1 はじめに
こちらの記事は、静岡県で30年間以上続く教員サークル、シリウスのホームページに掲載されている教育実践法の一つをご紹介しています。
http://homepage1.nifty.com/moritake/
2 実践内容
この詩で一番大切な一行はどれか
最近注目を浴びている金子みすゞの詩を学んだ。一人一人が違っていること、人それぞれによさがあることを力強く認められ勇気づけられる。
授業では詩を何回か読んでからこう問うた。
この詩は3つの部分に分かれます。どことどこで分かれるでしょう。
詩は初め、連と連の間を空けないで黒板に書いた。こうして見せても子どもたちはちゃんと話のまとまりをとらえることができた。
- “地面をはやくは走れない”“たくさんなうたは知らないよ”で分かれる。
- 最初のところは小鳥のことが書いてある。次のところはすずのことが書いてあるから。
- 最後のところは、これまでとはちょっと違った感じがする。
このように詩にはいくつかのかたまりがあり、連と呼ぶことを知った。
次に詩の内容について尋ねた。
私ができることはなんですか。私ができないことはなんですか。
これは詩の中に書いてあるからすでに答えるのができた。
〈できること〉
- 地面を速く走ること、たくさんなうたを知っていること
〈できないこと〉
- 空を飛ぶこと、きれいな音を出すこと
この詩で一番大切な一行はどこですか。
詩の最後の二行が挙げられた。
〈すずと小鳥とそれからわたし〉2人→0人
- わたしと小鳥とすずのことを書いてあるから。
- 題名と同じことが書いてある。
〈みんなちがってみんないい〉12人→14人
- 終りの一行がないと変になっちゃう。
- 最後にまとめているから。
- みんな違う能力を持っているから“みんないい”と書いてある。
- みんな同じだとつまんない。みんな違うからこの世に生まれてきている。
次に尋ねたのが“みんなちがってみんないい”の“みんな”についてである。
“みんなちがってみんないい”のみんなとは誰ですか。
ほとんどの子が、わたし・小鳥・すずの三つをあげたが、一人だけ〈すべての生き物〉をあげた子がいた。そこでこの〈すべての生き物〉がみんなの中に入るかどうかを考えた。
“みんなちがってみんないい”のみんなの中に全ての生き物は入るだろうか。
〈入らない〉2人→0人
- 詩の中に書いてあるのは、私と小鳥とすずで、すずは生き物ではないから。
〈入る〉12人→14人
- 小鳥も生き物だし、私とすずと小鳥の3人で“みんな”とは言えないから、生き物は入ると思う。
- 虫だって、ピョンとかサササって草にあたったりする。みんなちがってみんないいには虫もいると思ったから〈入る〉と思う
- みんなって書いてあるから、生き物とかいろいろな生き物は入ると思う。
- みんなというのは3人では少なすぎるから、全部の生き物は入る。
このように“みんなちがってみんないい”の中にはすべての生き物が含まれるということが確かめられた。
3 みすゞさんの言いたかったことは何か
私と小鳥とすずの中で一番大切な一行“みんなちがってみんないい”にはすべての生き物が含まれていることが分かった。では、みすゞさんはこのすべての生き物は含まれていることをどんな言葉で表現しているだろう。
みすゞさんは、犬・猫・花・虫など全ての生き物が入ると考えていました。ではそのことを詩の中ではどの言葉で表しているのでしょうか。
これはかなり難しい問題である。詩に赤線を引いてもってこさせた。ノートを持ってきて私に見せるたびに「ざんねん」と言われる。何度も何度もノートを持ってくるが合格にならない。ノートのほとんど全部が赤線で真っ赤になって引くところがなくなってしまった。
「どこに引いていかわからないよ」と弱音が上がり始めた。
「まだ引いていないところがあるよ」とヒントを伝えると、あまり活躍しないSくんが題名「わたしと小鳥とすずと」に線を引いてきた。
思わず「おしい!」の声。その声にびっくりしてSくんは目をまん丸くしている。五巡した頃だろうか。ようやく題名の「わたしと小鳥とすずと」の「と」に線が引かれた。またSくんである。「せいかい!」またまたSくんは目をまん丸くしている。
どうして「と」一文字が犬や猫・花・虫などのすべての生き物を表すのですか。
「と」の持つ意味について考えてみた。
- 「と」があるからまだ続いていること。だから一文字だと思う。題名に全部の生き物を書けない。
- 「と」は全部の「と」だから。
- 最後に「と」があるからまだ続きがある。
このように全ての生き物が含まれていることがわかった。次に、
“みんなちがってみんないい”をもっとわかりやすく書くとどうなるだろう。
この詩のテーマに迫る質問をした。
- 人それぞれちがってみんな幸せ。
- 人それぞれの力が違うからみんないい。
- みんな違う所があるから、みんないいということだと思う。
- みんな違うと楽しくて嬉しい。
- 人それぞれいろいろな性格が、みんないい。
ここで同じことを違う言葉で表現している歌を紹介した。
みんながよく知っている歌で「わたしと小鳥とすずと」と同じことを言っている歌があるんだけれど、何という歌か知っていますか。
「わからない」という声が挙がっていたが、やがて「世界に一つだけの花」という題名が出された。その通りである。一人ひとりの違いを認めたすばらしい歌である。歌詞を配り読み聞かせた。
「世界に一つだけの花」を読んだところで学習のまとめをした。
この勉強の感想を書こう。(児童の感想一部抜粋)
- みんなちがってみんないいのは、楽しいな思った。みんなもいろいろ一杯に書いたんだなと思いました。みんな違うのはいいなと思いました。わたしと小鳥とすずは、いい話だと思います。世界に一つだけの花もいいと思いました。それは違うと楽しくて嬉しいから。
- みんな違うことはいいことが分かったよ。だからうれしかった。あと世界に一つだけの花も、みんな違うってことは知らなかったけれど、わかったからうれしかったよ。どうしてうれしかったというといろいろ分かったから。
- みんなちがってみんないい、っていうのはやっぱり大事で、みんな同じだったらつまんないし、最初の「わたしと小鳥とすずと」の最後の「と」の後には、まだほかにもはいると思った。
- みんなちがってみんないいということは、みんないろいろあること表していると思った。ぼくはみんな違うのはいいことだと思う。あと世界に一つだけの花がみんなちがってみんないいだとは思わなかった。みんな特別な力を持っている。犬でも人でもみんな違うよさがあるんだ。
4 プロフィール
静岡県教育サークル シリウス
1984年創立。
「理論より実践を語る」「子どもの事実で語る」「小さな事実から大きな結論を導かない」これがサークルの主な柱です。
最近では、技術だけではない理論の大切さも感じています。それは「子どもをよくみる」という誰もがしている当たり前のことでした。思想、信条関係なし。「子どもにとってより価値ある教師になりたい」という願いだけを共有しています。
5 書籍のご紹介
「教室掲示 レイアウトアイデア事典」(明治図書2014/2/21発売)
「学級&授業ゲームアイデア事典」(2014/7/25発売)
「係活動システム&アイデア事典」(2015/2/27発売)
「学級開きルール&アイデア事典」(2015/3/12発売)
6 編集後記
有名な「わたしとことりとすずと」の詩を、段階的にわかりやすく紐解いて理解させていく指導案です。普通の物語や説明文などと異なり、詩は短くて読解の手がかりが少ないですが、何気ないちょっとしたフレーズや言葉に作者の意図が込められている場合が多いです。先生が誘導しつつ、上手く子どもたちにこの詩の良さを感じさせている、とても素敵な実践です。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 内藤かおり)
コメント
コメント一覧 (1件)
詩が好きになるような授業ですね。「と」に着目させることに、道徳ではなく国語の授業を感じました。読後に「みんなの違うところ」を書くと、面白い詩が生まれそう♪