山内太地氏インタビュー(五月祭教育フォーラム2017『大学入試改革!問われる新たな能力~現場と家庭は何をすべきか~』)

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1 はじめに

本記事は、2017年5月21日に東京大学で開催された五月祭教育フォーラム2017『大学入試改革!問われる新たな能力~現場と家庭は何をすべきか~』後に、登壇者の山内太地氏(教育ジャーナリスト)にインタビューをしたものです。

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大学教授に聞く!「大学の学び」と「大学入試」

2 インタビュー

フォーラムを終えて

——本日のフォーラムが終わってのご感想をお聞かせください。

来場者の方も取材している学生たちも、とてもアクティブで行動力のある良い空気感が出ていました。普通のシンポジウムのように登壇者が話して観客が黙って受け手になるのではなく、非常に意欲的でよかったと思います。

高校生の進路選択

——高校生の進路選択の現状についてどのようにお考えでしょうか。

多様になっていくのは学力ばかりで、進路の選択の幅は変わっていません。たとえば、トップ校や名門校に入ってしまった人には、専門学校に進むという選択肢はありません。一方、いわゆる底辺校と呼ばれるようなところに入って、東大に入ろうとする人はいません。つまり、実は社会が思っている以上に、高校生の進路の幅がとても狭いのです。入った高校によって、進める大学も、就ける職業も、ほぼ決まってしまっています。しかし、そのことに子どもたち自身も気が付かないため、自ら選択したと錯覚したまま、特定の進路に誘導されています。高校生は、もっと自分の頭で考えたほうが良いです。たとえば、英語学科の子に人気の業界は航空・ホテル・旅行ですが、落ち着いて考えてみると、航空・ホテル・旅行業界の上司はみんな経済学部。経済や経営を学べば管理職になれるかもしれませんが、英語学科を出た人は、空港やホテルにおける接客のみなのです。それを知らないで、華やかな部分だけを見ているのは危険です。
 また一方で、今回のフォーラムにおける議論では言いませんでしたが、アクティブラーニングや能動的な学びが向いておらず、専門学校のように特定の職業に就くための詰め込み教育を受けたほうが良い人だって半分くらいはいると思っています。看護学校や自動車整備学校のように、他のことをたくさん勉強しても仕方ない進路に進む人への対応と、アクティブラーニングの促進とのバランスをとっていかないといけません。詰め込み教育がだめだったからと言って、全員アクティブになれというのは内気な子にとっては苦痛だと思います。隂山先生がコミュニケーションを重視しすぎる路線に対して警鐘を鳴らしているのは一理あると思います。

能動的に学ぶこと

——フォーラムを終えて、話しておけばよかったということはありますか。

フォーラムでも話したことになるのですが、部活のやりすぎが問題になる一方で、勉強のやりすぎの問題が話題になっていないということです。別に勉強なんだからやりすぎても良いのではないか、と思うかもしれません。しかし、講演でも話したように、この勉強のやりすぎの大きな問題点は、「受動的な」勉強のやりすぎというところにあります。子どもは、塾がやれと言う勉強はちゃんとしていても、能動的な勉強をする時間がありません。私は塾の存在を否定しませんが、行くのであれば、良い学校に入るための塾ではなく、プログラミングや英会話の塾のような楽しいところに行っても良いのかなと思います。

——能動的に学習をするために、学生がすると良いことは何でしょうか。

サークル活動です。現在の大学では、文化系サークルが少なくなっています。その原因は、バイトする時間が欲しい、お金がないから稼ぎたいという学生の思いです。これは学生文化という点でもさみしいのですが、それ以上にさみしいのは、学生自身が、学生時代にリーダーシップを発揮する場を奪われたということです。なぜなら、いくらバイトをしても、それは店長の家来としてであって、自分で考えて行動しているのではなく、店長の指示に従っているだけなのです。そこにバイトの限界があります。大学のサークルであれば、「著名人を講演に呼ぼう」「学園祭でたこ焼きを売ろう」とすべて自分たちの責任で考えます。こういったサークル活動が失われているというのはとてももったいないことです。また、最近学校では、企業や自治体の問題を解決するPBL(課題解決型学習)が盛んになっています。しかしこれらの学習は、実際は企業などの顔色を窺った行動しか引き起こさず、本当の意味での学生の主体性によるものではないのではないか、と疑問を持っています。こういった授業をするなとは言いませんが、主体性を重視する上では、サークル活動を盛んにやってほしいと思っています。

大学に入る意義とは

——学生が大学に入る意義とは何でしょうか。

まず、みなさんに考えていただきたいのは、高卒で社会に出るという選択が、大学進学という選択より劣るということはないはずだということです。では、なぜ大学に行く価値があるのか。
 高校の教員は教育者であり、高校までの勉強には正解があります。それゆえ教員は、「ニュートンが謎を解いてくれました」「紫式部が本を書いてくれました」と教えます。ところが大学教員は違います。「もっと安全な車を作ろう」「もっといい薬を作ろう」といったまだ正解のないものに取り組んでいるのが大学教員です。高校までは正解のあることのみを学ぶため、高校を卒業してすぐ社会に出ると、正解のある問題のような仕事しか与えられません。たとえば、「お前はこの商品を売りなさい」というような、上から正解を指示される仕事です。一方、大学では正解のない問題を学ぶため、大学を卒業して社会に出る人には、企業の管理職のように、正解がない問題のような仕事が与えられます。たとえば、ハンバーガー屋を経営することは、「なぜハンバーガーが売れないか」という問題を解決する、答えがない仕事です。したがって、個人の能力によって高卒でも社長になった人は除き、一般的に社会でリーダーシップを発揮したい人間は大学へ行くべきだと思っています。

先生たちが自分の生活を犠牲にしないこと

——EDUPEDIAをご利用いただいている先生方に何かメッセージをお願いします。

お子さんをお持ちの方は、家庭を重視してください。お子さんが小学校に入る前であれば、一緒にお風呂に入り、一緒に晩ごはんを食べる時間を作ることが大切です。生徒のための部活の指導や勉強の指導で9時10時まで学校にいるということは、自分の子どもの教育を犠牲にしているのです。そしてまだ独身の先生は結婚のチャンスを失っています。周りはみんな結婚しているのに、仕事が忙しくて、目の前のあれもこれもやってしまおうということだけを考えた結果、自分で自身の幸せを捨ててしまっているのです。もちろん本人がポジティブに独身を選んでいるという人に無理やり結婚は勧めませんが、自分自身の人生や家庭を犠牲にしないでほしいというのが僕からのメッセージです。今はそれを犠牲にしてしまっている先生が多すぎます。

——親の残業のために、子どもが家に1人残されているという場合もあると思います。そういう子に対してはどういった対策を取るべきでしょうか。

地域社会で協力をして子どもたちの豊かな人間性をつくるということが、1つの対策になると思います。共働きの多くの家庭の場合、夜親が帰ってくるまで、子どもたちだけが家にいるより安心であるという理由から、放課後に子どもたちを塾に行かせています。しかしこの場合、もし実家のそばに住んでいる祖父母がいれば、塾に行かせなくても、子どもたちはそこに行けば良いのです。祖父母が近くに住んでいなくても、ちゃんとした人間関係と社会の体制さえ整えば、老人ホームで子どもたちを預かる方法もあります。高齢化社会の今、高齢者の方にも教育に協力してもらうべきです。実際に、老人ホームと合体した保育園も存在します。高齢者の方だって子どもたちが来てくれれば楽しいでしょう。そういうシステムが確立できれば良いなと思います。お父さんやお母さんだけが子どもを育てるのではなく、おじいちゃんやおばあちゃん、地域社会で育てる、という風にしていく必要があります。

——教員が自分の生活を犠牲にしてしまっているのは学校の制度的な問題もあると思うのですが、どのように改善していけばよいと思われますか。

まずは残業をしないこと、業務量を減らすことです。これは現場の教員の責任ではなく、管理職の責任です。校長や教頭や教育委員会が、教員が定時に帰ることができないという環境をつくっているのが問題です。管理職は十分な管理ができていません。一般の企業も同じことが言えますね。社員がサービス残業したり休日出勤したりするのも、はっきり言って上司の管理が不十分なのです。その社員のせいにしてはいけません。

——管理職の先生方が動かないのはなぜだとお考えですか。

管理職の先生は、自らの評価は減点方式であるために、現状を維持すること、波風を立てないことが一番大切であり、新しいことに挑戦をして失敗して出世に響くことを恐れるからだと思います。それゆえ、いじめの問題も、いじめの存在を認め解決しようとする先生が出世できず、いじめがないという実績を上げた先生が出世する、というルールゆえに、いじめの存在自体を隠すのです。いじめを隠しているのは、先生たちが出世するための生存戦略になってしまっています。結局、教員が減点法で評価されるというシステムが悪いのです。新しいことに挑戦して、うまくいかなかったらそれはそれで仕方がない、うまくいったら褒めてあげる、というルールが学校文化にないのが問題なのです。

——行政の方から法整備をするなどルールを変えていくべきだとお考えですか。

行政の方から変えていくべきだと思います。行政から言われないと管理職は動きません。現場の先生たちがこれはおかしいから変えようと言っても管理職は聞きません。ですから、現場の先生に言いたいのは、世論によって政策を動かし、行政の指示を動かすことで、現場を変えていってくださいということです。もちろん見識のある方は行政の指示がなくてもしっかりやってくれるのですが、「国や政府がこうしなさいと言っているからやらないとだめですよね」という世論を現場の先生自身がつくっていかないと、管理職は先生が言うことを聞いてくれません。

教員のモチベーションを上げるには

——フォーラムでは、日本の大学教員だけが入試の問題作成や採点をしている、またアクティブラーニングを導入すると教員の負担が大きくなるというお話でした。新しい試験でさらに教員の負担が増えるとなると、アクティブラーニングを大学で導入しても教員のモチベーションは下がっていくのではないかと思うのですがいかがでしょうか。

実際に若手教員のモチベーションは下がっていますから、教員たちが日本の大学を脱出して海外に転職する動きが加速すると思います。中国や香港において教員の給料が高くなったとしたら、大学の優秀な先生は出ていってしまうかもしれませんね。優秀な大学教員が海外に流出することで焦り、日本の大学が改革に踏み出してくれれば良いと思います。

——どのようにすれば教員の海外流出を防げるのでしょうか。

すべてお金です。給料を増やせば良いのです。ところが日本は高齢者の医療費にお金を使い、お金がないため、教員の給料が安いのです。一方で今上り調子の中国・韓国・香港・シンガポールは、日本と違って莫大な教育予算を投下しようというのが国の方針です。アメリカの場合は、国がお金を出してくれないので有名大学は自分で資産運用をして、何兆円というお金を持っています。はっきり言ってお金の問題です。ところが日本人はお金の問題をすぐ根性の問題にすりかえます。そこを改善すべきです。

自分の頭で考えること

——来場できなかった方々も含め、世間に対して何かメッセージをお願いします。

誰かが正解を与えてくれると思わないで、自分で考えて行動をしてください。今回の教育改革ですら、「国がこう言っているからみんなでそれに合わせよう」という風潮になってしまっています。これが僕は良くないと思います。センター試験に代わる新試験になった結果のみを受けて、みんな塾や予備校に行き、その新試験で満点を取るにはこうしなければという対策を立てるでしょう。結局受験戦争に変わらなくなってしまいます。そのときにたとえば、「私は早稲田大学に行けるけれどパティシエになるわ」という人がいても良いわけです。芸術をやっていきたいだとか、動物が好きだとか、本当に好きなことをみんながやることが大切。良い学校に入ることはもちろん良いことですが、そればかりを目標にして、若者が好きなことをする際に、大人がそれを止めるべきではありません。親や先生がなってほしい職業に就かせよう、という発想は捨ててもらい、本人が自分の頭で考えて選ぶことが大事です。自分で何とかするんだということを一人一人が持つことです。みなさん会社に入ったら、会社が何とかしてくれるだろうと思ってしまうでしょう。そうではなくて、会社は倒産するかもしれないが、それでも私はこれで生きていく、くらいの気持ちで一人一人が行動していくべきです。

——自分がこうなりたいという意志を尊重するということが大切というお話でしたが、自分がまだ何になりたいかわからないという子はどうするべきでしょうか。

そういう子は、今世の中にある問題に対し、自分にできることを探すべきです。たとえば、おいしいケーキがなくて困っているのなら私がおいしいケーキを作ろうとか。飛行機が事故を起こすのなら私が安全な飛行機をつくろうとか。極端な話ですが、あの国で戦争が起きているから私がその戦争を止めようとか。この世の中には、まだまだたくさんの問題が起きています。自分がその仕事に就くことで、世の中がちょっとよくなるのは何だろうというのを親子で話し合って探すことです。それが安全な車でも良いし、おいしいケーキでも良いし、もっといい薬でも良いわけです。僕の場合は、それが教育ジャーナリストとしてこういった仕事をすることで、多くの高校生や大学生にこういう考え方もあると知ってもらい、世の中が良くなるために貢献すること。これが自分の立ち位置だと思っています。

3 山内太地氏のプロフィール

1978年、岐阜県生まれ。東洋大学社会学部社会学科を卒業後、ホテル、出版社などを経て独立。理想の大学教育を求め、47都道府県14か国及び3地域の884大学1174キャンパスを見学。
 また、年間150件ほど全国の高校で進路指導講演を行うほか、大学・高校のコンサルティングも手がける。
 著書に『大学のウソ』(角川oneテーマ21)、『こんな大学で学びたい!』(新潮社)、『就活下克上』(幻冬社新書)、『高大接続改革 変わる入試と教育システム』(ちくま新書)など。

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