『うば車』で強い意志を育む(坂本哲彦先生)

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はじめに

この記事は、坂本哲彦先生が運営されているホームページ「坂本哲彦 道徳・総合の授業づくり」から引用させて頂いたものです。坂本哲彦先生のホームページはこちら→http://sakamoto.cside.com/

対象

中学校ならどの学年でも。小学校の高学年でも可。

授業のねらい

赤ちゃんの歩く姿を見た少女の気持ちを話し合うことを通して、 より高い目標を目指し、希望と勇気をもって着実にやり抜くことのよさを感じ取り、強い意志をもって生活しようとする態度をはぐくむ。

学習内容

(1)希望と勇気をもとうとすること

  • 赤ちゃんの母親の言葉について考えること
  • 少女の前向きな気持ちを想像すること

(2)自分の生活について振り返って考えること

  • 希望と勇気をもって生活しているかどうか、自分の生活について考えること
  • 今後の願い、課題(授業の感想)

資料

杉みき子「うば車」
『小さな町の風景』所収 P13-15(1982.9 偕成社)

内容と扱い方

春、中学生だと思われる少女が登校途中の下り坂で毎日すれ違う赤ちゃん。母親の押す乳母車に乗っている。顔なじみになってはいたが、特に挨拶をするわけでもない。

秋が過ぎる頃、少女は風邪を引き1週間ほど学校を休む。

再度登校するとき、学校へ行くのが億劫で、足取りは重い。

いつものように坂を下るが、今日は赤ちゃんの姿がない。立ち止まって見回すと、赤ちゃんが自らの足で一歩一歩歩いて上ってきているのに気付く。「さあ、行こうね。ゆっくり、ゆっくり。」と声をかける母親。

その二人の姿を見送りながら、少女は、きゅうにしゃんと背を伸ばし歩き出す。吹き抜ける風が、ほほにこころよく、このさきは、平地の町並みが続くが、少女は、そのとき、自分の目の前にある長い長い坂を見ていた。

学習過程(50分授業)

①学校生活について発表し合う。(10分)

○学校での楽しさや大変さなど「学校のイメージ」を「色」で表すとどんな色になるか、「色」と「その理由」を自由に発表させます。

例えば、「赤」:「部活が楽しくて、苦しくていつも燃えているような毎日だから」とか「灰色」:「勉強が大変でちょっとつらい毎日だから」など……もちろん、色でなくても、普通にイメージを言葉で表してもいいです。

○ 課題提示:「今日は、学校生活や普段の生活に向かう気持ちについて、立ち止まって考えてみましょう。」

②少女の気持ちについて話し合う。(25分)

○学校を休んだ後、再度登校するときの少女の億劫な気持ちと最後の前向きな気持ちとを対比的に感じ取る組み立てとします。国語ではないので、叙述に即して心情を発表させないようにします。あくまでも自分だったらどう感じるかとか、今まで感じてきたかなどが発表するように促します。

発問1:「学校を休んだ後、再度登校する時って、どんなことを考えたり、感じたりするかなあ?この少女はどんな気持ちかなあ?」

  1. 「体がしんどい」などまだ十分に治りきっていないことに関する意見
  2. 「久しぶりなので恥ずかしい」などに関する意見
  3. 「もっと休んでいたい」という意見、などが出るでしょう。

○「学校生活や生活全体に対して、心も体も後ろ向きになっている状態」「目標や希望などがなかったり、小さくなったりした状態」「がんばろうって言う気持ちがとても小さくなっている状態」などとまとめ、再度「こんな気持ちになったことがありますか?」などと問いかけ、少女の気持ちに共感させます。また、自分の今までを振り返ってみるように促します。少女の気持ちを読み取るのではなく、自分の経験を想起することが目的です。

発問2:「少女が、急にしゃんと背を伸ばして歩き出したとき、どんなことを考えていたのでしょうか?」

  1. 「あんな小さな赤ちゃんに負けられない」など、赤ちゃんと張り合うとか、赤ちゃんに前向きな気持ちを学んだとするなどの意見
  2. 「さあ、行こうね。ゆっくり、ゆっくりと言うお母さんの言葉に励まされ、前向きな気持ちになっている」などとする意見に大きく分けられると思います。どちらが正解というのではなく、「赤ちゃんの真剣な歩み・気持ち」と「お母さんのゆっくり行く・がんばれの励まし」の両者が少女を勇気づけ、希望をもたせていることを押さえます。

○その他の少女の気持ちを補足的に尋ねることもできます。(例えば、「吹き抜ける風が、ほほにこころよい。」など)また、母親の赤ちゃんに対する気持ちを考えてみることもできます。思考がぶれないようにするなら、母親や赤ちゃんの気持ちなどにふれない方がいいでしょう。

③自分の生活を振り返って、感想を書く。(10分)

発問4:「授業の感想を書いてみましょう。授業で感じたこと、考えたことを書いてみましょう。あなたが赤ちゃんや少女からから学んだことを書いてもいいです。また、あなたが今、迷ったり、くじけそうになったりしていることを思い浮かべて書くのもいいでしょうね。」

○あからさまに、自分のつらいことや悩んでいることなどを書くことはできないと思いますので、授業の感想を書く、という構えで自分の生活や考え方などを捉えなおさせるのでよいと思います。

④ 教師の話を聞く。(5分)

○教師の学生時代の話、または、教師がこの少女から学んだことなどをくどくならない程度に話して聞かせるのがいいと思います。

編集後記

小学校高学年頃から入る思春期の時期を歩んで大人へと成長して行きますが、今過去を振り返ってみて思うことは、自分自身もあの頃は自分のことだけに精一杯だったということです。小さいことにうじうじ悩んでみたり、友達の輪の中から外れないように自分の意思を曲げてでも他人に合わせようとしたりなどなど。

でも、一歩外の世界を広く見てみると誰もが一生懸命生きています。この少女も、周りを気にせず真剣に歩く姿、そしてそれをじっと見つめ側で応援する母親の姿を見て、自分は自分らしく意のままに行こうと気づいたのだと思います。

この授業を通し、これからを生きる子ども達も広い視野を持ち、様々な経験を通し成長する中、それを応援する人の存在を大切にしていって欲しいと思いました。
 
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 肥後 京子)

実践者プロフィール

坂本哲彦(さかもとてつひこ)
山口県山口市立徳佐小学校教頭。
1961年生まれ。 山口大学卒業、山口大学大学院修了。
山口県内公立小学校教諭、山口大学教育学部附属山口小学校教諭、山口県教育庁指導主事等を経て、現職。
自身の経験を活かして、道徳実践をHP、メルマガで数多く配信している。
坂本哲彦 道徳・総合のページ
http://sakamoto.cside.com/

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