【パネルディスカッション(前半)】五月祭教育フォーラム2017『大学入試改革!問われる新たな能力~現場と家庭は何をするべきか~』

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目次

1 はじめに

本記事は、2017年5月21日に東京大学で開催された五月祭教育フォーラム2017『大学入試改革!問われる新たな能力~現場と家庭は何をすべきか~』内で行われた、パネルディスカッションの内容を記事化したものです。
登壇者である石川一郎氏(香里ヌヴェール学院学院長)、隂山英男氏(一般財団法人基礎力財団理事長)、鈴木寛氏(元文部科学副大臣)、山内太地氏(教育ジャーナリスト)と、本フォーラムを主催するNPO法人ROJEの学生リーダーである毎田優の5名が、議論を交わしております。前半は主に大学入試の背景とその影響を話題として取り上げています。

関連記事も合わせてご覧ください。↓
パネルディスカッション(後半)
基調講演(石川一郎先生)
基調講演(山内太地氏)
石川一郎先生インタビュー
隂山英男先生インタビュー
鈴木寛先生インタビュー
山内太地氏インタビュー
大学教授に聞く!「大学の学び」と「大学入試」

2 パネルディスカッション(前半)

これからの職業観の変化

毎田:大学入試改革の背景である「社会構造の変化」について、職業観をもとに説明していただけますか?

山内:僕が新聞やニュースを見て、いつも呆れるのが、子どもの「将来なりたい仕事」と、親の「子どもに将来なってほしい仕事」のランキングについてです。親が子どもに望む職業は公務員、医師、会社員、看護師などです。これらの仕事は、だいたい給料が税金から出ています。そのため、私はこれらの仕事はイノベーションを起こしにくいと思います。親は、子どもにこれらの職に就いて欲しいわけなのですが、大変残念なことに、この「子どもに将来なってほしい仕事」は「今後なくなる仕事」に含まれているんです。

毎田:職業観の変化の社会的背景についてはいかがでしょう?

鈴木:この図について少し解説しますと、私の友人でもあるマイケル・オズボーンという、オクスフォード大学の若い准教授が、野村総研と共同で、AI(人工知能)が普及することで「なくなる仕事100選」と、「なくならない仕事100選」をノミネートしました。まさに、これらの職業は「なくなる仕事100選」にノミネートされているということです。ただ、20世紀の日本は、公務員や銀行員のように、定型的な業務を間違いなくしっかり行える人を、一生懸命に育ててきました。それによって成功しているのです。だから、必ずしも今までの教育が悪いということではないんです。

例えば、皆さん、日本で1時間に新幹線が何本走っているか、ご存知でしょうか。実は日本で新幹線は一時間に15本も走っているんです。時速300キロの物体が、4分に1回走っていて、53年間ほとんど無事故というのは、奇跡的なことです。日本でこれが可能なのは、定型業務をミスなくこなす人材を育ててきたからということなんです。ただ、21世紀はそればかりではだめですよ、という話なんですね。大切なのは、すでにある仕事の中でどれをしたいかを議論することではなく、まだ誕生していない仕事を創ることなんです。僕自身は、この議論を昨年くらいからしています。

そして、今、この場で修正したいことは、日本人はなくなる仕事の話ばかりしていますが、将来はそう悲観的なことばかりではないということです。AIによってもたらされる恩恵もありますし、AIと人機一体になって新しくできることも、たくさんあるのです。悲観論だけが蔓延して、それを利用した不安ビジネスが横行する現状をなんとかしたいということを付け加えておきます。

学力の三要素と大学入試

毎田:大学入試における学力の三要素と職業観の話にはどういった関連があるのでしょうか。

石川:学力の三要素には、

  • 「知識」
  • 「技能」
  • 「思考」
  • 「判断」
  • 「表現」
  • 「主体性」
  • 「多様性」
  • 「協働性」

という8つのキーワードがあり、その中で僕は特に2つに興味を持っています。

1つは「判断」です。人間は、最終的にロジック(論理)と感覚で判断をくだすわけですよね。これから正解のない問いがいろいろ出てくる中で、「自分はこれが好きだ」「自分はこれをしたい」という「自分軸」を元にした判断が大いに求められると思っています。もう1つは「協働性」です。「協働性」には、多様な意見を認めることが含まれていますね。いろんな意見も認めましょう、なにか決めるときは多数決で考えましょう、もちろんそれでいいんです。

ただ、僕はこうも思います。正解のない世界で最終的になにかを決めるときには、2つも3つも答えを出すわけにはいかなくて、「自分軸」をもって、1つに決める判断をするしかありません。いまでも北朝鮮のことが問題になっていますが、あれに対して、「ミサイル打ってもいいし、打たなくてもいいよね」という話では困るわけです。最終的には、多様な考え方がある中で落としどころを付けなきゃいけません。だから「協働性」においては、多様性を認めるところから始まり、やはり、対話して答えを見つけていくことが必要だと思います。

学校現場の疲弊

陰山:日本はここ10年間で、PISAの国際学力調査で10位前後まで順位が落ちたところから、ほぼトップまで戻しました。僕はすごくよく頑張ったと思うんですが、その結果、教師の疲弊が限界まできてしまったのです。

実際、教師になりたいという学生は減りました。「小学校教師になりたい」と言っていた学生が、結局は民間の教育会社にいってしまうことが多くあります。
福岡県の教員採用試験の年齢制限が何歳か、皆さんご存知でしょうか。59歳です。耳を疑いませんか? 59歳で採用されて、翌年定年です。教員採用試験の年齢制限を引き上げても、なり手がいないのです。だから、アクティブ・ラーニングも一生懸命やろうとしても、教師の体がついていきません。

教師は限界なので、せめて、部活ぐらいなんとかしてくれと思います。更に「学校現場の先生方、大変ですよ、子どもたちへの勉強のさせすぎは注意しましょう」という議論が出てきて、もう言っていることが無茶苦茶です。ですから私は、ここでいっぺん頭を冷やして、現実に立脚した話から始めませんかということを求めたいですね。

石川:部活について、隂山先生のご意見から派生する話ですが、以前、僕がとあるメディアに達成感を求める部活の在り方についてという記事を投稿すると、多くの人に注目されました。みんなで一生懸命やって、勝利を目指して、前より進んだという頑張り方は、悪くはありませんが、やはり顧問の先生の勤務が無茶になってしまう構造なのです。

特に運動部の構造的な問題は我慢することを選手や補欠に強要することです。教員が生徒の面倒を根気よく見て、生徒はその期待に応えることが良いことだと考えられています。達成感を部活に求めるのをやめるだけでも救われます。部活は学校で請け負わず、教科的な教育を重視するという英断を行政にしていただきたいです。

鈴木:文部科学省では、スポーツ庁もできましたし、部活動から総合型スポーツクラブに移行してもらいたい、という方針です。総合型スポーツクラブというのは、小学生も中学生も高校生も地域の人もいっしょにできる組織です。

現に長野県の教育委員会では、文部科学省から行った教育長が、部活をかなり減らす方針を打ち出しています。他県もやればいいだけです。地域でスポーツボランティアやりたい人はたくさんいるし、あるいは日本体育協会は、地域スポーツクラブ、体育指導の認定や講習をした人を置きましょうということまで言ってくれています。

4月には、過労死ラインの教員が6割を超えている という「教員勤務実態調査」の結果を公表しました。「チーム学校」で部活は教員以外に任せて、部活の好きな先生は地元の地域スポーツクラブのリーダーとして頑張っていただければよいのではないかという議論もされており、文部科学省は部活動顧問の問題を積極的に検討しています。

山内:部活を減らすことは議論になっていますが、勉強を減らすことは議論になりません。
この「勉強」というのは、名門大学に入学するために塾へ行きプライベートを全て犠牲にしているものです。私が住んでいる名古屋では、夜になると大手の塾から蜘蛛の子を散らすように高校生が帰路についていますが、私は家で両親と会話をしたり、ご飯を食べた方が良いのではないかと思います。本当は昆虫のことを好きなだけやりたいとか、プログラミングをやりたい子どもが「頭がいいから塾へ行け」といわれている環境があります。部活動の時間、そして更に受動的な学習を減らして子ども達にもう少し自由を与えたほうがよいと思います。塾と部活によって子ども達の自由な時間を奪っているのは「不良になると困る」という昔の考え方なのでしょうね。

生徒に対する教員の数

鈴木:文部科学省が社会にもっと議論していただきたいと思うのが“高校の教員の数をどうするのか”ということです。文部科学省としては議論したいのですが、新体制を成功させるには生徒あたりの高校の教員数はを拡充する必要がある。少子化で生徒は減るので、実数としては、維持すればいい。このお金は地方交付税なので、国というより県知事なのですが、文部科学省の今後の動向について、みなさんにも注目していてほしいと思います。

また、みなさんご周知の通り、秋田県は全国学力状況調査15歳ずっとトップです。その理由は、前々の県知事が秋田県単独で教員の数を減らさなかったからです。これはST比(student teacher ratio)がきちんとキープされていたということなのです。

基本的には大学も同じ話で、国際比較をすると日本の大学の文系のST比は話にならないです。日本の課題は理系と文系のST比の差が大きいことです。医学部ST比3、理学部は5、工学は10、教育は20、法学部・経済学部は40です。ST比40でどうやって大学教育をやるのですかという問題が、日本では60年間放置されてきました。

本当はお金が必要です。だから教育国債なのです。しかし教育国債の議論は劣勢です。
昭和61年には、子供のいる世帯数は全世帯数の50%、今現在は20%です。しかも地方の方が1票の格差が大きいので国会議員の議席数を相対的に沢山持っています。そのため地方においてはさらに20%から減ります。さらに、大学進学率が30%以下の都道府県が47都道府県のうち17都道府県あります。つまり国会では、教育予算を増やすことが少数派の議論にしかなっていない中で、問題が深刻になっていきます。

山内:皆さんからは評価が高いですが、私が問題だと感じているのが慶應義塾大学のSFCです。大学教員一人当たりの学生数が日吉と同数なのに学費が20万円高いのは酷だと思います。25年4半世紀も経っているのにイノベーションは起きていません。勿論、何人かはすばらしい人が出ましたが大多数は今までの大学と殆ど変わりませんでした。色々と問題だなと思う反面、私自身取材をしていると現場の教員や政策担当者が疲弊していることは良く分かります。

毎田:ありがとうございました。この意見に鈴木寛先生はどうお考えですか。

鈴木ST比は日吉より高いですよ。私立文系で行って意味があるのはICUとSFCだと思います。なぜなら1年生からゼミに入れるとか、1年生からチュートリアルを受けられる文系は相当少ないです。ST比で言うと最悪なのは東大法学部です。ゼミに入れない学生が昔600~630人いました。今は400人になったので少し改善されましたが、東大法学部に入ってもゼミに入れない人が3分の1ほどいるという状態は改善されていません。大学に入学してゼミや研究室に所属しないと何のために大学に来ているか分からないですよね。一方で東大の理系はほぼ確実に修士も含めて4年間研究室に入ることができます。その結果どうなっているかというと、論文の引用など東大の物理は世界で3番です。一方で東大の社会学部は280番です。東大は文系を止めれば一挙にベスト5です。

芸術教育や教養教育の必要性

山内:私が不満なのが、東大に音楽学部と美術学部がないことです。アメリカのトップ大学に行くと、音楽ホールや美術館があり、入学してから専門分野を物理学と音楽が取れるが、日本では美術や音楽で大学に行く人は少し変な人という扱いを受ける。「変わり者」「お金あるんでしょ」など。だから早く東大に音楽学部を新設しみんなで音楽の演奏をしたり、一見実用的でない勉強をする場を整えていただけないかと思います。

鈴木:そういうご批判に応えるために「すずかんゼミ」では1,2年生向けに「学芸饗宴」をはじめました。ハーバード大学やイェール大学を意識しています。すずかんゼミでは希望者100人に対して入ゼミ試験を課し、14人が合格。途中脱落者で12人ほどになったが、その12人に対してTAを14~15人つけています。そして特別ゲストとして文化庁長官や元慶應義塾大学塾長や元阪大総長を招いています。私の友人なので皆さんボランティアですが、仮に、本来の人件費で考えたら凄く大きな額になります。ハーバードの授業料が高くなるのもよくわかります。ハーバードは600万かかるが東大は54万円。ベンツと原付を比べますかという話です。

毎田:お二人とも白熱した議論をありがとうございました。芸術教育や教養教育と関連した話でしたが、石川先生はなにかご意見はございますか。

石川:「主要教科」という言葉がありますが、私はこの言葉が嫌いです。関西では「副教科」という言葉もあるそうですね。「主」と「副」、そういう上下関係の言葉を使うのをやめましょう。

美的感覚はとても大切です。例えばiPhoneが売れた背景には、機能もさることながらスティーブ・ジョブズが丸みにこだわったことにあります。角ばった方がコストは安く済みます。しかし丸みを帯びた形は、iPhoneがヒットした大きな要因でしょう。

イマージョンギャップという教科を取り入れるのも面白いと思います。例えば、美術や音楽の授業を英語で行うのです。美術の時間でアメリカ人の教員が何にこだわるかというと、「今日は100色出すことをやってみよう」というお題を出します。彼らは才能を認めていくのではありません。才能がある子供が認められることを目的にしているのではなく、知識・技能を身に付けることが出来るかということを目的にしているのです。「100色出す」ことも、「数学で問題を解く」ことも、「社会科で多様なレポートを書く」ことも同じなのです。考えるスキルは、教科を変えて多角的に見ると、理解が深まり乗数的に広がっていくと思います。

鈴木:2045年には、AIの知性が人間の知性を上回るシンギュラリティの時代が来ます。これは裏を返せば、人間が持つ「感性」は上回われないということです。だから、従来のSTEM教育Scienence, Technology, Engineering and Mathematics”に加え、学校でArtsを教えることが大切ではないかと論議されています。STEAMと言っています。

教育システムの変化について

陰山:美術と英語とは少し遠い話ですが、この間、ITエキスポ(ITCの機器を教育現場に導入する)というイベントに行ってきて、印象的だったことがあります。それは学校、塾、教育委員会、行政、全ての方がイベントに参加していました。

今回の大学入試改革で一番強烈だと思うことは、大学入試からセンター試験という公的なものを廃止することで、極端な話、高校へ行って授業を受ける必要がなくなるということです。TOEFLやIELTSなどの民間試験は塾へ行き問題傾向を知って対策をすれば高得点をとることが可能です。そして、英語の4技能をバランス良く伸ばしたいのであれば、ネイティブスピーカーとオンラインで英会話することもできます。

つまり、特に英語を大学入試改革の一つの観点として見ると、子どもたちは学校に勉強を頼らなくてもいい環境となってきています。そして、はっきり言えば小学校の英語に期待している人は誰もいないわけです。実際、大手の英語塾に丸投げで依頼するつもりの地域もあるそうです。

今回の大学入試改革を起点として、今の教育システムは小学校を含めて大きく崩れていくだろうと思います。一つのポイントは民間教育と学校教育の融合、悪く言えば介入となります。そのようなことを考えた時に、今の教職員組織はあまりにも古臭くないかと思います。一生懸命で真面目なのは非常に良いことですが、もう少し実社会と教職員のキャッチボールが進まないと、不幸な結末が待っているのではないかと思います。

そして、改革を進めていくうえでもう一つ重要なことは、教育委員会や理事会のマネジメントです。例えば佐賀県の武雄市では「はなまる学習会」が教育委員会と連携していたり、高知県の伊野町というところは菊池昭三先生の「ほめ言葉のシャワー」という実践を行っていたりする。その時に伊野町菊池昭三学園という名称を打ち立てているということです。これは、かつてなかったことです。僕自身も福岡県の飯塚市を中心に、町ぐるみでの教育改革を行っています。
要するに大切なことはマネジメントです。皆さんは、小学校のドリルは担任が選んでいるということをご存知でしょうか。また、学級間で同じ教科書を使っていたとしても、学年間では違う教科書を使っているということもよくあります。業者の試験も色々な会社が実施しているわけですから、当然、学習の仕方や評価基準も変わってきます。

学校の教師は文部科学省や校長が何か新しい取り組みを始めようとするととりあえず反対します。反対しても意見が通りそうでない時は仕方がなくやります。一応、反対はしますが最終的に行うわけです。今の現状を考えみると非常に効率が悪いです。大学入試改革で、高校教師と文部科学省は対立していくことになりそうです。果たして、きちんとマネジメントしていくことが可能なのかどうか、僕は不安に思います。

これからの時代の教師の役割

毎田:学校と民間の垣根が低くなっていくなか、これからの時代の教員の理想像はどういったものなのでしょうか?

陰山:石川先生、大学入試の実績は高校と塾どちらの方が影響が大きいでしょうか?

石川:高校が塾と同じようなことをやっています。高校と塾の住み分けがないのが問題だと私は思います。

陰山:現実としては公立高校であったとしても、塾の先生が試験のデータをもらいます。センター試験導入後、入試は情報戦になりましたから、大手の塾が持っている情報に頼らざるをえないという状況になってきています。僕は高校教師ではないので詳しいことは分かりませんが、高校の進路指導はほぼできなくなってきているように思うのですが、どうでしょうか?

石川:そうでもないと私は思います。話が少し変わりますが、今、自他ともに「いい先生」と思っている人が一番しんどい思いをしているのではないかと思います。常に生徒のために、とことん仕事をしてしまう教師が疲弊しているわけです。例えば雑談のネタを考え、プリントを刷り、授業が大学入試とどのように繋がるか考え、生徒が勉強しないことを見越して小テストを行い、補習もする。そんな先生を「いい先生」と思う人は多いですが、本当にそうなのでしょうか? 子どもたちが自ら考えるようになるでしょうか?

僕は社会科の教師ですが、細かい年号は自分で覚えさせればいいのではないかと思っています。授業でプリントを作り、線を引かせ、この部分が試験に出やすいと教える。そこまでしなくてもいいと思うのです。良い授業を組み立てるためには、今の教員には時間が足りません。

僕は勉強の本質的なことは「問い」だと思うのです。子どもたちが真剣に考えることができるような「問い」が大切です。わくわくするような「問い」さえあれば、生徒は自発的に勉強に取り組むと思います。今の社会で起こっている問題もそうではないですか? 宅急便の再配達の問題やファミレスの24時間営業の問題など、とことんサービスするやり方は無理があると分かってきています。AIに任せられるものはAIに任せ、教師は教えることを絞り、よい「問い」を立てることです。それを実現するためには教師も学び続ける時間が必要です。AIだけでなく、塾や予備校があるのならばどんどん利用すればいいと思います。

毎田:これからの時代の教員の役割はどうなるのでしょうか?

石川:教師の役割はファシリテーターになるのではないでしょうか。子どもたちが真剣に考えると様々な答えが出てくると思うのですが、大切なのは教師が答えを言わないことです。問いに対して問いで返す、コーチというよりはファシリテーターの役割ではないでしょうか。コーチのように上からの目線で生徒と向き合うのではなく、ファシリテーターとして横の目線で生徒と向き合うのです。教師は蓄積された専門知識を持っているのですから、対応できるはずです。

毎田:このような答えのない問いに対して不測の事態に対応する力とも関連があるのでしょうか?鈴木寛さんよろしくお願いします。

鈴木:関連はあると思いますよ。僕はこれから板挟みと想定外にどう向き合い乗り越えていくかということが非常に重要になると思います。さっき山内さんもおっしゃいましたが、徹底した個別化ということが大切です。一般普遍的なことはAIに任せればいいのです。更に暫定解、昨日の答えと今日の答えが違うわけです。そのような変化に対応するため教師は色々な知識の引き出しを持つことが重要です。色々なコンテクストに応じて知識を出さなければなりません。パッケージに関しては教員はもうやめた方がいいと思うんですよね。日本の教育のパッケージは非常に質が良いです。例えば、「NHK for school」というもののパッケージは素晴らしい。NHKや民間が作ったパッケージを見せた方が面白いのです。NHKは莫大な制作費用を使って番組を作成しているので当然のことですよね。そのようなパッケージものはどんどん活用していった方がいいと思います。しかし、ファシリテートや生徒との一対一の対話は教員の仕事のままです。今後、大学入試では「君は何を考え、何に問題意識を持っているのか」という問いが重視されるようになります。そうした問題発見や問題設定といったものを、子ども一人一人の文脈(人生)と向き合い、考えさせる「対話型の教員」が必要になってくると思います。

3 登壇者のプロフィール


石川一郎
香里ヌヴェール学院学院長 / 21世紀型教育機構理事
1962年、東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、暁星国際学園、ロサンゼルスインターナショナルスクール、かえつ有明中・高等学校などで教鞭を執る。前かえつ有明中・高等学校校長。早くからアクティブラーニングを研究・実践し、「21世紀型教育を創る会」を立ち上げ幹事も務めた。
著書に『2020年の大学入試問題』(講談社現代新書)、『2020年からの教師問題』(ベスト新書)。


隂山英男
立命館大学教育開発推進機構教授/立命館小学校校長顧問
1958年生まれ。岡山大学法学部卒業後、兵庫県朝来町立山口小学校教師時代から、反復学習や規則正しい生活習慣の定着で基礎学力の向上を目指す「陰山メソッド」を確立し脚光を浴びる。内閣官房 教育再生会議委員、文部科学省中央教育審議会委員、大阪府教育委員会教育委員長などを歴任。


鈴木寛
当連盟代表理事/東京大学教授/慶応義塾大学教授/文部科学大臣補佐官
1964年生まれ。東京大学法学部卒業後、通商産業省に入省。慶応義塾大学助教授を経て、2001年参議院議員初当選。12年間の国会議員在任中、文部科学副大臣を2期務めるなど、教育、医療、スポーツ、文化、情報を中心に活動。2014年2月、東京大学教授、慶応義塾大学教授に同時就任。日本初の私立・国立大学のクロスアポイントメント。2015年2月からは文部科学大臣補佐官も務める。
著書に『「熟議」で日本の教育を変える』(講談社)、『テレビが政治をダメにした』(双葉新書)、『熟議のススメ』(小学館)など多数。


山内太地
教育ジャーナリスト/一般社団法人大学イノベーション研究所所長/島根県立大学客員教授
1978年、岐阜県生まれ。東洋大学社会学部社会学科を卒業後、ホテル、出版社などを経て独立。理想の大学教育を求め、47都道府県14か国及び3地域の884大学1174キャンパスを見学。また、年間150件ほど全国の高校で進路指導講演を行うほか、大学・高校のコンサルティングも手がける。
著書に『大学のウソ』(角川oneテーマ21)、『こんな大学で学びたい!』(新潮社)、『就活下克上』(幻冬社新書)、『高大接続改革 変わる入試と教育システム』(ちくま新書)など。


毎田優
東京大学教養学部2年/当フォーラムプロジェクトリーダー
フォーラム主催団体であるNPO法人ROJEでは高校学習支援プロジェクトに所属。実際にアクティブラーニング教育の実践を行っている。

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