音読の追究⑥(岡篤先生)

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目次

1 はじめに

本記事は、岡篤先生のメルマガ「教師の基礎技術~読み聞かせと音読~340号~347号」から引用・加筆させていただいたものです。
音読のとりくみと朗読の関係について紹介しています。
岡篤先生のメルマガはこちらを参照ください。→http://archive.mag2.com/0001346435/index.htm

また、関連記事としてこちらの記事もあわせてご覧ください。
音読の追究①
音読の追究②
音読の追究③
音読の追究④
音読の追究⑤

2 実践内容

読み聞かせの効果

落ち着かないクラスを担任したときに、読み聞かせのときは、子どもが集中しやすいという実感を得ました。理由はよくわからなかったのですが、少なくとも集中する時間があるということだけでも、そのクラスで読み聞かせを続ける意味はあると考えていました。
『読み聞かせは心の脳に届く』(くもん出版 泰羅雅登)

という本を読んでいると、読み聞かせを聞いているとき、子どもの脳の大脳辺縁系が活動しているということが書いてありました。大脳辺縁系は、感情や情動を司る部分で、大脳皮質よりも深い部分です。より本能に近い部分にといえるかもしれません。読み聞かせは、ふつうの授業で考える場合と違い、より本能的な深い部分を刺激するということなのです。だから、なかなか落ち着かないクラスでも、効果があったのかもしれません。私にとっての読み聞かせは、意味があります。音読指導との連動です。 

■音読指導で再認識 

読み聞かせをするときに、子どもに音読指導で話していることを私自身が実際にやってみせるようにしています。指導していることを聞く立場としても感じて欲しいということもあります。また、読む立場になることで、私自身がいっていることについて、「意外に高度なことを要求していた」と反省したり、「これは、やはり教える価値がある」と再認識したりする場にもなります。

■題名と表紙

まずは、題名です。絵本の場合、子どもは、表紙を見たがります。必ず、表紙をはっきりと子ども全員に見えるようにします。全員に見えるようにするコツは、一番前の左右の端の子を意識することです。「今日は、『こんとあき』です。」と、表紙をはじめに正面を向け、次に左の端の子に見せ、最後に右の端の子に見せます。こうすることで、全員がもれなく見えることになります。

■本文に入るまで

本文を読むとき、本を右手で体の横に来るように持ちます。その際、私から見て左端の子が私の体で見えなくなることがないように気をつけます。はじめのうちは、字が読みにくかったのですが、これも慣れです。
題名を言った時点で読み聞かせは始まっています。ある方に教えてもらったのは、「そこから、読み聞かせの世界に入る。」という表現です。そこで、表紙をめくると、最初は何も書いていないページや、簡単なイラストだけのページがあります。すでに、読み聞かせの世界に入ったわけですから、何も情報がないようなページでもあえて、ゆっくりとめくります。これが、題名と本文の間ともなります。音読指導のときに、「先生が絵本を読むとき、題名を言った後、ゆっくりページをめくるでしょう。それくらい、題名の後は、間をとります。」と教えることができます。そして、第1行目を読みます。

■音読を中断させない工夫

題名を言ってから、充分に間をとって、ページをめくります。本文のページを開いたら、また、左端、右端と子どもに見せます。絵本のときは、ページごとにこの動きとなります。はじめのうちは、「見えない、見えない。」と声を出す子もいます。それでも、毎回必ず全員に見えるようにすることが分かってくると、それも言わないようになってきます。読み聞かせの途中で注意したくないので、私語や本の内容を先に言ってしまわないように事前にくり返し注意しておきます。そして、それでもだめなときは、近くに行って目を見たり、机を軽くとんとんと叩いたりします。ただし、「見えない、見えない。」に関しては、「絶対、見せるからね。声を出さない。」といって、毎回、毎ページ必ず見せるようにしていれば、かなりおさまります。

■音読と読み聞かせの連動

本文の1行目は、初めてその作品を聞く子にとっては、何もわからない状態での文章です。そのため、ゆっくりと読みます。イメージとしては、子どもが文章の内容を理解し、頭に絵を描く時間ができるように読みます。イントネーションも頭が上がって徐々に下がっていく、という朗読講座で習ったことを意識しています。それが子どもにどれくらい伝わるのかは、わかりませんが、音読と読み聞かせの連動ということが課題の一つでもあります。

教員側の工夫

読み聞かせでは、音読指導で子ども達に行っていることをできるだけ自分も意識していたいと考えています。しかし、一つだけ、明らかに違うことをしている部分もあります。途中に、コメントや説明を入れるということです。最初のうちは、意図的にコメントや説明を入れることはしませんでした。作品の文章以外にものを勝手に加えるべきではないと思っていたからです。

■わかりにくいところには工夫

しかし、作品によっては、子どもにとって意味のわからない言葉もあります。分からない言葉があると、それがずっと気になる子もいます。それによって、ストーリー全体を誤解したり、分からないままということもありえます。そこで、最近では読みながら、「この言葉は難しいな。」と思ったときは、さっと説明を加えるようになりました。また、長い話を何回かに分けて読むときは、前回のあらすじをさっと確認するようにもしています。これも、子どもによってかなり違うのですが、ストーリーを完全に覚えている子と、自分ではすぐには思い出せない子がいます。せっかくの読み聞かせですから、できるだけどの子も楽しめるようにしたいと考え、あらすじの確認もしています。

■子どもの想像力を膨らませる工夫

ときには、「すごいね。」といった簡単な感想を入れることもあります。子どもの自由な感覚で一人一人が読み聞かせを楽しむということを考えると、これこそ、余計なことのようでもあります。私も、感想を入れて良いという客観的な根拠を持っているわけではありません。何となく、ときには読み手の感想を入れることで、聞き手の想像力が刺激されたり、その場を聞き手と読み手が共有している感覚が強まるような気がするというだけです。長いコメントは作品の流れを中断させてしまうので、私自身が思わず言葉が漏れ出てしまうような感想は、あえて止めることをしないという意味です。読み聞かせの途中で、作品にない言葉を入れるのは邪道かもしれません。それでも、それによって子どものイメージがふくらむのであれば、それは子どもをよく知っている担任だからこそ、効果的に出来る行為だといってもよいのではないでしょうか。

■朝礼で発表

朗読CDを聞いたことが無いという方には、試しに聞いてみることをお奨めしたいと思います。私が、最初に意識して朗読CDを聞いたのは、純粋に教材研究のためでした。基礎学力という校務分掌を担当し、漢字・計算の学校全体での取り組みを提案、遂行していました。その一環として、朝会で学年ごとに音読発表を行うということを思いつきました。全校児童数が100名程度の小規模校ですので、学年といっても、多くて20数名少ない学年は1桁という数です。学年全員が前に出ても、どの子も他の児童からよく見えます。そういう状態で音読をするのですから、子ども達にとって刺激になったようです。最初の年は、1,2学期に1回ずつ発表することにしました。隔週の朝会なので、5,6,7月で計6回、10,11,12月で6回と配当しました。

■国語の授業の効率化

私がこの提案の際に気をつけたのは、「朝会での音読発表があるために、授業をせずに練習した」とならないということです。その正反対で、「音読発表があるので、子ども達が音読の練習に張り切って取り組み、国語の授業が効率よく進んだ」となることを目指していました。そのために、1学期は原則、教科書教材で発表するということにしました。

■子どもの反応

ちょうど私は1年担任でした。そこで、「1年生から順番に発表する」ということにして、自分のクラスを最初にしました。1年生の5月ですから、簡単な文章しか学習していません。姿勢や声については、授業での学習規律と同じです。それまでにも言っていたことをくり返し指導し、朝会での発表となりました。短い文章だったので、他の子ども達は聞いていておもしろくないだろうと思っていました。ところが、全員がお互いをよく知っている田舎の学校だったためか、思いの外子ども達は1年生の簡単な音読を熱心に聞いていました。中でも意外だったのは、6年生のときです。「授業の進度に影響がないように無理なく取り組んで下さい。」とくり返していたので、6年生は古典の発表となりました。さすがにこれは低学年には分からないだろうと思ったのですが、その分からない発表を1,2年生の子どもが実に熱心に聞いているのです。このとき、音読発表の効果を再認識しました。

関係本について

最後に、音読関係の本についてふれたいと思います。私が持っている本の中からいくつかあげるとすると以下のようなものになります。内容的には、優れた物が他にもたくさんありますが、あえてCD(テープ)がついているものにしました。やはり音読指導は、声を聞いてこそわかるものが多いと感じているからです。
杉澤陽太郎『現代文の朗読術入門』NHK出版
杉澤陽太郎『現代文の朗読術実践編』NHK出版
NHKのアナウンサーです。さすがに理論的にも明快で、特にイントネーションのことはこの本で知りました。CDがついているのが、大きいです。ただし、この連載でも書いたように、アナウンサーと教師の指導が違うことは当然考えられます。あくまでアナウンサーは、こんなことまで考えているのかという視点で学びたいところです。

荒木茂『音読指導の方法と技術』一光社

この本は、1989年に出ています。当時として画期的だったろうと思われるのは、この本とセットになって全6巻のカセットテープがついていることです。今なら、CD1枚で済むのでしょうが、カセットテープ6本ですから、本より遙かにかさばった箱に入っています。何と言っても、子どもの音読と指導の場面が入っているのが貴重です。後ろで他のクラスの声と思われるものが入っていることもあり、教室での録音だと分かります。けちをつければ、いくらでもできるのかもしれませんが、やはり録音を聞くことができるととても勉強になります。表現読みの本としては、ルック社から「理解を深める表現よみ」が出ています。

どれが絶対ということではなく、音読指導を音で聞くことができるというのは貴重です。批判することは簡単ですが、何かを学ぶという姿勢で聞きたいものです。教師以外に、俳優、声優、アナウンサーなどの本もたくさん読みました。少しだけ仕草をすると声が変わるということや、登場人物の好きなことを考えると理解が深まるといったようなことは、たくさん読んだ中から少しずつ学び取ったものです。違う立ち場だからこそ、学べるということもあります。逆に立ち場が違うということを意識して鵜呑みにせず自分なりに消化する必要もあります。その意識があれば、どんな分野の著者であっても、何らかの形で参考になることと思います。

3 執筆者プロフィール

岡 篤(おか あつし)先生
1964年生まれ。神戸市立小学校教諭。「学力の基礎をきたえどの子も伸ばす研究会(略称学力研)」会員。硬筆書写と漢字、俳句の実践に力を入れている。(2017年5月3日時点のものです)

4 書籍のご紹介

『読み書き計算を豊かな学力へ』2000年

『書きの力を確実につける』2002年

『これならできる!漢字指導法』2002年

『字源・さかのぼりくり返しの漢字指導法』2008年

『教室俳句で言語活動を活性化する』2010年

5 編集後記 

今回は多くの役立つ本がたくさん紹介されていました。
音読を中断させない工夫も実際の教室で実践しやすいものだと思うので是非お試しください。
(文責・編集 EDUPEDIA編集部 福山浩平)

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