視覚に訴える「することマグネットシート」(長谷川隼土先生)

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目次

1 はじめに

横浜市立霧が丘小中学校、長谷川隼土先生の実践です。
この記事では長谷川先生が実践されている、「することマグネットシート」についてご紹介します。

以下の記事は過去に掲載した長谷川先生の実践です。こちらもぜひご覧ください。

「教室はまちがうところだ」で失敗をおそれない学級づくり(長谷川隼土先生)
→( http://goo.gl/LRqJWZ

1日に児童全員と会話のできる「一人一役当番表」(長谷川隼土先生)
→( http://goo.gl/IEvydY

2 この記事で紹介する実践

今回のすることマグネットシートについて、長谷川先生にお話をうかがいました。

この実践を行うようになった背景

長谷川先生は子どもが集中力を欠いたり、騒いだりしてしまう時の原因は、教師との信頼関係や授業の面白さなど色々あるかもしれないが、「何をしたらいいのかわからない状態にある(特に最初に出した指示が「終わったら」何をしたらいいのか)」ことだと言います。
 
大村はま先生も、著書「教えるということ」の中で、『「子どもというものは、(中略)それをやることがわかればこんな姿(→教室で騒いでいた子ども達が新聞の教材を与えられ、食いつくように勉強し始めた姿)になるんだな。」ということがわかりました。それがないという時に子どもは「犬ころ」みたいになるということがわかりました。』と仰っているそうです。

子どもに指示を出す際、
「①何を
「②どのように」
「③どれだけ」
「④終わったら何をするか」

を示すことが大切だということは聞いたことがあるかもしれませんが、とりわけ①と④の「何を」を示すことが非常に重要だそうです。

長谷川先生は初任の頃に、「ある課題を与えた後、『終わったら何をするか』の指示が、視覚として残るような何かがあるといい」と思い、そして黒板にその指示を書くことよりもずっと早く、できれば1秒以内にできる何かはないかと考えていました。書いたり何らかの形で示したりしないと、子ども達は教師の「終わったら何をするのか」の指示が頭の中から消えてしまうし、もしその指示を守っていなかったら、「ほら、こうしてここに貼ってあるでしょう。」と言うことができるとのことでした。

そして長谷川先生が注目されたのが、100円ショップによくある「色とりどりのマグネットシート」でした。

長谷川先生が一番初めに使い始めたのがこの2つのすることマグネットシートだそうです。

具体的な活用方法

現在どの学級にも、特別支援が必要な児童が4%から6%いると言われています。そのような児童への対応がうまくいかないことが、様々な学級内のトラブルや学級崩壊の一因になっているそうです。長谷川先生は「特別支援が必要な子に優しいことは、どの子にも優しい」という観点から、この視覚に訴えるすることマグネットシートをあらゆる場面で活用されています。

「漢字スキル」は一般的に赤い冊子が多いため、「漢字スキル」のすることマグネットシートは、赤いマグネットシートを用いて作られたそうです。子どもの中にはこの「」が貼られたのを見ただけで、もうスキルを出して、指定されたページを開き、書き順を確認している子もいます。長谷川先生はそういう子をほめてクラス全体を授業にのせていきます。

ちなみに「計算スキル」は一般的に青い冊子が多いため、「計算スキル」のすることマグネットシート青いマグネットシートを用いて作られたそうです。

その他にも、変則日課の曜日の授業開始時刻を知らせたり、

週末に荷物を持って帰らせたりする時の指示にも使います。

「ミニ先生」といったマグネットシートもあります。長谷川先生の学級では、算数で授業中にはやく計算問題などを解き終えた子どもが、まだ解き終えていない子どもに教えるという場面を作り、その時間差を埋めたり教え合ったりしているそうなのですが、こういった際にはこの「ミニ先生」のすることマグネットシートを掲示し、終わった名前のマグネットをその下に貼らせ、だれがミニ先生として動いているのか目で見てわかるようにしているのだそうです。

活用する際のポイント

することマグネットシートを貼るタイミングは、その使い方によって様々ですが、基本的には「その指示をさせたい直前」に貼るのがいいと長谷川先生は言います。これはずっと貼ってあるというのは、注目させるという意図からもはずれ、効果が薄くなってしまうからだそうです。(その行動を予告させる場合は除きます。)

何枚も貼ってあるという状況もNGです。ずっと貼ってあるのと同様効果が薄れてしまいます。

マグネットシートの下にチョークで文字を書き加え、指示がより効果的になるように工夫することもあるそうです。

このすることマグネットシートをつくるのに「高価」な材料が必要となることはありません。それでいて大きな「効果」があると長谷川先生は言います。最終的に目指すねらいは、「自分たちで学習ができるような集団」を作ることだそうです。することマグネットシートがない環境であったとしても、その有用感を覚えて、自分たちで生活に生かしていくことを目指しているということです。そうでないと、指示を待つ集団にもなりかねません。そういう意味で、長谷川先生は状況に応じて徐々に解除していく必要があるとも考えているようです。

3 取材

後日、長谷川先生がすることマグネットシートを実際の教室で活用されている様子を取材させていただきました。

「朝読書」の時間

朝、「読書」のすることマグネットシートが貼ってあります。

「朝読書の時間です。」、「読書をしましょう。」などと声をかけなくても、「読書」のすることマグネットシートを見ただけで児童は自分達で読書を始めていました。

「算数」の授業

算数の授業では、児童がそれぞれ「計算スキル」を解く時間がありました。長谷川先生が「計算スキル」と書かれた青色することマグネットシートを黒板に貼り、「計算スキル」というと、児童は計算スキルの準備を始めました。

長谷川先生は黒板に「計算スキル」のすることマグネットシートを貼るだけでなく、そこに児童がこれから解くスキルの問題番号をチョークで書き足し、タイマーもセットしていました。

ここでも「計算スキル、40。」といった声かけを聞いて、「計算スキル」のすることマグネットシート、板書、タイマーを見た児童は自分達で計算スキルをやり始めていました。
 
黙々と計算スキルに取り組む児童。長谷川先生は一人一人の様子を丁寧に見ていました。

「歯科検診」の時間

また、その日は歯科検診がありました。歯科検診は担任の引率で学級の児童全員が保健室に移動し、検診を受けた児童から順番に教室に戻ってきます。長谷川先生は学級の児童を引率して保健室に行く前に、「終わったら」と「読書」のすることマグネットシートを組み合わせて黒板に貼っていました。

教室に戻ってきた児童は、このマグネットシートを見て読書を始めます。最初は教室に長谷川先生がいませんが、それでも児童は静かに読書をしていました。

段々と教室に戻った児童が増えますが、それでも教室は静かなままです。

全員が集まり、長谷川先生が話し始めます。児童が静かに読書をしていたので、次の長谷川先生の指示も児童は落ち着いて聞くことができていました。

次の授業の準備

給食のあとに清掃、そして午後の授業と続きます。今日は変則日課のため、ほうきや雑巾を使わずゴミを手で拾う「簡単清掃」でしたが、給食の片付けが終わったあとにふと黒板を見てみると、「ゴミ30こひろったら」、「1:20~授業」のマグネットシートが黒板に貼ってありました。

「ゴミ30こひろったら」のすることマグネットシートの下には、「習字のじゅんび。」とチョークで書かれていました。

長谷川先生に聞いてみたところ、児童が自分で2つのマグネットシートを貼り、その下にチョークで「習字のじゅんび。」と書いたとのことでした。このように朝の会で今日が変則日課だと知った児童が自分たちですることマグネットシートを貼ったり、黒板にチョークで今回のような注意書きを書いたりすることもあるそうです。

そしてこの日、簡単掃除と次の授業の準備が終わったのは13時13分でした。次の授業が始まる7分も前に簡単清掃と準備が終わり、児童は静かに席に座っていました。

新しいすることマグネットシート

今回の「ゴミ30こひろったら」のマグネットシートは、先日お話をお伺いした時にはなかった、新しいすることマグネットシートでした。このように、することマグネットシートは学期の途中でも必要に応じて新しいものが追加されます。いままで使っていたものをさらによくするために改めて作り直すこともあるそうです。

ちなみに長谷川先生が活用されているすることマグネットシートは、黒板近くの机の横など(あまり目立たないところ)に貼り付けてあり、必要に応じてすぐに使えるようになっています。

編集後記

今回の取材を通して最も印象に残ったのは、長谷川先生が口頭で指示を出すのに加えて、児童がすることマグネットシートを見て自主的に行動していた様子です。児童が自主的に行動することができれば、その間に教師は他のことをしたり、じっくりと児童の様子を見たりすることができます。このマグネットシートを活用することによって得られる効果は児童だけでなく、教師にもあるのだと感じました。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 菊池信太朗)

講師プロフィール

長谷川 隼土(はせがわ はやと)
日本体育大学を卒業後、青葉台幼稚園にて体操教室を開設。
その後小学校教諭に転職し、現在横浜市立霧が丘小中学校勤務。
「人間はどのような発達を遂げていくのか」をテーマに、学級経営や体育を中心に研究を進めている。

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