漢字力の底上げ(岡篤先生)

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作成者:福山 浩平 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、岡篤先生のメルマガ「教師の基礎技術~底上げ~382号~390号」から引用・加筆させていただいたものです。
この記事では漢字の底上げの方法について書かれています。学校の制度によって子どもたちの差が開いていた状態からどのように差が生まれないように工夫したかが書かれています。
岡篤先生のメルマガはこちらを参照ください。→http://archive.mag2.com/0001346435/index.htm

2 実践内容

総合的な学習の取り組み

当時の勤務校は、総合的な学習がうりになっていました。子どもの自主性を重視した取り組みです。子どもがテーマを考え、教育課程も話し合って作っていく、教師はそれをできるだけ支援するというコンセプトでした。この取り組みのうまいところは、積極的に保護者地域に宣伝をしていたことです。それにより、「うちの子の学校は全国的にも進んだことをしている」ということを印象づけていました。 

基礎基本の重視

また、総合ばかりをしているのではないという証に基礎基本の重視をうたっていました。それが形になっているのが、金曜日の1時間目です。この時間は、漢字と計算を交代で学習する時間です。大量のプリントが廊下の棚に入れてあり、時間になると子どもたちはそれをとって教室にもどり取り組み始めます。全問正解したら次に進み、間違えたらやり直しです。教師は答え合わせをして分からない子のアドバイスをすることになっていました。合格すればシールを表に貼ることになっています。漢字・計算の練習を機械的に強制するのではなく、子どもの意欲を引き出しながら取り組んでいくという方針でした。

■苦手な子にとっては逆効果

これを行うには、大量のプリントを作り、補充し続ける必要があります。それを入れておく棚も大きな物で非常に高価です。また答え合わせの手が足りないので、この時間は管理職から養護教諭まで総動員で丸付けをしていました。しかし、漢字力調査の結果は、低いものでした。低学年の漢字が満足に書けない高学年の子どもがたくさんいました。なぜ毎週1時間を漢字・計算のためだけに使い、職員も手間をかけているのに、この結果なのでしょうか。実は、この基礎基本の時間は有効には機能していませんでした。それどころか、この時間を取れば取るほど子どもの漢字・計算の力は落ちていくということが分かってきました。

■勝手にできるから喜ぶ

基礎基本の時間がくると、子ども達は喜びました。勉強が楽しくて喜ぶのではありません。好き勝手ができるから「楽だ」と喜ぶのです。プリントを取りに行って廊下に出たら、「プリントを探してる」とだらだらとしゃべりながら、引き出しをいじっています。ときには、そのままよそのクラスをのぞきにいってふざけているときもあります。もちろん、全職員が動いているので、すぐに見つかり注意されますが、そんなことは全く気にしません。座らせてやらせようとすると、「分からん」と始めからやる気がありません。わざと、計算問題の答えを全部1にして、「できた」と大声で笑い出します。

■差が開く

 
もちろん、まじめにやっている子もいます。その子はどんどん進んで、シールもたくさん貼ってあります。しかし、漢字や計算が苦手な子ほど、ふざけたり、集中しない傾向がありました。これでは、差が開くばかりです。そもそも漢字だけ、計算だけで考えると2週間に1回のペースになります。具体的に思い浮かべていただければ分かると思いますが、漢字や計算が苦手な子が2週間前に練習したことを覚えているはずがありません。

■「すべての子どもに確かな学力を」の視点

「基礎基本の時間」は、特に漢字や計算が苦手な子にとって不利な条件になっていました。それは、金曜日の1時間目は算数か国語の時間としてカウントすることにしています。すると、年間で30時間以上の国語か算数の時間が実はこの「基礎基本の時間」に使われていることになります。つまり、どこからか各担任が工夫して減らしているわけです。教科書の内容は終わらなければならないので、ふつうに考えれば、練習の量が減らされているだろうと予想できます。例えば、小数の単元の学習が終わったときに、あと1時間練習をすれば、理解できたり定着したりした子が出てくるということはよくあると思います。その部分をカットして次に進んだり、テストに入ったりしているということになります。それを何年もやり続けているのですから、学校全体の荒れの原因を学校がわざわざ作り出しているようなものです。子どもの自主性を尊重するという視点で進めていった結果がこうなったのでしょう。始めた頃はもしかしたら、それでよかったのかもしれません。ところが10年経ってみると、それが子どもに合っていない、あるいは全体を伸ばしていないことは明らかです。

「底上げ」の視点で見直す

基礎基本の時間は、以下のような改善が行われました。

  • 週1時間の枠→なし
  • できた子から次の問題へ→学年共通の問題
  • 年間通じての取り組み→漢字月間の設定(9月、2月)

また、4月には、漢字・計算力調査を行うことも正式に決めました。それまで、子どもの実態に合わない取り組みが続いていたのも、この実態調査がなかったからだとも考えられます。

■改めて現実を知る

あらかじめ、一つ下の学年の漢字を夏休みの宿題に入れてもらうようにしていました。そして、一字テスト形式(「びょういん」の「病」だけの1字だけを問題にする)のプリントで全漢字を練習した後、その中から20字を選んでテストしました。底上げの視点での取り組みのため、9割以上つまり18問以上正解で合格ということにしました。不合格なまま終わってしまっては意味がないので、同じ問題でのテストを何度受けてもよいことにしました。また、簡単な問題ではあるものの、全員が合格し、学校で作った合格証を渡すことにしました。ところが、大きな課題が出てきました。宿題に出してクラスで何度も練習し、さらに同じ問題でのテストをくり返しても合格できない子が続出したのです。何度受けても合格できない子がどの学年にも1割ほどいました。

■底上げの視点

この学校では、自主性を尊重する一方で、漢字や計算が苦手な子は取り出し学習をしていました。みんなが算数や国語の学習をしているときに、個別指導で漢字、計算のみの指導を受けるのです。この取り出しも一見、基礎基本を重視をしているようではありますが、後から考えると、底上げ、実態調査の視点がなかったので、あまり効果が上がらなかったのかもしれません。

■学年を下げて対応

職員で提案した文書では、「特別支援学級の子どもは、本人にあった問題を選んでよい」ということにしてありました。しかし、これを通常学級のかなりの子どもにあてはめる必要が出てきたのです。底上げの視点でいくと、ここで無理に下の学年の漢字をやってできないままにしても仕方ありません。2つ下の学年の問題でもよいことにしました。これで、合格は増えました。ところが、2つ下の学年でも無理な子がいることが分かってきました。私は、「その子が合格できる学年までいくらでも、もどってください。」と再提案しました。これによって、ほとんどの子ども達は、どこかの学年の問題で合格することができました。

■2つの発見

この取り組みをしているときに分かったことがあります。全員9割以上という明確な基準を作ることで、いかに漢字が苦手な子が多いかが切実になったということです。それまでも、「学力が低い」「漢字が覚えられない」といったことは話題になっていました。しかし、後から考えるとそれはあくまで、「話題」程度でした。真剣に9割以上を目指したとき、それがどうしてもできない子がどの学年にもいるということに全職員が驚きました。
もう一つは、職員室で漢字の取り組みについて毎日のようにやりとりしている間、実は子どもの間でも漢字の話題が絶えなかったということです。
「明日、B問題やるんだって」
「え~、私、絶対1回で合格できない!」
「俺、もう全部合格したぞ」
といった会話が学校のあちこちで聞こえるようになりました。それが、決して嫌そうに話しているわけではないのです。

深刻な場合

問題を1つ下の学年から、2つ下の学年、ときにはそれよりも易しくすることで、ほとんどの子が合格していきました。しかし合格できない子もいました。通常学級の6年生です。その子は、取り出し指導を受けている子でした。漢字テストもその取り出し指導の中で受けてもらっていました。休み時間、職員室でその子を担当している先生が、声をかけてきました。その先生によると6年生の子が1年生の漢字のテストでも合格できないというのです。1年生の漢字が無理となると、残りは一つしか浮かびませんでした。

■6年生にも片仮名

1年生の漢字も覚えられないという6年生に、最後の手段として片仮名の練習を提案しました。とはいうものの、日頃から態度の悪さが有名な子でしたから、片仮名を素直に練習するとは思えませんでした。さらに、これでだめなら、もうやることが思いつきません。「平仮名がある」という方がいるかもしれませんが、それは学校で平仮名を先に習っているからそう思うだけです。実は、線に分解して考えれば、片仮名の方が書きやすいということがお分かりかと思います。

■一番まじめに取り組む

漢字月間は、学校の深刻な状況に対しての、私の真剣な提案です。前学年の漢字でなくても、それはかまいません。底上げの視点でいけば、どこまで下がってもそこから着実に伸びていけばいいわけです。しかし、もし片仮名もできないとなると、その構想自体が破綻してしまいます。1年生の漢字が覚えられないという子が、片仮名ができるのでしょうか。その6年生に対する取り出しは、毎日あるわけではありません。どれくらい進んでいるのでしょうか。ある日、その6年生の取り出し指導をしている女性教師に声をかけられました。「今までの指導で一番真面目に取り組んでいる」ということでした。

■態度が悪いのも当然

自分の提案がそれなりに維持できたことと、一生懸命やってくれた先生の役に立てたことで、一安心でした。それでも、しばらくすると別の気持ちがわいてきました。例の6年生は、学力も低く、態度も悪いことで有名でした。それでも、片仮名ならやったのです。それは、よくいう「誰でも勉強ができるようになりたいと思っている」という言葉の証明でもあります。本人にすれば、1年生の漢字も書けないまま、5年以上過ごしてきたわけです。態度が悪くなっても当然といえるのではないでしょうか。学校の責任が大きいと反省せざるをえませんでした。

■自主的の意味がわからない

これまで勉強ができず、態度が悪くて有名だった6年生が片仮名の勉強に嬉々として取り組んでいるのです。その場面だけ見れば、よかった、ということになります。しかしそこで、学校のうりとなっていた総合的な学習でのその子の姿を思い出しました。その子は「自主的に動け」といわれても、何をしたらいいのか、自分がしたいことは何なのかが、分からなかったのだろうと思います。それをくり返しているうちに、「自主的に」ということが「勝手に」と同じ意味になってしまったのではないでしょうか。

■自主性と勝手

その6年生は、1年生のころから総合的な学習、基礎基本、そして4年生からはクラブで「自主性」を尊重されて過ごしました。おそらく、勝手なことをしている時間が多かったのではないかと予想されます。その結果、通常学級に在席していながら6年生で片仮名をやりなおすことになったのです。しかしやっと自分が出来る内容をすることができたということで、意欲的に取り組み、成果も出ているというのです。

■学校の責任

これは特別な例ではあります。しかしその子がかなり漢字を覚えることを苦手としていたのは事実です。判定を受ければLDといったものが出たかもしれません。それでも片仮名は前向きに取り組み、覚えたのです。もし、低学年のうちにじっくり教えることができたなら、漢字を習得していた可能性もあったのではないでしょうか。私は、学校の責任は少なからずあると考えました。

3 執筆者プロフィール

岡 篤(おか あつし)先生
1964年生まれ。神戸市立小学校教諭。「学力の基礎をきたえどの子も伸ばす研究会(略称学力研)」会員。硬筆書写と漢字、俳句の実践に力を入れている。(2017年5月20日時点のものです)

4 書籍のご紹介

『読み書き計算を豊かな学力へ』2000年

『書きの力を確実につける』2002年

『これならできる!漢字指導法』2002年

『字源・さかのぼりくり返しの漢字指導法』2008年

『教室俳句で言語活動を活性化する』2010年

5 編集後記 

本当に勉強が苦手で態度も悪いような子どもでもできるところに戻って指導することでやる気を出すこともあります。
そのような子どもが在籍しているクラスの先生は是非お試しください。
(文責・編集 EDUPEDIA編集部 福山浩平)

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