英語が飛び交う算数授業~小学校1年生にイマージョン教育~                     

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作成者:Sayaka Kojima (Edupedia編集部)さん

1 英語で学校を教育改革!

本記事は、私立香里ヌヴェール学院小学校(大阪府寝屋川市)におけるTimea kengyel先生、大川原つばさ先生による英語イマージョン教育の実践を紹介しています。香里ヌヴェール学院は、2017年4月より校名を改称し(旧:大阪聖母学院)、それまで女子校だった中学校・高校を男女共学にするとともに「21世紀型教育」を掲げ、教育改革を行っています。一体どのような教育改革を実施したのでしょうか。その鍵はイマージョン教育にありました。

2 イマージョン教育とは?

香里ヌヴェール学院小学校ではスーパーイングリッシュコース(SECコース)という英語力養成を最重点に21世紀型教育を進めるコースがあります。このコースでは複数教科を英語で授業するイマージョン教育を行い、英語運用能力の飛躍的向上とグローバル社会に対応できる人材を育てることを目標に掲げています。ネイティブ教員と日本人教員による2名担任制で、国語・宗教・学級会以外の授業を全て英語で学ぶ英語イマージョン教育が実施されています。そもそもイマージョン教育のイマージョンとは何でしょうか?

「浸すこと」という意味の英単語”Immersion”があります。この「浸す」という言葉から推測できるように、外国語に生徒を浸すことでその言語を修得させる、それがイマージョン教育です。「英語イマージョン教育のメリットは単に英語に触れる機会が増えるということだけではありません。」と、荒川伸二校長先生は語ります。英語以外の教科も英語で学ぶ事でより自然に言語を習得していくというメソッドです。

 イマージョン教育のメリット・デメリット

イマージョン教育のポジティブ面として、英語を吸収するスピードの速さ多文化理解等が挙げられます。大人のように理論や理屈で学ぶのではなく、とにかく多くの英語に触れ英語で自然にコミュニケーションをとって学ぶため習得スピードが遥かに速いようです。
逆にネガティブ面には母語による論理的思考能力の未発達等も挙げられます。実際、そのような不安要素から日本でイマージョン教育を取り入れている学校は少なく、イマージョン教育の実施に抵抗を感じる先生も少なくないのが現実です。しかし香里ヌヴェール学院では、先生方の工夫を凝らした授業が展開され、イマージョン教育の一般的なネガティブ要素を上手くカバーしています。

3 授業内容

我々は小学校一年生の 算数の授業に見学しました。英語イマージョンのため授業は全て英語で行われます。ですが外国人教員だけでなく日本人教員も毎回授業に加わり2人の教員で授業を行います。そして”Let’s start part1!”という日直の掛け声に”Let’s start!”と全員が続き授業が始まります。

 ウォーミングアップ

先生の”One plus two?”という問いかけに対して挙手して当てられた児童が“Three!”とゲーム感覚で次々とテンポよく答えます。先生は満遍なく児童を当て、正解した児童には”Good job!” ”Well done!”と褒めます。間違った答えでも”Nice try!”と自然に褒めるのは英語ネイティブの先生の良さでもあります。
   

 足し算ゲーム

次に”Look at the board! It looks like a game, doesn’t it?” (黒板を見て!これゲームみたいじゃない?)”と先生が問いかけると生徒は”Yeah! Game!”と嬉しそうに乗ってきました。足し算を学ぶ小学校1年生のために2人の先生が用意したのは、玉入れゲームです。チームに分かれ、箱に入ったボールの総数を競います。

(板書)You can try to throw the balls into the box one time. How many balls are inside the box altogether?

ジェスチャーと共に先生が文章を読み上げ、児童がそれに続きます。最後の”altogether”という単語は難しいため日本人教員が日本語で補足しますが、児童は文脈等からすでに理解しているようにも見えました。ここで分かるように日本人教員は児童の理解しづらい箇所を補い、誤答した児童の補助を行っています。 先生が書く前に先の単語を予測したりしている児童もおり、英語力の高さに驚きました。
玉入れゲームが始まりました。まずは 先生2人が生徒の手本として玉入れゲームをして見せます。 教室は広く、並んでいる机の横に広いスペースがあるので、皆そこに集まって先生が玉入れをするのを見ます。先生が楽しそうにちゃんとゲームを演じて見せるため子どもたちはその雰囲気に包まれ引き込まれていきます。英語で応援している子もいて驚きました。外国人教員は日本人教員に比べ児童を“のせる”のが上手いのもメリットの一つです。

今回の授業の目的は0の概念、0を用いた足し算を理解させる事なため、先生はわざと的外れな方へボールを投げます。すっかり児童はゲームの虜です。点数の計算が終わると児童をチームに分け、玉入れをさせます。そしてまた点数の計算を皆で行います。何をするのか英語が聞き取れなかった児童も、周りの様子を見て何をすればよいのか判断します。英文法ではなく意味を重視して英語を自然に学ぶ、これこそ子どもにとって言語を学ぶ最善の方法なのかもしれません。また、意味が十分に分からない児童も周りを見て動く練習ができます。

 児童の気を散漫させない秘訣

次にノートで0を用いた計算の練習を行います。最初は先生が黒板に書いたものを写して計算し、その後先生が口頭で言う問題を聞き取り、ノートに書いて計算を行います。 理解できていない児童には、日本人教員が一対一でつき、極力英語を用いて教えます。できた児童から、ノートを先生のところに持って行きチェックしてもらいます。授業の空き時間に手持無沙汰になってしまう児童を指導するのではなく、時間を有効活用しそのような児童を生まない先生方の工夫が見られました。これから先生方の工夫について見ていきます。

 先生方の工夫

ネイティブ教員はもちろん、日本人教員も、子どもたちを“のせる”のが非常に上手いと感じました。ゲームの際の演技、子どもたちを楽しませるための演出は、さながら役者のようでした。そういった“ノリのよさ”や、話す際のリズムや授業のテンポは、英語による教育の利点のひとつと考えられます。また、質問に答えた児童が間違えた際にも、“Nice try!”と声かけをしており、英語文化ならではのフォローの仕方だと感じました。

教室がざわざわしている時には、Timea先生が “1,2,3,eys on me!”と言うと、児童らが“1,2,3,eyes on you!”と返し、話を聞くことに集中することになっているようでした。日本の学校では「静かに!」など大声を出して注意する光景がよく見られがちですが、このような合言葉によって自然に、気持ちよく、話を聞く姿勢を作る取り組みは良いと感じました。

授業中、最も印象に残ったのは、ノートチェックを全員が完了するまでの待ち時間です。児童の半分ほどがノートチェックを終えたところで、大川原先生が徐に大型の百玉そろばんを取り出し、玉を弾きながら1〜100の数字の暗唱を始めました。ノートチェックを終えた児童から、暗唱に加わっていき、全員が席に戻ったところで、ちょうど“100!”と数え終わりました。タイミングを上手く見計らって、早く終わった児童を騒がせないことに加え、全員が達成感を感じられるように工夫しているとのことでした。

4 インタビュー

授業終了後、荒川伸二校長先生に、香里ヌヴェール学院小学校のイマージョン教育について、詳しいお話を聞かせていただきました。香里ヌヴェール学院では、授業中に教えあいをする場合には児童が立ち歩くことも許容しています。これにより、子どもたち同士での教えあいを促進し、安心できる環境を作ることができると同時に、子どもたち同士で、“子どもの言葉”を使って教えあうことで、学習内容が理解しやすいという効果があります。また、子どもたちの中に相手を受け入れる気持ちも生まれます。

 日本にいながら留学?

香里ヌヴェール学院小学校のイマージョン教育を行っているコースでは、週3回の英語の授業に加えて、国語・宗教・学級会の授業以外を全て英語で行うことによって、6年間で約3000時間英語に触れることになります。1年間留学すると英語に触れる時間は約2000時間なので、時間はかかるものの、日本にいながらにして留学するのと同じぐらいの効果を得ることができます。このイマージョン教育を通して、香里ヌヴェール学院では、児童に英語・日本語どちらの考え方も身につけさせることを目標としています。すなわち、英語の文化と日本語の文化、両方の良さを知り、円滑な国際交流に貢献できる人間を育成することを目指しているのです。

5 入江先生インタビュー

英語イマージョン教育の一般的なネガティブ面として冒頭で母語の未発達な理論的思考能力を挙げました。香里ヌヴェール学院では、細やかな工夫でそのネガティブ要素をカバーし、児童の心を引き付け授業から気を離させません。理解できない箇所は日本人教員が補助し、児童全体の英語運用能力の底上げを図ります。この工夫に根付くのが、香里ヌヴェール学院の教育方針「I think ~, because….」の英語力。英語担当の入江教諭は、「今、社会において求められる英語力とは何でしょうか。私たちは、つきつめればI think ~, because….が言えること。つまり英語で自分の考えとその理由を堂々と伝えあい、より良い解決に向かってコミュニケーションが取れることだと考えます。」と述べます。ただ高い英語運用能力を目指すのではなく、なぜ自分はそう思うのか、自らの軸をしっかりと持ちつつ柔軟に多角的に物事を捉える姿勢を養うこと、そして自らの意見を堂々と言い相手の意見も受け止めること、これこそが香里ヌヴェール学院の根底にある教育方針。これは英語イマージョン教育を行う上で非常に重要な教育方針だと思いました。

6 編集後記

初めて目にするイマージョン教育の授業は、驚きの連続でした。
 イマージョン教育だからこその教員や保護者の方々の苦労も多々あるかと思いますが、そのぶん、子どもたちが得るものもとても大きいのでは、と思いました。また、得られるものは、英語の力だけでなく、周りを見て動く力、自分の思いを伝える力など、様々なものがあると感じます。何より、子どもたちが目を輝かせ、いきいきと授業に参加していたのが印象的でした。
 日本ではまだまだイマージョン教育を行なっている小学校は少ないかと思いますが、これからどんどん広まっていき、教育の選択肢の一つとして一般的になれば良いな、と思います。

(取材・編集:EDUPEDIA編集部 石川桃子、小嶋彩加)

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