読解指導を読書に近づけるには(岡篤先生)

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目次

1 はじめに

本記事は、岡篤先生のメルマガ「教師の基礎技術~読解指導を読書に近づけるには775号~781号」から引用・加筆させていただいたものです。
読解指導が活きて自由読書のときにより深く味わうことができるようになるような実践を紹介します。
岡篤先生のメルマガはこちらを参照ください。→http://archive.mag2.com/0001346435/index.htm

2 実践内容

①読書の視点から見直す

読解指導を読書の視点から見直すとどうなるか。これは、まだまだ着手したばかりで私の考えもまとまっていません。ただ、1つ漠然と感じているのは、読書に応用できる読解指導は、シンプルな構造ではないかというものです。

②シンプルな構造

これは、必ずしも単純とか内容が少ない、ということではありません。多用で、奥が深くても、構造自体はシンプルということもありえます。例えば、主人公によりそって読むということは使えるのではないでしょうか。主人公は、どんな人物で、あなたは主人公をどう思うかということです。主人公についての説明は、ドラえもんをよく使います。

③ドラえもんを使って

ドラえもんを使って、主人公を説明する実践は、私のオリジナルではありません。出典が明示できなくて恐縮ですが、確か、明治図書の「国語教育」で読んだような記憶があります。ドラえもんの主人公は、ドラえもんか、のび太か?と尋ねます。

クラスでのきまり

これは、分かれることがほとんどです。両方、という意見も出ます。どちらかというと、ドラえもんという意見の方が多いでしょうか。理由としては、

  • タイトルになっている
  • 毎回出てくる
  • ドラえもんがいないとお話にならない

といったようなことが出ます。
一通りの意見を出させた後で、私が話をします。「今出た意見は、どれも正しいと思います。国語辞典で調べても、主人公の意味は、『話の中心になる人』というようなことが書いてあります。ということは、ドラえもんも、のび太も、主人公ということになります。」ただし、「このクラスでは主人公は、1人になります。」と続けます。

クラスでの主人公の定義

「このクラスでは」と強調します。「主人公はのび太ということになります」と言うとのび太に賛成していた子は喜び、そうではない子は「えっ?」という表情になります。説明を続けます。「このクラスでは、国語の勉強のために主人公をこんなふうに決めることにします。」『(主人公=)できごとによって言動や考えが変わる中心人物と板書しながら言います。』

ドラえもんでいうと…

これだけでは、子どもは理解できません。説明を続けます。ドラえもんで言動や考えが変わるのは、ドラえもんよりのび太です。ジャイアンにいじめられたのび太がドラえもんに助けてもらってやり返したり、困っている人のために弱虫ののび太ががんばったり、そんな話が多いですね。国語の勉強では、主人公のそんな変化も取り上げていくので、このクラスでは主人公は、できごとによって言動や考えが変わる中心人物ということにします。これを物語教材を扱うごとに確認します。

④実用的な定義

主人公とは、できごとによって言動や考えが変わる中心人物です。この主人公の定義は、シンプルで実用的です。授業の展開は、イメージ化と主人公の言動、できごとを読むことを中心に進めることになります。授業の展開に直結した定義という点が実用的と考えています。

⑤読書の視点では

では、読書の視点ではどうでしょうか。主人公に寄り添って読むのは読書でも同じでしょう。むしろ、面白い小説であればあるほど主人公(または、視点人物)に入り込むことになります。できごとによって言動や考えが変わるという点も読書にもあてはまるでしょうか。読解の授業の方針としては分かりやすいのですが…。子どもだけの読書では少々難しいようです。

読み聞かせ後のワークシート

読解の授業では、主人公の変化について取り上げることがほとんどです。ただし、読み聞かせの後のワークシートで同じことを尋ねてみると何を書いたらよいのか分からないという子が多いことに気づきました。これは、読解指導が読書につながっていない例でもあるわけです。

ワークシート修正

あらためて読書にもどって考えることにしました。現在の段階で、読書(読み聞かせ)で主人公の変化までを求めるのは急ぎすぎではないかと思いました。確かに、読解の授業としてはそれでいいのかもしれない。しかし、それは、教師が発問への説明や発言に対する問い直しなどをしているから成立するのかもしれません。個人の読書をよりイメージを豊かに楽しむという視点で考え直してみました。すると、主人公の変化の前に、できごとでの主人公の言動が分かっている必要があるのではないかと考えが変わりました。そこで、読み聞かせ後のワークシートも修正することにしました。
読み聞かせ後のワークシートは読解指導から自由読書へつなぐための情報収集でもあります。全員が同じ本を同じときに聞いて、それに対して同じ質問をしてどんな答えが返ってくるか。それが読み聞かせ後のワークシートで分かります。このワークシートが難しいようでは自由読書で子どもがそれを考えることはさらに難しくなるはずです。ワークシートの修正は、自由読書へ読解をつなげるためでもあり、読解指導自体を考え直すためのデータでもあります。

⑥「主人公の変化」は難しい?

以上のような視点から、ワークシートに書かれたことを読んでいて、「主人公の変化」を書かせることは難しいのかもしれない、と思うようになったわけです。数回しかやっていない問いですから、しつこくくり返せばできるようになるのかもしれません。ただ、それでは自由読書へはつながりにくいのではないかと思いました。自分の読書を考えても、主人公の変化まで、はっきりイメージしたから深く味わえたとは限りません。

変化から言動へ

「主人公の変化」を自力で書くのは難しいと判断しました。そこで、この部分の問いは、できごとでの主人公の言動としてみました。クラスでの主人公の定義は、できごとで言動や考えが変わる中心人物です。「変わる」が難しいなら、「変わる」きっかけとなる「できごと」での主人公の言動を意識させてみようと考えました。

そのまま取り出す

「変わる」を書こうとすると、書いてあることから、変わる前後の主人公を自分でまとめる必要があります。考えてみればこれはかなり難しい。できごとに際して、主人公が何をしたか、何を言ったか、ならば、書いてあることをそのまま取り出せばよいことになります。これだけでもかなり物語の重要な部分を意識するのではないでしょうか。

⑦授業にもどると

自由読書が読解力向上に非常に有効であるという立場を取っています。ただし、完全な自由読書だけではいつまでも文字中心の本を手に取らない子がいるという実態も目にしています。そこで、読書の後に交流の時間を入れることで新たな刺激を与え、関心を広げたり、意欲を高めることに着手しました。また、読み聞かせについても簡単な問いをすることで、主人公・できごと・主人公のできごとでの言動を意識させることに取り組んでいます。簡単な感想も求めています。時間があるときは、それを元に交流をするときもあります。こういったこともふまえて授業の読解も見直しています。

⑧迷いが減る

といってもやることは特別なことではありません。音読を大切にし、言葉の意味を確認し、子どもがイメージ化できなさそうなところを探し、取り上げる。こういったことをやっています。ただ、教師の意識としては、読書につながる読解指導といった視点を持っているので、比較的迷うことが少なくなったといえます。読書と読解という視点を意識してこれからも取り組んでいくつもりです。

3 執筆者プロフィール

岡 篤(おか あつし)先生
1964年生まれ。神戸市立小学校教諭。「学力の基礎をきたえどの子も伸ばす研究会(略称学力研)」会員。硬筆書写と漢字、俳句の実践に力を入れている。(2016年9月19日時点のものです)

4 書籍のご紹介

『読み書き計算を豊かな学力へ』2000年

『書きの力を確実につける』2002年

『これならできる!漢字指導法』2002年

『字源・さかのぼりくり返しの漢字指導法』2008年

『教室俳句で言語活動を活性化する』2010年

5 編集後記

読解指導を授業ですることがあります。その指導が読書に活きるとさらに良いと思います。しかし、文字中心の本になかなかなじみにくいという子どももいます。そのような子どもにも有効な実践が紹介されていました。
この実践ならば読書に繋げることができるのではないでしょうか。

(文責・編集 EDUPEDIA編集部 福山浩平)

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