知識構成型ジグソー法による「入試小論文」の授業

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目次

1 はじめに

この実践は、埼玉県立浦和第一女子高等学校の板谷大介先生の実践です。執筆いただいたものです。先生は知識構成型ジグソー法に基づく授業を行われており、知識構成型ジグソー法については知識構成型ジグソー法によるアクティブラーニングの実践こちらの記事をご参照ください。

これは平成25年度の「未来を拓く『学び』推進事業」の本校の研究公開授業で実施したものです。

2 授業内容

概要

この入試小論文の授業は、慶應義塾大学文学部の小論文の問題を、中学校国語教科書掲載の小説、高等学校の古文『平家物語』「忠度都落」、を参考にしながら解いていく、というものです。

教科書は東京書籍『精選古典B古文編』・教育出版『伝え合う言葉中学国語3』等を使用しています

教材

この授業に用いた教材はこちらからダウンロードできます。

ジグソー法の手法による入試小論文の授業 教材.docx

授業のねらい

  1. 普段の学校の授業の予習復習が重要である、と生徒が再認識すること
  2. 普段の学校の授業・教科指導にきちんと取り組めば、難関大学の入試問題にも十分に対応できるのであり、大学受験とは、何か学校の指導とは別な、特別な訓練を必要とするものだ、という誤った認識は持つべきではない、と生徒自身が気づくこと
  3. 特に、検定教科書では優れた教材を扱っているのであり、中学校、高等学校(そして小学校も)と、教科書等に基づく学習にしっかり取り組み、思考力、着想力、表現力を身に付けることが重要だ、と十分に生徒が気づくこと
  4. 実際の大学入試問題に取り組むことで、高校3年生までに自分でどのような勉強、学習をしたらよいか、を生徒自信がイメージすること
  5. 現代文、古典、等の領域を横断的に学習することが、更に言えば、国語も、地歴公民も、数学も、理科も、あらゆる教科を横断的に学習することが、真の学力の定着に必要だと生徒が気づくこと。

メインの課題(授業の柱となる、ジグソー活動で取り組む課題)

慶應義塾大学2012年度の自己推薦入試の小論文の問題の答案を作成するために、中学校、高等学校の教科書教材も用い、生徒達が対話、ダイアローグを重ねていくことで、答案に盛り込むべきもろもろのアイディアに気づいていき、それらの内容を一貫したストーリーとして組み立てることで、より水準の高い答案を仕上げること、が課題である。

児童生徒の既有知識・学習の予想

多くの生徒が難解な問題の前に困惑し、解答を作成しても意味不明、支離滅裂であることが予想される。また、何も書けない生徒も少なくないと思われる。

期待する解答の要素

わたしの指導の経験上、小論文の答案の評価は「とてもよい」「ふつう」「悪い」の3ランク、その間に「ふつうよりはよいが、とてもよい、とはいえない」、「悪い、というレベルではないが、普通、まではいっていない」の2つを加えせいぜい5ランクにしか分類できない(東大、京大、一橋などの論述問題の答案もほぼ同様)。当初に各自が作成した小論文の答案よりも、1ランク、2ランク上の答案に仕上げることが出来ること、より多くの生徒がランク5の答案、合格の水準の答案を仕上げてくれることを期待する。

各エキスパート活動

以下A、B、Cの各活動に取り組ませる。
A問題文の引用されたニーチェのテキスト自体をより詳細に検討する活動
テキストを時間をかけて読み込み、それについて対話を重ねることでその内容をより深く理解し、小論文の問題作成者がどのような答案を求めているか、にも生徒達自身が気づけるようにする。
B中学校3年生の検定国語教科書の教材である、あさのあつこの小説「緑色の記憶」をもとに、「生きることの価値」「苦しむことの意味」等、小論文の答案作成のためのアイディアになる内容について気づかせる。
C高等学校古典検定教科書の定番教材、『平家物語』「忠度都落」をもとに「生きることの価値」「苦しむことの意味」等、小論文の答案作成のためのアイディアになる内容について気づかせる。

ジグソーでわかったことを踏まえて次に取り組む課題・学習内容

  • 学校の授業にきちんと取り組む。授業の予習復習をしっかりする。その他、それを補う意味で学校が投入している補助教材(課題図書・古文単語帳・漢字ドリルなど)にしっかり取り組む
  • 捨て科目を作らず、あらゆる教科・科目に全力で取り組む。芸術、保健・体育、家庭、情報、などもしっかり学習する。

本時の学習活動のデザイン

本時の学習と前後のつながり

上記の一連の学習で目指すゴール

  1. 多くの生徒が合格答案の水準の答案を完成させる
  2. 高校1年生の現段階で、たとえ合格答案の水準に至らなくても、当初の答案より、最終的に仕上げた答案のほうが、1ランク、2ランク上の答案を完成させている
  3. 更に言えば、入試問題を通して身につけた学力はそのまま社会で求められている能力であることを、将来実感して欲しい。そうした10年後、20年後が本当のゴールである

3 授業の振り返り

板谷先生の詳細な授業の振り返りをご覧になりたい方はこちらからダウンロードできます。

入試小論文・振り返りシート.docx

生徒の学習の評価(授業前後の変化)

生徒の最後の回答・解答は授業者の期待に十分応えるものであった。
多くの生徒が、当初の答案よりも、1ランク、2ランク上の答案を仕上げていた。

字数の分量的には、変わらないか、逆に少なくなったものも見られたが、内容的には、格段に深まり、きらりと光る言葉、注目させられる内容を盛り込むことに成功しているものも多く見られた。

教科書などの優れた文章、優れたテクストに触れ、テクストとの格闘、テクストと学習者との対話、テクストを通じた生徒同士の対話、あるいは生徒と教師の対話により、普段から思考力を鍛える訓練を重ねていけば、それがそのまま受験に十二分に通用する。大学受験は学校の勉強の延長、あるいはある種の区切り、ある種の仕上げとして存在することを浦和第一女子高校の生徒は力強く、頼もしく証明してくれた。

生徒の学習の評価(学習の様子)

言葉の使い方を間違ったり、勘違いをして話しをしている生徒もいたが、それらは枝葉末節であり、問題の本質に迫っていく上ではそれほど問題ではなかったと考える。

どのグループもよく対話を行っていたが、授業予定より、課題に応答してゆくのに時間がかかっていたように思われる。これは、教材作成者が、思い入れたっぷりの、盛りだくさんの課題を生徒に課したからかもしれない。

内容にもよるが、優れた文章、優れたテクストを生徒に提示する場合は「これでは時間をもてあますのではないか」と思われるぐらいが逆にちょうどよいのかもしれない、と感じた。

また、優れたテクストについては、必ずしも「すとんと落ちる」必要はなく、多少のモヤモヤ、消化不良を抱えたまま授業を終えてもかまわない気もした。深い文章、とはそういうものである、と。

授業の改善点

エキスパート活動の資料の分量がやや多かったかもしれないと感じる。あるいはもっと時間をかけるべき教材の分量となっていた

4 実践者プロフィール

板谷大介(いたやだいすけ)
1966年、埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部卒。2000年4月より2011年3月まで、母校の埼玉県立浦和高等学校で教鞭を執り、その進学実績向上にも大きく貢献した。
2011年4月より、埼玉県立高校では男子校の浦和高校とともに進学校として並び称される女子校の浦和第一女子高等学校に勤務している。
CoREFとの連携による知識構成型ジグソー法の授業改善の取り組みには2010年より参加している。また、2013年からは一般社団法人日本アスペン研究所との連携で「高校生のためのアスペン古典セミナーin埼玉」のモデレーターも担当している。
著書に『古典が苦手な受験生に捧ぐ 板谷の古典文法』(2007,桐原書店)、『指板プリ古典文法 苦手撲滅108令』(2007,桐原書店)がある。
現在は、明治書院高等学校国語検定教科書編集委員(古文担当)を務めている。

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