臨床心理士に学ぶ! 聴き上手になろう!話を引き出すコミュニケーションの基本(畿央大学「学びを結ぶ」ワークショップV 細越寛樹先生)

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作成者:高木 敏行 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、2017年8月9日に畿央大学(奈良県)で行われた「学びを結ぶワークショップV」において開催された、細越寛樹先生の講座を取材・編集したものです。

「学びを結ぶワークショップV」は、教育現場における教育力向上の一助となることをねらいに、畿央大学現代教育研究所が主催するワークショップの第5回目です。

  • ワークショップ①「聴き上手になろう!話を引き出すコミュニケーションの基本」
  • ワークショップ②「始まる!小学校でのプログラミング教育~Scratch体験~」
  • ワークショップ③「みんなでつくろう!「特別の教科 道徳」」

の3講座が開催され、うち実際にパソコンを用いたプログラミング体験が主なコンテンツとなるワークショップ②以外の2講座を、EDUPEDIAで記事として公開しております。ワークショップ③の記事https://edupedia.jp/article/59910fe9d5d12c00000f231dも併せてご覧ください。

畿央大学現代教育研究所→こちら

なお、本記事中に使用している図は、実際のワークショップで使用されたスライド資料を細越先生のご厚意によりご提供いただいたものです。

2 ワークショップの前に

臨床心理士としての立場から、基本的な会話の原則や技法、そして近年注目されている認知行動療法についてお話しします。
 本題に入る前に、

  • 私は臨床心理士であり、今回示すコミュニケーションの原則や技法がそのまま教師と生徒の関係に当てはめられるか断言はできないので咀嚼を要すること
  • 今回は主に自己開示の苦手な生徒とのコミュニケーションに的を絞っていること

に注意してください。

3 ワークショップ

身体言語の重要性

様々な心理療法のプロセスの共通項をまとめたモデルである「マイクロカウンセリング」の図によると、カウンセリングの最初の段階は非言語コミュニケーションから始まります。今回のワークショップでは座る位置について取り上げます。 

(ワーク)座り方の与える印象

参加教員2,3名で長机に対して座る位置を正面、直角、斜め、隣と様々に変えながら、クライアント(生徒)としての立場と、カウンセラー(教員)としての立場のそれぞれでどう感じるか話し合いました。

  • Th=カウンセリングにおけるセラピスト(カウンセラー)。学校現場での教員に置き換えられる。
  • Cl=カウンセリングにおけるクライアント(患者)。学校現場では生徒に置き換えられる。上図ではThの位置を固定し、Clの座り方のパターンを示している。

ワークでは、多くの参加教員が直角法(上図において最も左端のClとThとの位置関係)を良いと感じていたようでした。この方法は目線を自然に合わせたり外したりしやすく、多くの書籍で推奨されている方法でもあります。しかし全ての生徒に当てはまる正解というものはありません。例えば私のクライアントにもいますが、自分から話したいことが多くあってやってくるような生徒は自分から正面法で座ろうとします。
 座り方ひとつをとっても生徒の話しやすさは変わりますし、逆に生徒に好きな座り方を選ばせることができれば、その選び方によって生徒の心理状態を推測することもできます。
 
また相手が話しやすくなる聞き方の原則として、「SOLER(イーガン,1998)」があります。

  •  Straight まっすぐ向き合う
  •  Open  開放的な姿勢をとる(自分の体の前面を腕組みや鞄などで隠さない)
  •  Lean  上体を相手の方へ傾ける
  •  Eye contact  適度に目を合わす(合わせすぎもいけない)
  •  Relaxed   リラックスして話をする

関係づくりの最初は「押さない」

自分からあまり話したがらない生徒とコミュニケーションをとるにあたり、
肝心なのは最初の関係づくりです。最初は生徒を「押す」ような言動を極力しない方がよいでしょう。では「押す」言動とは何でしょうか。その線引きはなかなか難しいのですが、手掛かりは生徒の反応です。

「押され」たと感じた生徒は、「押し返す」「逃げる」言動をとります。「押し返す」言動とは

  • 強く言い返す
  • 不機嫌になる

などの言動です。「逃げる」言動は直接的でないことが多いのですが、

  • 「そうですよね……」と同意したふりをする。
  • 話題を変える
  • 聞こえないふりをする

といった言動です。こうした「押し返し」「逃げ」の反応が来たときは、自分の言動が相手を「押し」ていたことにその場で気づき,次の言動を修正しなければなりません。もしそのまま「押し」続けると生徒はあなたに相談しようと思わなくなり、最悪の場合生徒は会いに来なくなってしまいます。

では「押さない」言動とはどのようなものなのでしょうか。それは自分の意見や主張はひとまず脇においておき,相手の話を言い換えたり要約したりして自分の理解が間違っていないかを確認したり,相手の感情を反射する(例:それは悲しいね)といった共感的反応をすることです。はじめはそうした「押さない」反応に徹することで、徐々に生徒との信頼関係が築かれ、生徒はすすんで自己開示をするようになることもあります。
 こうした信頼関係が成り立って初めて、生徒が抱える問題の内容について問いかけていく(やや「押す」質問)ことができるようになります。この順序が大切であり、押しに押して関係が冷え込んでしまってから共感的な反応をしても,相手には何も届かないでしょう。

(ワーク)「押さない」対応

参加者同士でペアになり、

「頑張っても、結局いつも失敗ばかりで……僕なんて、もうどうしたってだめなのかな。自信なくしちゃって、この先が不安で……」

と相談に来た生徒に対しどう言葉をかけるか、さらにその言葉に対し生徒の立場だったらどう反応するか、交代してロールプレイングをしました。

生徒からの反応を参考に、自分の対応が「押して」いるものではないか考えました。

どう生徒の抱える問題の内容を聞くか

共感を通して信頼関係が築かれれば初めてやや踏み込んだ問いができるようになるのですが、ここでも問いかけ方が重要です。疑問の立て方には

  • 閉ざされた質問:Yes,Noで答えられる質問 / 得られる情報量は少ないが答えやすい
  • 開かれた質問:5W1H(疑問詞)を用いた質問 / 得られる情報量は多いが答えにくい、どう答えたらいいかわからないこともある

があり、開かれた質問にも答え方の自由度の設定の仕方に多くのパターンがあります。答えやすいよう、また聞きたいことを聞けるよう適度に焦点を絞らねばなりません

(例:「どう?」>「学校はどう?」>「クラスで友達とはどう?」)

これらを意識して質問をしていく必要があります。

特に5W1Hのうち、なぜ(Why)は要注意です。「なぜ」は理由や経緯を問う疑問詞ですが、しばしば当然そうではないべきだ、と相手を非難する響きを持ち、相手は質問者の望んでいそうな答えを述べようとします。また、悩み苦しんでいる理由、自分がした行為の理由などは、自分自身でも自覚していない自らの思いや考えに気付いて初めてわかるものです。「なぜ」と聞くことは、そうした困難なプロセスを全て自力でするよう求めている(相手任せにしている)に他なりません。

「Why」は極力使わず、他の疑問詞「いつ、誰が、どこで、どのように」等を用いて少しづつ質問していくことが大切です。一つ一つの質問から得られる情報は少ないですが、組み合わせていくことで自ずと「Why」が明らかになり、生徒の置かれている状況を的確に共有し,解決策を模索することができます。また、やむをえず「Why」を使う際には非難する響きを持たせないために「どういう理由で」「何が原因で」などと言い換えましょう。

例:「実習が不安なんです」という生徒に対して
  ×「なぜ不安なの?」
  〇「実習はいつからあるの?」
   「どこで実習があるの?」
   「誰と実習に行くの?」
   「いつから不安なの?」   等

コミュニケーションの順序

以上のことをまとめて、カウンセリングの手順を表したモデルとして「コミュニケーションのABC」が紹介されました。

  • A:ask  オープンに聞く(どうしたの?)⇒何か返ってくる
  • B:be with a patient  共感的に反応⇒肯定的反応が返ってくる、信頼関係が作られる

< 信頼関係ができたことを確認してから>

  • C: clinical question  探索的な質問をする⇒話が深まる
  • D:decision making  具体的な提案や支持⇒変化

会話は積み重ねです。順番が違うとやりとりはすれ違ってしまいます。

適切な順番の例

  • A:どうしたの? 
  • B:それは嫌だったね
  • C:その時なんて言ったの
  • D:じゃあ謝ってみようか

不適切な順番の例 1

  • A:どうしたの?
  • C:なんでそんなこと言ったの?
  • D:謝ったらどう?
  • B:気持ちはわかるけど…

不適切な順番の例 2

  • A:どうしたの?
  • D:謝ったらどう?
  • C:なんでそんなこと言ったの?
  • B:気持ちはわかるけど…

認知行動モデル

人が体の不調を痛みで知るように、心の不調を表すのは(負の)感情(怒り、悲しみ、虚しさ、恐怖、寂しさ 等)です。
 では感情を知るためには何を聞いていくべきなのでしょうか。それを教えてくれるものに、「認知行動モデル」というものがあります。これは、人は一つの出来事に対し、瞬間的に4つの側面で反応しているというものです。すなわち、

  • 「からだ」:表情、姿勢や、肌の調子、睡眠状態、食欲などの生理的現象
  • 「考え」:「Aちゃんが悪い!」「僕が先だったのに!」といった、頭の中にさっと浮かんでくる心の声やイメージ
  • 「気持ち」:「悲しい」「不安」「怖い」などのいわゆる感情。
  • 「行動」:アクティブな行動だけでなく、ぼーっとする、寝転がるなども立派な行動です。


▲クマに遭遇した場合を想定した、認知行動モデルの使用例

(ワーク)認知行動モデルの使用

「ある日、A君は友達とぶつかって転びました。友達は気づかずに行ってしまったため、A君は意地悪されたと思い、腹が立ちました。家に帰って弟に八つ当たりもしました。寝る前には、明日は学校に行きたくないなと思いました。なかなか寝付けず、翌朝は身体が重く、気持ちも沈んでいました。登校してその友達を見かけると、またイライラしてきて、「遊んでやるもんか!」と思いました。友達と目が合うと、A君はプイッと目を逸らしました。」

という例文から、「からだ」「考え」「気持ち」「行動」を見つけ出すワークをしました。


 ▲A君の例で認知行動モデルを用いるとこのようにまとめられます

「からだ」「考え」「気持ち」「行動」は相互作用します。また当然ですが、客観的事実としてどんな「出来事」があったのかについても情報が必要です。
 上の例文とは異なり、生徒が初めから全ての要素を話してくれるわけではありませんから、聞いた情報を認知行動モデルに乗せながら、欠けている情報について質問していくのが基本的な方法になります。

解決策を一緒に考える

カウンセリングの役割は、解決策を与えることではなく、「解決策を自分で考え、やってみる」ことをサポートすることです。解決策の方向性の正しさは、それをやってみて生徒の感情(認知行動モデルの「気持ち」)がどのように変化したかで検証されます。

負の感情が和らげばその方向性は正しく、負の感情に変化がなかったりさらに強まったりするようであれば(余計腹が立った、不安になった等)その方向性は良くないということになり、別の方法を考えていくことになります。ですから解決策を実践してみた生徒には気持ちがどう変わったかを尋ね、それをもとに生徒を応援したり、あるいは別の解決策を提示したりして、生徒が主体的に問題を解決できるようサポートしてあげてください。

4 講師紹介

細越寛樹 氏

畿央大学教育学部准教授。博士(心理学)、臨床心理士。日本臨床ゲシュタルト療法学会常任理事、国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター客員研究員、京都市教育相談総合センターカウンセラーを兼任。心理療法のプログラム開発等に取り組む。(2017年9月12日時点のものです)

5 編集後記

このワークショップには小、中、高、また授業を担当する教員、養護教諭問わず様々な教員の方々が参加されており、生徒とのコミュニケーションは教員にとって普遍的な関心事であるのだろうと感じました。教員と生徒の間には立場や世代の違いがあり、悩みを打ち明けるのは生徒にとってしばしば勇気のいることだと思います。そんな時、話そうという気持ちを後押ししてくれる言動を取ってもらえたらどんなに救われるか… 私もつい最近まで生徒であった身として、そう思います。細越氏のお話は心理療法の理論に裏付けられかつ具体的でわかりやすく、セラピストのように「生徒を救える」教員になるための知恵が多く詰まっていたと思います。多くの方がこの記事を参考にされ、苦しんでいる生徒たちを救われることを願ってやみません。

(取材・編集:EDUPEDIA編集部 髙木敏行、中澤歩)

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