社会科授業づくり~思考力を鍛える中学校の実践~

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目次

1 はじめに

この記事は2017年3月19日に行われた「第2回 0から学べる社会科授業づくりセミナー」内で行われた、石原浩一先生の講演を編集・記事化したものです。このセミナーは「小学校と中学校をつなぐ社会科授業づくり」をテーマにしており、講座や実践提案、模擬授業が行われました。

2 中学校の社会科の授業で大切にしていること

私は社会科研究会で生徒主体の課題解決型の授業を研究しているのですが、やはりそればかりやるわけにいきません。ほとんどが教科書を中心とした普段の授業になるのでその質をどれだけ上げていくか、ということを重視して取り組んでいます。

 ➀生徒は納得しないと動かない

中学生だけでなく小学生も当てはまると思うのですが、やはり納得しないと動かないのです。特に社会が嫌いな子は「なぜ社会を勉強するの?」「社会を勉強するとどんないいことがあるの?」と聞いてきます。この疑問にちゃんと答えてあげることが大事です。
私は日ごろの授業のなかでの声掛けを意識しています。

 4月の授業開きにて

最初の授業で配っている自己紹介や授業の進め方のプリントに、なぜ社会科を学習するのかをきちんと書いて説明します。

 授業の導入

導入で「円高や円安って言葉は聞いたことがある?」と尋ねると、多くの子どもが「新聞やニュースで知っているよ」と答えてくれます。このとき、「これから30分後には円高円安が分かるんだよ」と伝えると多少なりとも子どもたちの意欲は高まります。

 話し合い活動を始める前

「話し合い活動というのは人の意見を聞いて、それをもとに自分の考えを伝えることです。それができればこの先大人になってからの会議でもしっかり意見を言えますよ」と話すことで生徒の意欲を高めていきます。

 授業のまとめ

今日勉強したことを覚えておけば、自信を持って選挙にいけるよね」と一言付け加えると生徒は勉強したことの価値を認識できます。

 社会科を学ぶ意義

歴史を学ぶ意義のとらえ方は先生によって違いますが、私は「歴史のなかで、人間が過去に様々な良い行いや過ちをしてきました。それを知ることで日本の未来に生かしていくことが大事なんだよ」と言うようにします。
地理に関しては、アフリカ人はいまだに裸で歩いているイメージを持っている人が多いんです。「地理をきちんと学べば、そういった間違った思い込みや偏見から抜けだして世の中を正しく見えるようになるんだよ」と伝えています。「学習指導要領の変更や、小中学生に対して行う学力学習状況調査ではこんな結果が出ているから、それを踏まえてこのような授業をやっているんだよ」と伝えて子どもたちに納得させるようにしています。

 ②日常の授業のなかで思考力・判断力・表現力を鍛える

 授業準備

  • ただの穴埋めにならないような学習プリント
  • 次に同じ学年をもった時のために流れのメモやICTでうつす資料

(春日井市は中学校全クラスに実物造影機とプロジェクターが完備されています)

 思考力・判断力を鍛える実践

新しい単元に入る前にA、Bどちらの方法で授業をしていくか考え、方針を立てます。

A 毎回授業後半で「お題」(勉強したことを活用する課題)を提示する
導入→教科書中心に習得→「お題」提示の流れ
毎時間学習したことを基にして考える「お題」を用意する

【平成26年 公民の実践】
導入→沖縄本島の航空写真をきっかけに日本の防衛について興味をもたせる
教科書を中心とした授業→集団的自衛権、個別的自衛権、防衛について学ぶ
授業の最後→価値判断を問うお題「日本は今後、集団的自衛権を使えるようにしていくべきであるという考えに賛成か反対か

【他の「お題」例】
自由権を学習したら…「大阪市長が市の職員に入れ墨を禁止した問題について賛成か反対か」
社会権を学習したら…「生活保護を受け取る人はパチンコをしてはいけないという意見に賛成か反対か」

B 単元を貫く課題
単元の初めに「お題」を提示する。
例えば、教科書に以下の記述があります。
「近畿地方はなぜ、日本で二番目の地方と呼ばれるのだろう」
1.このお題を導入で生徒に出会わせる
2.教科書を一通り勉強して、単元おわりにもう一度同じ質問をする

【上記の「お題」に対する生徒の解答例】
・歴史的な遺産が多いから
・中心都市である大阪府は愛知県より人口が多いから

【他の「お題」例】
・アジア州を勉強した後に、今後世界をリードするのはアジア州だという意見に賛成か反対か
・九州地方の旅行計画を立ててみよう
・江戸時代が260年続いた理由は何だろう

このように単元を貫く「お題」を単元の最初に投げかけておきます。
日ごろからやっていくと子どもはこの活動が好きになり、「先生今日のお題は何?」と聞いてくるようになります。考えることや表現することに慣れてくるのです。

 ③どんな子も一生懸命参加するような仕組みを作る

 グループ発表時の指名

  • グループ活動時は、発表直前に発表者を指名する

  最初に発表者を決めてしまうと他の子がさぼってしまうことが中学校ではありえます。

  • グループで考えを一つにする活動は一人を指名し、グループの意見を聞く
  • 考えを一つにまとめない話し合い活動では、一人に参考になった意見を聞く

 ④世の中のできごとに子どもたちが興味をもてる工夫をする

・地名探しクイズの工夫
地名探しクイズとは、教師が指示した場所を生徒に地図帳で見つけてもらうというものです。多くの社会科の先生が実践しているのではないでしょうか。
ただ単に場所を探す指示を出すのではなく、ちょっとした時事情報を付け加えています。例えば、東京都庁を探してもらうときは「最近、小池都知事で有名な東京都庁を探してごらん」と、地名と世の中の出来事と関連づけるように出題します。

・今世の中で起きていることについて調べ、考えをまとめるレポートを課す
内容は自由。ある生徒は東京オリンピックの会場問題について、前半は調べたことをまとめ後半に自分の意見を述べる形式に取り組みました。

 ⑤小中高のつながりを意識する

 小学校の社会見学と中学校の学習内容を結びつける

春日井市では、4年生で消防署、5年生でトヨタ自動車工場に見学に行きます。消防署は中学3年の地方自治の学習、トヨタ自動車工場は中学2年の第二次産業の学習につなげることができます。「小学校の見学でどんなこと勉強した?」という問いかけによって、生徒は積極的に意見し、自身の経験を思い出していくので、小学校の学習内容を把握しておくのは大切なことだと感じています。

 高校の学習や大学入試改革に対応できる力を

これからは高校の学習内容や、大学入試を意識していく必要があります。
今、高校の授業内容が変わりつつあり、軒並み「探求」という言葉が入っていくといわれています。高校の学習や大学入試改革で求められる力に対応していかなければなりません。これまで中学校教員は、入試のための知識習得を優先するような意識がありましたが、これからは思考力や表現力を伸ばす方向にシフトしていく必要があるのではないでしょうか。

3  実践者プロフィール

石原浩一(いしはらこういち)先生。愛知県春日井市の中学校教諭。第2学年学年主任。授業研究部長。春日井市社会科副読本編集委員。
平成25年、初任時に新設校だった小学校から中学校へ異動。春日井市社会科研究会・研究推進部に所属し、地域素材の教材化、生徒主体の授業設計を研究する。(2017年3月19日時点のものです)

4  編集後記

思考力、表現力を求められる時代になっても、現場の先生方の実践は、やはり教科書を中心とした授業づくりになってくるのではないでしょうか。石原先生には小学校から中学校へ異動になった経歴があり、中学校では授業時間に余裕がないため小学校のように課題解決型の授業をするのは難しいと感じられたそうです。教科書を最大限に活かした「お題」や生徒のモチベーションを上げるきめ細かな工夫は、忙しい現場の先生方も参考になったのではないでしょうか。
  (編集・文責:EDUPEDIA編集部 黒野凪咲)

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