演劇的手法を用いて「モチモチの木」を読み解く~21世紀型教育への挑戦~(ティーチャーズ・イニシアティブ)

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目次

1 はじめに

一般社団法人ティーチャーズ・イニシアティブの「21世紀ティーチャーズプログラム」に参加された先生方へのインタビューを紹介する本コーナー。今回は、東京都公立小学校の濱元徹美先生にお話を伺いました。 プログラムの内容や21世紀型の学習を目指した小学3年生の「モチモチの木」の授業実践とその振り返りについてお話いただきました。

*『一般社団法人ティーチャーズ・イニシアティブ』とは、「先生こそが真に未来をつくることができる」という考えの元、一橋大学名誉教授 米倉誠一郎先生、文部大臣補佐官 鈴木寛先生らを理事に迎え、産学官が協同して立ち上げたプロジェクトです。
 「主体的かつ創発的に学び、成長する教師を支援する」をミッションに掲げ、21世紀型の学びを探求する先生向けのプログラム、21世紀ティーチャーズプログラムを全国の先生に向けて提供しています。

詳しくは、こちらをご覧ください。

2 21世紀ティーチャーズプログラムについて

——どのような経緯で「21世紀ティーチャーズプログラム」に参加されたのですか?

直接のきっかけは、7月のティーチャーズ・イニシアティブのシンポジウムへの参加です。
21世紀型の教育に興味があり、教育現場に対して現場の目線だけでなく、官民から様々な方がコミットしているというところに惹かれました。

——今の教育に対してもともと問題意識をお持ちだったのですか?

現状の教育は、教師が説明して疑問点まで提示する教授法が中心になっているため、(子供たちが主体となって授業に取り組めているのかなぁ~。) と疑問に感じていました。

——プログラムではどのような体験をされたのですか?

プログラムでは、全教員が、1人のメンターの先生のもとで自分の研究テーマに取り組む単位としての「ラボ」に所属します。

4つのラボのうち、私は鈴木寛先生のラボに参加させていただきました。そこでは、既存の指導書が教授型の授業の原因になってしまっていると考え、これから求められるより良い授業につながる授業実践を目指しました。子供たちがワクワク感を持てることと、主体性を身につけられることを目標として掲げ、そこに向かって「授業でどう変えるか」を模索しました。

プログラムでは、4回ほどラボを超えて成果を共有する場があり、先ほどの目標を決めた段階で他のラボの先生方に問題意識を提示して、みんなで案を出しました。

3 授業実践について

——授業を作る際、どのような課題がありましたか?

具体的な題材としては、小学3年生の「モチモチの木」を扱いましたが、授業を作る上では、次の3つのポイントを意識しました。

  1. 子供の主体性と関わり合い
  2. ワクワクする学習活動、交流
  3. 上の2つをサポートする教員のファシリテーション力

さらに、このような教科を超えた目標の他にも、国語科の目標も意識しなければなりません。学校や社会全体から認められるには、学習指導要領に照らして目標を達成する必要があるのです。そこでは、単に授業で扱った文章を理解することではなく、違う物語を読んだ時に応用できる読解能力を養うことが求められます。

具体的には、登場人物の人柄や気持ちを理解すること、互いに感想を伝え合うこと、描写表現の意味を理解することが単元目標として与えられています。こうした課題の解決方法として、他の先生方と一緒に「劇を用いる」というアイデアに至りました。

参考資料:授業構想案

授業展開

1・物語のあらすじをつかむ

まずは、大体の子供が物語から同じように読み取れるであろう、あらすじをつかみます。最終的には演技をすることになるのですが、それは子供たちのワクワク感を担保するために行うのであり、大切なのはその過程の読解です。
そのため、この段階での子供たちの試行錯誤を大切にしたいと考えています。

2・場面の様子に合わせて登場人物になりきり、質問に答える、演じることで物語の世界に入り込む

全ての子供が順番に、全ての登場人物—じさまからもちもちの木まで—を演じます。そこで、他の子供は演じている子供に対して、様々な質問をして、演じている子供は登場人物になったつもりでそれに答えます。そうすることで、体感的に登場人物の気持ちや考えがつかめるのです。

3・教科書を読んで、自分の考えを持つ

普通なら先生が指定した部分について、指名された子供が考えを発表するのですが、この授業では、他の読書につながる読解力を育てるために、心の声、本当の気持ち、つぶやき、言いそうなセリフを書き足しながら、物語を読んでもらいます。

4・班で協力して台本を作る

発表に向けてグループで台本を作ります。それぞれの子供が様々な感じ方をしているのをミックスしていく過程で、対話的な学びを行うことができます。

5・班で協力して演技を作る

作った台本を元に演技を作っていきます。3年生の段階では演技だと体を動かすことに気が行ってしまい、ペープサートの方が読みに集中できますが、高学年なら演劇を行うことも可能だと思います。

6・班で表現、良さを探す

実際にクラスのみんなの前で発表を行い、聞く側の子供はどのような良さがあるか探します。子供たちは皆同じ教科書を読んでいるため、発表の中でどんなセリフがオリジナルに増やされているのか分かります。
後の班ほど、前の班の良さを取り入れていくので上手になっていくのが見ていて分かりますね。

7・発表を聞いて、良さを共有する

子供たちに、他の班の良かったところを発表してもらうのですが、「どうしてそれがいいと思ったのか」を答えてもらいます。

また、全体を通して、教員の発問をできるだけ少なくしています。教員の働きかけは、基本的に、学習のめあてに戻って確認させ、何を目標とした授業なのかを意識させ、次の活動を指示することです。

ノートは教員の板書を写すことはないので、子供たちのノートには、学習の目当て、あらすじ、自分の考え、相手の考えが書かれることになり、子供たち一人一人のノートは全く違うものになります。

参考資料:授業プロセス・本時案

4 実践を振り返って

——子供たちにはどのような変化がありましたか?

単元の終わりに、授業の振り返りアンケートを行ったのですが、32人中28人は肯定的な回答でした。「自分で考えたということ」「友達と楽しく勉強できたこと」「自分で考えて読む時間が増えた」などを理由としてあげてくれています。
特に最後の意見は、私が狙っていた読書に活かせる主体的な読みにつながる意見なので嬉しかったですね。

一方で、先生が指定した箇所だけを読んで、子供が挙手して答える従来の授業の方が良いと答えた4人の声も面白くて、「従来の授業の方が簡単にできるから」などという意見がありました。また、「みんなで意見をまとめるのが難しかった」という意見もありましたが、それこそが学びだと考えています。

——グループ活動で参加できない子供にはどのように対応されましたか?

朝の会・帰りの会の中で、生活班で1日のめあての決定と振り返りを4月から毎日行っているのですが、そこではみんなが順番にリーダーになってグループ活動を進めています。こうした取り組みを日常的に行うことで、どの子供もグループ活動に参加できるようになります。
授業時間だけでなく、学校生活全体を活用する必要があると思います。そして、授業で学んだことを、学校、家庭、社会生活でどう活かすかが大切です。活かす場を作ることで、国語で学習した話し合いの仕方を本当に身につけることができるのです。

——子共達は、先生の目指す力を身に付けていったと思われますか?

そうですね。21世紀型の学習に近づいていると思います。プログラムのメンバーと授業を見合っているのですが、強く共感していただけて嬉しかったです。一人でやるよりも、確実に実現のスピードが速いと感じています。

——授業をされる上で悩んだことなどありましたか?

できるだけ板書をせず、発問も最小限にして子供たちから問いを引き出したり、演技をすることを通して読解をしたり、といった取り組みはこれまでに無いものだったので、本当に子供たちが国語力を身につけることができるだろうか、と不安に感じていました。

——こうした授業をする上で教員には何が求められると感じましたか?

教員が引っ張るのではなく、子供が自ら前に進む授業のため、子供の学びを促進するスキルと、子供の把握が大切だと思います。そして、これまで以上に綿密な計画を立てる必要があります。

また、普段から教員が子供に良さを伝える際には「なぜ先生は良いと思ったと思う?」と問いかけるようにしています。そうすると、次第に子供が自分で良さを見つけられるようになります。

5 ティーチャーズ・イニシアティブのおすすめポイント

——プログラムにおいて、先生にどのような変化がありましたか?

まだまだ教育界には21世紀型教育の実践が少ないのが現状です。しかし、このプログラムに参加している先生方はそれに挑戦しようとされていて、相談し合うこともできて、非常に自分の取り組みを進めやすくなりました。また、小学校教員である私にとっては、普段お話を伺うことの少ない、中学校や高校の先生方の意見をいただけたのが刺激的でした。

——このプログラムの特徴はどのような点にあると思われますか?

このプログラムの特徴は、何よりもチームで学び合うことだと思います。研修で何か新しいものを提供されるのではなく、周りの先生方と学び合って、自分で何かを獲得していくのです。

——どのような先生に、このプログラムをおすすめしますか?

プログラムでは、互いに学習し合う先生方とは深い仲になります。また、年上の方も常に若い方から学ぼうとしていて、年は離れていてもお互いにリスペクトし合う雰囲気ができていました。

学校の職員室ではできないような、白熱した議論もよく行い、私は授業実践を深めていきましたが、他にも学校改善や地域との連携など、様々な課題意識を持っているメンバーと共に学ぶことができます。

他には、プログラム内にあったシステム思考の講座なども力になりました。本を読むだけでは身につけることが難しいものを教えていだだける、貴重な機会でした。

今までの自分の授業に疑問を持っていたり、退屈していたり、新しいことを始めたいと感じている先生方、特に「変えたい」という思いのある先生方に是非お勧めしたいです。

6 子供たちへの思い

——子供たちにはどのように育っていってほしいと考えていますか?

どんな状況であっても、自分で考える人であってほしいと思います。
常に自問自答して自分なりの答えを持ち、失敗しても自分で考え、自分で自分を褒められるような人です。自分で自分を褒めてあげられるということは、客観的な評価を得ることよりも大切だと思います。

子供は大人の影響を強く受けますが、自分はこう生きたいんだ、と自分が納得した道を生きてほしいです。

本日はありがとうございました。

7 ★第2期生募集★21世紀ティーチャーズプログラム

プログラムでは、豪華講師陣によって設計されたプログラムの中で、能動的かつ実践的な学びを、講師や仲間とともに約半年間かけて探究していきます。

21世紀型スキルに関心がある! 志を同じくする仲間を見つけたい!
そのような先生は、参加を検討してみてはいかがでしょうか。

【応募締め切り】2017年7月24日(月)24:00

⇒プログラムの詳細はこちらをご確認ください

8 編集後記

子供たちが主体的に学べるように、そしてワクワクして学べるようにとの思いで、様々な工夫をなさっている濱元先生。新しい挑戦への不安を乗り越えて、信じる理想の教育を追いかける濱元先生のご様子は、どこか「自分はこう生きたいんだ、と自分が納得した道を生きてほしい」という子供たちへの想いを、ご自身で体現しているように感じました。
素敵な先生にお会いしてお話を伺うことができて、とてもいい経験をさせていただきました。
(編集・文責 EDUPEDIA編集部 横田和也)

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