丸つけだけでキレやすい子を変える~硬筆書写指導から~(岡篤先生)

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目次

1 はじめに

本記事は、岡篤先生のメルマガ「≪まぐまぐ!≫~<510号~516号>」から引用・加筆させていただいたものです。
≪記事の簡単な説明≫
丸付けのしかたを少し工夫するだけで、キレやすい子どもを変える実践的な方法を紹介します。
岡篤先生のメルマガはこちらを参照ください。→http://archive.mag2.com/0001346435/index.htm

2 実践内容

■子供との関係作り

何か指示をすると、すぐに「うざい」「死ね」「キショイ」などという言葉が返ってくるクラスでした。もちろん、全員ではありません。中には、まじめにやろうとしている子もいることはわかっていました。それでも、マイナスの力の方が圧倒的に強かったのも事実です。そういう子達との信頼関係などまるでありません。まずは、関係づくりから始めるべきところですが、それもできないまま時間が過ぎていきました。全く、力不足を認めざるを得ません。
 学級経営の話では、「まず子どもとの関係をつくること」「関係づくりが最初」ということが言われます。その通りだと思います。関係ができていない、あるいは関係が悪い状態では、どんな指導も効果はあがりにくいでしょう。しかし、実際には関係がよくないクラスもあるはずです。少なくとも、私はありました。よい関係を作ることを第1歩目とすると、そういう関係ができないと1歩目がでないことになってしまいます。では、どうしたらいいのでしょうか。そんな中でも担任ができることはあります。まずは、諦めないことです。

■諦めないこと

諦めずに、何をするか。関係がよくなくてもできることを地道にすることです。例えば、掃除。クラスの状態が悪いときは、教室も乱れがちです。掃除もいい加減にする、ものを大切にしなくなる、整頓もしなくなる。そんな環境に慣れると、ますますいい加減になっていき、乱れていきます。子どもがしないときは仕方ありません。教師がやるのです。それで、クラスの乱れた雰囲気は少しはましになります。学級経営で、教師が子どもとの関係がよくなくても、あるいは春休みなどの関係ができる前でも、取り組めることを基礎作業と呼ぶことにしました。

■低いが高い目標

関係がうまくいかないどころか、何かというと「うるせえ」「死ね」と返ってくるクラスで、硬筆書写どころではありませんでした。「ていねいに」とか「集中して」といった雰囲気とは正反対の状態です。そんな中で決めた、中心的な子どもへの目標が「硬筆書写のプリントを全てていねいに書かせる」というものでした。レベルとしてはとても低いものですが、私の指示を全く聞こうとしない相手に対しては高い目標でもあります。
 関係がうまくいかないということは、指導がとても入りにくいということです。
 私が「ていねいに書きましょう」といっても平気でぐちゃぐちゃに書き、「やり直しなさい」というと「うぜえな、死ね」とくしゃくしゃに丸めて投げつけるというようなことになります。厳しく言えば無視したり、逆に興奮してますます荒れるだけです。結局、学習という面では何も変わりません。指示して変えることは断念しました。
 硬筆書写の手立てとしては、一文字ずつに丸をつけて返すというだけです。このことは児童書き方研究所所長の高嶋先生から教えていただいたことです。以前は、書写プリントのなぞりの字に丸を入れることはありませんでした。何となく、なぞりはできて当たり前で、自分の力で書く字だけを見ればいいのだと思い込んでいたからです。というより、そんな考えもなく、何となくそうしていたというのがより近いところでしょう。
あるときから、なぞりの字にも丸をつけるようにしました。特に、態度が悪い子ども達の字はひどいものでした。とても丸をつけられるようなものはありません。しかし、なぞりまで見るとそうでもないことに気づきました。

~ここまでのポイント1~

  • クラスの状態がよくないときは、硬筆書写にていねいに取り組ませることも難しい。
  • 手立ては一つずつ丸をつけるだけ。
  • なぞりの部分にも丸をつけた。

■落書き、ちゃら書き

「ていねいに書きましょう」「手本をよく見て」などという言葉は全く聞く耳を持たない子がたくさんいました。しつこくいうと、いらいらしてわざとぐちゃぐちゃに書いたり、プリントを丸めて投げつけてきます。提出されたプリントを見ると、「シネ」「うんこ」などと落書きされているものもあります。およそ、硬筆書写に真剣に取り組むような状況ではありません。
 私にはこの子たちをどうこうする見通しも、自信もありませんでした。とにかく、硬筆書写に関しては、一文字ずつ丸をつけて返すという手立てをくり返してみるということだけは考えました。いっても、ほとんどの子は丸をつけられるような字を書いていません。高嶋先生の言う「ちゃら書き」というなぐり書きの状態です。

■一文字ずつ丸つけ

それまでなら、適当に全体で5段階評価くらいの丸をつけ、特にきれいに書けている字にさらに丸を加えるくらいでした。それでいくと、ちゃら書きの子たちは、最低ランクの丸になります。しかし、一文字ずつなら偶然にせよ、丸がつけられる字がないわけでもありません。なぞりも含めるとほとんどの子にいくつかの丸をつけることができました。このとき、なぞりにも丸をつける、ということの意味を実感することが出来ました。そして、その効果は、プリントを返却したときにさらに痛切に感じることができました。

■すがる思いで丸付け

何をやってもうまく行かない状態でした。それまではやったことがなかった一文字ずつの丸つけも、思いつくことは全部やってみるという思いで試してみました。せっかくこっちが準備しても、丸っきり反応がなかったり、荒れるようなことが続いていました。期待をしないが諦めない、というのがせめてもの信念だったのかもしれません。
 名前も含めて、すべての子どもが書いた字を丸つけの対象にしました。けっこうな手間ですが、20人ちょっとの人数だったので、なんとかなりました。反発している子たちは、書いていなかったり、ちゃら書きだったりで、ほとんど丸はつきません。それでも、なぞりのところには時々丸を入れることができるような字もありました。ちゃら書きだけど、偶然、なぞりの手本通りに鉛筆が動いただけだろうといういうものもありました。それも丸をつけます。

■キレるきっかけになるか

当然、まじめな男の子やていねいに書くのが普通の女の子もいます。その子たちは、丸がたくさんつくことになります。ちゃら書きだらけの子は、丸が入ったとはいえ、そういった子と比べると圧倒的に少ないということになります。自分たちが悪いとはいえ、これはこれでキレるきっかけになるかもしれません。うまくいかないことにはもう慣れました。手間暇をかけたことが無駄になることを覚悟で、次の日、プリントを返しました。

~ここまでのポイント2~

  • 硬筆書写のプリントを配っても落書きされたり、くしゃくしゃにして捨てられたりという状態だった。
  • 反発する子はみんな、「ちゃら書き」だった。
  • 一文字ずつ丸をつけるしか手立てはなかった。
  • 偶然、なぞりの手本通りに書けている字にも丸をつけた。
  • ただ、他の子より丸が少ないことでキレる子が出てくることも覚悟した。

■プリント返却

なぞりの分にも一文字ずつ丸をつけたプリントを返しました。丸がいつもよりは多いことを多少は喜ぶでしょうか。それとも、他の子はもっと多いことにキレる子が出てくるでしょうか。少し離れて、子ども達の様子を見ていました。一文字ずつ丸をつけられたことは初めてのようで、一文の女の子たちは、さっと笑顔になって近くの子とプリントを見せ合っています。
 例の男の子たちはどうでしょうか。返ってきたプリントを受け取ると、いつものように「どうでもええ」と言って、その場で投げ捨て見向きもしない子がいます。やはり、手間をかけても彼らには意味がなかったのでしょうか。しかし、中には、いつもよりも丸が付いていることに気がついた子もいました。
 「丸が多いぞ」「おっ、丸が多いぞ」と一人の子が声を出しました。この子は、私の荷物が入っている段ボールに押しピンを大量にさしたり、バレーボールでチームが負け出すとボールを蹴ったり、暴言を吐いたりした子です。典型的なキレやすい子でした。その子がプリントを手に取り直して、丸を数え出しました。

■効果があった子とない子がいた

私の荷物に押しピンをさしまくったり、メダカを水槽から投げ捨てて全滅させたりした張本人の男の子が、書写のプリントに見入っています。一文字ずつ丸つけをしたのですが、ポイントはなぞり書きの分にも丸をつけたことです。全くやる気無く殴り書きをしている子にも、丸がついています。少しでもていねいに書いた部分があれば、かなり丸があるはずです。
 例の男の子のプリントもふだんよりは丸が多くなっているはずです。それで、いつもは反抗的な態度を取っているにもかかわらず、思わずプリントの丸を数えてしまったのです。その男の子のプリントはほとんどが殴り書きなので、いくらなぞり書きをゆるめに丸つけをしたといっても、せいぜい5,6個しか丸はなかったはずですが、「お~、けっこう丸ついてる!」と喜んでいます。ふだんは散々悪態をついている子のよく言えば素直な一面を見ました。
 さんざん私に悪態をつき、クラスでも勝手放題をしていた男の子が硬筆書写のプリントの丸を数えています。どうやら、なぞりの分も含めて一文字ずつ丸をつける、というやり方が少しは効果があったようです。丸は5,6個だったはずですが、うれしそうにしています。
 その子が隣の子に「お前何個だった?」と尋ねています。聞かれた方の子は、私が一番やりにくい子です。私のことを決して、「先生」と呼びません。「岡」と呼び捨てにするとか、「おい」「そこの」といった言い方をしていました。とても厳しい家庭環境で育ち、私がいくら叱っても怒鳴っても、平然とせせら笑っていました。そういう育ち方をしていたわけです。一事が万事で授業中の態度やクラス全体での活動のときも前述の子と同様、あるいはもっと勝手な行動をとっていました。
 私は、その尋ねられた子がどう答えるか興味を持ちました。最初の子は、いわば単純な面があります。さんざん悪態をついた教師が採点したプリントでも、丸が増えていれば素直に喜ぶ子です。
しかし、もう一人はそうではありませんでした。丸の数を尋ねられても、返されたプリントを見ることもなく、「どうでもええ」と無視しました。その子にすれば、「あんな奴のすることにいちいち反応してたまるか」というところでしょう。まあ、そうだろう、と思いながらその場面を見ていました。素直に喜んで丸の数を数えた子がいるだけでもよしとするべきです。
 しかし、この取り組みを続けることで、今でも印象に残る場面に出くわすことになりました。

~ここまでのポイント3~

  • 一文字ずつに丸をつけたプリントを返した。
  • 丸が多いことに気づいた子もいた。
  • 荒れた言動の多い男の子が丸を数えだしたが、効果がなかった子もいた。

●まとめ●

硬筆書写指導において、子供たちに丁寧に字を書かせるためには、丸付けに工夫をすることが一つの方法です。丸付けをするときは、一文字ずつに丸を付け、なぞり書きの文字や名前にも丸を付けるようにしましょう。そして返却時の子どもたちの反応や様子を見ることも大切です。

3 執筆者プロフィール

岡 篤(おか あつし)先生
 1964年生まれ。神戸市立小学校教諭。「学力の基礎をきたえどの子も伸ばす研究会(略称学力研)」会員。硬筆書写と漢字、俳句の実践に力を入れている。

4 書籍のご紹介

『読み書き計算を豊かな学力へ』2000年

『書きの力を確実につける』2002年

『これならできる!漢字指導法』2002年

『字源・さかのぼりくり返しの漢字指導法』2008年

『教室俳句で言語活動を活性化する』2010年

5 編集後記 

一文字ずつ、しかも名前まで丸付けをするという発想は新鮮で驚きでした。少しの発想の転換で、子供たちや学級、学校を変えることができるのです。学校現場にはまだまだ、このような小さな発想の転換によって子供たちを変える手段がたくさん隠されているのではないかと思います。

(文責・編集 EDUPEDIA編集部 笠井真由)

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