力がつく授業って何?ー板書の作り方・授業で身に着けてほしい力ー(立命館小学校 柳沼孝一先生)

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目次

1 はじめに

立命館小学校の柳沼孝一先生に、社会科の授業や授業運営、教材研究などについて、インタビューを行いました。今回は、授業における板書の作り方や、教材研究の仕方、そして、社会科授業において身についてほしい力についてお伝えします。
話の中に出てくる「研究会」については、こちらの記事をご覧ください。
https://edupedia.jp/article/56a74a405aed04c4ed56a4b1

2 授業の工夫について

①板書の作り方

普段は、児童がするかもしれない発言を自分で考えたり、授業を重ねたりしながら、何回か板書を作っています。
研究会授業のときを例に挙げると、研究会授業の前に他のクラスでも授業をしましたが、その時と研究会の時とでは、板書が少し違います。
また、研究会の授業の後、また2クラス授業をしたところ、それぞれ少しずつ板書は変わりました。子どもの反応によって板書も変わります。
授業をしながら、子どもの反応をみて、板書を変えるのです。
また、最初考えていた板書には、人が登場していませんでした。社会科では、色々な社会事象を作っている人が大事なキーワードであることを思い出して、その後の板書では授業の最初で登場させました。
そんな風に、毎回少しずつ変えながら、板書は作っています

②生徒の最初の考えが、指導案での予想と違った場合

授業の中で、子どもから教師の思いもよらない意見は多く出てきます。でも、子どもに言わせたからには、それに対して責任をもった方がいいと思いますね。すぐに「他には?」って聞く先生がいますが、「先生は他の答えを探している」「自分の答えは違うのか」と子どもは悲しくなると思うので。実際にそうだとしても、言わせたからには、子どもに価値づけをする。「先生はそういうこと考えなかったな。よく○○さんはそういう先生が考えもしないようなこと考えたね。」というようなことを言って必ず発言から価値づけて、その後に「じゃあ、○○君の考えと違う人もいるか?」と聞きます。全然私が考えていないことだったとしても、それは認めるようにしています。
そうはいっても、授業自体の信憑性がなくならないように、芯はしっかり持たないといけないので、芯に寄せるために子どもの発言も認めながら、逆の意見とかも対峙させます。「さあ、○○君は一体どう思う?」と聞くと、子どもは「僕のやっぱり違ったかな」「ああ、そういう考えもあるのか。」と考えます。
私でも一発で「いいけど、はずれ。」っていうこともありますよ。「すごいな、○君は天才だなあ。でもはずれです。」と言ったりします。でも、ただ単に「他には?」って言われるより全然子どもは違うと思いますね。

3 教材の選び方について

①多面的な意見が出る教材とは

子どもが色々な考えを発言できる教材は、多面的な見方ができる教材を提示しているということですから、素晴らしい教材だと思います。一問一答みたいにする教材は、Q&Aみたいになってしまっているので、考えさせるためには貧弱な教材です。もちろん、知識理解を確かめるためには、それでいいですが、議論させるためには、むしろ違うものが出てくる教材の方が私はいいと思いますね。大人は自分の経験や知識はもう決まっていますが、子どもたちだって9年間生きているわけですから、知識や見識のなかには、私が見たこともないこともたくさん持っていますし、生活経験も全く違う。そういう子どもたちが発言するものって、教師を超えることが沢山あります。多面的な色々な見方で、教師の見方・考え方を超えるというのはすごいですよね。それができる教材はいい教材だと思います。

②多面的な意見が出る教材はどのように探すのか?

私は、

  • 教材の「ずれ」
  • 新しい見方

を意識して探しています。どちらも、疑問が出るものではないと、多面的な見方・考え方は出ません。二つとも、大人が考えると当たり前のことになってしまいますから、それを見つけるのは、非常に難しいです。

1. 教材の「ずれ」

みんなが当たり前だと思っているところが、実際調べてみたら違うという「ずれ」。具体的に言うと、こっちが絶対高いと思っていたのに違ったとか。魚を例としてあげると、天然の鯛の方が養殖の鯛よりも高いのは、捕れないからですよね。大人はそういうことを日常的に色々経験しているから、天然が高いという。しかし、必ずしも天然が高いとも世の中限らない。人が手を加えた方が高くなるものも当然あります。一概には言えないですが、そういう二つの視点でモノの価値を見させていきたいと思っています。

2. 当たり前だと思っていたことから、新しい発見ができるもの

いつも見ているつもりがわからない。そういうことに気づかせるのも、一つの教材です。
今までで面白かったのは、4年生でする「交通安全の働き」のところです。
例えば、「信号機わかる?」って聞いて、子どもに描かせてみると、赤と青の配置がわからない。
わかっているつもりのことを、「実はわかってないよね」と指摘していく。
指摘すると、次から子どもは必ず観察の目をもって信号機を観ます。
今までだと「見」ているだけでしたが、そこから、「観」るに変わっていくわけです。
そういう風に「見」を「観」に変えることも、教材の見つけ方だと考えています。
答えを教えるにあたって、自作の信号の模型を持ち込んだりしながら赤と青の配置を見せて、1つの分からないことに視点をあてる。
その後、雪国の信号機を見せる。会津の信号機は縦型になっているのですが、子どもたちには縦だったら配置はどうなっているのかも聞きます。
「横だったらわかったけど、縦だったらどっちなんだろう。決まりがあるのかな?」と子どもたちはまたわからない。
普段の身近なところでも、見ているだけで観察の目になっていないところを教材にして、そこには安全を守る働き・決まりがあることを教える。
安全を守る決まりとして、全部赤信号は止まることが大事なので歩行者・運転手にとって一番近いところにあります。
だから、車の信号機の場合、内側にあります。縦型だったら下にあります。
「どっちが赤・青か」だけで終わってしまうと、ただの物当てクイズになってしまいますよね。
教師が次に用意しなければならないのは、その裏に見える社会的な事象です。
自動車にとって、止まることと走ることでは、止まることの方が大事です。
よって、自動車づくりの基本は止まること。
そういうところも関係させると、そこからもう授業ができます。
例えば、「交通安全・交通事故を守る」っていう4年生の教材の出だしに「身近なところから交通安全を考えよう」っていう単元を1時間設けて、色々なところで安全な暮らしの工夫がされてないかを考える。
そういうところで、繰り返しになりますが社会科は、「見」から、「観」にしたなかで、それで終わるのではなく、そこから、その意味を考える必要がある教科だと思います

4 授業でつける力とは

私にとって授業でつける力とは、活用力のことです。
社会科でいうと、京都市の地域の丸太をやった場合、ただ単にこれは地域学習ですから、ここでは自然のなかで人々が工夫や努力を積み重ねながら、よりよいものをつくるっていうのが基礎基本なんですよ。作っていることを考えることができる。じゃあ、それが、商店に行って、丸太ではない違うものを見た時もそういうフィルター通して見れるような基礎基本がなっているかということ。だから、これを勉強しているのではなく、これを通してほかの社会的事象を見れるような、そういう基礎基本を育んでいかなくてはいけない。だから、研究会授業の板書で書いた、技術と労力・時間と希少性というキーワードは基礎基本なんです。これを通して、色々な事象も見ることができる。
例えば漬物屋さんだったら、漬物屋さんの漬物のでき方も、どのくらいの技術・時間がかかっているか、工夫や努力・物の価値ってどうなっているかということが、この学習をしたことによって、そういった目で見ていける。それが、活用力のある基礎基本です。
そういうのを、社会科では育みたいなと思っています。ただ単に「学習しました。」で、終わりにならないように。

活用するのは難しいです。よく、校内テストはできるけど、校外模試になるとできない人がいますよね。そういう人は、それだけしか覚えていないから、活用力がないということです。本来の意味やシステムが分かればそれを転用できます
何回か繰り返して教えないと活用は難しいです。社会科って農業、工業、水産業など、色々な事象がありますよね。でも、フィルターを通すものはみな同じなのですよ。工夫や努力、労働時間、今の社会的問題、例えば雇用問題・後継者問題とか。だから、繰り返し年間を通すことによってそういうことも含めて世の中をみるフィルターを作っています。それを別に5年生が終わったからといってやめるのではなく、今後もそういうフィルターで世の中の色々なものを見ていってほしい。それが活用力ですね。

5 実践者プロフィール

柳沼孝一先生
立命館小学校教諭
著書に、『授業の工夫がひと目でわかる!小学校社会科板書モデル60(明治図書 2014年9月)』『小学社会の授業づくり はじめの一歩(明治図書 2016年1月)』がある。

6 編集後記

記事を編集しながら「なるほど」と思うことばかりでした。
授業の工夫も教材の選び方も子どもの「活用力」をのばすためにとても大切だと感じました。
ぜひ、先生の実践を試してみてください。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 中原瑞貴)

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