1 はじめに
この記事は、坂本哲彦先生が運営されているホームページ「坂本哲彦 道徳・総合の授業づくり」から引用させて頂いたものです。坂本哲彦先生のホームページはこちら→ http://sakamoto.cside.com/
2 対象
中学生
3 ねらい
「電車の中でのチーマー風の若者の行動とその理由」について話し合うことを通して、思いやりの心を自分なりの行動で表すことのよさを感じ取り、人に親切にしようとする態度を養う。2-(2)
4 概要
「小さな親切」運動本部が河出書房新社から毎年出版している『涙が出るほどいい話』(副題 「あのときは、ありがとう」)を御存じですか?
この本は、「身の回りで起きた、伝えたい小さな親切」をテーマに、毎年、全国から葉書で募集する「小さな親切『はがきキャンペーン』」から生まれた本です。
葉書なので、一つ一つのエピソードは短く、1,2分で読めます。一冊に100以上の「いい話」が掲載されています。
道徳の時間の読み物資料とするには短いのですが、朝夕の学活、全校朝会などでの話にはもってこいだと思います。
今日は、50分の「道徳の授業」にするということで、授業化の方法を考えてみました。
5 学習内容
(1)チーマー風の若者の行動とその理由及びそのよさ
–
<行動>若者は、空いた席の半分を埋めるように横向きで、窓枠に肘をかけて座る。
<理由>ガムが背もたれに付いている座席に、人がそれと気付かないで座らないようにするため。
<自己評価観点>自分なりの思いやりの行動をとることのよさ、すばらしさ(そのよさが中心的な学習内容)。
(2)自己評価観点から今までの生活を振り返ること
- 自分なりの思いやりの行動(の具体)。
- これからの自分の生活について考えること。
6 資料
◆「不器用な若者だけど」
『涙が出るほどいい話 第九集』PP.71-72
河出書房新社 2004.7
電車での出来事を紹介した28歳の女性(東京都在住)からの葉書。
『電車に乗り込んだ女性は、3人掛けの席に座った。同じシートに座っていたのは、チーマー風の若者一人。その女性が座るのをジーッと見つめていた。女性は座る途中に若者の視線に気付いた。が、引っ込みがつかず、警戒しながらも、一つ席を空け、手すり側にゆっくり座った。
若者は、空いた真ん中の席の半分を埋めてしまうように女性の方に向き直り、窓枠にひじをかけて座った。新たに乗り込んでくる乗客も、みなこの席に座らない。女性は、視界の隅の方に彼の視線を感じ、変な緊張感を味わっていた。
この空気の均衡を破ったのが、その次の駅で乗ってきた一人の「酔ったサラリーマン」だった。サラリーマンは、女性と若者の間の半分しか空いていない「その席」に座ろうとした。その瞬間、若者はさっと手を出してこう言った。
「ここに座らない方がいいっすよ、ガムがついているから…」
そう言いながら、背中を見せた。
よく見るとその派手なシャツとシートには、同色のガムがベットリ付いていた。若者はその若者なりのやり方で、「人がそこに座らないように気を配っていた」のだ。実に不器用ではあったが……。その時女性が着ていたTシャツは今でもきれいなまま。それを見るたび、女性はその時のことを想い出すのだった。(本文は、一人称で記述)』
7 学習過程
①サラリーマンが乗ってくる前までで、女性が若者に対して感じていたことを話し合う。(15分)
黒板の前に生徒用の椅子を三つ並べて、その時の様子を分かりやすく演じながら、「サラリーマンが乗ってくる前まで」を語り聞かせた後、発問1。
発問1:「変な緊張感を味わいながら、若者の視線を感じて座席に座っていたとき、女性はどんなことを考えていただろうか?」。
若者の役割を教師が演じ、女性になったつもりで、役割演技させながら(若者にジーッと見つめられながら座るところから、若者が横座りするところまでを演技させながら)感じたこと、考えたことを発表させる。
- 「チーマー風で少し怖い」「何だかいやな感じがする」など、「外見から嫌悪感を感じている」とする意見。
- 「ジーと見つめ」たり、「窓枠に肘をかけ、空いた席の半分を埋め」たりする「行動から嫌悪感を感じている」とする意見。
- それらから、何か言われたりされたりするのではないかという「警戒感を感じている」とする意見。
- 「一人で二人分の席を取るなんて失礼なやつ」などという「公徳を守れ」とする意見。
などに分けて板書。「こんな若者になってはいけないよね。」くらいで、とりあえずまとめる。
そして、「この話には続きがあるんだよ」と、もったいぶって、「(サラリーマンが半分しか空いていないその席に座ろうとした瞬間)若者はさっと手を出した」までを読み聞かせる。生徒二人に女性と若者の役そして、教師が酔ったサラリーマン役をしながら、場面を提示するのがよいかな。
②若者が「さっと手を出した」理由について話し合う。(20分)
発問2:「若者がさっと手を出したのはどんな理由からだと思うか?」
これは、興味関心を高めるために問うだけなので、2,3名に発表させるだけでよい。例えば、「自分の席が狭くなるので、サラリーマンに座らせたくない」「酔っているので、サラリーマンがいやなので、座らせたくない」などの意見が出る。「ともかくサラリーマンにその席に座らせたくないんだね」と受けておいて、続きを伝える。
「実はね……」とまたまたもったいぶって、若者の発言「ここに座らないほうがいいっすよ、ガムがついているから…」を伝える。
続けて、「同色のガムがベットリ付いており、女性は驚いた」までを読み聞かせ、女性はそのことを「彼は、彼なりのやり方で、人がそこに座らないように気を配っていたのです。実に不器用ではありますが……」と、女性の受け止めを紹介する。
発問3:「彼女は彼のやり方について『実に不器用なやり方』と述べていますが、皆さんは、彼をどう思いますか。特に、彼のやり方についてどう思いますか。」
まず、(a)「なかなかいい若者だなあ」「人を外見で判断するのはよくないなあ」、(b)「だから、女性が座るところをジーッと座るのを見ていたんだな」「なるほど、横座りして座席の半分をふさいだんだな」などの(a)感想や(b)行動の理由を確認する。
そして、「ほかの行動にはどんな方法があったのか?」として、
1. 「車掌に伝えて、貼り紙をしたり、ガムをすぐに取り除いたりする」などもあるかな、などという車掌に訴えるとする行動。
2. 「一人分の席にきちんと座りながらも、人が真ん中の席に座ろうとする時に、いちいちガムのことを説明する」などの行動。
3. 「ガムがベットリ付いている真ん中の席に背もたれから背中を離して座る」などの行動。
「彼のやり方についての考え」をみんなに出させた上で、
(このあたりの段取り、すっきりしませんね……)
(ア)「幾つかの方法があるけど、彼のやり方もなかなかいい方法だな」(客観的な捉え)
(イ)「彼の方法は①~③と比べて、現実的かも…自分もそうするかもな」(主観的な捉え)
(ウ)「その他」などを引きだし、「思いやりのある行動は、いろいろあること」、そして、「自分なりに納得した(工夫した、あるいは毅然とした)方法で行動に移すことが大切であること」を共通理解し、「思いやりの行動は、自分なりに納得した(工夫した、あるいは毅然とした)ものであることが大切なんだな」とする本時の学習内容である「自己評価観点」を設定する。
③若者のように「自分なりに納得した(工夫した)思いやりの行動」を観点に自分の生活を振り返って、感想をプリントに書く。(10分)
発問4:「みなさんは、この若者のように、自分なりに納得した(あるいは工夫した)行動で、思いやりを示したことがありますか?今までの生活を振り返って、また、今後の生活を見通して、今日の授業の感想をまとめてみましょう。すごく具体的でもいいし、大雑把にこんなことがあると思い出してもいい。少し時間をとるので、プリントに書いてみましょう。書けなければ、考えるだけでも構いません。」
④教師の話を聞く。(5分)
『同書 第七集』所載「やるじゃん!」(PP.163)を読み聞かせる。
内容:茶髪に数個のピアス、流行のキャミソール姿の十代のギャルが混雑する駅のホームの階段で、手すりにつかまりながら怒鳴っている。
「ちょっと!つぶされちゃうじゃないか、押すなよ!」
彼女が体をはってガードし、人混みに押されないように守っているのは……………
「一人のおばあさんだった」。
「やっと階段の上までおばあさんを押し上げた彼女は、何事もなかったように友人と去っていった」というお話。
この書物は、公共施設や公共の乗り物での出来事が多く掲載されているので、2,3合わせ技で資料とするのもいいかもしれません。
時間があれば、この女性の気持ちを少し出し合ってみるのもいいかもしれません。これら、電車や駅の話は、都市部の子どもでないと分かりにくいかも知れませんね……。
8 実践者プロフィール
坂本哲彦(さかもとてつひこ)
山口県山口市立徳佐小学校教頭。
1961年生まれ。
山口大学卒業、山口大学大学院修了。
山口県内公立小学校教諭、山口大学教育学部附属山口小学校教諭、山口県教育庁指導主事等を経て、現職。
自身の経験を活かして、道徳実践をHP、メルマガで数多く配信している。
坂本哲彦 道徳・総合のページ
http://sakamoto.cside.com/
9 編集後記
非常に考えさせられる内容でした。一見不親切だけれど親切なこの若者の行動は、生徒が自分たちの行動を考えるきっかけとして素晴らしいと思います。誰からも親切に映る行動をするか、反感を買いながらも行動に移すか、親切な気持ちの外への表し方は様々です。それは人の個性が十人十色であることと同じだと感じました。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 藤井友香里)
投稿日 2014年 3月25日
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