知識構成型ジグソー法による「舞姫」の授業

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目次

1 はじめに

この実践は、埼玉県立浦和第一女子高等学校の板谷大介先生の実践です。執筆いただいたものです。先生は知識構成型ジグソー法に基づく授業を行われており、知識構成型ジグソー法については知識構成型ジグソー法によるアクティブラーニングの実践の記事をご参照ください。

この「舞姫」の授業は平成24年度当時の「未来を拓く『学び』推進事業」の浦和第一女子高校の公開研究授業として実施されたものです。

この授業の様子は、平成24年度「未来を拓く『学び』推進事業」年次報告会(平成25年1月19日に戸田市文化会館で実施)で、斎藤萌木特任助教はじめCoREFの方が、スライド、動画とともに発表してくださいました。参考にそちらも掲載します。

2 授業内容

教材

この授業に用いた教材はこちらからダウンロードできます。

「舞姫」教材.

対象

埼玉県立浦和第一女子高等学校3年5組にて実施予定。41名。文系クラス。現代文は2単位(週2時間)。なお、本校は1時間65分授業である。

研究授業を実施する10月には、大学受験準備をひかえ、現代文の読解力も、古文・漢文の学力も、かなり完成してきている状況である。本時は一斉授業で一通り通読してストーリーをおさえた状態で行う。

授業のねらい

「舞姫」は、A主人公太田豊太郎とエリスとが愛をはぐくむ物語、Bエリートコースを歩んできた太田が再び名誉を回復し天方伯のもとで日本での安定した地位へと戻ってゆく物語、C太田豊太郎と相沢謙吉との友情の物語、の三種の物語が相容れないまま絡んでゆく作品だと解釈することが可能である。そこで、これらA、B、Cの物語について便宜上別々に考え、それらを比較検討することで、男女の愛、社会的地位、人と人との友情など、人間の本質にかかわる重要な事項について生徒に考えさせるのが狙いである。

メインの課題(ジグソー活動の課題)

小説の内容を踏まえ、人間にとって最も大事なものは次のどれかを考えさせる。
A. 太田豊太郎とエリスとの間に描かれていたような、男女の愛
B. 太田豊太郎が、一度は否定しながら回帰していった、社会的地位・生活の安定といったもの
C. 太田と相沢との間に描かれていたような、人と人との友情
D. その他

期待する解答の要素

上記1、2、3、のどれが最も大事かを説得力のある理由、根拠とともに述べてほしいが、そのようなことは決定することは不能であり、人の心には相容れないさまざまな感情が入り混じっていて、それらが時に人を幸福にし、時に人を不幸にすることもあると気づき、それを語ってもらってもよい。

それぞれのエキスパート活動(40分)

以下3種類の各活動に取り組ませる。小説の内容を正しく把握することを第一とする。

A太田豊太郎とエリスとの愛について考察する活動
太田豊太郎とエリスがどのように愛し合うようになったのか、などのことを考察する
B主人公にとって社会的地位・生活の安定とは何か、について考察する活動
太田がドイツから日本に帰ることになる経緯、その時の心情などを考察する
C太田豊太郎と相沢謙吉の友情について考察する活動
太田と相沢の友情はどのように小説中に描かれ、表現されているか、などを考察する

それぞれの活動においては、「主人公の心情」、その心情が生じるに至った「原因、理由、経緯」を考察し、自分の「意見」を書く。

◎以上を正しく踏まえたうえで、自由にグループ内で意見を出し合ってよいこととする。

ジグソー活動(45分)

A~Dのうち、人間にとって最も大事なものはどれだと考えますか。
作品の内容を踏まえて、理由・根拠などとともに、見解をまとめましょう

A 太田豊太郎とエリスとの間に描かれていたような、男女の愛。
B 太田豊太郎が、一度は否定しながら回帰していった、社会的地位・生活の安定といったもの。
C 太田と相沢との間に描かれていたような、人と人との友情。
D その他

クロストーク(30分)

各グループの、ジグソー課題についての見解を聞き合う。

今回の授業では、最も大事なのはA男女の愛だと考えたグループはなし、B社会的地位だとこたえたグループは3つ。C友情だと答えたグループは2つ。Dその他(永遠の愛、自立心など)と答えたグループが7つであった。

本時の指導

3 授業のシミュレーション

この教材による授業は、とてもうまくいったと思います。それは、事前にシミュレーションをおこない、どのように生徒達の話し合いが進行しそうかを予め確かめておいたからです。以下にそのシミュレーション(すなわち筆者が事前に一人で教材に書き込みをしてみたもの)を掲載します。

「舞姫」回答例のシミュレーション

日常の授業ではここまで細かいシミュレーションをすることは難しいかもしれませんが、それでも、もし先生方がジグソー法の教材を作成なされるのであれば、どのように授業が進行しそうか、どのように生徒の話し合いがすすみそうか、をなるべくイメージして教材を作られると授業が上手くいきます。場合によっては、学校内の他の先生方に事前に教材に取り組んで頂くことも考えられます(埼玉には、実際そのようになされた、という先生もおられます)。ある程度、ジグソー法の教材づくりに慣れてくると、シミュレーションもそれほど念入りにしなくても教材づくり、それによる授業は上手くいくようになります。

4 授業の振り返り

板谷先生が作成した詳しい振り返りシートは、こちらからダウンロードできます。

舞姫振り返りシート.docx

生徒の学習の評価(学習の様子)

昨年本校2年生で『こころ』を実施したときよりも、はるかに生徒達は活発であり、程度の差こそあれ、どの生徒もよく考え、意見を述べ、相手の話を聞き、対話を行い、すべての活動によく参加していたと感じます。『舞姫』は、雅文、文語文で書かれているため、一見とっつきにくいようですが、実は内容的には、『こころ』よりも生徒達には興味関心を持ちやすかった、あるいはとっつきやすかったのではないかとも思いました。

上記にもあるように、生徒はこの物語を自身への教訓めいたものとして捉えている部分もありますが、古典、優れたテキストを読解する際にそうした読みを行うことは間違っていない、むしろ正当であるとも考えます。古典や歴史などを学び、そうしたことによって人間の中に養われていく教養とは、生きる知恵を学び、よりよく生きていくための広い視野と深い洞察力を涵養するためのものであると確信するからです。

研究協議のあと、どなたかからお話しいただいたように、最初はストーリーを追うだけだった生徒が、いつのまにか、主人公の目線で、もっといえば主人公になりきって思考を展開していたのが印象的です。いろいろな意味で生徒にとって貴重な経験になったことは間違いありません。

授業案の改善点

生徒達はまだ若いので、もっと「たとえ刹那的でも燃えるような愛が美しいのだ」とか「いや、この世に友情に勝るものはない」だとか言うと思いましたが、みんな「まずは社会的地位が大事だ」といって意外と現実的なのでびっくりしました。

ジグソー活動にて、A太田とエリスの間にみられるような愛、B最後に太田が回帰していった社会的地位、C太田と相沢の間に見られるような友情、のどれかを必ず選ばなければならない、というのはちょっと暴力的かとも思い、Dその他、を加えておきましたが、これが幸いしたと思います。あるグループはDを選択し「真実の愛」が本当に大事だ、としていました。そしてAの太田とエリスの愛は本当の愛ではない、と断じていました。こういう議論は、作品の本質に触れる部分もあって、すごく良かったと思います。

問いの発し方がどうであれ、生徒はよくテキストを読み込むことで、その文章に内在する作品の本質のようなものに触れ、それを感じ取っていくのだと感じました。

5 実践者プロフィール

板谷大介(いたやだいすけ)
1966年、埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部卒。2000年4月より2011年3月まで、母校の埼玉県立浦和高等学校で教鞭を執り、その進学実績向上にも大きく貢献した。
2011年4月より、埼玉県立高校では男子校の浦和高校とともに進学校として並び称される女子校の浦和第一女子高等学校に勤務している。
CoREFとの連携による知識構成型ジグソー法の授業改善の取り組みには2010年より参加している。また、2013年からは一般社団法人日本アスペン研究所との連携で「高校生のためのアスペン古典セミナーin埼玉」のモデレーターも担当している。
著書に『古典が苦手な受験生に捧ぐ 板谷の古典文法』(2007,桐原書店)、『指板プリ古典文法 苦手撲滅108令』(2007,桐原書店)がある。
現在は、明治書院高等学校国語検定教科書編集委員(古文担当)を務めている。

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