音読の追究②(岡篤先生)

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目次

1 はじめに

本記事は、岡篤先生のメルマガ「教師の基礎技術~音読の追究~314号~320号」から引用・加筆させていただいたものです。
音読が苦手な子どもに対してどのようなことが有効なのか。音読をするにあたって必要な指なぞりの部分から説明されています。
岡篤先生のメルマガはこちらを参照ください。→http://archive.mag2.com/0001346435/index.htm

また、関連記事としてこちらの記事もあわせてご覧ください。
音読の追究①
音読の追究③
音読の追究④
音読の追究⑤
音読の追究⑥

2 実践内容

一年生担任のおもしろさと難しさ

私は、1年生の担任を5回しています。男性教員としては、比較的多い方のようです。それでも決して、自信を持って「1年生を理解した」といえるようなレベルではありません。ただし、回を重ねるごとに1年担任のおもしろさと難しさを感じるようになってきました。実際には指示自体を理解できていなくて違うことをしていたりする子もいます。何となく、一部のよくできる、発言も多い子にひっぱられて、苦手な子や声を出さない子の様子をきちんと把握できていなかったのです。

ひながらの調査

1年生ですから、ひらがながスムーズに読めない子がいても当然です。しかし、どの子がどの程度、ひらがなの読み書きができるのかを知って指導をスタートするのとそうでないのとでは、授業の計画も、授業中の配慮もかわってきます。そこで、4月のうちに、ひらがなの読み書きがどの程度できるかを調べることにしています。といっても、一斉にテストをしても正確には分かりません。テストということ自体がまだ理解できていない子もいるからです。少し時間がかかりますが、一人ずつ読んで、調べることにしています。市販のテストに入っている場合は、それを使うことが多いですが、ないときや市販のテストを購入していないときは、50音表を私がさしたり、ひらがなで書いた言葉で読ませたり、私がいった言葉を書かせたりして確認します。

■半分しか読み書きできない子は要配慮

私の5回の1年生担任の経験の中では、クラスのほとんどの子がほぼひらがなの読み書きができるという状態でした。もちろん、一つ、二つ、間違えるという子もいますが、それはほとんど問題にならなかった気がします。中に半分、またはそれ以下しかできないという子がいました。その子については、頭に置いておく必要があります。この子は、みんなと同じスピードでは授業についていけないからです。また、指導書通りでは、難しいということもできるでしょう。

■集中できないことが共通点

そんな子は、数の上では少ないはずです。しかし、この子たちを何とか、1年生が終わった時点では、一定のスピードで読み書きができるようにしようと思うと簡単ではありません。私が担任した中では、ひらがなの読み書きが半分以下の子は、共通点がありました。それは、集中力に乏しいという子です。たまたま、ひらがなに興味を持たなかったか、教えてもらう機会がなかったというのであれば、すぐにみんなに追いついていくのかもしれません。しかし授業中に集中ができないということでは、追いつくどころか、ますます差が開いていきます。例えば、音読練習をさせようとしても、じっと本を見ていることができません。

■集中力に欠ける子は学習が遅れがちになる

ひらがなの読み書きが半分程度で、集中力も欠ける子は、それなりの配慮がないとどんどん学習が遅れていきます。また、集中できないと、他の子に話しかけたり、立ち歩いたりということもしがちなので、周りへの影響も出てきます。まずは、教科書に集中させることが必要です。といっても、これがなかなか難しい。常に体が動き、教科書を持たせるとその教科書を揺らしたり、閉じたり開いたりしています。 これでは、音読練習どころではありません。姿勢を注意しても1分と続きません。すぐに横を向いたり、机にべったりとかぶさるように寝たりしています。

■しんどい子を支えることは準しんどい子も支える

ということは、おそらくここまで極端でなくても、これに近いくらいの集中力の無い子もいるはずです。「準しんどい子」とでも、いえばよいのでしょうか。こういう子をどう指導していくのかということは、現在の教師の重要な課題の一つといえます。そして、このことは学級経営にも直結します。では、こういう子の場合、どんな指導をすればよいのでしょうか。「ただ、しっかり読みなさい」というだけで、できることはまずありません。本人が読む気になったとしても、スムーズには読めないのですから。こういうときは、何か具体的な手立てが必要です。漢字が読めない子には、ふりがなを書かせる、といったことです。もちろん、1年生の1学期なので、漢字が読めないことが理由ではありません。「ひらがなが読めないことと」「教科書に集中できないこと」「読んでいるところが目で終えないこと」が理由と考えられます。 

■指でなぞることの意味

以前は、指でなぞらなくても、読めるように練習しないと役に立たないと何となく思っていました。しかし、最近の音読が苦手な子の実態はそれどころではないという印象です。不器用なせいか、目と手の連動がうまくいかないのか、指でなぞることもできません。ただ、教科書の読んでいるところに指をおくというだけでも、少なくともその瞬間は教科書に集中します。また、指がそこにあるということは、他のこと(消しゴムをちぎったり、他の本を開いたり)に手を使いにくくなっています。そのレベルでのねらいとしてでも、指でなぞることはやる価値があると考えました。もちろん、「読んでいるところ、指でなぞりなさい」というだけでは、やりません。

■音読練習もスモールステップ

なぞる前に、まずは指示した箇所を指で押さえる練習です。音読練習をスモールステップで分けて、文を目で追う練習を設定し、その目で追う練習のさらにスモールステップとして文字を指で押さえる練習をするわけです。音読にたどり着くまでずいぶんと回り道をするようですが、まさに「急がば回れ」です。読んでいる部分を指でなぞることができないなら、これもやる必要があります。そういう子がいないなら、必要ない、ということです。

■一点を押さえるところから

①「右手の人差し指を出して。」左手の人差し指を出しながら指示します。もう、この時点で聞いていません。
 ②「ほら、人差し指が分かるかな?」同じように人差し指を出すように促します。動きがあると、聞いていない子も気づいて参加しやすくなります。教師もやっていない子を確認することが出来ます。
 ③「題名の『うたにあわせてあいうえお』の『う』をおさえなさい。」当然、この前に「題名」という言葉を教えておく必要があります。1年生には難しいようですが、教えておくと便利なことはどんどん教えて使う方がよいでしょう。さあ、さっと「う」が押さえられたでしょうか。おそらくほとんどの子にとって、簡単な作業です。しかし、クラスに一人でも二人でもとまどう子がいれば、その子は音読がスムーズにできない可能性が高いでしょう。

■ペア学習を活用する

教師が一人ずつ確認して、教えていくことできますが、ペアでの活動も取り入れておくと様々な場面で活用できます。ここでは、ペアに慣れる意味で「となりの人はできているかな。」と見合うようにします。教えること、教えてもらうことに抵抗を感じなくなるくらい普段からたくさん活動を入れておくことです。次に、この指を動かします。「では、その下の『た』を押さえて」驚くことに、この一文字下がさっと見つけられない子がいるかもしれません。次の作業に入るときに、指をはなしてしまったり、指が押さえているところと目が探している場所が違ったりするからです。 さて、やっと「なぞる」練習に入るところまで来ました。 

慣れが肝心

ここまでは、「なぞる」前の段階の「押さえる」でした。音読が苦手で、集中力の無い子には、これさえも簡単なことではなかったはずです。しかし、この単純な作業もくりかえしていくうちに慣れ、慣れることによって集中しやすくなっていきます。やはり人間は、できることは抵抗が少なく、できないことは抵抗が大きいという面があります。それが、極端に出る子が今は対象になっているわけです。「『うたにあわせてあいうえお』の『う』をおさえてるね。」子ども達がうなずきます。特に、ターゲットにしている子は常に意識して様子をみます。「では、先生が言ったら下にさげますよ。」こういうと、「先生が言ったら」を忘れて、「さげますよ。」だけを聞いて動かす子がいるはずです。「まだまだ、今は『う』をおさえています。いくよ。」先に指を動かしてしまった子がおさえなおすのを確認します。「すぐ下の『た』をおさえて」このときも、二文字目の「た」を通り過ぎて一気にいってしまう子がいるはずです。最初と同様に、もどさせます。これもくりかえして、こちらの言葉に合わせて指を動かすことに慣れさせます。

■「ゆっくり」が難しい

ゆっくり動かすということは、だらだらしてよいといいうことではありません。相手に合わせて、間をとりながら動くということです。ゆっくりすることは、周りを見ることにつながります。指なぞりもゆっくりができるかどうかが最初のステップです。押さえたゆっくり指示通り動かすことが苦手な子は、音読も苦手です。したがって、まずは指なぞりができるようにして、音読練習に入る準備を整えてやる必要があります。

■「ゆっくり」が簡単な子への対応

その一方で、得意な子もいます。「た、をおさえて」と言われたら、さっと「た」を見つけて、押さえる。動かして、と言われたら、言われた分だけ動かして待つ。そんなことが1回目からできる子もいるはずです。そういう子は、簡単にできるこの指なぞりを何度もやらされると退屈してしまうはずです。ですから変化をつけて楽しさを入れます。得意な子だけではありません。指なぞりがスムーズにできない子も、同じパターンだけでは飽きてきます。いや、むしろ、飽きの早さでは、指なぞりができないような子の方が早いかもしれません。それでも、本当に苦手な子がそれなりにできるようにするには、かなり時間がかかります。1ヶ月でも難しいでしょう。3ヶ月かかるかもしれません。半年かければ、ほとんどの子ができるようになるといえます。そんなに長い間、飽きている子を無理矢理やらせることは不可能です。ほめて、ほめて、を原則にします。「半年かけて」が頭にあれば、少しくらいできないときがあっても、あせっていらいらすることはないでしょう。さらに、指なぞりのやり方も変化をつけます。

■「速いは楽しい」

こんな単純な作業に変化をつけるといっても限りがあります。しかし、スピードの変化は、子ども達が喜びます。先に、「ゆっくりが難しい」ということを書きました。ついつい、先に指を動かしてしまう子もいます。だから、指導の原則としては、「ゆっくり」ができているかを常に確認します。ただし、変化をつけるときは、あえてスピードをあげます。いつものように、ゆっくり読み始め、それに合わせて指なぞりをさせます。途中から、少しずつ読むスピードを速くしていきます。当然、子ども達は指を少しずつ速く動かすようになります。さらに、スピードをあげます。子ども達もこれに気づき、喜んで集中するようになります。限界まで速く読んでみます。子ども達は声をあげて笑いながら、続けています。読むのを止めて、「どう、できた?」と尋ねると、「大丈夫、簡単!」「ちょっと、ずれちゃった」と、返ってきました。速くの反対もあります。ときどき、読むのを止めるのです。これも子ども達は、喜びます。

■「止める」という工夫

「ゆっくりは難しい」「速いは楽しい」
と書きました。ゆっくりが指導の原則ですが、ときには思いっきり速くすることで子ども達はとても喜びます。単純な指なぞりがゲーム感覚になります。中には、ふざけていい加減にやってしまう子がいるかもしれません。それでも、あくまで飽きがこないようにするための変化ですから、そんなに目くじらを立てるほどのことはありません。ゆっくりするのが難しい子がいますが、止めるのはもっと難しいかもしれません。いつも通り、ふつうのスピードで読み、指なぞりをさせます。「あかるい あだひだ あいうえお」と一連を読みます。この後、1行あき、子ども達は次の行の「いいこと いろいろ あいうえお」のはじめの文字「い」を押さえています。ここで、わざと読むのを止めます。すると、中には勝手に指を先に動かしてしまう子がいます。ゆっくりでもずれてしまうのですから、完全に止めれば、ずれやすくなります。それをあえてやり、聞くことを意識させるわけです。

■無理に止める

次は、もっと無理矢理とめて、わざとずれやすくします。3簾目は、「うたごえ うきうき あいうえお」です。「うたご」で、止めます。言葉としては、中途半端なところなので、つい行き過ぎてしまいます。「今、『ご』ですよ。どうかな?」と、わざとのぞきこむようにして、押さえている箇所を確認します。今度は、そこから、急にスピードを上げて、「え うきうき あいうえお」と最後まで、読んでしまいます。「ああ、おくれた!」「ちゃんとできた!」など、それぞれの反応を見せてくれます。こういったことをくり返していけば、指なぞりが出来ない子も少しずつできるようになっていきます。また、最初から出来る子も、飽きずに同じ活動をすることができます。そして、指なぞりをするということは、人の音読を聞き、教科書に視線を注いでいるということです。なかなか、集中できず、体もとまらない子にとっては、指なぞりができるようになることは、授業に参加するという意味でも、大きな前進になります。

3 執筆者プロフィール

岡 篤(おか あつし)先生
 1964年生まれ。神戸市立小学校教諭。「学力の基礎をきたえどの子も伸ばす研究会(略称学力研)」会員。硬筆書写と漢字、俳句の実践に力を入れている。(2017年2月15日時点のものです)

4 書籍のご紹介

『読み書き計算を豊かな学力へ』2000年

『書きの力を確実につける』2002年

『これならできる!漢字指導法』2002年

『字源・さかのぼりくり返しの漢字指導法』2008年

『教室俳句で言語活動を活性化する』2010年

5 編集後記 

指なぞりに工夫を加えながら続けることによって音読ができるようになるというメリットはもちろん、教科書に集中することができるというメリットがあります。さらに、人の話を聞くことができるようになるので是非実践してみてはいかがでしょうか。
(文責・編集 EDUPEDIA編集部 福山浩平)

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