「どうして?」を探る5歳児の色水遊び ~匂いを感じる実体験を通した仲間との協同的な学び~(金木麻美先生)

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作成者:Taro Shimomura (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

6月上旬に電車遠足で行った芝公園で、ウメの実を見付けた。ある子が、「これいい匂いだから、幼稚園に持って帰ろう」と提案し、袋に入れて持ち帰ることにした。翌朝、前日の遠足の余韻に浸ってほしいと思い、持ち帰ったウメの実を手に取りやすいように並べた。 登園してきた子たちから、匂いを嗅いだり、袋の上から触ったりして楽しんだ。何人かが触ったことで、ウメの実が少し崩れて汁が出てきて甘い匂いが広がった。「そうだ!ジュースを作ろうよ」という声が挙がった。こうして、今年の色水遊びが始まった。
 園庭には、様々な遊びに取り入れられる自然物が幼児の手に取りやすい環境として用意されている。6月上旬は、オシロイバナやアサガオなどの色が出やすい花はまだ咲いていなかったが、子どもたちは園庭のあらゆる葉や花や実(ビワ、エンジュ、メドウセイジ、ミント、レモンバーム、ベゴニア、パンジー、ビオラ、クワ、イチゴ、ミカン、カキなど) を使って色水遊びを始めた。

2 教師の願い

ウメの実の香りを幼児が発見したことから遊びが始まったので、色だけではなく香りにも興味をもってほしいと思い、香りに気付く仕掛けをしていった。園庭の香りのある自然物(メドウセイジ、レモンバーム、ミントなど)を、遊びに取り入れやすい場に設置したり、作った後の色水の香りの変化に気付くように、片付けを促さずに幼児の発見を待つようにしたりした。
 幼児が実際に感じたことから遊びが広がり、自分のたちの遊びとして興味を寄せながら続いていくように、幼児からの気付きや発信を待った。教師が科学的な知識を教えるのではなく仲間の一人として一緒に心を動かして疑問を探り、幼児の興味関心に寄り添う援助を意識して行った。この遊びを通して、色を見たり匂いを嗅いだりする実体験を基盤とした科学的な知識の芽生えや、5歳児の学級として友達とのつながりを感じながら協同的な学びをしてほしいと思い、遊びを展開していった。

3 色水遊びスタート

昨年の年中児のときに経験した色水の作り方(ビニール袋に自然物と水を入れて揉む) を思い出し遊び始めた。ある幼児が、「去年の年長さんみたいに、ゴシゴシしたい!」と、 昨年の年長児の色水遊びの姿を思い出し、すり鉢やすりこぎを使った色水遊びが始まった。 色水を容器に入れる漏斗、沈殿物を漉す茶漉し、色の違いを並べて楽しむための卵パック、 少量ずつ吸い取れるスポイト、幼児に扱いやすい小さなペットボトルなど、幼児の必要感に応じて用具を増やしていった。
 作った色水は容器に入れて保育室で保管した。誰の色水か分かるように名前付きの台紙を用意し、その上に並べていった。また、どんな材料で作ったのか、色や匂いなどの気付いたことを友達と共有してほしいと思い『気付いたことカード』を用意した。遊びの終わりに、今日の発見を記入したり教師が聞き取って書いたりしていった。色水とカードがたくさん集まってくると、色水置き場の名前を決めようという意見が出てきた。「図鑑を作りたい」「色水研究所がいい!」などの声も挙がり、色水の図鑑を作っていく『高輪色水研究所』と名付けた。看板を作ったことで、それまで興味が薄かった幼児たちも加わり、自分たちの遊びとしてより親しみをもつようになっていった。

4 匂いの変化に気付く

色水遊びを始めてから2週間ぐらい経った頃に、ある幼児が置いてある色水の色が変化したことに気付いた。「どうして色が変わったのか?」と考える中で、蓋を開けてみると、 その臭ささに驚いた。色の変化があまり無い色水も臭くなっていることが分かり、「どうしてこんなに臭いの?」という新たな疑問が出た。話し合った結果、「腐ったのではないか」 という意見が出たので、『腐る』とはどういうことか話し合い、絵本の『くさる(かがくのとも傑作集)』(作なかのひろたか)を読み、細菌によって小さく分解され変化して腐ること、土に戻すと養分になることなどが分かった。子どもたちは、せっかく作った色水が 腐らないように保管することに興味が向き、高輪色水研究所は次の実験段階に入った。

5 どうしたら腐らない?

色水のいい匂いを残すためにどうしたらいいか相談した。「家では、腐らないようにラップしているよ」「ペットボトルの蓋をちゃんと閉めた方がいいよ」「冷蔵庫に入れるときもあるよね」など、自分たちの生活経験から様々なアイデアが出た。早速、全ての方法を試し、自分の色水の匂いを毎日確認する姿が見られた。結果として冷蔵庫に入れた色水だけが、同じ期間が経っても臭くならないことが分かり、大事な色水は、職員室の冷蔵庫で保管してもらうようになった。
 1学期末には『気付いたことカード』も増え、図鑑を作りたいという思いから、書き貯めたカードを画用紙に貼り、学級で図鑑を作った。また、腐ることが分かり、夏休み前に色水をどうするか自分たちで相談し、一部は冷蔵庫に入れ、残りは土に返すことにした。

6 色水遊びから生まれた様々な遊び

 最初のうちは、色水を作ることで満足していた幼児たちだが、せっかく作った色水を使って何かできないかと考え始めた。色に興味をもっていた頃は、色水を使って染め物をして遊んだ。ミニTシャツの絞り染めや染め紙などの活動に、子どもたちの作った色水(エンジュ、ビワ、イチゴ、クワなど)を使ってみた。また、香りに興味が出てくると、「これは桃の匂いだ」「ミカンのジュースだね」など、匂いから色水に名前を付けてジュース屋さんごっこが始まり、異年齢の幼児を招いての遊びも楽しんだ。色水遊びという核となる遊びから、様々な広がりが見られ、幼児らが色水遊びを自分たちのものにして遊び込み、考え深めてきたことが自信につながっていった。

7 実体験を基盤にした協同的な学び、科学的な知識や思考の芽生え

 色水遊びを繰り返すうちに、「どうして?」という疑問が湧き起こった。色や匂いがどうして変化したのか、変わらないためにはどうしたらいいのかについて、試したり工夫したりする中で、幼児なりの気付きや学びがあった。『高輪色水研究所』という学級の仲間と共有できる環境を設定したことや、『気付いたことカード』を通じて友達の発見を可視化したことで、友達の気付きや思いを共有しながら学級の共通の遊びとなった。現在も、一日の振り返りの時間に、色水の様子を確認しながら「うわっくさい」「ああ、いい匂い」など、 友達に知らせ合い思いを共感することを楽しむ姿が見られている。匂いを通した共通体験が、友達同士のつながりをより深くしている。
 実際にやってみて考える、意見を出し合って考えるという経験は、まさにアクティブ・ ラーニングであり、大人にとっては当たり前のことでも、実際に体験して分かることで、 確かな裏付けのある自分たちの知識となっていった。

8 まだまだ続くよ高輪色水研究所

2学期には、まず冷蔵庫に入れておいた色水がどうなっているか確かめる姿があり、匂いが残っていたことに安堵し喜んだ。また、1学期に作った図鑑を見ることで色水遊びが再燃し、2学期にはミカンやカキの実を、すり鉢でつぶして果実の匂いのする色水作りが始まった。
 10 月には、どうして冷蔵庫に入れると腐らないのかという新たな疑問が湧いてきた。冷蔵庫と保育室の棚の違いを考えたときに、「冷蔵庫は、ヒヤッとする」という声が挙がり、 冷たくすると腐らないのではないかという意見にまとまった。冬になるとどうなるのか、 氷で冷やすとどうなるのか、という子どもたちの試したいことはたくさんあり、『高輪色水研究所』の実験と研究は、今後もまだまだ続いていく予定である。

9 講師プロフィール

港区立高輪幼稚園 教諭 金木麻美

10 転載元

第19回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」受賞論文

「どうして?」を探る5歳児の色水遊び~匂いを感じる実体験を通した仲間との協同的な学び~

本論文は中日新聞東京本社と受賞者から許諾を得て転載しております。論文は「がんばれ先生!東京新聞教育賞」サイト上で閲覧できます。( http://www.tokyo-np.co.jp/event/kyoiku/

11 東京新聞教育賞について

「がんばれ先生!東京新聞教育賞」は、東京都教育委員会の後援を受け、平成10年に東京新聞が制定したものです。
 学校教育の現場で優れた活動を実践し、子どもたちの成長・発達に寄与している先生方の実像は、ともすれば教育に関わる様々な問題や事件の陰に隠れ、社会一般には充分に伝わっておりません。本賞は、子どもたちの教育に真摯に取り組む「がんばる」先生の実践を募集し、それを広く顕彰・発表することで、先生自身の更なる成長と、学校教育の発展に寄与することを目的としています。
 募集は6月から10月中旬にかけて行われ、教育関係者らによる2段階の審査を経て、翌年3月に東京新聞紙面紙上にて受賞作品10点を発表します。受賞者には、賞状・副賞ならびに賞金(1件20万円)が贈られます。

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