「毅然とした指導」が子供を変える

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目次

1 成功体験から得た生徒指導の原則

私は一般教員及び校長として25年間で5校の中学校に勤務した。校長として最後に勤めた学校を除いてはすべて生徒指導の課題の多い学校だった。その間、いじめ、対教師暴力、シンナー、喫煙、飲酒、器物損壊、非常ベルへのいたずら、夜間徘徊、バイク、消火器噴射、放火、等々、数多くの問題行動に対する指導に取り組んできたが、ほぼすべてのケースで「正常化」に成功してきた。

その経験を通して生徒指導の原則ともいうべき理論を獲得し、その具体的実践内容を私の編著である「毅然とした指導1~4(教育開発研究所)」で紹介させていただいている。

そこで私が得た生徒指導の原則的理論と事例をここに簡潔に紹介し、学校現場で困難な事例に苦悩する教員への一助とする次第である。なお、具体的な指導内容をもっと知りたいという方は、先述した「毅然とした指導」全4巻を手にとっていただきたい。必ずや直面している課題への解決方法を見いだせるはずである。

2 「問題行動への対応」は3段階

下記のように問題行動の指導には段階性がある。

(第1段階) 問題行動を迅速に阻止する 

暴力であれ喫煙であれ目の前の非行を即座にやめさせること、それが最も重要なことである。これはけがをして血を流している人を発見したときと同じだ。「何が理由で血を流しているのか?」と詮索するのではなく、止血の措置をして一刻も早く救急車を呼ぶのが当たり前である。

実践事例

とある中学校に転勤してきて間もないある日、授業を抜け出して廊下でシンナーを吸っていた3年生のA男を発見した私は、腕をつかんで引きずるようにして校長室に連れてきた。ソファにたたきつけるようにして座らせて大声で怒鳴りつけると、A男は殴りかかってこようとしたが、次の瞬間がっくりと腰を落とした、そして、「この学校に上がって俺は初めて本気で怒られた」とつぶやき、その後の私の指導を素直に受け入れたのだった。

(第2段階) 問題行動を起こす要因を解決する

父母の不仲、友人への嫉妬、悪友からの誘い、自己有用感の喪失、失敗体験、劣等感など、問題行動に走る心理の奥底にあるものを探しだし、その解決に取り組む。これが第2段階としての重要な取り組みである。決して第1段階の「問題行動の阻止」で満足していてはならないのだ。先のけがの事例で言うならば、「壁に釘が出ていた、通路に大きな段差があった」など、けがをした要因を見つけ出して改善を図ることが必要なのである。

実践事例

家出や暴力行為を繰り返していたB男は父親に対する反発心が強かった。校長の私は夏休みにB男の父親と一緒にイベントに取り組み信頼関係を築いた。その後B男と顔を合わせるたびに父親を褒める話をしたところ、父子関係は次第に改善されていった。B男も本音では父親を愛し尊敬したいと願っていたのだろう。

(第3段階)問題行動の起こらない健全な学校生活を実現させる

分かる喜びを味わえる授業、勝ち負けではなく自己の技量の向上が実感できる部活動、すべての生徒が活躍できる充実した学校行事。それらが実現できる学校づくりに努めることこそが究極の生徒指導である。そういう学校生活を送らせることにより生徒は日々健全な成長を遂げることができ、問題行動へ走るようなことがなくなるのである。これが第3段階の指導であるが、学校教育の理想的な姿でもある。

実践事例

「全学級が2日間にわたって演劇を発表する文化祭」「見学コースや行動ルールを自分たちで決める修学旅行」「クラス全員で作詞と作曲をした学級歌を披露しあう合唱祭」等、教員たちが熱心に話し合って創造的な学校行事の実践に努めた結果、生徒全員に居場所のある学校が実現し、前年まで続発していた非行が皆無になった。

3 「組織的指導」も3段階

困難な指導事案を学級担任一人に任せきりにしてはならない。かといって一部の有能な教員に依存していてもならない。学校全体がチームとして指導にあたるという体制づくりが重要である。重篤ないじめの事件などの報道をみると、ほとんどは「組織的指導体制」がとれていない事例である。そこで、ここでは3段階に分けて指導を強化していく指導理論を紹介する。

(第1段階)担任が中心になって指導する段階

問題行動の程度も軽く、当該生徒が素直に指導に従う状況なら、学級担任が毅然とした態度で説諭し、被害者への謝罪等を行わせて終結とする。指導力が弱い学級担任であるときは、学年主任が積極的に支援する。その際に「力がないから他の教員の助けを受けている」と子供や親に言わせないためには「問題行動に対しては学校全体で毅然として指導する」ということを日常的に周知しておくことがポイントである。

(第2段階) 生徒指導部が中心になって指導する段階

第2段階は生徒指導部が介入する段階である。その判断要件は3つある。
* 隠れての喫煙から公道での喫煙に変化する事例のように、問題行動が悪質化していること。
* 単独行動からグループ行動に拡大していること。
* 一回限りではなく指導に従わず繰り返して問題を起こしていること。

このような状況のときには、機を逃すことなく生徒指導部が介入して組織的な指導に入る。
その際には、弁償、別室指導、病院での診察、被害届け等の対応ルールを学校全体で確立しておくことがポイントである。全員が同じ指導観をもたないと組織的指導は成り立たないからである。そのためには年度当初の職員会議で「生徒指導マニュアル」の読み合わせを行い、全教員が内容を理解しておくことが重要だ。ここで問われるのが生徒指導主事の力量である。校内人事が適切に行われているかが問われるところであろう。

(第3段階) 校長が関与して関係機関と連携する段階

生徒指導部が介入しても状況が改善されない場合には速やかに校長が関与し、「別室指導」または「出席停止」の措置をとる。この段階で問われるのは校長の強いリーダーシップすなわち決断力と責任感の有無である。保護者への通告、教育委員会への出席停止の要請、警察への被害届けの提出、病院での治療、児童相談所への通告等々、外部の関係機関との連携は校長が先頭に立って行わなければならないからだ。リーダーシップを発揮できる校長ならばどんなに困難な事案であってもたちどころに解決するというのが私の9年間の校長経験から得た結論である。

4 執筆者プロフィール

山本修司先生 元東京都公立中学校校長
1950年生まれ
全国の優れた生活指導の実践例を紹介した「毅然とした指導1~4(教育開発研究所)」は、生徒指導に悩む、全国の先生のバイブルとなっている。

5 編集後記

 全国の生徒指導の実践例を収集し、ご自身も荒れた学校を建て直してきた山本先生の生徒指導に対する理論と実践を紹介している記事です。ダメなことはダメと毅然として指導し、その後問題の要因を解決していく生徒指導は、山本先生の成功事例に裏付けられています。
(文責・編集 EDUPEDIA編集部 加藤広夢)

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