音読の追究④(岡篤先生)

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目次

1 はじめに

本記事は、岡篤先生のメルマガ「教師の基礎技術~音読の追求~327号~330号」から引用・加筆させていただいたものです。
音読を追求することによって音読、読解だけではなく子どもの聞く力を育てることも育てます。その方法について紹介しています。
岡篤先生のメルマガはこちらを参照ください。→http://archive.mag2.com/0001346435/index.htm

また、関連記事としてこちらの記事もあわせてご覧ください。
音読の追究①
音読の追究②
音読の追究③
音読の追究⑤
音読の追究⑥

2 実践内容

交換読みの工夫

交換読みは、教科書を交換する練習方法です。まず、席が隣の子と教科書を交換します。もし、一人余るようでしたら、代わりに教師が入ればよいでしょう。どちらが先に読むか決めます。低学年や最初のうちは、「廊下側の人が先に読みます。」などと、教師が決めてしまった方がテンポよく流れます。
 

■相手に向かって読む

先に読む方は、もう一人の子に聞いてもらうことになります。「自分のためにだけ、聞いてもらうんだから、一生懸命相手に向かって読みなさい。」と、言います。全員でそろって読むと迫力がありますが、ちゃんと読んでいない子がたいていは出てくるものです。しかし、自分のことだけを聞いている相手がいるのですから、さすがにきちんと読まないわけにはいきません。

■相手の読みを聞く

聞く方には、鉛筆を持つように指示します。この鉛筆で、間違えたり、つまったりしたところをチェックさせます。ただし、「意地悪でチェックするんじゃありませんよ。相手の子が今日の宿題で本読みをするときに、チェックしてもらったから、そこを気を付けて読んでうまくなった、って思えるようにチェックするんですよ。」と言います。「親切な気持ちでチェックしよう。」ということです。とはいうものの、その辺りに鈍感な子はいるものです。

  • 赤鉛筆やボールペンは使わない。
  • 必要以上に大きく書いたり、濃く書いたりしない。

といった最低限のことも指示しておきます。
交換読みのメリットは、1対1なので、全員が読みか聞くかの活動をしているということです。しかし、別の良さもあります。

■交換読みは心地よい

交換読みは、全員が確実に活動するという大きなメリットがあります。しかし、それだけではありません。自分が確実に誰かに聞いてもらっている、もっといえば認めてもらっている、というのは子どもにとって心地よいものです。交換読みを始めてから10年以上経っていると思います。ある年、荒れた高学年の担任になりました。ノートの書き方を指導すると、「なんで、そんなことせなあかんねん、死ね。」とキレる。教室で飼っているメダカは、網ですくって床に捨てていき、全滅する。そんなことが連日ありました。「お前」「死ね」「キショイ」といったそれまで子どもからは言われたことのないような言葉を毎日、たくさんの子どものから言われました。

■荒れた高学年での取り組み

何か新しいことや子どもにとって嫌なことをやらせようとする度に、暴言の嵐となります。交換読みは隣の子とペアになるわけです。「こんな奴の音読なんて聞けるか。」「こいつに教科書触られたら腐る。」といった反応が予想されましたそれだけに気が重く、このクラスでは無理だろうとも思っていました。一方、「このクラスで何ができて、何ができないかを確かめてみたい。」という意識もありました。

■俳句と硬筆書写

意外だったのが、俳句です。「こんなクラスでは俳句は絶対に無理。下品でふざけた落書きをされて終わり。」と思っていたのですが、予想外に熱心に取り組む場面が見られました。硬筆書写のプリントも最初はそれこそ、落書きがぐちゃぐちゃに書かれていたり、くしゃくしゃになって捨てられていたりという状態でした。それでも、なぞりの分も含めて一文字ずつに丸をつけて、丸の数を子どもたちが数えています。それを毎回くり返すと、徐々に落書きや殴り書きが減っていき、最後にはほとんどの子が真剣に取り組むようになってきました。さて、交換読みは通用するでしょうか。

■どう指示を伝えるか

交換読みの説明をしました。「うわあ、キッショー(きもちわるい)」「なんで、そんなことやらなあかんねん!」などと、大騒ぎで始まることを覚悟しました。ところが騒ぎは起こりません。そうはいっても何事もなく進むはずがありません。きっと、説明している意味がよくわかっていないのでしょう。「では、教科書を隣の人と交換しなさい。」の一言で、今回の大騒ぎは始まるはずです。もう一度、覚悟をしなおして言いました。「教科書を隣の人と交換しなさい。」なんと、どの子もスムーズに交換しています。指示したとおりに、一人が読み、もう一方が鉛筆を持って聞いています。

■交換読みの与える影響

子ども達の表情を見ていると、ふてくされていたり、嫌そうにしている子もいません。それまでずっと、すさんだ言動ばかりが目についていました。しかし、やはり自分が1対1で関わり、認めてもらうことを本心では求めているのでしょう。以降、このクラスでは、できるだけ交換読みを取り入れることにしました。もちろん、国語の学習として、全員が活動するというメリットがあります。それ以外に、あるいはそれ以上に、このクラスでは、隣の子と分かりやすい具体的なことで関わり合う時間が有意義だと考えたからです。このときに、交換読みは心地よいものだということが分かりました。音読の練習方法としてだけでなく、学級作りの手立ての一つとしても位置づけるようになりました。では、交換読みがうまくいかないときはないのか。そんなはずはありません。どんな方法でも、ときにより、子どもにより、うまくいかないことはあるのが普通です。そのときに、どう対応していくかが重要です。

学年に関わらず通用する交換読み

低学年でも、荒れた高学年での交換読みは通用します。 1年生では、まだスムーズに読めない子がいるので、2学期以降に始めるなど、子どもの実態に合わせて判断するべきです。そういった配慮により、1年生でもていねいに説明をくり返せば、充分にできます。すぐに、キレる男の子がいました。前号で書いたように、荒れた高学年では、すぐにキレる子ばかりでしたから、「そのうち交換読みにも慣れてできるようになるだろう。」と、それほど気にしていませんでした。

エスカレートする興奮

しかし、毎回のように、「俺はそんなところでまちがってない。」と、キレ出します。それが分かっているので、横について、チェックが入ったときに、「先生も聞いてたけど、今まちがってたよ。」と具体的に、間違い方を指摘しても興奮し出すと絶対に認めません。次には、わざと教科書や筆箱を机から落として音を立てたり、学級文庫を踏みつけたりして挑発行為に出ます。それでも、ほっておくと、ついに鉛筆やノートを私に向かって投げつけ始めます。ひどいときは、椅子を投げられたときもありました。

■教師が相手をするしかない

私は、工夫をしました。この場合も、「この子でも、そのうちできるのではないか。」と、色々と声かけをしたり、相手を変えたりして試してみました。しばらく中断して、2学期の後半になってから再開してもみました。どれも、だめでした。唯一いつもうまくいく方法は、私がこの子の相手をすることです。基本的には、「見て欲しい」という心理があるので、私が相手をすることですでに気持ちの上では前向きになっています。そのせいか、チェックが入っているのを見ても、キレた状態になることはありませんでした。この子に関しては、最後まで私が相手をすることになりました。クラスの人数が奇数だったので、残りの子でペアを作ればちょうどうまくいきます。欠席などで偶数の時は、余った一人を後半で私がペアになることにしました。子ども同士の活動が理想だったのですが、仕方ありません。その意味では、交換読みの失敗例といえるでしょう。私は、連れ読み(交代読みというときもあります)、を中心に音読練習を進めています。まずは、間違えずにスムーズに読めることを目標にし、それを「すらすら読み」と読んでいます。「すらすら読み」ができたら、「上手読み」です。

3 執筆者プロフィール

岡 篤(おか あつし)先生
 1964年生まれ。神戸市立小学校教諭。「学力の基礎をきたえどの子も伸ばす研究会(略称学力研)」会員。硬筆書写と漢字、俳句の実践に力を入れている。(2017年2月17日時点のものです)

4 書籍のご紹介

『読み書き計算を豊かな学力へ』2000年

『書きの力を確実につける』2002年

『これならできる!漢字指導法』2002年

『字源・さかのぼりくり返しの漢字指導法』2008年

『教室俳句で言語活動を活性化する』2010年

5 編集後記 

音読が子どもの承認欲求を満たすことにもつなげることができるということでした。荒れている学級でも実践できるということだったので実践してみてはいかがでしょうか。
(文責・編集 EDUPEDIA編集部 福山浩平)

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