いま、小学校の先生に伝えたいこと―幼児教育の可能性を理解する―

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作成者:Rei Araki (Edupedia編集部)さん

1  はじめに

この記事は「NPO 法人いきはぐ」で理事を勤めておられる宮田純也先生に取材し執筆したものです。

「NPO 法人いきはぐ」は、「子どもたちの『生きる力』をはぐくむ教育を広める」をビジョンに掲げ、子どもたちが幸せに生きるために必要な教育を、講演や講座を通して広く社会に発信しているNPO 法人です。詳しくはこちらのホームページをご覧ください。

NPO法人いきはぐ

今回は、そもそも幼児教育とはどのようなものなのか、その特徴と重要性を理解することから始まり、現在の幼小接続の実態とその問題点、そしてこれから小学校の教員に意識して欲しいことなどについて、宮田先生に教育の研究的実践家としての立場から語って頂きました。

2  幼児教育とは

近年、幼児期における教育の重要性が指摘され、世界的にも「幼児教育」に対して熱い視線が注がれていますが、そもそもなぜ「幼児教育」がここまで注目を集めるようになったのでしょうか。

まず幼児期の教育の特徴について整理しておきましょう。幼児期の学びは「生活」や「遊び」を基にして展開されます。幼児期の学びを生活と切り離すことは出来ません。幼児にとっては「生活」すること自体にたくさんの「学び」が存在するのです。そのためこの時期は、子どもの心の拠り所であり、生活の基盤である「家庭」が担う教育の役割もとても大きくなります。どの校種にも総じて言えることではありますが、その中でも家庭との連携が特に重要な要素となるのが「幼児教育」の特徴の一つと言えるでしょう。

しかし、一方で幼稚園や保育園への入園に伴って、子どもが家庭で過ごす時間は大幅に減少します。その中で幼稚園や保育園が教育機関として提供できる学びが「遊び」の部分です。幼児期の教育施設には子どもが自由に安心して遊べる環境や設備が整っています。そのなかで幼児はひたすら遊び、その遊びの中からたくさんのことを学び取ります。子どもたちは自分の好きな「遊び」しかしませんから、自然と自分の興味に基づいた学習を行い、それによって自分から探究的に学習する姿勢が身につきます。子どもが物事への興味関心を自由に広げていくような経験、そして主体的に物事に取り組むような経験、そういった「探究的学習」を豊富に提供しているのが幼児教育なのです。

 なぜ、いま「幼児教育」なのか

では、なぜ今「幼児教育」が注目されているのでしょうか。それはまさに上述した「探究的学習」の姿勢が現代社会を生きる上で重要なポイントになってきているからです。急速に社会が変わっていく中で、我々は自ら主体的に自分の人生を選択し、切り開いていかなければいけません。このような時代において、生活と一体となった学びを子どもたちが主体的に行う「幼児教育」は、いわゆる「生きる力」を育むという面ではとても重要な意味を持っているのです。すなわち「自ら学び、行動する姿勢を身につける」という点において、幼児教育は「人生の基盤を形成する」といっても過言ではないのです。

3  幼小接続について

今まで幼児教育の重要性について見てきましたが、このように脚光を浴び始めた幼児教育にも様々な課題が山積しているというのが実情です。

今回取り上げるのは「幼小接続」における問題点です。幼稚園・保育園における教育と、小学校に入ってからの教育には大きな違いがあります。そのギャップに適応できずに苦しむ子どもたちがたくさんいるのです。

 幼稚園と小学校の学びの違い

まずは、幼稚園と小学校の学びにおいて具体的にどのような違いがあるのか簡単に見ていきましょう。

前述の通り、幼児教育は「生活」や「遊び」の中で展開されます。つまり幼児たちは身の回りの環境や遊びといった直接的な体験を通して様々なことを学び取ります。無自覚ではありますが、非常に具体的な学びです。そして、具体性が高いために一人一人に応じた個別的な教育が成されることが多いのです。これは言い換えれば幼児たちは比較的自由に自分の好きなことをやることが許されており、集団の中に拘束されることはあまり多くないということです。また幼児教育では、教員や友人とのやりとりを通しての学びのように、話し言葉中心での教育が行われます。

対する小学校教育は、端的に言ってしまえば学力主観の様相がぐっと高まります。時間割に基づいた集団学級の中での授業は、初めて子どもたちを時間的・空間的に強く拘束します。定められたカリキュラムに沿った教科学習は、個別性の強かった幼児教育とは対照的に一斉型で全体性が強いです。幼稚園では自分の好き勝手ができていたのとは打って変わり、途端に集団の中で秩序を守ることを求められます。また教科書を初めとする様々な学習教材を使用して学ぶため、書き言葉中心の教育が行われます。到達目標も定められ、その目標への到達度によって評価が行われます。

このように小学校に入ってからの学びの性質は、それ以前の幼稚園での学びと大きく異なります。これを「段差」と呼び、この「段差」による戸惑いや不安から、不適応行動を起こしてしまう子どもたちが一定数存在します。小学校入学直後の児童が授業中に立ち歩いてしまう、先生の話が聞けない、などといった問題は「小1プロブレム」としてよく取り上げられます。一方で、幼稚園では年長さんとして園のリーダー的役割を担ってきた子どもたちが、小学校入学後は高学年のお兄さんお姉さんから「お世話される」側にまわる「逆段差」といった状況も、小学校入学直後の児童が学校になじめないと感じる要因として指摘されています。

 相互的な歩み寄りの必要性

それでは、幼稚園から小学校への進学はどのように接続することでスムーズになるのでしょうか。

これを考える際に留意すべき点は、一方をもう一方に近づけるような取り組みは危険を伴うということです。現在の幼小接続関連の文部科学省の動きを見ていると、幼稚園を小学校に近づけようという意図が垣間見られます。幼稚園の教育要領を改訂して、よりアカデミックなこと(例えば文字や数値の概念の導入)を行うことで、「幼稚園で小学校入学の準備をする」といった取り組みがそのひとつです。しかし、これは先ほど見てきたような、未来の社会を生き抜く上で鍵となるであろう「本来の幼稚園の学び」を薄めてしまうことにつながります。幼稚園を小学校につなげるために引き上げるのではなく、逆に小学校を幼稚園に下ろしてくるのでもなく、「相互に歩み寄る」必要があるのではないかと思います。具体的には、幼稚園を土台として小学校の学びをつみあげるような、接続型の総合的カリキュラムの作成や、初等教育へ進学する前に「移行期間」を設けることによって、現在非常に急な段差を「ゆるやか」にしていくことなどです。このような「ゆるやかな段差」をめざすには片方からだけの働きかけではうまくいきません。幼稚園側、小学校側両方からの歩み寄りが必要なのです。横浜市のスタートカリキュラム(小学校入学時に幼児期の教育との接続を意識したカリキュラム)などはこのような働きかけの一例です。

4  実際に現場で意識すべきこと

最後に、具体的に教員の方々は学校現場でどのようなことを意識すべきなのでしょうか。

一番重要なことは小学校教諭が幼稚園での学びを理解・評価することです。近頃は徐々に幼稚園と小学校との交流が図られてきていますが、現状では形式的な交流に終わってしまうことが多いようです。まずは小学校教諭が幼稚園での探究学習の重要性・可能性をしっかりと理解し、評価する姿勢が必要です。例えばクラスに一人、休み時間が終わってもずっとウサギの観察をしていてなかなか教室に帰ってこない生徒がいるとしたら、担任の教員はおそらく規律を守れないことをその生徒に注意するでしょう。しかしその子は探究的学習の最中なのかもしれません。そして、まだ規則・規律といった社会性を身につけるための移行過程にいるのかもしれません。そのあたりの理解を小学校教諭が深め、適切な対応・評価をしていくことで接続期の段差による問題は解消されていくと思います。

幼稚園の教員も自身の職業の専門性を深め、主張していく必要があります。研修制度の充実や、幼小の連携の強化、小学校教員が幼稚園へ、そして幼稚園の教員が小学校へ職業体験をしにいくといった「学びあい」の仕組みの普及など制度的にも整備できることはたくさんあると思います。小学校の教員も幼稚園の教員も、よりよい教育の実現のためには、互いの教育的特徴・役割について理解し、「学び続ける姿勢」が必要なのだと考えます。

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