18歳選挙権時代の主権者教育~社会の問題を「自分ゴト化」する授業~(「未来の先生展」大畑方人 先生)

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作成者: miyu (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、2017年8月26、27日に開催された「未来の先生展」にて行われた、都立高島高校の大畑方人(おおはた まさと)先生の講演を記事化したものです。

講演では、⾼校における主権者教育のポイント・実践事例の紹介や、政治的中⽴性を確保するための留意点などについて解説して頂きました。

なお、記事中の発言には編集上の関係から一部記者が手を加えています。

2 講演

高島高校の投票率

2016年7月の参院選の投票率

2016年全国の参院選の投票率は全体で54%、そのうち18歳の投票率は51%でした。20代の投票率が35%、30代の投票率が44%であることを考えると、この投票率は高いものだと言えます。

次に東京都ですが、全体の投票率は57%、うち18歳の投票率は62%でした。東京都だけでなく、神奈川県や愛知県などの都市部で若者の投票率が高い傾向がみられました。
 これは、都市部の方が18歳選挙権についてメディアに取り上げられていることや、18歳の大学生が地元を離れて進学した場合、住民票を地元に残したままで、不在者投票で投票するのも面倒と考える学生が多い、といったことが影響していると考えられます。

高島高校3年生の投票率

昨年(2016年)の参院選で、私が政治経済を担当している高島高校3年生の投票率は93%でした。また、今年(2017年)の都議会議員選挙では72%でした。
 学校で主権者教育を行えば、これだけ多くの生徒が投票に行くのだと実感しています。これから、その授業についてお話させて頂きます。

授業の流儀

「無関心のバリア」を打ち破る3つの“C” 

生徒たちは初めから選挙、政治に興味を持っていたわけではありません。3年生の初回授業では、安倍首相の所属政党が分からない生徒もいるほどでした。
 そういった生徒の「無関心のバリア」を打ち破るために私は3つの“C”を心がけています。

1つ目のCはCatchy。生徒たちを引きつけ、楽しませるためにディベートや体験活動などのアクティブ・ラーニング型の授業を多く取り入れています。

2つ目はCasual。身近で日常的な課題から考えることで、政治という他人事と思っている事柄を段階的に「自分ゴト化」できるよう工夫しています。例えば校則が挙げられます。校則は生徒たちにとって最も身近な学校という場で起こる政治的な現象です。
 校則は通常、教員が決めていますが、生徒には「決められたことに従うだけでなく、自ら参加していかなければならない」と伝えています。

3つ目はCool。生徒たちに「政治を知ったら面白い、語れたらかっこいい」と思ってもらいたいです。そのために、学校外の方をお呼びする出前授業や議員のもとへのインターンシップを行い、魅力的な“オトナ”との出会いを大事にしています。

当事者意識を高める4つのステップ

身近で日常的な課題から、生徒の当事者意識を高めるために、4つのステップを作っています。

ステップ1は、学校の課題です。先ほどの校則やどうすれば高島高校が良くなるのか、ということを考えます。
 ステップ2は、地域の課題です。高島平はいま高齢化が進んでいて、団地内では65歳以上の人口が50%を超えています。そして、空き部屋が増え、外国の方が団地に住むようになり、マナーの問題が出てきています。そんな中、高島平を魅力のある街にしていくにはどうすればよいか、といったことを考えます。

ステップ3は、国の政治課題。ステップ4は、グローバル社会の課題
 このように、段階的に授業を行うことで生徒たちの興味・関心を広げていきます。続いて、実践事例を4つ紹介します。

実践事例

実践事例1 地域研究

本実践の概要は以下の通りです。
①高島平の住民にインタビューし、地域の魅力と課題を見つける
②高島平をよりよくするためのアイデアを考え、模造紙にまとめる
③板橋区役所の職員の前で、自分たちのアイデアを提案する

この中で、特に③が重要です。授業では、教室で生徒同士で話し合うだけでなく、実際に行政に提案しフィードバックをもらうという、有用感を大事にしています。

インタビューする中で、生徒は「高齢者にとって段差が多い」「外国人のための表示が少ない(日本語表記が多い)」など、自分だけの目線では気付かないことにも気付くことができました。

また、住民インタビューする際、初めは躊躇しますが、次第に、どうすれば断られずにインタビューできるかといったコミュニケーション能力も身につきました。

以下は生徒の感想です。
・日本語の分からない外国人が多くいた。
・若者にとって魅力的な街にするには、若者が参加できる仕組みがあるといいと思った。
・高校生の視点だと高島平の魅力はあまり感じないが、主婦や高齢者は暮らしやすいと話す人が多くて意外だった。

このような“驚き”が生徒たちの関心を育むために大事だと考えています。

実践事例2 政策討論会

授業の概要は以下の通りです。
①新聞記事などを用いて、論争的なテーマについて調べ、模造紙にまとめる
②賛成派と反対派に分かれて、ディベートを行う
(2016年度のテーマ例:安全保障関連法、夫婦別姓、同性婚の合法化、死刑制度など)

ここで重視しているのは、中立性です。賛成派も反対派も意見がバランスよく載っている資料を選ぶようにしています。最近では、新聞など各メディアも18歳選挙権の成立に伴って賛成・反対の意見を紹介し、授業で使いやすくなっています。

以下は生徒の感想です。
・自衛隊の人数を増やすには、自分が志願して入る人だけでは足りなくなり、結局は徴兵制とかになってしまうのではないかと思う。
・自分の国だけが平和でいいわけではないから、日本ももっと国際貢献することが必要だと思う。

このように時間をかけて丁寧に学習を進めていけば、どんな生徒でも考える力が付くのだと感じています。

実践事例3 模擬選挙

授業の概要は以下の通りです。
①実際の選挙公報や新聞記事などを用いて、候補者・政党の政策を比較する
②実物の投票箱や記載台を用いて、投票を体験する
③実際の選挙結果と模擬選挙の結果を比較し、相違点を分析する

最近の政治では、時代のブームによって選挙が揺れてしまうこともあります。だからこそ、自分で政治についてしっかり考え判断して投票してほしい、という思いを持って授業で模擬選挙を行っています。

授業では、実際に政党の政策を読み込むのですが、少しでも生徒が取り組みやすいように、自分がいいなと思った政党にいいね印をつける「いいねシート」を作りました。

比例選挙については、各政党のマニフェストが17の争点についてまとめてあるまとめサイトを活用しています。各党の考えを熟読し、自分が関心のある分野を2つ選びます。
 生徒は、全ての分野に関心を持っていて理解していなければ選挙に行ってはいけない、と考えていることが多いのですが、それは大人でも難しいです。
 生徒たちのハードルを下げる意味でも、関心のある分野を2つだけ選ぶことや、先ほどのいいねシートなどは利用価値が高いと感じています。

また、この実践でも外部の力が非常に大切で、板橋区選挙管理委員会に協力を依頼して、実際の投票箱・記載台を使って模擬選挙を行いました。

活動③で、模擬選挙と実際の選挙との結果を比べるのですが驚くことにほぼ同じなのです。大人と同じように、しっかりと考えられているのだと思います。違いとしては、授業では若い候補者が当選していることが挙げられます。

実践事例4 議員インターンシップ

これは希望者に対してのみ実施で、NPO法人I-CAS(アイカス)が提供しているプログラムです。「高校生の高校生による高校生のための政治家体験」ということで、運営も高校生の方が行っています。

内容は、3日間地方議員の方と行動を共にし、議会の見学や勉強会、地域行事に一緒に参加します。
 生徒は、実際に政治家に会ってみて、テレビなどから抱きがちな悪いイメージが変わることが多いようです。

今後は議員の方に学校の授業に来てもらいたいのですが、政治的中立性の面から難しいのが現状です。
 また、私自身としてはこのような取組から、「将来は政治家になりたい」という生徒が増えてくれば、今とはまた少し違った社会が作られてくるのではないか、と思っています。

政治的中立性の確保「SVO」

今までみてきたような生の政治の問題を扱う上で重要になるのが、「政治的中立性の確保」です。私は、バランスの取れた授業のために、下の「SVO」を心掛けています。

Self:生徒が自ら調べ、自ら学ぶ:アクティブ・ラーニング
Variety:多様な教材を用意:賛否両論載っている資料を使う
Outside:外部の方とのコラボ:教師一人が政治について話すと偏りが出る可能性がある

今後の展望

2020年度より実施(高校は2022年度から)の次期学習指導要領改訂に「社会に開かれた教育課程」というキーワードがあります。学校の中だけではなく、社会との連携を重視する視点です。
 私自身、先ほどの実践例でもあったように、学びを学校や教室だけに閉じ込めるのではなく、学校の外からも学ぶ視点を大事にしています。

高校公民科としては、2022年度から「現代社会」から「公共」という授業の新設に伴い、自らが社会の形成に参画する力の育成が一層求められます。具体的な授業の方法としては、ディベートや模擬選挙、インターンシップなどが全国の学校で行われることでしょう。

最後に、今後、主権者教育を推進していくには、家庭や地域、議会や行政、企業やNPO、メディアなど、多くの方々の協力が欠かせません。ぜひ皆さんと一緒に進めていきたいと思います。

3 講師紹介

大畑方人(おおはた まさと)先生

東京都立高島高等学校 主任教諭

1977年、東京都⽬⿊区⽣まれ。早稲⽥⼤学商学部及び政治経済学部政治学科卒。
⼤学卒業後、半年間にわたってアジア諸国を放浪。
私⽴中⾼の教員を経て、2013年度より現任校に勤務、「政治・経済」と「現代社会」を担当。

“冷たい頭と熱い⼼”をモットーに、主権者教育やキャリア教育などに⼒を⼊れており、その取り組みは第11回マニフェスト⼤賞(マニフェスト⼤賞実⾏委員会主催、毎⽇新聞社・早稲⽥⼤学マニフェスト研究所共催、共同通信社後援)のシチズンシップ推進賞・優秀賞候補にノミネートされた。

私⽣活では⽂京区本郷と千葉県鴨川市の⼆地域居住を実践しており、週末は南房総の⾥海・⾥⼭に囲まれて過ごす。

(2017年8月時点のものです)

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*本記事は教育新聞(電子版)の「未来の先生展」特集ページにも掲載されています。
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