1 はじめに
こちらの記事は、静岡県で30年間以上続く教員サークル、シリウスのホームページに掲載されている教育実践法の一つをご紹介しています。
http://homepage1.nifty.com/moritake/
2 実践内容
「アレクサンダとぜんまいねずみ」は、かわいがられていたおもちゃのウィリーが、貧しく危険なアレクサンダと同じ立場になって大喜びをするというどんでん返しのおもしろさがある物語です。
主人公のアレクサンダの気持ちが、はじめとあとでは全く異なっています。ここがこの作品の山場であると考えます。安全で満たされていても主体的ではない生き方よりも、危険で満たされなくても生き生きと自ら生きる方がどんなに充実しているかをこの物語は暗示しています。
3.願いのちがい
とかげが願いをかなえてくれることを知ったアレクサンダは、自分がぜんまいねずみに変わりたいと願います。しかし、ウィリーの様子を見たアレクサンダは、心が動きます。アレクサンダの願いとウィリーの願いについて検討しました。
発問1 アレクサンダの願いとウィリーの願いは同じですか ( 同じ・違う )(※青色=教師の発問/以下同様)
< 違う > 多数
15文:“みんなぼくをかわいがってくれるよ”
- ウィリーはみんなにかわいがってもらうのでうれしい。
21文:“ねじをまいてもらったときしかうごけない”
- アレクサンダは動ける。ウィリーはおもちゃだから動けない。
28文:“ちやほやされてみたい”
- アレクサンダはみんなにちやほやされてみたくて、ウィリーは捨てられたくない。最後、二人は同じ(願いに)なる。
- みんなにちやほやされたいとアレクサンダは願いを言っている。ウィリーは願いを言っていない。
- アレクサンダはウィリーになりたい。
48文:“ぼくらはみんなごみばこいきさ”
- アレクサンダはウィリーみたいになりたくないと思った。
- ウィリーはアレクサンダになりたいと思う。
- アレクサンダははじめの願いをやめて、ぼくみたいな本当のねずみにしたいと願いを変えた。
62文:“ウィリーをぼくみたいなねずみにかえてくれる”
- ウィリーはアレクサンダになりたくて、アレクサンダはウィリーになりたいと思っている。
- ウィリーは本当はアレクサンダみたいになりたい。アレクサンダは、ぜんまいねずみになりたい。
ほとんどの子がアレクサンダの願いとウィリーの願いは違うと考えました。話し合いの当初は、ウィリーはアレクサンダのような本当のねずみになりたいという考えが多かったです。
やがて、ウィリーは自分の願いを言っていないという意見が多くなりました。確かに物語を読むと、47文で“ぼくらはみんなごみばこいきさ”と言っていますが、“○○になりたい”とはっきりとは言っていません。
このように、アレクサンダは、ウィリーのようにちやほやされるぜんまいねずみになりたいと願っていることがはっきりしました。
発問2 アレクサンダはウィリーを自分より上だと思っていますか? それはどこでわかりますか?
上記の発問を用意していましたが、発問1の話し合いの中で、アレクサンダがウィリーをうらやましいと思っている気持ちが十分出されたので、ここでは改めて話し合いをすることをしませんでした。
次に、アニーとウィリーの関係について考えました。
発問3 アニーはウィリーのことが好きですか?
この発問に対しては、子どもの考えが分かれました。
< 好き > 13人
15文:“おきにいりのおもちゃさ”
- お気に入りというのは、好きという意味だから嫌いではないと思う。
- さいしょはすきだった。
- 古いおもちゃが一杯になったから捨てただけで、かわいがってくれたから。
- アニーのお気に入りだから好きだと思う。
- 大切にしていたし、小さい頃からずっと使っているから好き。
- お気に入りというのは「大切」ということだから。
21文“みんなぼくをかわいがってくれる”
- アニーはかわいがってくれるから、最初から嫌いなわけではない。
- アニーのお気に入りのおもちゃ。アニーはウィリーのことが好きだったけれど、古くなったので捨てた。
- アニーのお気に入りだから。〈嫌い〉とは違うと思う。
- さいしょは古くないから好きで遊んでくれる。でもどんどん古くなってアニーも嫌いになった。
< 嫌い > 10人
46文:“みんながプレゼントをもってきた”
- みんなが誕生日にプレゼントをもってきた。アニーは新しいのが気に入って、ウィリーを箱に入れたから。
48文:“古いおもちゃがたくさんこのはこに捨てられたんだ”
- 捨てられてかわいそうだから、好きではない。
- 誕生日が来るまで好きだったけれどお気に入りではなくなった。本当に好きなら他の箱とかに入れておく。
- 古いおもちゃがたくさん捨てられるから。好きなら捨てないと思う。
初めはアニーもウィリーが〈好き〉だったけれど、新しいおもちゃをもらってウィリーがいらなくなってしまったのです。「本当に好きならウィリー」を捨てたりしない、という意見が支持され、〈アニーは本当にウィリーを好きではない〉という考えに変わった子が多かったです。
自分にも同じような経験があるという話をした子がいました。新しいおもちゃを買うと古いおもちゃをしまう場所がなくなり「片づけなさい(捨てなさい)」と言われている子が多いらしく、「うん、うん」とうなづきながら話を聞いていました。
4.ウィリーとアレクサンダの生活
アレクサンダの気持ちが変わったのはいつかを検討しました。まずは、二匹の生活の違いを浮き彫りにしました。
発問1 ウィリー、アレクサンダの生活を一言でいうとどんな生活ですか?
ウィリー:幸せな生活、楽しい生活、嬉しい生活、かわいがられている、金持ち
アレクサ:悲しい生活、危ない生活、貧しい生活、逃げ回っている、貧乏、独りぼっち、かわいがられていない、寂しい、暗闇、つらい、満足に食べられない、かわいそう
二匹を生活を対比して発言する子が多かったです。発言した内容を黒板に書き一覧にしてみると、明らかにウィリーの方が恵まれた生活に見えます。
ウィリーの方が恵まれた生活であることを確かめました。しかし、アレクサンダは結局、ウィリーを自分のようなネズミに変えてもらうよう、とかげに頼みます。「このことは、おかしくないか? ウィリーのようなぜんまいねずみになりたかったのではないか?」と話をしてからこう尋ねました。
発問2 アレクサンダの気持ちが変わったのはいつですか?
次の場所があげられました。始めに多かったのは〈48文〉〈60文〉でした。
48文:“ぼくらはみんなごみばこゆきさ”
- 自分もぜんまいねずみになろうとしていたけれど、自分も古くなって捨てられるのが心配になったから。
- ウィリーと友達になったのに、すぐに別れるのがイヤだから。
- かわいそうに、と思って気持ちが変わった。
- アレクサンダは、ゴミ箱行きのウィリーを見て本当のねずみにしたいと気持ちが変わった。
- ウィリーが捨てられちゃうから、願いを変えた。
49文:“アレクサンダはなかんばかり”
- ウィリーをかわいそうだと思った。
53文:“いや、本当だ。むらさきの小石だ!”
- ウィリーは最初かわいがられていた。ウィリーみたいになったら、いつか捨てられることがわかった。自分も捨てられたら人生なくなる。ウィリーと一緒じゃイヤだと思って気持ちがわかったから、むらさきの小石が見つかった。
57文:“おおいそぎで、かれはよんだ”
- ウィリーが捨てられないようにという(アレクサンダの気持ちが)“おおいそぎ”にでている。
- もしゴミ箱行きになったら、初めてできた友達がいなくなってしまう。すぐに友達がいなくなるのはイヤ、だからここで気持ちが変わった。
- ゴミ箱行きにされないうちにと急いだときに気持ちが変わった。
60文:“「ぼくは…」アレクサンダは、言いかけてやめた。”
- ウィリーがかわいそうだし、自分も捨てられたらイヤ。きっと自分も捨てられる。このままだとイヤだと思ってまよった。
62文:“ウィリーをぼくみたいなねずみにかえてくれる?”
- ウィリーが捨てられるとアレクサンダには友達がいなくなる。ウィリーを変えればまだ友達でいられる。
話し合いをして〈57文〉に支持が集まってきました。私自身は〈60文〉だと考えていたのですが、子どもたちの話を聞いていると“おおいそぎで”という言葉の持つ意味を深く考えさせられました。
正解を告げることはできませんでしたが、アレクサンダは〈57文〉でどんどん気持ちが変わり初めて〈60文〉で最後の最後まで迷って〈61文〉で決心したのかもしれないね、と話をしました。
今回は実践できませんでしたが、機会があれば次の発問もしてみたいです。
発問3 アレクサンダが「言いかけてやめて」から「とかげよとかげ」というまでにどのくらい時間がかかったでしょうか? アレクサンダが言いかけてやめたのは、ウィリーのことを思い出したからですか?
3 プロフィール
静岡県教育サークル シリウス
1984年創立。
「理論より実践を語る」「子どもの事実で語る」「小さな事実から大きな結論を導かない」これがサークルの主な柱です。
最近では、技術だけではない理論の大切さも感じています。それは「子どもをよくみる」という誰もがしている当たり前のことでした。思想、信条関係なし。「子どもにとってより価値ある教師になりたい」という願いだけを共有しています。
4 書籍のご紹介
「教室掲示 レイアウトアイデア事典」(明治図書2014/2/21発売)
「学級&授業ゲームアイデア事典」(2014/7/25発売)
「係活動システム&アイデア事典」(2015/2/27発売)
「学級開きルール&アイデア事典」(2015/3/12発売)
5 編集後記
二つの対照的な生き方への選択を、その場面場面の記述を基にして考えさせてくれる素材です。発問を通して、幸せそうに見える相手の生き方に憧れるものの、よくよく考えると自分の生き方に変えられるものはないということを実感できたのではないでしょうか。また、そこに至るまでの気持ちの変化を文章の中からうまく拾うことで読解力が自然と身についていく構成になっています。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 河村寛希)
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