いじめ・不登校の未然防止(人間関係プログラムの力・・・松江市立第一中学校の実践より)

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目次

1 いじめ・不登校の未然防止(人間関係プログラムの力・・・松江市立第一中学校の実践より)

(いじめ・不登校の原因は、人間の依存性)
いじめや不登校などはなぜ起こるのでしょうか?  むつかしいことではありません。
その答えは・・・人間の中にある依存性です。
子どもは保護される立場であり、成長過程のまっただ中にいます。
依存的なあり様から主体的なあり様へと成長していくための支援が教育なのです。
しかしながら、学校教育には、この視点にもとづいた教育課程が不十分、かつあいまいにしか存在していないのです。したがって、依存から成長できないまま大人になっていくケースを否定することはできません。
依存的な大人をモデルとした子どもたちは、また、依存的な大人へと・・・
この負の連鎖を断ち切り、成長の視点に立った教育が、人間関係づくり・人間力育成の教育なのです。わたしは、この視点にたって、「あいあいネットワークofHRS」を起ち上げ、「あいあいネットワークofHRS、中学校年間8時間×3年間=24時間」の人間関係プログラムで、学校コーディネーションをしています。その実践校のひとつである松江市立第一中学校での実践から、その基本を紹介したいと思います。Facebookに書いている記事をもとに、再構成いたしました。ちなみに、松江市立第一中学校はちょうど三年前に厳しい子どもの実態に遭遇しましたが、現在では、人間関係プログラムの実施を柱にした取り組みなどにより、しっかりとした落ち着いた学校を取りもどしています。子どもも先生も成長できる人間力育成の教育を目標にしているのです。

(送られてきた発表冊子)
昨日(1月19日)、松江のならえもんさんが、2月14日に開催される、松江市立第一中学校、ガイダンスプログラム発表大会の報告冊子の校正版を送って下さいました。松江の先生方との関わりは、もう5年になるのですが、松江一中さんへは2年目になります。一昨年の夏に初めての校内研修会をもってから、小さいコーディネーションを含めると10回近くになるでしょうか。冊子を読ませていただいて、この2年間をふりかえると、「よくここまできましたね」という気持ちになって少々、感動いたしました。というより、先生方のこの2年間の心模様が伝わってきて感傷的になってしまったという感じです。研究主任の松嶋先生の言葉、印象に残りました。

・・『「人間関係プログラム」は生き物である。』ということだ。・・

生き物であるからこそ、先生も子どもも成長するのですね。

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奈良井 孝 人間関係プログラムは生き物である。…わたしも熱くなりました。1月22日 17:29

(人間関係プログラムの基本−シェアして人間の枠組みを拡げる)
この授業は、通常のすごろくトーキングに、お題カードを加え、少々動きをつくっています。なかには、「先生とじゃんけん」などというお題もあります。

人間一人ひとりの認知というものには限界があり、主観的なものです。ゆえに、孤立した人、あるいはこころを閉じた人は固定観念を持ちやすく、ネガティブな思考の枠組みに囚われてしまいます。トーキング系の授業では、決まったお題にこたえる自由と、こたえない自由が保障されています。それを選択するのは自分自身。つまり、このハードルを越えて出てきた言葉には自分を開くという意味があります。開いた自分をシェアしてもらえれば、他人の言葉も受け容れることができることにつながります。その結果、自分自身の枠組みが拡がるのです=共感性の基礎ができるといっていいでしょう。このプロセスが心地よい・・
松江一中の先生曰く「子どもたちはすごろくトーキングが大好きです。」

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岡崎 哲也 大方中でも「すごろくトーキング」はよくやっていましたね。生徒も話しやすくなると好評でした。また、シェアさせて下さい。1月22日 19:15

(人間関係プログラムの基本−コミュニケーションの本質に気づく)
1年生のスタートプログラムの一つ「南国の島」です。この時間は、指導者の指示のもとに、2枚の絵を完成させるのですが、1枚目は「質問なし」、2枚目は「質問あり」で描いていきます。ともに完成後はグループでシェアをします。すると、「質問なし」の1枚目を書いた後、お互いに絵を見せ合うとグループはおおいに盛り上がります。みんなそれぞれ、個性的な絵になっていました。2枚目の絵を描き終わりグループでシェアをすると、子どもたちから歓声がわきます。みんなが、共通点の多い絵を完成することができたからです。
すなわち、1枚目「人によって情報の受け取り方が違うんだなって思いました。」2枚完成させた後、「2回目のほうがいい絵になりました。質問することって大切だ。」と感じたのです。子どもたちが、聴くことの大切さに気づいた瞬間です。

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奈良井 孝 年度の初め、5月の授業公開日で1年各クラスが取り組みました。特に1年生は初めての授業公開日だったので、保護者は満員。保護者にも紙をとってもらい、担任の説明を聞きながら一緒に描いてもらいました。もちろん廊下で。隣と見較べる親さんたちに、ルールは徹底しませんでしたが、笑顔で感想がシェアされていました。一中の保護者が人間関係プログラムの授業に出会った時間でした。1月23日 20:00
伊藤 淳一 最近、部活動の生徒たちと「南国の島」をもう一度やって、気付きを再確認しました。一枚目の感想で、「一回できちんと指示を聞かないといけない」、「先生から言われたことから、自分で想像して書かないといけない」といった学級では出てこなかった言葉がありました。部活動での教師と生徒の関係は、学級のそれとは違い、完全な上下の関係になりやすいので、教師からの一方通行の情報でも、その情報を正確に受け取れないのは自分たちが悪いんだと考えさせてしまう面があるんだなと、反省させられました。生徒たちと、一方通行ではなく、お互いに思いを伝えあっていこうと、確認できたいい時間となりました。選手と指導者が同じ絵を描くサッカーを目指して頑張ります!1月24日 10:45

(人間関係プログラムの基本−グループでの協働、そこでの気づき)
探偵コナン、野比のび太、ちびまるこちゃん・・、私たちの心を何年も何年もわくわくさせてくれたアニメの登場人物たち。私たちのために働きすぎて疲れ果ててしまったようです。そんなアニメの登場人物たちがオーバーホールしている所が「アニメの村」なのです。そんな登場人物たちを呼び戻すために、指示書が授けられました。グループで情報を共有し、彼らの居場所を探しだそう!
グループの一人ひとりに配られた情報カードをもとに、情報をひとつにまとめ、課題を解いていきます。情報カードは決して他人に見せることはできません。子どもたちは、情報の拾い方、聴き方、まとめ方・・を実体験の中で経験します。「めちゃくちゃ言ってもだめだから・・、気づくのに時間がかかりました。」「ミッションを解いたときはうれしかった。」独りだったらあきらめてしまうことも、グループだったら・・ということを体験しました。

(人間関係プログラムの基本−アサーティブネス〔アサーション〕)
アサーティブネスという言葉はアサーションという技法を体現化したあり様です。アサーションは、自分も相手も大切にしたコミュニケーションの技法になります。そして、アサーションを実行するためには、相手の気持ちを想像することが出来る力(共感性)が前提となります。人間関係プログラムの積み重ねにより、拡がってきた人間の枠組みというものがそれを可能にするのですね。アサーションだけをピックアップして取り組んだ場合、「うまくいかない」という経験談を先生方から聴くことがありますが、それは、人間の枠組みを拡げるプログラムが欠如している場合が多いのです。アサーションの実行は、お互いを尊重しながら進んでいくため、時間はかかりますが、大いなる相乗効果が期待できます。その結果、子どもたちの自己肯定感が育っていくのです。
(*写真は、大阪府松原市立天美小学校でのアサーション・ロールプレイング)

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深美 隆司 MHさんからFBメッセージをいただきました。「天美小学校、6年の保護者です。今日は二時間、楽しい時間をありがとうございました。ウォーミングアップでの三者あいこジャンケン。初めて体験しました。あいこの確認をしてもらっているというのに、間違えてしまうのだなと思いました。息子から昨日、先生がちょっとした劇するんやって。と聞いてはいましたが、どちらの先生も演技上手でつい、引き込まれてしまいました。でも、子どもたちは・・・と見回してみると、見てましたね。ちょっと斜に構えたい子達もついつい、笑顔になってしまっていたように感じました。楽しい気分。大切ですね。別のクラスのお母さんたちともお話しして、楽しい時間となりました。明日は中学校で保護者説明会。今日のワークの話しを来られなかったお母さんとも出来たらと、思っています。」1月21日 15:01

(人間関係プログラムの効用と効果—松江市立第一中学校)
このようにして実践される人間関係プログラムの効用は何か・・・それは、関わっている人間どうしの関係性を深め、人間としての興味をそそっていくということでしょう。コミュニケーションの本質を学び、それを学級のなかでともに取り組むことで、自分も周りも大切にできる受容性を育てます。そして、それをシェアすることにより、一人ひとりの人間としての枠組みを大きく拡げます。大きく拡がった人間の枠組みは、相手の気持ちを想像しながら主張できる人間関係調整力にまで高まっていくのです。その結果、一人ひとりの相乗効果としてあらわれ、ひとりではできないことを集団として達成していくのです。規範やルールが外からのものとしてではなく、自分たちのなかから湧き上がってくるのです。

左の写真—人間関係づくりの授業、学年としての授業満足度の上昇

右の写真ーQ−Uにおける満足群7割以上(全国平均は約三割)

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岡崎 哲也 すごい結果に繋がっていますね。QUでの満足群が76 %になったのは、分析通り、プログラムの継続的な実施によるものだろうと納得します。凄く刺激を受けますね。清水中は、早速プログラムを行ったようですので、本校でも、直ぐに取り組みたいと思います。シェアさせてください。研究発表がすごく楽しみです。18時間前
奈良井 孝 今日も1年部の担任たちは、学年朝礼の打ち合わせから「ストレスチェック」の時間をどう展開するのがよいのか、アイデアの交換をしていました。ここまでの取り組みは、今までになく職員室のなかに教員同士の交流を具体的に促しました。教員自身が、引かれ合い影響しあう関係性のなかで、取り組みが進んでいます。プログラムのもつ力を感じます。各学年の学級の中でも、「トーキング系」のプログラムが盛り上がるようになったようです。聞くこと、聞いてもらうことに心地よさを感じる空気が学級集団に生まれているようです。子どもたちの心の枠組が少しずつ変化してるのかなと思います。14日には、数値の状況に加え、生徒や担任の思いの様子をお伝えしたいと思います。よろしくお願いします。13時間前

(依存性から主体性へ—人間の成長)
依存的な人は、ものごとの結果を人の責任にします。そして、攻撃的になったり受身的になったり、場面や所属を変えるごとにコインの裏表のような変化をします。このあり様がいじめ・不登校を生み出します。つまり、人間としての核が育っていない故の悲しい出来事だと言っていいでしょう。仮に、子どもの頃そうはならなくても、大人になって難しい生き方を強いられるのです。その結果が職場のいじめだったり、虐待だったり、「うつ」だったりします。
一方、主体的な人に成長すれば、認知力の高まりにより、自分の将来像を描き、目的に向かって何をすればいいかを理解します。自分に対するまわりの人からの評価を積極的なフィードバックとして受けとめることができます。人間のまわりに人間が集まっていくという相乗効果をあらわすことができるのです。その結果、心がひろがり、人間を「許す」ことができる人に成長します。いじめを見れば、正しいフィードバックを返し、不登校の仲間に接すれば、力を分け与えることができるのです。

そんな実践を可能にする人間関係プログラムに取り組んでみませんか?

<(告知)
2014年2月14日(金)、松江市立第一中学校において人間関係プログラム(ガイダンスプログラム)実践報告大会が開催されます。
13:10 公開授業(ストレスマネジメント2本—4クラス)
14:45 構成的グループエンカウンターの大看板、鹿嶋真弓先生(高知大学)
の講演と、現場と鹿嶋先生によるチャレンジ対談を用意しています。わたくしがコーディネーションいたします。既成概念をひっくりかえすスペシャル対談です。
松江市内、および、周辺の方々、どうぞご参加ください。
問い合わせ先—松江市立第一中学校(奈良井教頭先生)、松江市教育委員会生徒指導推進室、あいあいネットワークofHRS(info@aiainet-hrs.jp)

関連記事)
Q−Uが「いじめ」の解決に役立つ理由 https://edupedia.jp/entries/show/1542

あいあいネットワークofHRS http://www.aiainet-hrs.jp

図書文化社HP http://www.toshobunka.co.jp/books/detail.php?isbn=ISBN978-4-8100-3636-7
amazon://

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