教師による共感的な理解に立った評価を意図的指名や個別の支援に生かす(坂本哲彦先生)

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目次

1 はじめに

この記事は、坂本哲彦先生が運営されているホームページ「坂本哲彦 道徳・総合の授業づくり」から引用させて頂いたものです。坂本哲彦先生のホームページはこちら→http://sakamoto.cside.com/

2 ねらい

縦割り班活動で低学年などとの関係に悩む主人公の心情や行為について話し合うことを通して、自分の役割を自覚し、主体的に責任を果たそうとする態度を養う。

3 実践の背景

「責任」に関する授業をするに当たって、子どもたちの普段の様子を観察し共感的に理解する中で、次の4名の子どものことが気になった。

A児:縦割り班活動で、生き生きと活動しているのだけど、今まで以上に班長としての仕事に自覚的になれば、一層よい心の成長が期待できそうである。そこで、道徳授業で自分を見つめる中で、自分の役割を更に自覚し、主体的に責任を果たそうとする態度を高めてほしい。

B児:クラブや委員会での自分の役割の自覚が高まっており、よりよい活動ができつつある。授業で自分の役割の自覚を更に高め、自信を深めてほしい。

C児:6年生としての役割を強く自覚しているだけに、縦割り班以外の活動においてもうまくリーダーシップが発揮できないときなどは、責任を感じ過ぎるところがある。この授業で、「責任を果たす」ということに対する自分なりの見方・考え方、ゆとりを広げてほしい。

D児:C児と同様、責任感の強いところがある。心にゆとりをもって集団とかかわるための余裕や自分なりの見方・考え方を深めてほしい。

これらのことから、この4名については、意図的に指名して考えを出させたり、個別に声をかけて考えを深めさせたりする工夫をして授業を構成した。子ども理解に関する「具体的なエピソード」は、日記や普段の観察をもとに、個人別のカルテにメモするなどしておいた。

4 資料

『出店開き』 (出典:『資料を生かしたジレンマ授業の方法』明治図書 1993年 一部改作)

あらすじ

良夫が班長の縦割り班は、1年から6年まで1名ずつの6人である。現在の活動は、それぞれの班が出店を開き、ゲーム大会をすることである。良夫たちの班は、ボーリングコーナーをすることになった。班の中で2人組を3つ作り、準備に当たることになった。

良夫は1年生のまこと君とペアで看板を作っていた。はじめは一生懸命だったまこと君も少しずつ飽きてきて、まこと君の分担は、残り時間30分というのにまだ完成しない。これからまこと君が一生懸命に作成しても間に合うかどうかわからない状態である。まこと君に代わって班長の良夫が作ろうか、それとも少し遅れても最後までまこと君に作らせた方がいいか良夫は迷ってしまった。

良夫はどうしたらいいだろうか。

5 授業の様子

1.縦割り班活動で悩んだり迷ったりしたことをグループで出し合う。(10分)

発問1:縦割り班の責任者として班の下級生をまとめて活動するときに、悩んだり迷ったりしていることはありませんか? グループでお互いの悩みを出し合ってみましょう。

縦割り班での具体的な遊びの場面を写真やビデオで提示し、雰囲気を思い出させることで、それぞれの心の動きを出しやすくした。そして、教師は、気になっている子どもの班から順に回って、それぞれの考えを傾聴した。

また、自分の思いを相手にわかってもらおうとして真剣に話している子どもや、相手の話をしっかり受け止めようとしている子どもをさりげなくほめた。

多くの友達が悩んでいることや責任を果たすためにしたらよいことについて共通理解することで、「自分の役割を自覚し、責任を果たすことの考えを深める」という本時の課題への意識化を図り、課題を提示した。

意図的なかかわり:「責任」の観点から、縦割り班の活動を振り返ることができにくい、A児に対しては、以前書いた縦割り活動の作文を読むように促し、具体的に班長の役割を尋ねたり、困った経験を問い返したりした。

2.資料を読み、主人公がどうすべきか話し合う。(25分)

縦割り班以外の運動会や委員会、クラブ活動などでの責任者としての役割についても簡単に教師の方から投げかけ、対象の生活場面や活動を広げてから、資料へ導入した。
板書に資料のポイントを記述して、状況を共通理解した後、

発問2:班長の良夫君は、まことに代わって色塗りをやるべきでしょうか?それとも、少し少し遅れてでも、まこと君に塗らせた方がいいでしょうか?

はじめに、道徳プリントに自分の選択とその理由を書かせた。①どちらを選択しても間違いではないこと、②大切なのは、選択した理由であることを確認して、全体での話し合いである。「やるべきではない」の方が少し多く、板書にあるような理由がでた。

まことに代わってあげるべきではない

  • まこと君のためにならないから。
  • 他の班員の対してよくない。不公平に感じると思う。
  • 看板はなくても店開きできるのだからやらない方がいい。
  • みんなが協力することが一番のめあて。だから一人の人が、ずるいことをするのを助けるわけにはいかない。

まことに代わってやるべきである

  • 間に合わないのだからやらざるを得ない。
  • 今更やるように言っても、無駄だと思う。今まで放っておいた自分が悪いというのも理由である。
  • 班長として、店開きを成功させることが一番大切。
  • ちゃんと説明をして悪い点を理解させる必要はある。

意図的なかかわり:班長としての責任を強く感じ過ぎるC児・D児に意図的に指名して、自分の縦割り班での活動の様子を含めて、自分の考えを発表させた。 また、自分とは違う選択、理由に対して質問をするように促した。

同じ理由をまとめて、自分がどっちの行為を選択していて、その理由はどれと同じなのかを再度捉え直させ、お互いに質問と応答をする時間を確保した。
特に次の点については、対比して考えさせた。

  • みんなが協力することが一番のめあて。だから班長が、一人の人がずるいことをするのを助けるわけには行かない。

            ↓↑

  • 班長として、店開きを成功させることが一番大切。だから、自分が代わりに色塗りをしてでも間に合わせるべきだ。

はじめはそれぞれの立場から主張を付け足したり、繰り返したりさせた。

次第にどちらの立場をとっても「責任を放棄したことにはならないのではないか。しっかりとした自分の考えをもってやればいい。」「説明も大切。」という意見や「思いやりのある責任の果たし方が大切。」などの意見が出てきた。(板書:○囲み)

また板書中央下の「まこと君と一緒に塗る」や「班のみんなで協力して塗る。」などの代替え行為を勧める意見が出てきたので、教師はその行為の裏側にある考えを捉えて子どもに返した。つまり、その行為が「だれにとっていいのか?」「班長としての役割を果たすことになるのか?」などと問い返し、それが「思いやりのある責任の果たし方の一例」となりうるかを考えさせた。

意図的なかかわり:最近、縦割り班やその他の活動で責任のある行動が確かになってきているB児を意図的に指名して、自分の班の活動や、自分が大切にしている考えを紹介させた。そして、B児の考えのよさを周りに広げるとともに、B児に一層の自信をもたせることにした。

3.授業を振り返り、授業の感想と自分の現在の思いを書く。(10分)

  1. はじめに出し合った「責任者として悩んでいることや迷っていること」に変化があったかどうか、
  2. この授業で「役割を自覚し、責任を果たす」ことについて自分はどんなことを考えたか、
  3. 次の縦割り班活動やクラブ活動、スポーツ少年団などで活動するときの自分の気持ち、

の3つの観点から授業の振り返りを書いた。

6 実践者プロフィール

坂本哲彦(さかもとてつひこ)
山口県山口市立徳佐小学校教頭。
1961年生まれ。 山口大学卒業、山口大学大学院修了。
山口県内公立小学校教諭、山口大学教育学部附属山口小学校教諭、山口県教育庁指導主事等を経て、現職。
自身の経験を活かして、道徳実践をHP、メルマガで数多く配信している。
坂本哲彦 道徳・総合のページ
http://sakamoto.cside.com/

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 細木和樹)

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