張と焦りでうまく体が動かせない夫を支えて、連結部分の両方のドアを押さえながら必死に隣の車両に移ったら、次の駅に着く。ため息をつきながら列車を降りた。
- 「夫婦連れの夫が痴漢をするとは思えません。まして、つえをついた障害者ができるはずもないのに……。もう少し余裕の気持ちで見守ってもらいたかった」と婦人。
- 後に女性専用車の対象には、障害を持つ男性も入っていることを知った婦人は、「乗客が知らないのでは意味がない。気を付けて乗るしかないのでしょうか。」と結ぶ。
3 学習課程(50分授業)
①【導入】資料を開く(5分)
いろいろな導入が考えられます。
例えば、
1. 電車を含めて公共交通機関や公共施設利用のエピソード・感想等
2. 電車内でのきまりやマナー・及びそれへの感想等
3. 学校生活や家庭生活でのきまりやそれへの取組状況等
※②での話し合いに時間をかける方がいいので、まとまった導入は行わず、すぐに新聞記事(投稿欄)を読む。
※場面絵があると非常に分かりやすいので、描ける人はそれを提示。端的に5分以内で導入を終了。導入が長い道徳の授業は失敗することが少なくない。
=== ②夫を連れた婦人と注意した若い女性の気持ちについて話し合う。(35分)
発問1
「若い女性は、どんな気持ちから、『女性専用車ですよ!』と注意し、『次で降りる』と言われたにもかかわらず、『そっちから移動できます』と隣の車両を指さしたのだろうか。女性になったつもりでその時の心の中の言葉を発表してください。」(10分)
※この話程度の問題状況なら、わざわざプリントに考えを書かせる必要はありません。あらかじめ書かせないと自分の意見が持てないだろうからと、丹念にプリントに書かせる授業者は少なくありません。しかし、書かせるから、発表できなくなる場合もあります。どんどん指名していきながら、受容的な雰囲気の中で、様々に女性の気持ちを想像することにしましょう。
- 理由はどうであれ、女性専用というルールは守ってほしい、守らなければならない
- 特に、自分はともあれ、同じ車両の女性がいやな気持ちになっているはずだから、代表して「自分」が注意しなくてはならない
- 自分は、以前電車の中で痴漢にあったことがあり、同じ車両の中に男性がいるのは心理的に苦しい
- 婦人の連れた夫の体が不自由だということに気付いていなかった、気付く余裕がなかったので、思わずきつい言い方をしてしまった。
などの意見が出る。テンポよく発表させながら、それらをもとにさらにイメージを広げさせて、自由な雰囲気で発表させる。
※教師は、「なるほど、そういうこともあるかもしれないね」と受容することに努める。決して「いい意見だね」などと評価を加えてはならない。
※「その意見は、これまでに出されたどの意見と似ている?」とか「その意見は、このグループに入る意見だね」とか、「ほう、新しい考え方だなあ。Bというグループをつくることにしよう」などと、類別しながら板書する。
※女性専用車について専門的な知識等を与えるとすれば、ウィキペディアの「女性専用車両」が詳しい
発問2
「ため息をつきながら、列車から降りた婦人はどんなことを考えたでしょうか。あなたが婦人になったつもりでその時の心の中の言葉を発表してください。」(10分)
- 夫婦連れの夫が痴漢をするわけない、
- つえをついた障害者が痴漢できるわけがない
- もう少し余裕の気持ちで見守ってもらいたい
- 何とひどいことを言う女性なのだろうか、などを引き出す。
少なくとも(1)・(2)のグループと(3)・(4)のグループに分けて板書する。
※発問1でも2でも、それぞれたくさんの意見が出た後、「どの意見に一番納得しますか」とそれぞれの子どもの気持ちや立場を確認する時間をとることが大切である。
発問3
「(板書を示しながら)この婦人と若い女性の心のすれ違いは、どうして起きてしまったのだろうか。その原因になるだろうと思われることをはっぴょうしてください。」(10分)
- 若い女性に「状況把握」(男性と女性は夫婦である。男性の体が不自由である。隣の車両に移動することはとても負担が大きいだろう。等)が冷静にできなかったこと
- 若い女性に「心のゆとり」(体の不自由な男性がその妻と一緒にいるのなら、痴漢などの行為はしないだろう、しかも、次の駅で降りるというのなら、そのまま乗ってもらっても構わないのではないか)がなかったこと
- 若い女性に夫婦に対する思いやりの心がなかったこと
【以上若い女性に関すること】
4. 「そっちから移動できます」と言われたとき、再度事情を説明しなかったこと
5. 説明すると同時に、そこに乗り続ける強引さ(しぶとさのようなものか)がなかったこと
【以上婦人に関すること。これは、婦人がこのような行動をとることが大変難しいということを感じ取らせるために拾う意見。でなければ、敢えて授業で扱わなくてもいい。】
6. 周りの乗客が仲裁するような行動を示さなかったこと
7. 駅員や車掌などの適切なかかわりがなかったこと
8. そもそも女性専用車には、障害をもつ男性も乗車できることが多くの人に伝わっていなかったこと
などが出る。
※黒板に色チョークで対照的に板書し、若い女性の温かさのない行動と婦人の再度の発言・行動の難しさ~(4)(5)~が際だつようにする。
※そして、すべては「互いが置かれている状況や気持ちを配慮することや思いやりをもって生活しようとする態度が欠けていたこと」であるとまとめ、黒板の中央に大きく「互いの状況や気持ちを想像する、自分の立場に置き換えてみる」と書く。
③自分の生活を振りかえる。(10分)
発問4
「女性専用車の中の出来事から離れて、普段の生活を考えてみましょう。学校生活の中で、相手の置かれている状況や相手の気持ちを自分の状況や気持ちに置き換えて考えているかどうか振り返ってみましょう。みなさんは、相手の立場にたって、心にゆとりをもって人に接しているでしょうか。あなたの中に『若い女性』はいないですか?」
※プリントに書くだけで授業を終える。書けない子どもも多いと予想されるので、教師の体験などを語ってもよい。
※学級通信などで授業の様子について家庭に知らせる。
(以上http://sakamoto.cside.com/sakamoto2007/senyousya.htmより引用)
4 編集後記
日常的に使う電車での出来事を取り上げることで、生徒たちも自分の生活と結びつけて考えやすいのではないでしょうか。生徒同士で話し合いながら、柔軟に相手のことを思いやる力を育むことができると思います。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 長谷川文)
5 実践者プロフィール
坂本哲彦(さかもとてつひこ)
山口県山口市立徳佐小学校教頭。
1961年生まれ。
山口大学卒業、山口大学大学院修了。
山口県内公立小学校教諭、山口大学教育学部附属山口小学校教諭、山口県教育庁指導主事等を経て、現職。
自身の経験を活かして、道徳実践をHP、メルマガで数多く配信している。
坂本哲彦 道徳・総合のページ
http://sakamoto.cside.com/
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