校内研修に使える『理想の学校』ワークショップ(ティーチャーズ・イニシアティブ)

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目次

1 はじめに

本企画は、一般社団法人ティーチャーズイニシアティブが主催する「21世紀ティーチャーズプログラム」に参加した現役の先生から、プログラムでの学びとその学びを生かした実践についてインタビューいたしました。本記事は、三重県公立中学校の滝沢先生にインタビューしたものです。

*『一般社団法人ティーチャーズ・イニシアティブ』とは、「先生こそが真に未来をつくることができる」という考えの元、慶応義塾大学大学院教授 前野誠司先生、一橋大学名誉教授 米倉誠一郎先生、文部科学大臣補佐官 鈴木寛先生、法政大学教授 児美川孝一郎先生、教育と探求社代表取締役 宮地勘司さんの5名を理事に迎え、産学官が協同して立ち上げたプロジェクトです。
 「主体的かつ創発的に学び、成長する教師を支援する」をミッションに掲げ、21世紀型の学びを探求する先生向けのプログラム、21世紀ティーチャーズプログラムを全国の先生にむけて提供しています。

詳しくは、こちらをご覧ください。

2 インタビュー

——滝沢先生はこのプログラムにどういった理由で参加されましたか?

私は教師として仕事をする中で閉塞感を感じていました。
仕事には本当に真剣に取り組みましたし、荒れた学校でありとあらゆる体験もしてきました。周りの先生方も楽しそうにしている方は多かったのですが、何かが「違う」感覚が抜けませんでした。

夢には2つあると思っていて、1つはプライベートな夢、もう1つは社会のつながりの中での自分の夢です。教師というのは少し特殊な職業で、教師になった時点で、ある程度は「なんとなく」でやっていけてしまう部分があると思います。会社員なら社会の流れに合わせて自分を変えていくことが求められると思うんですが、教師が社会とのつながりを意識しながら向上していくのは、意識しないとなかなか難しいです。私はそのように成長できていない自分に満足できていませんでした。

そんなときにネットで情報をいろいろ探していたのですが、授業改善や学級経営といった実践的なセミナーにはあまり惹かれませんでした。というのも、自分のコアな部分を変えていけば、そういったものは自然とついてくるのではないかと感じていたので……そのときにたまたま見つけたのがこの21世紀ティーチャーズプログラムでした。

——プログラムで、どのような体験をされたのですか?

受講生はキックオフ合宿で、今後の社会や未来を見据えて教育はどうあるべきかという課題について、小学校、中学校、高校の教員や社会人など多様な職種の仲間を交えて議論し、考えを深めました。

例えば、自分の履歴書を作って教員になったきっかけや自分自身について振り返ったり、組織とはどうあるべきかをシステム思考をもとに考えるワークなど、いわゆる学校教育のセミナーではないような体験を多く行いました。

また、受講生は様々な分野のスペシャリストを中心としたゼミに分かれるのですが、私は経済学者で一橋大学教授(当時)の米倉誠一郎先生のゼミ(以下、米倉ゼミ)に所属することになりました。

米倉ゼミでの話し合いは、鈴木寛さんが提唱していらっしゃる「熟議」が基本で、生徒の話や愚痴が多くなってしまう普段の集まりと違い、「どう解決していくか」「未来の教育はどうすればいいか」という話が多く、とても刺激的でした。他には実際に一橋大学で米倉先生の講義を聞くなど、とにかく外に外に出ていきました。

プログラムを進めていく中で、私たちは米倉ゼミ全体のテーマとして「21世紀型の創発的な教員になっていこう」という提案をしようと決めました。プログラムに参加するまで、恥ずかしながら米倉先生のことは存じ上げなかったのですが、米倉先生や鈴木先生と直接お話をさせてもらうなかで、世の中を動かしていく人というのはこんなに純粋で熱くて前向きな人たちなんだ、と大きな刺激を受けました。自分も含め、教員はやることをやっているのに自己肯定感が低い人が多いと思うのですが、このプログラムに参加して「自分も日本を変える一員になれるかもしれない」と実感できました。

——プログラムに参加したことで、何かご自身の中で考え方が変わったことはありましたか?

教育というのは「この薬を使ったらこう変わる」といったものではありません。ですので、このプログラムに参加するまで、私は「自分がこれをしたから生徒がこう変わった」というのは言わないように心がけていました。しかし、今は「自分が変わったから生徒が変わった」というのはあるのではないかなと感じています。

——今回のプログラムの最終成果物について教えていただけますか?

私たちのゼミでは、最終的にワークショップ型のプログラムを作りました。

「21世紀型の創発的な教員になろう」という米倉ゼミの目標があり、そのために熟議をしていくことが必要ではないかという結論になりました。そのため、教科の授業案の発表ではなく、教員としての在り方といった根本的な部分に迫るワークショップを提案したのです。教員も生徒も、現場ではなかなか「対話」する機会がありません。そこへの問題意識もありましたね。

まずは教員向けに、当時所属していた学校の校内研修で実施しました。校内研修では本来数時間かかるものを数十分にまとめて行ったのですが、生徒会に向けて行った際は、放課後に長めの時間をとって、旧生徒会役員、現生徒会役員、そして立候補者を対象に行いました。

——そのプログラムはどういったものなのでしょうか?

一言で言うと、「ゼロベースで理想の学校を考える」ワークショップです。

現状の学校について

① あるけど、いらない。
 ② あるけど、要改善。
 ③ ないけど、いる。

の3つの視点から、まず個人で考えをふせんに書き出し、その後グループ内で共有します。その後、他のグループと共有する際は、1人説明に残り、それ以外の人は他の班の案を見に行きます。

こうして出てきた沢山の問題点から、理想の学校に必要な3つの要素を話し合って決め、最後にメディアに向けた学校紹介のような形で、「こういう特徴があるこんな学校です」という発表をします。

以下は実際に教員、生徒から出てきた発表の一例です。

しかし、ここまでで終わってしまっては意味がありません。今度は個人で「2030年に学校・教育・社会がどうなっていてほしいか」をワークシートにまとめる作業をします。

——応用範囲が広そうなワークショップですね。

このプログラム自体は4時間ほどかけて行うことを想定しているのですが、もちろん簡略化してもっと短い時間で行うこともできます。

私は教員と生徒に向けて実施しましたが、教員仲間からは保護者会で実施して好評だったという話も聞きました。あらかじめ3つの視点を提示することで、対象を問わず、学校教育への問題意識や不満などがうまく表出してくるのではないかと思います。

——最後に一言お願いします。

教員という職業は、どうしても社会から切り離されているように感じがちです。
私たち教員が普段つきあう大人は、業者の人や保護者など、何らかの利害関係が絡んでいる人がほとんどです。理想の社会を目指して、同じ方向を向いて協力しあうという場面がほとんどありません。

これからの時代は、教員が外へ外へと出ていき、他の職業の人とお互いをプロとして認め合ったうえで、よりよい社会を目指して協働していくことが必要だと思います。今回のプログラムで実感したのですが、社会は学校にアプローチしようとしてくれているのです。

学校の外から「学校」に興味をもってくださっている方は沢山いるのですが、学校はそれを知りませんし、むしろ撥ね退けようとすらしているように感じます。そこのギャップをなんとかしていきたいと思っています。

——ありがとうございました。

3 プロフィール

滝沢薫(たきざわかおる)先生

三重県公立中学校教諭。三重大学大学院修了(教育社会学)。「教師の無意識的アプローチによる価値観形成の日米比較」の研究、学会発表を行う。中学校では初任より生徒会活動を担当。「生徒会が変われば学校が変わる」ことを実感し,個性が発揮される生徒会活動を目指し生徒と共に企画・運営を行っている。

4 授業資料

「理想の学校」ワークショップ授業案.docx

5 編集後記

一般的な教員向けセミナーとはスケールの違うプログラムで、非常に面白い取り組みだと感じました。今回提案していただいたワークショップは、学校をよりよくしていくために、様々な使い方ができると思うので、ぜひご活用いただければと思います。

(取材・編集 EDUPEDIA編集部:宮崎俊一、中澤歩)

6 関連情報

★第2期生募集★21世紀ティーチャーズプログラム

プログラムでは、豪華講師陣によって設計されたプログラムのなかで、能動的かつ実践的な学びを、講師や仲間とともに約半年間かけて探究していきます。

21世紀型スキルに関心がある 志を同じくする仲間を見つけたい
そのような先生は、参加を検討してみてはいかがでしょうか。

【応募締め切り】2017年7月24日(月)24:00

⇒プログラムの詳細はこちらをご確認ください。

人のストーリーから経済を学ぶ(現代社会・経済のしくみ)

協同的な授業研究(保護者懇談会・体育)

演劇的手法を用いて「モチモチの木」を読み解く~21世紀型教育への挑戦~

ティーチャーズ・イニシアティブが主催する「21世紀ティーチャーズプログラム(第1期)」を受講された先生へのインタビュー記事です。
参加のきっかけ、プログラムから生まれた実践や自分の変化などを伺いました。

21世紀の教育・教師・学び『先生から変えるニッポンの未来』(一般社団法人ティーチャーズ・イニシアティブ)

シンポジウム『先生から変えるニッポンの未来』(主催:一般社団法人ティーチャーズ・イニシアティブ)のパネルディスカッションⅡの内容を編集した記事です。
 学校現場や官民など、それぞれ教育に関わる立場から、教師の専門性や学校現場を囲む社会課題、それを打開するための方策などが話されました。

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