漢字の効果的な指導法~基礎編~

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目次

1 はじめに

本記事は、岡篤先生のメルマガ「教師の基礎技術~漢字の効果的な指導法基礎編~ 524号~535号」から引用・加筆させていただいたものです。
小学1年生に漢字を習得させる際、どうやって指導するか。「毎日」漢字を書かせるなんて1年生には大変な事なのではないか。しかしそんなことはありません。むしろ「毎日」繰り返し書くことの方が、生徒にとっては簡単なのです。今回は、岡篤先生による、「毎日」漢字を繰り返す「さかのぼり繰り返し」の実践例をお伝えします。
岡篤先生のメルマガはこちらを参照ください。→http://archive.mag2.com/0001346435/index.htm

2 実践内容

一年生の漢字は簡単か……?

教員7年目に初めて1年生の担任をしました。それまでに担任をした学年と違い、1年生で習う漢字は、画数も少なく、生活の中で使うものばかりです。そんなに漢字練習をがんばらなくても、大丈夫だろうとたかくくっていました。
ある時ふと思いついて、漢字テストをしてみました。すると、大丈夫どころか、それまでの学年と変わらないくらいできない子がいるのです。びっくりしました。
そこで同じ学年の先生に尋ねていきました。
「先生、子ども達漢字できていますか?」
「いやあ、難しいねえ」
「やっぱりそうですか」
少し、安心しました。1年生でもできないのは、自分のせいだけではないようです。4クラスで構成される学年だったので、別の先生にも尋ねてみました。その先生も同じような返事だったので「そういうものか」と、納得していました。

全員しっかり漢字が書ける!?

ここまできたら、3人とも尋ねておこうと思い立ちました。
ベテランのある1人は、書写が専門の女性でした。印刷室で偶然一緒になったので、同じ質問をしてみました。
「先生、1年生の子でも漢字って難しいですねえ」
「そうね。でも、できているよ」
「できてるって…。でも、ちゃんと書けない子もいるでしょう?」
「ううん、全員、全部書ける」
その女性の先生は、「全員、全部書けている」と答えるのです。「ほとんどの子ができている」でもなく、「だいたい書けている」でもありません。
1年生でも習った漢字を全員がきちんと書けるわけではない、ということで安心(?)したかったのに、逆に混乱と不安に包まれてしまいました。さらに続けて尋ねました。
「テストして、全員が書けているのですよね?」
「ううん」
「テストしてないのに、書けていることがわかるのですか?」
「だって、毎日書かせているから」
「毎日!?」

毎日繰り返し書かせる

この時は、数十個の漢字を指導済みでした。その全てを全員が書くことができていると、その先生は断言したのです。そしていとも簡単に「毎日書いているから」と続けました。何をするにも時間がかかり、混乱する1年生に数十個の漢字を毎日書かせることなど本当にできるのでしょうか。私は「毎日」書くことが大変だと思っていたのですが、その先生の口ぶりから「毎日だから」できるようです。
その先生は方法を教えてくれました。聞いてみると確かに方法は簡単です。山・川・水・木という漢字を習っているとしたら、それを順番に書かせます。次の日に、火を習ったら火・山・川・水・木です。
「でも、時間がかかるでしょう?何十個も書かせてたら」
「毎日やってるから、『漢字』っていっただけで、すぐに書き始めるのよ」
「1日1個ずつふえるだけだから、覚えちゃってるのよ。だから、さっと書くわよ」

ノートに繰り返し習った漢字を書く

自分では、考えもしなかった方法でした。最初はできるはずがないと思いました。でも、事実は何より重い。実際にやっている先輩が目の前にいるわけです。教えてもらったとおり、やってみることにしました。
翌日、クラスの子ども達に向かっていいました。
「今までにならった漢字を全部書いてもらいます。では、最初の漢字を言います。”正”です。はい、書いて」
「ええっとどうだったかな」「書けた、つぎは?」「先生、これであってる?」
やはり、色々な声が出ました。1年生にとっては、ノートのどこに書くかの指示を徹底させることも大変です。子どもの間を動き回って、全員が「正」を指示通りの位置にただしく書いていることを確認します。

とにかく続けてみることが大切

「はい、では次。”字”、字を書くの”字”です」
「わかった」「ええっ、なんだっけ」「ちょっとまって」「どこに書くの?」
「あっ、そうか。”正”のすぐ下に書きましょう」
2文字目で、すでに大騒ぎです。この調子で、何十個も書いていたら、1時間全てをこれにかけていてもできるかどうかわかりません。私も2文字目で、すでに疲れてきました。それでもとにかく続けてみるしかありません。「正」と「字」の2文字ですでに10分は過ぎています。初日なので多少の時間はかかると覚悟していました。それにしても大変です。
「3文字目、いきますよ」
ざわついている雰囲気を押さえつけるように、大声を出しました。
「”文”、ぶんしょうの”文”です」
「できる」「あれぇ」
とにかく、1文字ごとに色々反応がでてきて、とても集中しようとかテンポ良くしようといった場合ではありません。これは、ある程度書けるようになっていないと無理だなあと感じました。

2日目の実践

2日目は、気持ちの上でも復活し、朝から例の漢字練習をやる気になっていました。音読や読解もありますが、このときはとにかく、このやり方がどうなのか結論を出したいという気になっていました。まだ続けるか判断するほどのところまできていないことは分かります。ある程度続けた上での手応えで判断したいと思いました。国語の時間の最初にやることにしました。最悪45分使ってもいいと覚悟しました。
「最初は”正”です。」
ノートは、裏から使うことにしました。子どもたちにもそれを伝えました。毎日、漢字を書いていくとすると、それ以外の授業のノートの合間に書くことになります。裏から使えば、漢字ばかりになります。

変化が生まれてくる

「2文字目は…」
「”字”でしょ」「わかってるわかってる、そのつぎは”文”でいいの?」
2日目にして進歩が見られました。すでに、さかのぼって書いていくということを理解している子がいるようです。もちろん、「正」も「字」も書けない子や書き方がわからない子もたくさんいます。それでも、毎日続ければスムーズにいくかもしれないと思っていました。
とにかく、しばらくは国語の時間をすべてかけてもやってみる決意をしていました。すると、2日目、3日目とたった数日続けるだけで、子どもの中に、流れを理解して自分から取り組む子が増えてきました。
10日ほど続けると、もうノートの使い方や字を書く場所を質問する子はいなくなりました。早くできた子には、2周目を書かせたり、読書をして待たせたりしました。

苦手な子への配慮

もちろん、漢字を覚えるのが苦手な子や書くことが遅い子もいます。その子のペースに合わせて、授業は進めていきます。その子たちができるようにならないと意味がないからです。しかし、よく観察していると一人また一人と最初の「正」や「字」を自分から書く子が増えていることがわかりました。
全部書かせるというやり方の手応えを感じることができました。

子ども達はすぐに慣れてくる

いつまでも、「正」からというわけにはいきません。新出漢字も出てきます。「山」を習えば、山正字文…、と書くことになります。次に、「水」を習えば、水山字文…、です。習う度に書き出しが変わってくるわけです。子ども達はその度に混乱するのではないかと心配しました。ところが、流れを理解してしまったらむしろ子どもたちの方がきちんとやることを覚えていました。
「今日の漢字は、何からだったっけ?」
「雨を習ったから、雨からだよ」
「そうか。じゃ、雨からね」というような、やりとりが度々ありました。
そして、教えてもらったこの方法が有効であることも実感することができました。この練習方法を、読んでそのままの「さかのぼり繰り返し」と呼ぶことにしました。

3 執筆者プロフィール

岡 篤(おか あつし)先生
1964年生まれ。神戸市立小学校教諭。「学力の基礎をきたえどの子も伸ばす研究会(略称学力研)」会員。硬筆書写と漢字、俳句の実践に力を入れている。(2017年6月30日時点のものです)

4 書籍のご紹介

『読み書き計算を豊かな学力へ』2000年

『書きの力を確実につける』2002年

『これならできる!漢字指導法』2002年

『字源・さかのぼりくり返しの漢字指導法』2008年

『教室俳句で言語活動を活性化する』2010年

5 編集後記

毎日たくさんの漢字を書かせることは生徒にとって負担と混乱を招くような印象がありましたが、実際はその逆で、毎日行うことでルーティーン化し定着することが分かりました。1年生だから難しいかも、と思うのではなく、まずは実践しやってみることが大切だと思いました。

(文責・編集 EDUPEDIA編集部 井上渚沙)

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